燐羽プロローグ   作:スイレン765

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始まり

 

 初星学園。

 人々に夢と感動を与え、輝きを届けるアイドル、そしてアイドルを支え、栄光の道へと導くプロデューサーが集う学び舎。

 現代のアイドル時代を象徴する場所だ。初星学園では多くの輝かしいアイドルが生まれ、それを見た人々がまた初星学園を目指す。

 僕も同様だった。長いようで短い月日を経て、今日からプロデューサーとして偉大な学び舎の一員となる。

 

「あぁ、始まるんだなぁ」

 

 僕はそう一人でつぶやく。入学式を前に空は水色に澄み、日の光がこちらを優しく照らしてくる。ひどく気持ちの良い天気だ。穏やかな風が吹き、木々が揺らめいている。

 ただ、なぜだろう。

 期待する気持ちと一緒に不安も生まれてくる。僕はこれからこの学園を担い、そしてアイドルの人生を受け持つのだ。一気に体にかかる重力が増した気がする。

 

 よくないなぁ。始まりの日なのに。

 

 こんな調子でいたらアイドルに対しても、こんな性質を見抜いた上で頑張れると期待してくれた学園長にも悪いだろう。

 もう僕が熱を感じられるのはアイドルだけなのだから。プロデューサーになれなかったらどうしたものか。誠心誠意頑張ろう。

 

 そこでふと思考を中断し、周りを見る。

 周りには同じく入学式にやってきたであろうアイドルや、プロデューサーらしき人たちが期待に胸を膨らませ、歩いている。

 いつもの癖で道を歩いている女の子たちを分析するが、どの子も才能がありそうな子ばかりであった。流石、初星学園に入学できる子たちだなと思うが、ピンとくる子はいない。

 

 もう焼かれてしまったためなのだろうか。

 

 正直に言うと、僕はプロデュースする相手を決めて初星学園に来たのだった。

 

 

 

 入学式やプロデューサー科のガイダンスも終わり、放課後となった。担任のあさり先生によると、担当は今日から選んでよいとのことだった。僕は逸る気持ちを抑えきれず、スカウトの参考としてもらったアイドル科の資料を見て、さっそく連絡を取ろうとする。

 あぁ、手が震える。僕がプロデューサーになっていいものなのだろうか。いや、それでも……

 そんなこれまで何回も繰り返してきた問答を改めてやってしまう。

 

「もう、やるしかない。そのために入ったんだろ!」

 

 そう自分を鼓舞し、スカウトのためお会いしたいというメールを送信した。やってしまった。もう取り返しはつかない。あとは結果が出るだけだ。

 賀陽燐羽、元中等部No. 1ユニットSyngUp!のリーダー。今メールを送った彼女こそ、僕の熱であり、初星学園に入った理由だった。

 

 

 

 彼女との出会いは、高校の頃に見たライブだった。

 当時、初星学園にかなりの実力を持つアイドルユニットが現れたとは聞いていたが、タイミングが合わずすぐに観に行くことはできなかった。そのため、数ヶ月経ってようやくライブを見に行くことができた。その頃にはかなりの人気を持つアイドルユニットとなっており、大勢の観客が会場を賑わせていた。

 観客の熱量が集まる空間。

 僕自身も芯から熱くなっていくように感じた。アイドルに対しても熱を失いつつあった僕だったが、空気に当てられて期待が高まっていた。どんなアイドルで、どんなライブをするのだろう。事前情報は全く調べていなかったため、全部が未知だった。

 

 ライブが始まった。初めて見た彼女は、ユニット3人の中で特に目立っているわけではなかった。立ち位置や動き、歌い方を鑑みてもメンバーの一人である月村手毬が中心であり、賀陽燐羽ともう一人の秦谷美鈴はサポートといった形だった。

 ただ、なぜだろう。彼女に囚われたのは。

 落ち着いた紫色の髪をツインテールに結んでいるのとは対照に、目つきは鋭く隈があり、不敵な表情を浮かべていた。

 そして、目の奥に悲しみと慈しみを持っていたのだ。おそらく言葉では網羅できない。言わば雰囲気が僕を引き付けた。

 

 端的に言えば一目惚れしたのだった。

 

 

 ライブはとても素晴らしいものだった。

 中等部とは思えないほどのパフォーマンス、そして彼女たちの思いが伝わってきたからだろう。しかし、彼女の熱はほか二人より輝きを失っているように感じた。

 後から聞いたことだが、1年生の最後に大きな事件があったらしい。おそらくそこで何か願いが失われてしまったのかもしれない。

 それでも彼女は諦めていなかった。元の願いと同じかはわからないが、何かまだくすぶっていた。

 そう感じたからこそ僕は彼女をプロデュースしたいと思ったのだ。

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