全てを護りたい少年の幻想英雄譚   作:時雨翠雨

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これは、何者でもない無力な英雄の物語


全てを護りたい少年の幻想英雄譚

第1話 幻想入り ―銀髪の少年と森の魔法使い―

 

痛かった。

 

熱い。

 

苦しい。

 

何より――悔しかった。

 

「きゃっ――!」

 

女の子の悲鳴。

 

赤い。

 

視界が、真っ赤だった。

 

 

――間に合わなかった。

 

 伸ばした手。

 

届かなかった指先。

 

守ろうとした。

 

護りたかった。

 

なのに。

 

 

 

ナイフが振り下ろされる。

 

自分の体が動く。

 

女の子を突き飛ばす。

 

代わりに――。

 

 「ぁ……」

 

崩れ落ちる体。

 

遠ざかる音。

 

冷えていく感覚。

 

 最後に見えたのは、泣きながら何かを叫ぶ少女の顔だった。

 

でももう、声は聞こえない。

 

――護れなかった。

 

その感情だけが、心を締め付けた。

 

 

『……欲しい?』

 

声がした。

 

どこからともなく。

 

優しくて、温かくて、なのに妙に軽い声。

 

 『護れる力』

 

光があった。

 

見えないほど眩しい。

 

なのに、不思議と安心する。

 

 

『あーし、そういう顔する人好きなんだよね~。じゃ、あげる』

 

軽い。

 

神様なのに軽い。

 

 

次の瞬間。

 

空気が変わる。

 

 

『――護るだけで満足か?』

 

低い声。

 

冷たくて、重い。

 

ぞっとするほど深い闇。

 

 

 

『壊す力も必要だろう』

 

黒。

 

赤。

 

どす黒い何か。

 

 

『護れなかった後悔があるなら、今度は全部握り潰せ』

 

「……いらない」

 

誓護は反射で答えた。

 

「俺は、護りたいだけだ」

 

一瞬の沈黙。

 

そして――笑い声。

 

 

『だから選ばれた』

 

『面白ぇ』

 

 

光と闇が同時に近づく。

 

 

 

『じゃあ行ってらっしゃい』

 

『せいぜい壊れるなよ』

 

 

 

世界が落ちた。

 

 

 

 

「……ん」

 

 最初に感じたのは、土の匂いだった。

 

湿った空気。

 

木漏れ日。

 

鳥の鳴き声。

 

 「……ここ、どこだ?」

 

 

 

ゆっくりと体を起こす。

 

頭がぼーっとする。

 

 

 

覚えている。

 

名前。

 

籠音誓護。

 

十六歳。

 

東京の高校一年生。

 

 

 

そして――。

 

 

 

「……死んだ、よな?」

 

 

 

確かに。

 

刺された。

 

 

 

思い出した瞬間、胸が痛む。

 

 

 

あの女の子。

 

守れなかった。

 

 

 

ふっと、顔が曇る。

 

明るい性格のはずなのに、その瞬間だけひどく寂しそうな目になる。

 

 

 

「……あー、ダメだダメ」

 

ぱんっと頬を叩く。

 

 

 

「落ち込んでも始まんねーか」

 

 

 

立ち上がる。

 

周囲は森。

 

しかも、普通じゃない。

 

「え、何ここ。ジ○リ?」

 

 

その時だった。

 

ガサッ!!

 

「お?」

 

 

音の方向を見る。

 

次の瞬間――。

 

 

 

「おおお!?!?」

 

 

 

箒に乗った金髪の少女が、木の間から飛び出してきた。

 

その後ろには、金髪ロングの少女。

 

 

 

「うおっ、人間!?」

 

 

 

「魔理沙、避けなさい!」

 

 

 

「無理だって!?」

 

 

 

ドゴォン!!!

 

 

 

「ぐえっ!?」

 

 

 

盛大に突っ込まれた。

 

 

 

「ってぇぇぇぇ!?」

 

 

 

地面を転がる誓護。

 

その上に金髪少女が乗っかっていた。

 

 

 

「いっつつ……悪い、大丈夫か?」

 

 

 

少女――魔理沙が顔を上げる。

 

黒い帽子。

 

白黒の服。

 

そして驚いた顔。

 

 

 

「……お前」

 

 視線が止まる。

 

 

銀髪。

 

陽の光を反射して、異様なくらい綺麗だった。

 

森の中でも目立つ。

 

 

「すっげぇ綺麗な髪だな……」

 

 

「え?」

 

 もう一人の少女が近づいてくる。

 

落ち着いた雰囲気。

 

どこか人形みたいに整った顔。

 

 

 

「人間……? こんな森の中に?」

 

 誓護は笑った。

 

 「それ俺も聞きたいっす」

 

「……“っす”? 軽いわね」

 

「高校生なんで」

 

 

「こうこう……?」

 

 

二人が同時に首を傾げる。

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

嫌な予感。

 

 

 

「え、今って何年?」

 

 

 

「何年って……?」

 

魔理沙が怪訝そうな顔。

 

 

 

アリスが小さくため息をついた。

 

 

 

「とりあえず場所を変えましょう。こんなところ危ないわ」

 

 

 

「そうだな。妖怪に食われても知らんし」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

誓護が固まる。

 

 

「……今なんて?」

 

魔理沙がニヤッと笑った。

 

 「妖怪。ここは幻想郷だし当然だぜ」

 

 

――その瞬間。

 

 

籠音誓護の、“二度目の人生”が始まった音がした。

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