第2話 人形使いの家と、空飛ぶ箒
「――はい、着いたわ」
森を少し進んだ先。
木々に囲まれた場所に、一軒の洋館風の家が建っていた。
花壇。
整えられた庭。
木漏れ日に照らされた外観は、森の中とは思えないほど綺麗だった。
「……え、めっちゃオシャレ」
思わず声が出る。
「当然よ」
金髪ロングの少女――アリスが髪を払う。
「ここが私の家。今日はここで事情を聞くわ」
その隣で魔理沙が胸を張る。
「私ん家はちょっと人呼べる状態じゃないからな!」
「堂々と言うことじゃないわ」
「え、ゴミ屋敷?」
「違うぜ! 資料が多いんだ!」
魔理沙が肩を掴んで言ってくる。
「会ったばっかなのに遠慮ねぇな!?」
誓護は笑った。
「距離近いのが取り柄なんで」
「……変なやつ」
そう言いながら、魔理沙は少し楽しそうだった。
家の中は外見通り綺麗だった。
整った家具。
ティーセット。
人形が並ぶ棚。
「すげぇ……女の子の部屋って感じ」
「何その感想」
アリスが呆れる。
「褒めてますって」
席につかされ、紅茶が出された。
魔理沙は勝手にクッキーを食べ始める。
「おいアリス、これうまいぜ」
「アンタのじゃない」
「誓護も食うか?」
「え、いいんすか?」
「おう」
自然な流れで隣に座る魔理沙。
距離が近い。
アリスはそれを見ながら少し眉を上げた。
(……妙に懐くの早いわね)
初対面なのに。
普通、人間は魔理沙に少し警戒する。
でもこの少年は違った。
まるで元々知り合いみたいに自然に。
そして何より。
――あの銀髪。
やけに目を引く。
綺麗なのに、どこか儚い。
時々、一瞬だけ寂しそうな顔をするのも妙に引っかかった。
「さて」
アリスが本題に入る。
「まず、“幻想郷”について説明するわ」
誓護は真面目な顔になる。
「ここは外の世界から隔離された土地。妖怪も神様も魔法使いもいる」
「……え待って」
誓護が手を挙げる。
「神様ってマジ?」
「いるぜ」
魔理沙がクッキーをかじる。
「空飛ぶし、弾幕撃つし、宴会する」
「最後なんか軽くない?」
「幻想郷だからな」
意味不明だった。
でも。
なぜか不思議と受け入れられる。
死んだ。
知らない場所。
空飛ぶ少女。
ここが現実じゃないのは、もう理解していた。
「あと妖怪も普通に危ない」
アリスが続ける。
「弱い人間なら食われる」
「……マジ?」
「マジだぜ」
魔理沙が笑う。
「だから誓護、あんま一人でフラフラすんなよ」
「はーい」
どこか気の抜けた返事。
魔理沙の動きが止まる。
「……お、おう」
アリスが小さく目を細めた。
(天然ね、この子)
しかも無意識。
危ないタイプだ。
一通り説明が終わる。
そして。
「最後に、“能力”の話」
アリスの声が少し真面目になる。
「幻想郷の住人は、大体何かしら特殊能力を持ってる」
「私なら魔法だぜ」
「アリスさんは?」
「人形を操る程度の能力」
「へぇ!」
誓護が目を輝かせる。
「すげぇじゃないすか!」
真っ直ぐな褒め言葉。
アリスが少しだけ言葉に詰まる。
「……そう?」
「普通にかっこいいっす」
魔理沙が吹き出した。
「お前ナチュラルに距離詰めるなぁ!」
「え?」
本気で分かっていない顔。
アリスが少し視線を逸らす。
「……変な子」
でも、悪い気はしなかった。
「で、誓護の能力だけど」
魔理沙が頬杖をつく。
「多分なんかあるぜ。外来人って結構持ってるし」
その瞬間。
脳裏に浮かぶ。
光。
闇。
『護れる力』
『壊す力』
ズキッ。
「っ……!」
頭が痛む。
「誓護?」
「……いや、大丈夫」
笑って誤魔化す。
けれど一瞬だけ。
ひどく寂しそうな顔をした。
魔理沙とアリスは気づいてしまう。
――なんだ、その顔。
明るいのに。
笑うのに。
時々、すごく壊れそうだ。
「とりあえず」
アリスが紅茶を置く。
「博麗神社に行きましょう」
「神社?」
「幻想郷の管理者みたいな巫女がいる」
魔理沙がにやっと笑った。
「面白いやつだぜ」
「へぇ」
「まぁ最初に顔通ししとかないとな」
「どうやって行くんです?」
沈黙。
そして。
魔理沙が当然のように言った。
「ほうき」
「え?」
「飛ぶぞ」
「…………え?」
数分後。
「いや高い高い高い!!!」
「落ちるなよ!」
魔理沙の後ろ。
身長があまり変わらないせーごが、必死にしがみついていた。
「いや高い!!怖っ!!」
「男子だろ!?」
「ほうきで空なんて飛んだことねぇ!!」
「はははっ!」
魔理沙が笑う。
その声につられて、誓護も少し笑った。
空を飛ぶ。
怖い。
でも――。
少しだけ、楽しい。
幻想郷。
まだ何も知らない世界へ。
そして。
博麗神社で待つ、もう一人の少女との出会いへ。