第3話 博麗の巫女
「着いたぜ!」
ほうきがゆっくりと高度を下げる。
誓護はというと――。
「っはぁ……生きてる……」
顔が真っ青だった。
「情けねぇなぁ」
「いやいや!? ほうきで空飛ぶとか普通に怖いって!」
「慣れる慣れる」
「慣れたくねぇ……」
そんなやり取りをしながら顔を上げる。
石段。
赤い鳥居。
そして古びた神社。
どこか静かな空気。
だけど、不思議と落ち着く場所だった。
「ここが博麗神社」
アリスが言う。
「幻想郷の管理人――みたいな存在の巫女がいるわ」
「へぇ」
その時。
「誰よ、騒がしいわね」
縁側の方から声。
赤と白の巫女装束。
長い黒髪。
少し眠そうで、だけど妙に綺麗な少女。
第一印象。
(……美人)
だった。
ただ。
めちゃくちゃ面倒くさそうな顔してる。
「霊夢ー!」
魔理沙が手を振る。
「外来人拾った!」
「犬猫みたいに言うな」
「……外来人?」
少女――霊夢の目が、誓護に向く。
そして止まった。
銀髪。
日差しを受けて妙に目立つ。
幻想郷でも珍しい色。
「……変な髪」
第一声、それだった。
「第一声ひどくない!?てゆーか地毛なんですけど!!!」
「事実でしょ」
「もっとこう、“初めまして”とかあるじゃん!」
「めんどくさい」
「うわ出た」
魔理沙が笑う。
「こいつ初対面塩対応なんだよな」
「うるさい」
霊夢はため息をつく。
「で、事情は?」
説明タイム。
外来人。
森で発見。
記憶あり。
外の世界出身。
銀髪は地毛。
霊夢は腕を組みながら聞いていた。
「ふーん……」
そして一言。
「まぁ、行く場所ないならしばらくここいれば?」
「え?」
思わず誓護が聞き返す。
「いいんですか?」
「別に。外来人放置して問題起こされても面倒だし」
ぶっきらぼう。
なのに。
なんだろう。
優しい。
「……ありがとう」
自然に出た言葉。
その瞬間。
霊夢が少しだけ目を逸らした。
「べ、別に感謝されるほどじゃないし」
魔理沙がニヤニヤする。
「お、霊夢優しいじゃん」
「うるさい!」
誓護は少し笑った。
(なんか……面白い人だな)
縁側。
お茶。
お菓子。
なぜか普通にくつろいでいた。
「でさー、誓護って何歳なん?」
魔理沙が煎餅をかじる。
「16」
「マジ?」
「お?」
霊夢とアリスも見る。
「……私と同じか」
魔理沙。
「私は一個……じゃなく二個上ね」
霊夢。
「私も同じくらいよ」
アリス。
「え、マジ?」
誓護が少し笑う。
「じゃあ敬語いらなくね?」
「お?」
魔理沙がにやっとする。
「じゃ、タメでいくか!」
「おう」
ぱしっと軽く拳を合わせる。
一瞬で距離が縮んだ。
アリスが少し驚く。
(早い……)
普通、魔理沙はもっと警戒される。
なのに。
もう友達みたい。
しかも誓護のコミュ力が高い。
「アリスも同い年?」
「……まぁ」
「じゃタメでいい?」
「え?」
少し間。
「……別にいいけど」
「よっしゃ」
その笑顔が、妙にまぶしい。
霊夢は黙ってお茶を飲みながら見ていた。
(なんか……変なやつ)
初対面なのに。
空気が軽くなる。
でも。
時々だけ。
一瞬だけ。
すごく寂しそうな顔をする。
それが少し気になった。
「で」
魔理沙が急に立ち上がる。
「能力試そうぜ」
「能力?」
「幻想郷で能力なしは珍しいんだよ」
「外来人は特にね」
アリスが補足。
霊夢が頬杖をつく。
「まぁ、確かに何かありそうなのよね」
「そーゆーのわかるんです?」
「いや、勘」
「勘ですか」
雑。
「私が相手してやるぜ」
魔理沙が胸を張る。
「模擬戦!」
「えっ」
「安心しろ、死なない程度だ」
霊夢がぼそっと言った。
「多分」
「多分!?」
アリスがため息。
「加減しなさいよ」
「分かってるって」
魔理沙はにやっと笑う。
その目は少し楽しそうだった。
「せーごさ」
初めての呼び方。
「どんな能力か、見せてみろよ」
神社の境内へ。
風が吹く。
夕日が少し赤い。
向かい合う二人。
片方は、空飛ぶ魔法使い。
もう片方は――。
まだ何者でもない、銀髪の少年。
そして。
誓護の中で、何かがわずかに疼いた。