第4話 一瞬の覚醒と、初めての“女の子扱い”
「それじゃ――始めるぜ!」
魔理沙が箒を蹴った。
次の瞬間。
――消えた。
「は?」
いや、違う。
飛んだ。
一瞬で上空。
ありえない速度。
「ちょっ!?!?」
ドンッ!!
光が横を通り過ぎる。
地面が吹き飛ぶ。
「え、待って待って待って」
誓護の額に冷や汗が流れる。
「これ模擬戦だよね!?」
「模擬戦だぜ!」
上空から楽しそうな声。
「ほら避けろ避けろー!」
バンッ!!
バンッ!!
バンッ!!
魔法弾。
しかも速い。
「うおっ!?!?」
咄嗟に横へ転がる。
地面が抉れる。
(いやいやいや!?)
頭がおかしい。
何だこれ。
自信なら正直あった。
運動神経も良い。
高校でもかなり動ける方だった。
一年なのにサッカー部で10番。
それなりに期待されていた。
でも。
これは――。
常識が違う。
「いや無理だろこれ!!」
「いい反応してるぜ!」
魔理沙が笑う。
普通ならとっくに当たってる。
なのに。
誓護は、ギリギリで避け続けていた。
身体が勝手に動く。
危険が分かる。
“そこに行くな”
“次は右”
“しゃがめ”
本能みたいに理解できる。
「っ……!」
ただ直撃はしていないだけで普通に痛い。
頬をかすめる熱。
(今の直撃したら)
死ぬ。
絶対。
冗談じゃない。
「魔理沙! 加減しなさいよ!」
縁側。
お茶を飲みながら見ていた霊夢が呆れる。
「してるしてる!」
そう言いながら。
魔理沙の口元が上がっていた。
楽しい。
こんなに避ける人間、初めてだった。
しかも――。
楽しそうに笑ってる。
普通、人間なら泣く。
逃げる。
でもせーごは違う。
「ははっ……!」
汗だく。
ボロボロ。
なのに。
「幻想郷って、やべぇな!!」
笑っていた。
その顔が、妙に眩しかった。
(……なんだこいつ)
魔理沙の胸が少しだけ高鳴る。
面白い。
もっと見たい。
「ならちょっとレベル上げるぜ!」
「え?」
空気が変わる。
「魔理沙?」
アリスが眉を寄せる。
嫌な予感。
魔力が増えていく。
「ねぇ、加減しなさいって!!」
霊夢が声を上げる。
「大丈夫だって!多分!!!
」
魔理沙は笑った。
ただ。
少しテンションが上がりすぎていた。
「これ避けたら褒めてやるぜ!!」
巨大な魔法弾。
「いやいやでか――」
放たれる。
避ける。
ギリギリ。
その瞬間。
――軌道がズレた。
「あ」
魔理沙の顔が固まる。
一直線。
向かった先。
縁側。
お茶を飲んでいた霊夢。
「……は?」
気づく。
遅い。
札も間に合わない。
避けられない。
その一瞬。
誓護の頭が真っ白になった。
――危ない。
違う。
そんな軽い言葉じゃない。
護らなきゃ。
護らないと。
ダメだ。
“また”は嫌だ。
あの時みたいなのは――。
絶対に。
絶対に嫌だ。
次の瞬間。
ドンッ――!!
全員の目が見開かれる。
「……え?」
霊夢。
目の前。
いた。
さっきまで数十メートル離れていたはずの銀髪の少年が。
ありえない速度。
人間じゃない。
間に合う距離じゃない。
なのに。
誓護は、霊夢の前に立っていた。
そして。
伸ばした手。
魔法弾に触れる。
その瞬間、
――消えた。
跡形もなく。
まるで。
“最初から存在しなかった”みたいに。
静寂。
風だけが吹く。
「……は?」
魔理沙が固まる。
アリスも言葉を失う。
霊夢だけが。
目の前の背中を見ていた。
銀髪が、夕日に照らされる。
そして。
誓護が、はっと我に返る。
「霊夢さん!!」
肩を掴んだ。
真っ直ぐ目を見る。
「怪我ない!? どっか痛くない!?」
近い。
近すぎる。
霊夢の思考が止まる。
「え……あ……」
焦った顔。
本気の心配。
しかも。
初めてだった。
巫女として見られるでもない。
強い博麗の巫女としてでもない。
守る対象として。
――“女の子”として心配された。
心臓が跳ねる。
「れ、霊夢さん?」
「……だ、大丈夫よ!」
反射で少し声が強くなる。
でも顔が少し赤い。
「ほんとか?」
「近い!!」
どんっと押す。
後ろで。
魔理沙が興奮した顔で飛んできた。
「せーご!!」
肩を掴む。
「今の何だ!?!?」
「え?」
「能力出たぞ!!」
「……能力?」
誓護は首を傾げた。
覚えていない。
ただ。
一つだけ分かる。
「……霊夢さんが危なかったから」
静かな声。
「助けなきゃって思った」
その言葉に。
霊夢の胸が、また少しだけうるさくなった。