全てを護りたい少年の幻想英雄譚   作:時雨翠雨

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第6話

第6話 紅魔館からのスカウトと、少々強引なお誘い

 

幻想郷に来て、一週間。

 

 

 

「よし、終わりっと」

 

 

 

竹箒を肩に担ぎながら、誓護が伸びをする。

 

 

 

朝の博麗神社。

 

澄んだ空気。

 

鳥の声。

 

 

 

そして、綺麗になった境内。

 

 

 

「いやぁ、掃除って意外と気持ちいいな」

 

 

 

幻想郷に来てから、誓護の日課になっていた。

 

 

 

理由は単純。

 

 

 

「住まわせてもらってるし、何もしないの悪いだろ」

 

 

 

その感覚だった。

 

 

 

最初、霊夢は本気で意味が分からなかった。

 

 

 

「……何してるの?」

 

 

 

「掃除ですけど」

 

 

 

「なんで?」

 

 

 

「お世話になってるし」

 

 

 

「……変なやつ」

 

 

 

そう言いながら。

 

 

 

気づけば。

 

 

 

朝、境内に銀髪の少年がいるのが当たり前になっていた。

 

 

 

しかも。

 

 

 

料理できる。

 

掃除できる。

 

気遣いできる。

 

 

 

「霊夢さん、これ運びます?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

自然に荷物を持つ。

 

 

 

「重そうだったから」

 

 

 

悪気ゼロ。

 

 

 

しかも、時々。

 

 

 

「無理しないでくださいね」

 

 

 

なんて言う。

 

 

 

巫女なのに。

 

 

 

強い側なのに。

 

 

 

なぜか心配される。

 

 

 

その度、霊夢は少しだけ調子が狂った。

 

 

 

 

 

縁側。

 

 

 

「せーご、便利すぎないか?」

 

 

 

魔理沙が煎餅をかじる。

 

 

 

「便利って言うな」

 

 

 

「でも神社きれいになったぜ?」

 

 

 

「……否定できないのが腹立つ」

 

 

 

霊夢がぼそっと呟く。

 

 

 

アリスも今日は来ていた。

 

 

 

「ちゃんと休んでる?」

 

 

 

「休んでるって」

 

 

 

「嘘。顔ちょっと疲れてる」

 

 

 

「え、バレる?」

 

 

 

少し笑う。

 

 

 

でも。

 

 

 

その笑顔の奥。

 

 

 

ほんの一瞬。

 

 

 

すごく寂しそうな目をする時がある。

 

 

 

それを見ると。

 

 

 

なぜか胸がざわつく。

 

 

 

――何があったんだろう。

 

 

 

そんなことを思ってしまう。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「失礼いたします」

 

 

 

風が止まる。

 

 

 

気づけば。

 

 

 

そこに、一人の女性が立っていた。

 

 

 

銀色の髪。

 

完璧なメイド服。

 

 

 

整いすぎた立ち姿。

 

 

 

まるで時計みたいに隙がない。

 

 

 

「……えーっと。どちら様ですか?」

 

 

 

誓護が首を傾げる。

 

 

 

霊夢が少しだけ嫌そうな顔。

 

 

 

「紅魔館のメイド」

 

 

 

魔理沙が説明する。

 

 

 

「十六夜咲夜」

 

 

 

誓護はすぐ立ち上がる。

 

 

 

「初めまして」

 

 

 

ぺこっと軽く頭を下げた。

 

 

 

「籠音誓護です」

 

 

 

そして。

 

 

 

「咲夜さん?」

 

 

 

自然な敬語。

 

自然なさん付け。

 

 

 

咲夜が一瞬だけ止まった。

 

 

 

(……礼儀正しい)

 

 

 

外来人。

 

もっと荒れてるかと思った。

 

 

 

なのに。

 

 

 

年上への距離感がちゃんとしている。

 

 

 

しかも。

 

 

 

銀髪。

 

 

 

整った顔立ち。

 

 

 

それなのに今は掃除中で少し汚れていて。

 

 

 

どこか危なっかしい。

 

 

 

「えっと、何か用ですか?」

 

 

 

笑顔。

 

 

 

咲夜は静かに本題へ入る。

 

 

 

「本日は、お誘いに来ました」

 

 

 

「お誘い?」

 

 

 

「紅魔館で働きませんか?」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

霊夢がぴくっと反応する。

 

 

 

魔理沙も。

 

アリスも。

 

 

 

「館の主があなたに興味を持ちまして」

 

 

 

「住居、食事、生活環境、全て保証します」

 

 

 

「え、めっちゃホワイト」

 

 

 

「ホワイトです」

 

 

 

即答だった。

 

 

 

少し笑いが起きる。

 

 

 

だが。

 

 

 

なぜか空気が微妙。

 

 

 

霊夢はお茶を飲みながら黙る。

 

 

 

魔理沙も何も言わない。

 

 

 

アリスは静か。

 

 

 

――嫌だ。

 

 

 

理由は分からない。

 

 

 

でも。

 

 

 

少しだけ。

 

 

 

嫌だった。

 

 

 

たった一週間。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

もう。

 

 

 

ここにいるのが当たり前になっていた。

 

 

 

「どうしますか?」

 

 

 

咲夜が問う。

 

 

 

誓護は少し考える。

 

 

 

そして。

 

 

 

笑った。

 

 

 

「ありがたいです」

 

 

 

丁寧な言葉。

 

 

 

咲夜が少し目を細める。

 

 

 

でも。

 

 

 

「でも、断ります」

 

 

 

きっぱり。

 

 

 

迷いゼロ。

 

 

 

「……理由を伺っても?」

 

 

 

「ここ、好きなんで」

 

 

 

自然な声。

 

 

 

「霊夢さんいますし」

 

 

 

霊夢の肩がぴくっ。

 

 

 

「魔理沙も、アリスもいますし」

 

 

 

魔理沙が咳払い。

 

 

 

アリスは視線を逸らす。

 

 

 

そして。

 

 

 

誓護は少し笑った。

 

 

 

「もう居場所って感じなんです」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

霊夢の顔が少し赤くなる。

 

 

 

「い、居場所って……」

 

 

 

魔理沙も妙に照れる。

 

 

 

「へ、へぇ……」

 

 

 

アリスだけ少し笑う。

 

 

 

(天然でこれなのよね)

 

 

 

危険。

 

 

 

かなり。

 

 

 

でも。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

少しだけ。

 

 

 

咲夜は静かに息を吐く。

 

 

 

「……なるほど」

 

 

 

断られた。

 

 

 

だが。

 

 

 

ますます興味が湧いた。

 

 

 

そして。

 

 

 

「ですが」

 

 

 

パチン。

 

 

 

指が鳴る。

 

 

 

「え?」

 

 

 

景色が変わる。

 

 

 

一瞬。

 

 

 

空間がズレた。

 

 

 

気づけば。

 

 

 

巨大な門。

 

 

 

赤い洋館。

 

 

 

見上げるほどの建物。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

誓護が固まる。

 

 

 

隣には咲夜。

 

 

 

当然のように。

 

 

 

「では、紅魔館へようこそ」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「少々強制です」

 

 

 

「いや誘拐じゃないですか!?!?」

 

 

 

「違います」

 

 

 

「絶対違わない!!」

 

 

 

門の前。

 

 

 

中国服の女性が苦笑していた。

 

 

 

「またお嬢様のわがままですか〜」

 

 

 

誓護の。

 

 

 

少し平和になってきた幻想郷生活は。

 

 

 

また大きく動き始める。

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