「異世界転移の災厄は、よく私に降り注ぐらしい」   作:匿名

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「いつも通り隠れていたらゴブリンの軍隊が竹林にやってきた」

 

 

「⛌⛌⛌!⛌⛌⛌……」

 

諦めるなとか、そういうことを言っているのだろうか。ゴブリンの剣らしきものに腕が砕かれた。

 

肘から先をぷらんと垂れて、それでも戦おうとしている。

 

 

軽装の人間、あの歩兵の鎧は繊維で出来ている。

古代中国の紙で出来た鎧みたいな感じに、いくつも紐で結ばった紙が吊るされている。

 

 

肩は守れてないけどね。

なんか茶色の牛革みたいなやつがあるだけだ。防御力が薄そう。

 

ま、何も付けてないよりかはマシなのかもしれないけど、あんな鎧をつけて暑くないんだろうか。

 

 

私は、そんな装備を着て激闘を繰り広げる人間の兵士を上から見つめつつも、何か考え深いものが浮かぶでもなく、ただ計算があった。

 

 

 

いつ死ぬか。ただそれだけの計算が、私の頭の中で走っていた。

 

鎧を奪った所で体格が違うから着れないと完璧に弾き出している。

 

だけども、あの鉄の剣。

あの鉄の剣さえ奪う、あるいは回収できれば、ゴブリンを危なげなく倒せる。

 

 

私の頭の中にあるのは生体電気で稼働する、脳みそに組み込まれた演算回路。

 

若返ったこの肉体にも当然存在するそれらが、働いているような気がする。

 

気がするというか、脳みその中に触覚などの感覚器官がないから……まあただの気のせいだろうけれども。

 

 

 

私は少なくともここまで共感性が低い人間じゃなかったとは思うのだが、あまりのストレスで気が狂ってしまったのかもしれない。

 

 

 

人間の兵士は全員が立派な兜をつけている。

少なくとも農民兵じゃないなとハッキリわかるほどだ。まず、資金力はとてつもないだろう。

 

上から見ると、見事にとがった円錐のような兜だ。

 

 

その兜を付けた集団が、今にも命潰えようという時にも関わらず、追い詰めるゴブリンたちの猛攻は揺るがなかった。

 

 

 

「⛌⛌⛌〜!」

 

軽装歩兵たちは、首も頭の上までも守るような円錐の兜ではない。

 

だからか。

 

思いっきり軽装歩兵たちは、骨の剣で突かれた。

 

こう、刺突に特化したような形状である。

 

 

 

スティレットか何かを連想させるような骨の剣で、刺突はあれほど火力が良いのかと感心しつつ、鎧のない部位を的確に切った剣術に、ゴブリンの戦闘能力を見誤っていたと、私は心底思い知らされる。

 

 

「⛌⛌⛌!⛌⛌⛌!」

 

だけどもよく見ると、骨の剣で倒れたのは軽装歩兵のうち一人だった。

 

 

円形に近い扇状の布陣を作っているから、そこから崩れるのではないか……そう思って私は動向を観察した。

 

 

案の定、そこからゴブリンが入ろうと、分隊長と思しきゴブリンが突撃を命令するべく叫んでいた。

 

 

しかしどんどん押し寄せるゴブリンの肌を鉄の剣が表面を撫でると、思いっきり血が出た。

人間たちもなかなかに抵抗しているけれども、ゴブリンの包囲がある。

 

 

扇状に広がり、端から包もうとする陣形だ。

 

全周囲が敵たる円形の布陣は、ゴブリンからすると包囲することが実に簡単だろう。

 

下の下の下、戦術としてゴブリン以下だ。

 

個人の剣技という能力に頼りきったもの。一人減っただけで、あれほど大慌てしているのだから、人間の敗北は近いんじゃないか。

 

 

なら、ゴブリンの物資を奪いたい。

 

奴らの行軍は補給をほとんど必要としないし、地を這う蛇を串刺しにして火で炙るのみで食事を終える。

 

 

だけどここから人間が粘り勝ちする可能性もある。じわじわと前衛の軽装歩兵たちが後ろに下がり、円形が潰れてきてはいるものの、それを全体的に後退することで補正している。

 

 

ゴブリンの包囲は単純だ。

 

分隊長となる立場のゴブリンが分隊から先遣個体を送って、敵が隠れてないかあぶり出す。

 

その途中で人間に先遣個体が各個撃破されるんじゃないかと思ったが、ふと思い返すとここは竹の上だ。

 

 

視界がある程度開けている私と違って、人間の兵士たちは包囲線が伸びていることなんて分からないのかもしれない。

 

 

ゴブリンの集団の中から先遣個体を送って、少しづつ包囲した所を確認していく。

 

スローペースながらも確実な包囲をしている。

 

 

 

しかし、あんまりにもノロノロと歩いている。先遣個体も怖いのか?

 

 

まあいいか。

 

 

 

 

 

「⛌⛌⛌!」

 

 

私は視線を戦場の先の方から、声を上げた軽装歩兵の方向へ向いた。

 

 

 

負傷を負った兵士が前で戦っていると、戦士ゴブリンに向かって思いっきり鉄の剣を片手で振り下ろすのが見えた。

 

骨で作られたゴブリンの両手剣はガードするのに間に合わず、血が吹き出る。

 

これには堪え、意味の無い絶叫をしている。

威力なんてほとんど出ないであろうに、たったそれだけでゴポという声を出して戦士ゴブリンは倒れた。

 

出血はやはり死に値する攻撃だ。さもありなん。

 

 

 

 

 

腱が反応しているのか、手足をビクビクと跳ねさせているゴブリン。

 

 

 

相変わらず生命力が強いなあ、そんなことを思っていた。

 

だが倒れたゴブリンの傷を見ると、私は思わず声をあげそうになった。

 

 

 

 

その血の池と形容できるような、地獄絵図の地面に付したゴブリンの傷は異様だ。

 

あの鉄の剣が肩から骨盤までを縦断したようで、あの手負いの兵士がどれだけ強いのか戦慄した。

 

 

片手だぞ。片手であの破壊力?

 

鉄の剣。その斬れ味がどれほど高いのか気になったが、まさかここまでの切断を果たすとは。手足を落とすだとか、そういうことに留まると思ったら……胴体を分ける、なんと恐ろしき破壊力。

 

 

 

ヘラクレスかアキレウスか知らないが、負傷しているっていう時に、あんな斬撃を繰り出せるなら……万全の時なら一騎当千というかそういう超人じゃないか?

 

 

 

しかし、あれだけの斬撃を繰り出した反動か……立つのがやっとの状況に陥っている。

 

 

 

「仕留めろ!仕留めろ!」

 

 

 

皮肉なことに、人間と会話したことが無さすぎて、私はゴブリンの言葉を先に理解している。

 

戦士ゴブリンは相当の手練れで、同格のやつが居なさそうっぽかったけど、どうやら違ったらしい。

 

 

前線指揮官らしき、毛皮の服を着ているゴブリンが叫んでいる。

 

 

こんな熱帯雨林気候で、しかも竹の蒸散があるのに暑くないのかと思うが、ともかくその声に合わせて全軍突撃の構えをしている。

 

 

戦士ゴブリンの死体は避けるようにして進んでいるが、もう既に人間よりもゴブリンの方が二倍は居る。

 

人数差で押し切られるだろう。

 

 

包囲網が完成して、背中から強襲を仕掛けられた人間が慌てている。

 

なぜ重装歩兵が前に出ないで後ろにいるのか疑問だったが、なるほど防御力。

 

 

石の剣をプレートアーマーが砕いた。

 

 

 

その直後、サーベルかマチェットか、太めの刀のような外見をした剣がゴブリンを切りつけた。

 

人間も、まだまだ余力があるようだ。ゴブリンをあれほど簡単に、一太刀で殺すなんて。

 

鉄の刃物というのは、やはり強い。

 

鉈ならば……一、二匹ほど倒したら壊れるというのに。

 

 

 

横薙ぎに振るった剣が、二匹の胴体を横断した。

 

 

 

 

 

「進め!進め!」

 

 

声を張り上げるゴブリンが、退却を始めた人間を追い討ちするように命じた。

 

 

上からの情報というアドバンテージが私にはあるけれど、声を出したら見つかるかもしれない。

 

 

あの指揮官を殺すというのは簡単だ。頭に鉈をぶち込んで砕けば死ぬ。

 

しかし、竹を登るというのは一分ほどかかる。

一メートル縦に登ったところで気づかれる。

 

五、六メートルは登りたいけれど、そうする時間が無い。

 

 

 

周りにゴブリンがいるし孤立していない。すぐに私が殺されて終わりだ。

 

 

 

ゴブリンは竹を登れないが伐採することはできる。だけど、指揮官の周りならば伐採はされない。

 

 

なぜなら戦場の周辺は人間が竹とか薮とかを切りながら進んだけど、ゴブリンはそんな事をしない。

 

中腰になって走る。

 

 

「敵は退却した!進め!」

 

 

 

だけども、どうやら開けた環境では普通に走るようだ。

推測を間違えてしまったな。

 

 

うん?というか走る速度がなんか早くないか?

 

 

退却してる人間に合わせて、私は竹を飛び移って着いていく。

 

地上を走るゴブリンは人間を追いかける。

 

背後に展開していた分隊……十匹ほどのゴブリンが、飛び出して行く手を塞ごうとする。

 

おや、しかし突出した分隊に合わせて中腰で走っているな。単に環境で走り方を変えているだけか。

 

 

 

 

人間たちは遁走したけれど、もともとの前線は総崩れだ。重装歩兵のみが生き残り、あとの軽装歩兵たちは死んでいる。

 

いや、生き残りたちはゴブリンが蔦で縛って居るけれど……戦利品扱いかな。

ポコッと棘が生えてる蔦に縛られて痛そうだ。

 

 

 

重装歩兵たちはサーベルみたいな、あるいは刀みたいな、湾曲しているけど太めな剣を使っている。

 

もう二十人くらいしか重装歩兵はいない。軽装歩兵の五十人とは分断され、まあ……各個撃破されるだろう。

 

 

 

 

だけどこのまま重装歩兵は退却できるのか……いや、竹林から逃げ切れるのか。

 

ここまで行軍してきたってことは、近くに人間の基地か何かがあるはずだけど。ここで死んだらゴブリンが来ているってことを伝えられないんじゃないか?

 

 

重装歩兵たちはゴブリンと戦闘を始めたけれど、全力で走るゴブリンの進軍速度が早すぎる。

 

このままだといくら行く手を塞ぐゴブリンを倒したとて分隊がやってきて、足止めされ、本隊に追いつかれる。

 

二百人は居るゴブリンの本隊に追いつかれたらさすがに数の差で死ぬんじゃないかな。

 

 

 

私が足を乗せたり手をかけたりして移動するのに使う竹の節。

 

高さで、その間隔は凡そ同じだ。だからこそ高速移動なんて芸当が出来るわけだけども、なぜあの重装歩兵たちは竹を登ろうとしないんだろう?

 

 

まあ、装備が重すぎてしなるとかそういう事なのかな。

あとは十分な高さに登れる時間が無いとか、ゴブリンが今どこに展開しているのか把握できないから……全周囲を警戒しなきゃダメとか、そういう事なのかなあ。

 

 

「追え追え!俺たちは走るぞ、あいつを倒すために!」

 

 

ゴブリンたちは走って追いかけている。

さすがに走っている相手を追いかけることは叶わないけれど、本隊の規模が大きい。二百匹と見積もっていたけれども。

 

分隊長の証たる、杖持ちゴブリンの数からして、二百どころか三百かもしれない。本隊の分厚さが増しているのか。

 

 

何処かとゴブリン軍と合流したのか?はあ、これじゃ人間が負けることが確定したじゃないか。

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