仮面ライダーウィザード in第四次聖杯戦争 作:T氏@pixiv
『ランスロット...ガヴェイン...モートレッド...』
暗雲の中、かつての仲間を口にしていくセイバー。
『...我が兵士や民...皆...』
嗚咽が混じり、瞳が揺れる。
『皆...ごめんなさい...アァァァァ!!』
「...これが私の過去だ。.」
屍の上で膝を着くセイバーを遠くから見ていた晴人の背後に漆黒のセイバーが現れる。
「お前やランスロットのおかげで過去にもう悔いはない...」
辺りは再び赤黒い泥に覆われる。
「だが、繰り返したくないのだ...フォーリナーやアイリスフィール、切嗣...今の私には
大切な仲間がいる。」
彼女の言葉に応えるかのように泥が彼らの姿を映し出す。
「選定の剣をとったあの時の私は知らなかった...だが、今はいかに未来が裏切るのかを私は知っている。」
『『イリヤ!!』』
『お母さま...切嗣...』
アイリと切嗣がアインツベルン城からイリヤを助けられない。
『雁夜お父さん!?』
『無事に帰るんじゃなかったの!!』
『桜...葵さん...ごめん...』
生きて帰ることができず、帰ってすぐに二人の前で雁夜は燃え尽きる。
『ケイネス...どうしたの?』
『...魔術を扱えなくなった私はロードを外された。』
『...ケイネス。』
聖杯戦争後、魔術の扱えなくなったケイネスは魔術協会に見放され二度と教鞭に立てなくなる。
「私は思うのだ...いくら未来を望もうとも絶望はあると。」
泥が映し出す彼らの絶望の光景を目に焼き付ける晴人とセイバー。
「ならば、私がいっそ全てを破壊して絶望ごと消してしまう方が」
「セイバー。」
黙って俯いていた晴人は顔を上げ口を開く。
「確かに絶望はあるし、頑張っても未来は裏切ることはある。」
泥が晴人を乗っ取ろうと足元に這い上がろうと蠢く。
「だがな...だからって最初からあきらめるのか?」
「...」
「お前は失うことを恐れているんだよな...お前のその優しさは多くの人を救ったんだろう。」
ただ黙って晴人を見るセイバー
「でもな、セイバー...お前は一人で全部抱え込みすぎだ。お前はなぜ誰かを頼ろうとしなかった!!」
「...弱さを見せた王は国を滅ぼす...私が止まれが民が死ぬのだぞ!頼れるはずがないだろ!!」
セイバーの激情は覆われた泥を震わす。
「...誰もこんな弱い私についていくものなどいない...」
冷酷な姿になっても年頃の少女が見せる涙を流していた。
「...弱さがそんなに駄目なのか?」
「...何を言っているのだ、フォーリナー。」
困惑を浮かべるセイバーを気にせず話を続ける晴人。
「お前は王だから弱さを見せてはいけないって思いこんでいるが...弱いからこそ、恐れているからこそ手を取り合うんだ。お前には弱さを認めてくれる仲間はいなかったのか?」
「...弱さを認める、仲間...」
『ランスロット卿...我が王はとても苦しそうです。助ける手立てはないのですか?』
『...王は正しさのあまり、自分を犠牲にしておられる。...ですが、私には王に応える以外できることがない...』
ランスロットと王妃ギネヴィアはお互いが共感してしまうほど王の孤独を嘆いた。
『...あなたは私の前でも隠すのですか...』
席を外したベディヴィエールは彼女の悲痛な願いを扉越しで聞いていた。
『この兄である俺をなぜ頼ろうとしない...アルトリア。』
兄としてセイバーの面倒を見て、最後まで傍に付き添い続けたケイは王を全うするセイ
バーを見て愚痴をこぼす。
「...いないはずがない...お前のその人柄に惹かれたやつは誰かいるはずなんだ。」
「...彼らは王である私に従っただけ」
「そんなわけねぇだろ!」
彼女の記憶ではなく、聖杯の泥が晴人の言葉に応えるかのように英霊の座から投影された仲間の記憶がそこにあったのだ。
「彼らがここまで思っているのはあんたが大事だったからだ...王ではなく、セイバーを見ていたんだ。」
「私を...」
晴人に這いずり寄ってきた泥が引き、蠢く勢いが弱まる。
「...だが、彼らはもう過去のもの達...私が弱さを見せられる仲間など...」
揺らぐセイバーに今度は泥が再び這い寄り、沈んでいく。
「!?」
「よっと...」
だが、晴人が彼女の腕を引き上げ、飲み込もうとする泥から救い出す。
「お前には今も仲間がいるはずだ。」
「今の仲間....」
『セイバー、フォーリナー...君たちの言う『希望』が、僕のような男の隣にあっても許
されるというのなら…』
『駄目よセイバー!...私はセイバーと最後まで...』
彼女の脳裏には切嗣、アイリなどこの聖杯戦争で仲を深め、時には傷つけられながらも関
係を構築した人たちが思い浮かぶ。
「セイバーの悲惨な過去はお前が王になったからじゃない。お前の優しさ故に一人で成し
遂げようとしたことだ。」
「....私は弱さを見せたうえで頼っていいのか?私が絶望する未来に到達したとき、他者
を巻き込むのではないか?」
捕まれていた腕を解放され、晴人に瞳を向けるセイバー。
「未来、私がいることでおこる絶望はないのか?」
「...それは保証できない。」
「そうか...」
俯くセイバーに晴人は頭にポンっと手をのせる。
「生きている限り絶望は誰にでも訪れる...だけどな、だからこそ人は互いに支え合って希望になれる。」
「支え合う...」
セイバーの濁った瞳はどこか潤いによって輝いて見える。
「お前の言う通り絶望はまた訪れるだろうが...今度は、一人ではない。もう一度立ち上がってみせる!」
血の通った彼女の強い表情に思わず晴人は微笑む。
『晴人!』
「コヨミか?」
「...それは、あなたのマスターから受け取っていた。」
桃色に輝くホープリングの中にいるコヨミが晴人を呼ぶ。
『雑談する時間はないわ...晴人の持ってる魔除けの指輪を!』
「ランスロットの指輪...そういうことか!」
懐からランスロットから授かった指輪を取り出す。
「セイバー、いやアルトリア...お前はもう一人じゃないな!」
頷くセイバーを一瞥した後、
『ホープ プリーズ!』
「ランスロットの指輪が...」
かざした瞬間、ホープリングと魔除けの指輪が共鳴して光りだす。
「これは...私の鞘!?」
セイバーの手元に現れた魔法陣から真っ暗な泥の中でさえも明るく見える黄金の鞘が出現する。
あらゆる悪意や苦痛の叫びが蠢く泥がその鞘を前にして一層騒めく。
「後はお前が切り開くんだ...アルトリア。」
「...はい。」
現れた鞘を手にして目をつむるセイバー。
「
真名開放と共に視界が白飛びする。
それは鞘の放つ光が泥を超えて包み込んだためであった。
「これは...」
光がおさまると同時にセイバーの黒い甲冑が剥がれる。
「...かわいらしいじゃねーか。」
だがその姿は青い騎士ではなく、どこか幼さを残す白いドレスアーマーを着た少女だった。
同時に覆われていた泥が消滅し、真っ暗な夜空が現れる。
「...やはり、絶望は来るのですね...」
だが、これですべてが丸く解決するわけではない。
禍々しい聖杯の泥は完全に消えたが、その傷跡は深く残っていた。
「...まずは生存者を探そう。」
「...分かりました。」
二人はその場で手分けして、泥が消えたはずの地獄を彷徨う。
まるで一つの村を見放したあの頃と同じく焼けた残骸と屍で舗装された道に足をつけてい
るようだった。
「あ...あ...」
「...今助けます!」
瓦礫の奥に聞こえる呻きが目を大きく開いたセイバーを正気に戻す。
「くっ!」
今の彼女はただの少女であり、重く火災で熱された瓦礫を必死にどかす。
「大丈夫...!?」
なんとか退かした瓦礫の先にいたのは全身が真っ黒に焼け焦げ胸部辺りが空洞の人影であった。
どう見ても助からない誰かをセイバーは見捨てることしかできず、次の生存者を探す。
「誰か...誰か...」
探しても探しても辺りは焦土と骸、それにもう遅い人々が視界に入り続ける。
「誰か...誰か!」
掘り起こそうとも息はなく、潜って探そうとも聞こえてこない。
「私のせいで...私のせいで...」
煤や瓦礫で黒ずんだ白いスカートに雫を落とすセイバー。
「アァァァァ!!」
頭を抱え、発狂する彼女に帰ってくるのはやまびこでしかない。
『まだ諦めるのかい、アルトリア?』
「う...マーリン?」
慣れした死んだ魔術師の声に顔を上げるも彼はいない。
「...」
「あ...」
だが、目の前には赤毛の少年が無心で歩み、縮こまった彼女の前に立っていた。
「!?」
紐が斬れた人形のように少年は転倒し、セイバーは受け止める。
「....まだ、温かい...」
ぐったりと力の抜けた少年の体に温もりを感じ、腰にしていた鞘を取り出す。
「まだ...助けられる!!」
その顔を覚えている。
目に涙をため、生き残りを見つけ出せたと心の底から喜ぶ白い妖精の姿を
まるで....救われたのは俺ではなく、彼女の方だと思った...
「っ...」
「...私は...助けられた...」
死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど...彼女は何かに感謝するように
「ありがとう...」
見つけられてよかったと。
一人でも助けられてよかったと。
...救われたと。
そして、涙を流す彼女は俺を抱えて微笑み、
...未来を信じていた。