フリート・エスケープ(Fleet・Escape)   作:水岸薫

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第十八話

 八千穂が壊れた魚雷に例の発煙筒を大量に括りつけ、即席の“煙幕魚雷”が完成した。それを一は魚雷発射管に入れると「発射用意完了!」と言うと、藍色のおかっぱの女性『轟泥樹(とどろき・どろき)』も「いつでもいけるよ!」と声を出す。

 

「あの、機関部の出井さんは?」

『こちら出井! エンジンは損傷ない、問題ないでぃ!』

『こちら蟹江、操縦はいつでも可能です!』

 

 伝声管から出井と蟹江の声がすると、桃華恋も「いつでもいけるで、八千穂!」と声が響く。そして八千穂は…。

「それじゃあ……発射して!!」

 

 八千穂の言葉に泥樹は「了解!!」と引き金を引いた。すると、ガコンッ!! と鈍い音がすると魚雷が発射され、長門へ向けて一直線に進む。

 

 

 艦橋から外の様子を見ていた桃華恋は「来たで!」と反応をする。魚雷はそのまま進んでいき、長門に届く直前でボンッ!! と爆発する。

 その瞬間海面に巨大な白煙が広がり、“煙の壁”が形成される。

 

「魚雷から放たれた煙は、長門の視界を防いでます!」

「よっしゃ、これはチャンスや!! 全速前進! 取舵いっぱい!!」

「全速前進!! 取舵いっぱい!!」

 

 桃華恋は蟹江に指示を出すと、彼女はエンジン・テレグラフを『前進 全速』にして、舵を勢いよく動かして、不知火は煙を盾にしながら急旋回し、

北北東へと逃走を開始。

 すると、煙の中から長門の砲撃が放たれていくが、蟹江が器用に舵を動かし、不知火は巧みに回避していく。

 

「あの煙でも撃ってくるの!?」

「流石長門やな…せやけど」

 

 透子の驚きに対し、桃華恋は眉をひそめると「今の砲撃、まるでうちらがどこに移動しているのか知っとるみたいや。なんでそこまで正確なん…?」と考え込む。

 そうしていると、不知火は徐々に長門から離れていき、砲撃の回数も少なくなっていた。

 

 

 その頃長門の艦橋では、隊員が「報告! 不知火、煙幕により逃走しました!」と報告すると華は「逃げられたのね」と悔やむ。

 その瞬間、コンピューターや無線機の雑音が止まり、主砲の暴走もピタリと止まる。

「無線機、回復しました!」

「主砲も正常に戻りました!」

 

 長門の暴走が止まったことに華は「止まった? でもどうして…?」と疑問を抱くと「(これは……偶然じゃないわ。何かが…誰かが長門を暴走させて不知火を攻撃した…)」と考え込む。

 

 その時、長門艦長・葉月華の中で、“疑念”が確信へと変わり始めていた。

 

〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇

 

 長門から離れること1時間後、桃華恋は伝声管に向けて艦内全域に声を響かせていた。

 

「今回の作戦、八千穂の作戦により…長門に攻撃せず離れることに成功したで!!」

 

 桃華恋が叫んだその瞬間、伝声管の向こうから歓声が爆発する。

 

「やったー!!」

「助かった……!」

「八千穂ちゃんすごいっ!」

 

 伝声管から歓声が響く中、晶が艦橋に戻ってくると彼女は静かに微笑む。

 

「さすが……八千穂ちゃんだ」

 

 蟹江も「逃げ切れて……本当に良かった……」と胸を撫で下ろす。

 

 恭子は砲弾が直撃した甲板を見ていた、損傷箇所を確認していた所「装甲の一部が壊れている…でも中までは貫通してないわね」と真剣に答える。

 

「破損は少ないですが…修理できますか?」

「できるわ、幸いこの先に『高知県県沖・第三島』が近いからそこで修理すればいいわ」

 

 調理場では、美鈴と桃色のロングウェーブした女性『春遥(はる・はるか)』が固定していたロープを外していた。

 

「被害が少なくてよかったですね、美鈴さん」

「本当に…不幸中の幸いですね」

 

 在庫室では、詠が「残っているのは…」と使用した物は何かないか確認していた。

 

「発煙筒、思った以上に使いましたね……」

「あれだけの白煙の壁だもん。仕方ないよ」

 

 詠の言葉に隊員は苦笑しながらも、八千穂の作戦の成功を実感していた。

 

 その頃八千穂は、会議室で横になっていた。その顔は疲れ切っているが、どこか安堵もある。盛子は「緊張していたのかな? ぐっすりと寝てるよ」と言うと、伊吹は「あの状況で、被害を抑えるために必死だったからね」と言うと桃華恋は「なるほどな」と理解する。

「……被害を最小限に、か」

 

 桃華恋はそう呟くと三人はそっと会議室を後にする。そして彼女は真剣な表情で考えると「盛子、伊吹。少し話がある」と言うと、二人は「ん?」と反応をする。

 

「さっきの長門の砲弾…あれでうちは“違和感”を感じた」

「違和感…ですか?」

 

 盛子と言葉に桃華恋は「せや」と答えると「長門は威嚇射撃の後、本気で不知火に当ててきた。あれは威嚇やない。沈めに来た攻撃や」と言うと、伊吹は「確かに……威力も狙いも“本気”だったね」と冷静に答える。

 

「それに、うちらが魚雷で目眩ましをしたのに、正確に撃ち続けてきた。まるで、不知火の動きを知っとるみたいや」

 

 それを聞いた途端、二人の表情が固まる。

 

「え、でもどうしてそれを…もしかして密告者の可能性があるの!?」

「いや、密告者の可能性は低い。それだったら多少の誤差が生まれるかもしれない…だとしたら。盗聴器の可能性がある」

 

 伊吹の推理に桃華恋は「そや」と言うと「それも、誰も知らんうちに、盗聴器を持たされてる可能性があるで」と答えると、三人の間に重い沈黙が落ちる。

 

「……八千穂ちゃんの作戦は成功した、せやけど。相手ははうちらの動きを“知っていた”可能性がある。次はもっと、慎重に動かなあかん」

 

 

 その頃松風は、愛知県駿河湾に停泊していた。

 松本純子艦長は隊員を連れヘリに乗り、ここから遠く離れた東京都の警視庁に寄ると、八千穂に関する資料を見返していた。

 

「あの艦長、どうして資料を見返すのですか? 学生スパイは夢命瓦八千穂では…」

「引っかかるのよ」

 

 隊員の質問に純子は答えると、彼は「引っかかる?」と反応をする。

 

「…何か引っかかる。証拠が“完璧すぎる”」

 

 純子はそう言いながら資料をめくっていると、八千穂の“証拠パソコン”の写真が目に入る。

 

「このパソコン、“緒川デジタル”?」

 

 緒川財閥の一つである『緒川デジタル』を見て彼女は「そう言えば」と何か思い出したのか、さらに資料を読み返す。

 スパイ容疑を証言した人物、緒川阿久和の取り巻きである宮美原透子。それを見た彼女は「緒川関係…」と考え込むと

 

「緒川…証拠のデーターが入っているパソコンも緒川…証言者も緒川の関係人」

 

 それを見た純子は息を呑むと「まさか、これは“濡れ衣”?」と呟く。この時松風艦長は真相の端に手をかけた。

 すると、扉越しから足音がしたため、彼女は「誰?」と立ち上がり扉を開くと。そこにいたのは警視庁捜査一課の西住亮平がいた、彼は「おや、あなたは」と反応をする。

 

「松風艦長の松本純子艦長…どうしてここに?」

「少し調べ直していたのがありまして…それよりも、ここに誰かいませんでしたか?」

「誰か? いや私がここを通ったときは誰も…?」

 

 亮平の言葉に彼女は「そうですか」と答えると「誰かに聞かれていたような気がしたのは、気のせいかしら…」と呟く。

 すると「警部!」と裕子警部補がやって来ると「関西沖で長門が不知火に攻撃したとの報告が!」と言うと、彼は「何!?」と反応をする。純子も「長門が攻撃を!」と驚く。

 拓哉も続けて「不知火は被害を受け、そのまま西部に移動した模様。長門は現在和歌山県の港に停泊、近くの艦隊調査員と和歌山県警が調査している模様です」と答える。

 

「長門がどうして…威嚇射撃ならともかく、不知火に攻撃なんて…」

 

 純子の言葉に亮平は「なぜそれをしたんだ…」と考え込んでいた。

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