めっちゃまったり回
みんな(酒寄さんを除く)でおかずを作ってこようと約束した次の日のお昼休み。
どことなく真実がそわそわしているように見えた。そんなにお弁当が楽しみかと思ったけど、わりといつも通りだったねうん。
僕と守が机をくっつけて、そこに女子3人が椅子だけで寄ってくる。
「待ちに待ったお昼休みですよ〜!」
「待ちきれなそうですね」
「そりゃあもう、昨日自分で用意してる時からお腹が減るってもんよ〜」
ハイテンションな真実とそんな彼女の様子を見て楽しそうな守が話していた。
てか、真実さん何を言ってるのでしょうか。
「早く食べたいな〜って思いながら朝ごはん食べてたからね!」
「味見とかしてないんですか?」
「してない! でも大丈夫、わたしの嗅覚が問題ないって言ってる!」
お、おう。ここまで自信に満ち溢れてると逆に気になってからではないでしょうか。
芦花たちも真実の自信たっぷりな様子に興味があるようで。
それぞれ普段持ってきているお弁当とは別でタッパーを用意してそこに入れてきた。
ので、机には4つのタッパーと4つのお弁当と1つのパンがある。
「彩葉……また?」
「あはは、はは。安くて、ね?」
「今日はしっかり食べること」
「えっと、その、私何も用意してない「「い・ろ・は」」……はい、ありがたくいただきます」
「せっかくみんなで持ってきたんだから今日はしっかり食べてね」
1つのパンの持ち主の酒寄さんが芦花からジト目で見られている。
あいも変わらず今日もお弁当をもらうことをなんとか断ろうとしていたが、女子2人から名前呼びの圧を受けてあっさり白旗を上げてました。
というわけで、タッパーご開帳ー。
「おおー、真実の唐揚げ美味しそう」
「芦花のロールキャベツも絶対美味しいやつ〜!」
「守、卵焼き何回練習した?」
「聞くな。荒鷹は……いつも通りだな」
真実の唐揚げ、芦花のロールキャベツ、守の卵焼き、僕のポテトサラダ。彩りはいい感じ。
ここに各自のお弁当(僕のは普段より野菜多め)がある。
それと……。
「酒寄さん、はいこれ」
「? え、おにぎり?」
「うん、おかずだけだと寂しいでしょうし」
「いやいやいや、受け取れないですって。普段からおかず恵んでもらってますのに」
しれっとおにぎりを渡そうとしたが失敗。さっきの流れなら行けると思ったんだけどなー。
しかし強情だ、ここは芦花さんに目配せして。
芦花の綺麗な孔雀緑の瞳からウィンクが帰ってくる。かわよ。
「彩葉〜? せっかく作ってきたんだから貰っとくのがむしろ優しさだと思うよ?」
「でも、こんなに貰っても返せない……」
「彩葉にはお勉強の面で返してもらえると思うよ?」
「それはそうかもですけどもー」
「彩葉、早く、受け取って、わたし、待てない」
「あ、はい」
ここで待ちきれなくなった真実からの援護射撃で無事酒寄さん突破。
てか今の真実ちょっとロボットっぽかった。でも有無を言わせない圧がありましたね。
ようやくおにぎりを受け取ったので、真実がもう待ちきれなそうだ。
「よし! じゃ〜いただきま〜す!」
「「「「いただきます」」」」
いただきますの掛け声が終わるよりも早く、真実は唐揚げに手を伸ばしていた。早いって。
各々自分の弁当に手を伸ばしている中1人自分の作った唐揚げを頬張っている。
相当上手くできたのかご満悦なご様子。
「うま〜! 昨日のわたしの予感は気のせいじゃなかった!」
ピカーっと太陽ばりに輝いた笑顔で真実が喜んでます。あまりの明るさに正面守くんが心臓を抑えてダウン寸前です。こちら救援求む。
とりあえず守はおいといて、真実の太鼓判が押された唐揚げが気になるので僕も1つもらお。
あ、みんな割り箸とかプラスプーン持ってきてるよ。
「1個もらうね、いただきますー」
「私もー」
「あ、じゃあ私も……」
守以外の3人が真実の唐揚げを取って頬張った。
むむっ! これは……!
「美味しっ! え、これ昨日揚げたんだっけ」
「そうだよ〜」
「1日置いてこの味!? さすがグルメインフルエンサー」
「ご飯欲しくなるよね」
「少しピリッとしてない?」
「カレー粉とか使ってそう」
「おー、アキくん正解」
驚きの美味しさに3人とも驚愕。てか酒寄さん静かだなと思ってたらあまりの美味しさにめっちゃ噛み締めながら食べてる。
確かに芦花の言う通りちょっとピリッとくるけど、でもご飯が欲しくて手が進んじゃう感じ。出来立てならパクパクいけそう。
これが諌山家の唐揚げかー、美味しー。
小さめのサイズだからついもう1個、もう1個って手が伸びそうになるのを自制しないと。無限唐揚げか、これが。
どうにか唐揚げの誘惑を断ち切って、芦花のロールキャベツに視線を移す。
「じゃあ芦花のロールキャベツもらお〜」
「僕もいただきまーす」
「どうぞ召し上がれー」
汁気があるのでお弁当箱の蓋をお皿がわりに1つもらって。
酒寄さんにはタッパーの蓋で頑張ってもらおう。
それじゃあいただきまーす。
「美味しい〜! 味しみしみだね!」
「うんうん」
「良かったー、ちょっとだけ不安だったからさ」
いやはや芦花の手作りだと思うと美味しさ100倍ですよ。
これ1つで白米3杯はいけるね。さす芦花。
真実も美味しそうにもぐもぐと食べていて、芦花もほっとしたような笑顔になった。
トマトの酸味と中の具材。芦花らしく挽肉と野菜の割合は野菜の方が多そうだけど、でもバランスは良さそう。
あーやばい、美味しいし幸せすぎる。
「アキくん、美味しい?」
「めっっっちゃ美味しい! さすがは芦花」
「そんなに? 普通にレシピ通り作ったよ?」
芦花の手作りならレシピ通りでもそうでなくても最高です。
昔卵焼きを作ってくれた時に失敗して殻が入ってた時も、ちゃんとバレずに噛み砕きました。はい、美味しかったです。
「たかちー芦花には甘いからね〜」
「おだまり。ポテサラ突っ込むよ」
「どんな脅し!?」
真実がしれっと横槍入れてきましたので、ポテサラの刑に処します。
スプーンにもりもりして、食らえ!
「真実、口」
「ん? もごぅ!?」
お口に突っ込んで黙らせました。はい、まあすぐに飲み込むでしょう。
「アキくん、優しくしてあげてね?」
「これも優しさってやつだよ」
「……いや、いきなりポテサラ大量に突っ込む優しさってなに!? 美味しかったからいいけどさ!」
「はや」「はやいね」
結構盛りに盛ったけど、あっという間に胃袋に消えていったか。
まあ滑らかさ重視なんで、当然か?
「私ももーらお。いただきまーす」
「どうぞー酒寄さんもそろそろ帰ってきて?」
「……はっ!? 久方ぶりの美味しいおかずに意識が……」
酒寄さん? 聞き捨てならない言葉が聞こえましたが?
僕がじっと睨んでいると、それに気づいた酒寄さんがいそいそとポテサラに手を伸ばした。
ちなみにおにぎりは完食済みです。唐揚げとロールキャベツに合ったようでなにより。
「んー、アキくんは結構潰して滑らかなやつの方が好きなんだ」
「まあ、ね。芦花は?」
「私も同じかも。舌触りいいよね」
「わたしは粗めで食感ある方が好き〜」
よし、芦花の好みとあってたようでなにより。
真美は粗めか、守聞いてるかー? あ、復活した。
「彩葉は?」
「……私? うーん、粗めの方がお腹膨れるし好きかも」
お腹膨れるから好きって……。それはどうなんでしょうか。
いやまあいつものお昼の量だと絶対足りないとは思ってたけど。
うーん、これからはおにぎり2つくらい持ってきた方がいいのか?
いやでもなぁ、別に当人が困っている訳ではなさそうだし。善意の押し売りになるのもねぇ。
芦花にお願いされたらでいっか。
さて、それでは1番怪しいやつ。守の卵焼きに参りましょう。
「卵焼きいただきまーす」
「あ、そこは」
「ん、ん? んー、ん」
「たかちー?」「アキくん?」
うん、うん。これは、うん。頑張った。
「守、味は?」
「え。あ、まじで? …………うん、卵の味だな」
「鳩河くん味入れ忘れたの?」
「はい、面目ないです」
やっちゃったねぇ。まあ卵の殻は入ってないからそこは安心した。
まあ、焼き加減も真実の好きそうな感じだし、次は大丈夫でしょ。
「も〜らい」
「あっ、味ないんでやめといたほうが……」
「ふんふん。んぅ、確かに味はないけど私はこれぐらいの焼き加減好きだよ?」
おーっと! ここで真実からのダイレクトアタック!
守、顔真っ赤でダウン!
てか、気のせいじゃなければ、ちょっとだけジャリって聞こえた気がしたけど。
ちらりと真実を見ると、視線に気づいた彼女もちょっと困り眉で笑ってた。
芦花も察したらしく、1個食べて一瞬固まった。
僕があたり引いちゃった感じか。ちょっと申し訳ない。
酒寄さんは「んー、卵の味っていいよね」とか言ってる。ほんとこの人は……。
「若干1名アクシデントがございましたが、まあ概ね美味しかったので大成功で」
「いえ〜い」
「良かった……」
「ほんとにご馳走様でした……美味しかったです」
各々のおかずを食べて、お弁当も片付けたあと。
おかず交換会は大成功で締め括った。
卵焼き? あーゆーミスはよくあることだし、次はないから大丈夫。
思ったより好評なのでみんなでまたやりたいねとか、次は全員同じテーマでやるのはどうとか、前向きに第2回を検討している。
今度は酒寄さんも参加出来るといいね。まずはちゃんと食べるとこからだけど。
てか、お弁当だから仕方ないけど、出来立ても食べたくなるよね。
諌山家の唐揚げとか、芦花のロールキャベツとか。
今度機会があれば試してみたいな。そういうのも。
「大変お腹がいっぱいのところ恐縮ですが、次の授業は音楽です」
「嘘でしょ〜絶対寝ちゃう〜」
「いつも寝てるでしょ真実は」
「そうだけど〜! この満腹感は危険すぎるよ〜」
守の一言で真実がもう睡魔に襲われたようにふにゃふにゃし始めた。
たしかにこの満腹感で音楽の授業というのは、眠らせに来ているとしか思えない。
実際クラスの半分くらいは寝てる。寝てても先生もあんまり起こさないからね。その代わりテストとかで死ぬと思うけど。
「彩葉〜、助けてよ〜」
「や、私もちょっと食べすぎて眠い……」
「仲間だったか彩葉も」
「俺も正直眠いです」
「守、お前もか」
芦花と僕以外非常に眠たげです。僕らは普段から健康的な生活なので大丈夫。
これは次の授業はダメそうだね。
「アキくん、どうする?」
「どうしようもないでしょ。今回も音楽聴くだけだろうから、気にしなくても良さそうだけど」
「まあそうだけどね。ふぁ〜あ。みんな眠そうで私も眠くなってきたかも?」
あら珍しい。普段はぱっちりお目目の芦花さんがちょっと眠そうでとろんとしてる。
まあ周りにこんだけ眠そうなやつがいれば仕方ないかな?
「お昼休み時間あるし、皆ちょっと休めば?」
「そ〜するぅ〜……すやぁ」
「俺も……ぐぅ」
「私は予習しないと……」
「彩葉、眠い時に頑張っても頭に入んないよ?」
「うっ、確かに……私も休みます……」
3人とも机に突っ伏して仮眠体制。
残りは僕と芦花。
「私もたまには寝てみようかな」
「いいんじゃない? 予鈴で移動すれば間に合うし、起こすからさ」
「ん、ありがと。よろしくねぇ〜」
芦花も最後の方は少し間延びした感じになって返事してたし。
すやりとみんなと同じく突っ伏して寝始める芦花。
なんか穏やかな空間が出来上がってしまった。
面白いからいっそ予鈴鳴ってもスルーして皆で走っていくのも楽しそう、なんて。
むにゃむにゃ言ってる真実とぐーぐー言ってる守。
酒寄さんは……夢の中で勉強してるのかぶつぶつ言ってるし。
春の日差しが差し込んで、窓際の僕らを穏やかに温めてくれる。
こんなまったりした時間も悪くないよね。
なお、ちゃんと授業には間に合わせました