芦花と幼馴染   作:キイカ

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被告人、酒寄さん

 

 

 

 5月の暖かい陽気は、6月になってじめっとした湿度を伴う蒸し暑さに変わっていった。

 梅雨に入り雨の日が増えてきた。連日の雨で、真実は髪がまとまらないようでちょいちょい不機嫌な日があった。

 そういう日は芦花が髪の毛であれこれいじったりして気分転換してたり。

 酒寄さんは相変わらず小テストは満点、バイトも変わらず入りまくりで大変なことをしているそうで。

 最近はちょっと目の隈が濃くなったような。あと、バイト先の賄いをお昼に持ってくるようになった。

 まあ、だからと言って僕たちがおかずを渡すのをやめたりはしないのだけど。

 席替えもあったけど、僕と真実が変わったくらいで他は変わらず。

 前の席の守が楽しそうでなによりです。

 そんなこんなで今日は6月11日。

 現在、僕たち5人は非常に重苦しい空気に包まれています。

 なぜかといえば────

 

「彩葉、弁明は?」

「…………忘れてました」

「有罪〜」

「ギルティ」

 

 ────酒寄さんの誕生日が1ヶ月も前だったということが発覚したからだ。

 なんで今更発覚したかといえば、彼女が学生証を落として、それを芦花が拾った時に見えてしまったらしい。

 そしてそれが広まり今に至ると。

 ただいま酒寄さんは芦花と真実に詰め寄られて詰問中。

 僕と守はそれを酒寄さんの後ろから見学中。

 ちなみに茶化そうとすると真実から「うるさい」と言われるのでだんまりを決め込んでます。

 

「自分の誕生日忘れることある?」

「やー、そのー。祝ってもらうってことがあんまりなくて、ですね……」

 

 被告人の言い分はこうである。正直言って後ろで聞いて絶句。なんなら前の女子2人も絶句。

 誕生日を祝ってもらうことがあんまりないってどうゆうこと、と。

 真実は分かりやすく動揺してる。まあ甘やかされてると自覚あるタイプですので。

 僕と芦花もどちらかといえば甘やかされてるんではなかろうか。両親共にゆるゆるだし。

 守もめちゃ厳しくはないらしいけど、ここまでではないとのこと。

 うーん、なんて言えばいいんだこれ。気まず過ぎる。

 言ってる本人があっけらかんとしてるというか。そこまで気にしてないのがまた良くない。

 芦花とか口ちょっと開いて青ざめてるんですけど。

 

「……うん、なんかごめん。私の事情だから気にしなくて大丈夫なんだけど」

 

 当人にそんなことを言われても、はいそうですかとはならないんですよ。

 いやこれどうする? 

 周りに視線を交わしてみる。どうしようかと。

 芦花は(今からでもどっか連れてく?)と。

 真実は(いや、今日もバイトのはず)と悲しいお知らせが。

 守は(とりあえず誕生日プレゼントがてらなにか買ってきますか?)とナイスアイデアをくれた。

 全会一致でとりあえずプレゼント購入が確定。問題は酒寄さんのバイトだ。

 

「酒寄さん、今日のバイトは何時まで?」

「バイト? えっと……今日は21時かな」

「う〜〜〜ん」

 

 買うのはいいけど今日は渡せないか? バイト先に突撃するのもねぇ。

 あ、でもバイト終わりを狙って突撃するならありでは? 

 同じことを思いついたであろう真実が先にしかけてくれた。

 

「よ〜し、彩葉。今日はバイト終わりに凸るから。場所教えて」

「いやいやいや、わざわざ来なくていいよ?」

「彩葉が良くても私たちが良くないの」

 

 真実と芦花の攻勢にたじたじな酒寄さんを尻目に男子2人で何買うかを考える。

 

「うーん、とりあえず栄養サプリ?」

「女子高生に贈るものとしてそれはどうなんだ?」

「でもそういう女子向けのは芦花たちが買うだろうし」

「確かに。じゃあ日持ちしそうなお菓子詰め合わせとか」

「それはありかも。男子からだしちょうどいいね」

 

 こちらはお菓子詰め合わせでファイナルアンサーで。

 女子2人も被告人からバイト先を聞き出すことに成功したようで。

 

「よし、終わりが21時だから、とりあえず駅近のデパートで探そう」

「さんせ〜、2人も参加ね」

「もちろん」

「荷物持ちは任せてください」

「そんな気にし「彩葉は黙っててね〜」……私のことなのに〜」

 

 祝われる側がなぜかしょんぼりしているという不思議な光景になってはいるけど、自業自得なのだ。

 というわけで、僕たちは放課後デパート探索大作戦(真実命名)をすることになった。

 

 

 

 放課後、バイトに駆け出していく酒寄さんを見送り僕らも駅近のデパートへ。

 女子2人はコスメやら可愛い雑貨探しへ。僕らはお菓子詰め合わせとか、もしくはレトルト食品なんかを探しに。

 いや、女子高生への誕プレがレトルト食品ってとは思わないこともないけど。

 初期のお弁当、及び最近の賄いを移しただけの弁当を見てる限り、食生活が壊滅してそうなのは察して余りあるので、やむなし。

 守にはお菓子を漁ってもらい、僕はとりあえず適当に見繕ってはカゴに放り込む。

 あんまり多くても困るだろうから5つくらいでいいかな。

 守も日持ちしそうなお菓子(煎餅とかクッキーとか)の詰め合わせを獲得してきた。

 芦花たちはなんか安めのメイク道具? と、可愛らしい色合いのペンケースを買ってきた。

 

「よし、揃ったね」

「いやほんとに急すぎてどうしよ〜かと思ったよ」

「あの時も思いましたけど、誕生日を意識してないことってあります?」

 

 みんなで集まり、時間もあったので夜ご飯がてらお財布に優しいファミリーレストランへ。

 注文も終わり、各自ドリンクバーで飲み物をとってきたところで、話題は酒寄さんの誕生日を忘れていたことについて。

 

「家庭環境のせいだろうから踏み込むのもね……」

「本人が気にしてないってのも本当っぽいし〜」

「彩葉が話すことがあるかはわかんないけど待ってみようよ」

 

 芦花と真実がさっきの言葉を思い出してなんとも言えない表情になっている。

 守もいたたまれない顔だ。

 

「気にしすぎてもどうしようもないし、酒寄さんが話す気がないなら、話してくれるまではあんまり触れないでおこうよ」

「そう、だね。彩葉のことだしね」

「ん〜仕方ないか」

 

 守も頷き首肯していた。

 ご飯どきだもの、どんよりとし続けるのも良くないよね。

 みんなの料理が来る頃には、暗めの雰囲気もほどほどに良くなった。

 食べ始めさえすれば、真実は明るくなるしそれに釣られて守も元気になる。

 あとは芦花だけ。

 

「まだ気になる?」

「……うん」

 

 隣に座る芦花は納得はしているものの、まだ何か気にしているご様子。

 顔には出さないようにしてるだろうけど、幼馴染の僕には通じないよ? 

 話を促すように黙っていると、芦花も整理がついたのかポツポツと話し始めた。

 

「助けるだなんて私には言えないけど、勉強もバイトもどちらも手を抜かずに頑張ってる彩葉に、私にもできることはないかなって」

 

 その声色は酒寄さんを大切に思っていて。

 

「勉強は私はそこまでだから力にはなれないし、バイトとも同じく。仲良くなってあんまり経ってないけどさ」

 

 その口調は酒寄さんを深く案じていて。

 

「そしたら私にできることはなんだろうって思ってさ。高校生だから、出来ることなんて大してないかもしれないけどさ」

 

 その孔雀緑の瞳は、心配だけでなく慈愛の色、そして間違ってなければ好意的な色にも満ちていて。

 そんな彼女の表情を見た僕は、少しだけ心の奥底をチラつかせた気がして。

 

「支えてあげればいいんじゃない? 形として何かをするのも大事だけど、いつでも力になれるように想っているのだって、僕は同じくらい大事だと思うよ」

「支える……そうだね、彩葉が頼れるように備えるってことか」

 

 きっと酒寄さんの性格的に頼ってくるのは相当なことでないとないかもしれないけど、でもその機会があるなら迷わず助けられるように。

 それは、きっと僕のそれとは違う意味での献身だ。もっと優しくて、善意に満ちていて。芦花らしいなと、僕は思った。

 それだけ想われてる酒寄さんは幸せ者だなって、僕は思ってる。ともすれば、それに気付いてないのにちょっとイラッとしちゃうくらい。

 芦花も真実もまだ出会って3ヶ月も経ってないけど、酒寄さんととても仲良くなっていた。

 普段のお昼ご飯を心配したり、寝不足の隈を気にしたり、疲れた様子を隠しているのを見破ったり。

 日常生活の節々からそういうのに溢れている。真実はともかく、芦花は確実に酒寄さんを意識している。

 大体気付くのは芦花の方が先だから。たぶん普段から意識してるんだと思う。……僕にも心当たりがあるし。

 守だって頼られれば助けると思う。まあ、異性だからそう簡単には来ないと思うけど。

 僕は………………。

 

「うん、ありがとアキくん。ちょっとすっきりしたかも」

「頼りになれたなら嬉しいよ」

「いつもありがとね、助けてもらってばかりじゃない?」

「そんなことないよ……僕の方こそ……」

 

 悩んでいたことを吐き出して、一応の解決策を得た芦花は幾分かスッキリした表情で笑った。

 うんうん、芦花の思い悩む顔も綺麗だけど、僕としては笑っていて欲しいから。

 さて、ご飯を食べて時間までみんなとゆっくり駄弁ろう! 

 

 

 夜ご飯を終えて僕たちは酒寄さんの働く隠れ家カフェ──名前をBAMBOOcafeという──に移動した。

 本当に隠れ家のようで、場所を聞いてなければあんまり見つからなそうだ。

 今度来る時は入ろうね〜と話していると、見覚えのある制服が中から出てきた。

 

「わ、本当に来てくれてる」

「あったりまえでしょ〜」

「だーれかさんが忘れてなければ、いなかったかもね?」

「いや、ほんとにごめんて」

 

 さっそく芦花と真実に捕まる酒寄さん。

 プレゼントを渡して終わりの予定だったけど、思ってるより疲労感が凄そうに見えた。

 それは僕だけじゃなく芦花たちも気付いたようで。

 

「荷物多いし、家近いなら持ってくよ〜?」

「いやいやいや、それこそ迷惑かけちゃうというか、そこまでされると申し訳ないよ!」

「今更気にしないって。むしろ大荷物を持たせて帰らせる私たちの気持ちも考えてみて?」

「うっ、それはそうだけど……」

「で、どのくらいの時間で家着くの?」

「……15分くらいかな」

「じゃ〜、問題ないね。2人もい〜い?」

 

 僕らにも確認が来たが、ここまで来といて帰るなんてないので2人揃って頷いた。

 酒寄さんに拒否権はないので、両脇を女子2人に固められて家への道のりを歩き出した。

 途中までは、明るい道のりだったが、後半たぶん酒寄さんの家付近に近づくにつれて結構暗くなってきた。

 なんというか、女子高生が1人で出歩くには暗くない……? 

 

「暗くない?」

「治安悪そ〜」

「酷くない? そこまでじゃないよ? ……たまにあれだけど」

 

 僕が思っていたことは前2人も同じことを考えていたようで。

 ついでに芦花の一言に、やや傷ついた顔の酒寄さんがそう言ってるけど……最後の聞こえてるよ? 

 

「……気をつけてよ?」

「そ〜そ〜彩葉可愛いんだから」

「大丈夫だよこんなくたびれた女子高生誰も気にしないって」

「「……は?」」

「え?」

「はぁ〜……」

「これだから彩葉は……」

 

 後ろで聞いてる僕も思わずは? と言ってしまうようなことを宣う酒寄さんに、芦花たちから氷の視線が突き刺さった。

 うん、それは悪手ですよ酒寄さん。

 ほら、真実と芦花が暗がりを1人歩くことの危険性とか、酒寄さんの可愛さとか熱弁し始めた。

 自分の可愛さを説明されても、酒寄さんはずっと首を傾げてたけど。なんで? 

 

「まあまあ……ここだよ私の住んでるアパート」

「ここか……え」

「え〜、これかぁ」

 

 僕と真実は驚きの声を上げた。だってその……。

 

「さすがにちょっと年季が入りすぎてませんか……?」

 

 大変オブラートに包めてよろしいです守くん。僕はボロいって言いそうでした。

 みんな同じ感想のようで、首を縦に激しく振っていた。

 

「家賃安いからね。でも住めば都だし」

「はぁ……」

「溜め息はよくないと思うなー私」

 

 盛大な溜め息を真実につかれてまたも傷ついた表情の酒寄さん。

 いやこれは、ため息もつきたくなるでしょ。てか僕も守もわりと呆然とした顔で固まってるだけで、ほんとは溜め息でもつきたいくらいだ。

 芦花は……あれは想定よりも酷くて思考停止かな。

 

「ほら着いたからさ、プレゼントありがたく頂くので! みんなも帰らないと時間やばいでしょ?」

「そうだけだけども……」

「酒寄さんちなみにだけど家賃は……」

「お静かに」

「あ、はい」

 

 さすがに許されなかった。いやでもこれ相当安いのでは。相場あんまりわからないけど。

 僕たちから半ば強引に誕プレを強奪(?)した酒寄さんは最後にもう一度感謝の言葉を口にしてから2階にある彼女の部屋に消えていった。

 僕らはそれを見送りしばし嵐の過ぎ去ったあとみたいに静かな時間を過ごした。

 

「帰ろっか」

「だね〜」

「うん、帰りましょう」

 

 ようやく戻ってこれた僕の言葉を皮切りに、未だ戻ってこない芦花の手を真実が引きながら帰路に着いた。

 

 

 







前話の投稿日時ミスりましたが気にしない気にしない
真実と守くんをくっつけるところを果たして描写するべきなのだろうかと悩み中
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