時は放課後。一日の授業が終わり学生が解放される時間。
教室には二人の生徒の姿がありけり。
「これ難しすぎない? 受験に使うとはいえ頭爆発しそう……」
「同感。でも一度覚えちゃえばあとは復習でいけると思うからがんばろ!」
芦花と僕は放課後の教室で勉強会をしていた。
周りにはほかに学生の姿はなく、二人だけの空間だった。
中学三年の受験時期ともなれば、塾に通ったり家庭教師を雇ったりと勉強に本腰入れるために教室に残る生徒はいなくなるのだ。
まあ、僕は芦花のために前々から予習復習、なんなら先取りもして芦花に教えれるように学んでいたので問題なし。
芦花は最初は渋っていたけど、中二の時に一緒に勉強してテストの点数爆上げを経験して僕を信じてくれているようだ。
ちなみに真実も同じ感じだ。まあ目指す学校は同じなのでどうせなら一緒に勉強して受かろうというわけで。
「教えてもらっといてなんだけどさ、アキくんなんでそんなに頭良いのにもっと上の所行かないの? 行けるんじゃないの?」
「えー、僕としては芦花たちと同じところに行きたいからさ。別にもっと上とか興味ないし」
「もったいなーい……なんて私がいうことでもないか」
「気にしないでよ。親は何も言わないし、僕が選んだんだから」
芦花のいない高校なんていく意味ないしね。
なんて、心のどこかに吐き捨てておく。
芦花のいない日常なんて考えたくもない。
彼女のおかげで僕は今ここにいるのだがら、この先も彼女の隣というか後ろというかなんというか。
まあ、彼女と一緒にいれるのなら高校はどこでもいいのだ。
しれっと進学先の希望を聞き出して、同じとこにして提出したら担任から「もっと上にいかないのか? 荒鷹なら、狙えると思うが……」なんて言われたけども。
きっぱり幼馴染と同じところに行きますと伝えてある。
すごい面食らった顔してたけどまあそれで荒鷹がいいならと通してくれた。
ちなみに同じことを親にもかましてちょっと怒られた。でも芦花ちゃんだしいっかとも言われた。よし、親公認だ。
「そういえばさ、アキくんとも長い付き合いだよね」
「そうだね。幼稚園からだし、ずっと一緒だね」
「クラスも全部一緒だし」
「なんなら席も近いしね」
「今考えてみるとすごいね、確率やばそう」
「めちゃめちゃ運が良かったのかも」
実際この十数年彼女と離れたことが一度もないのは大変ありがたいことである。神様に感謝しとこ。
ほんとに運が良かったとしか言えないけど、こちらとしてはたとえ離れたとしてもその程度では切れないし切らさないようにするくらいには彼女を追いかけているのだ。
「そんなところで運使っちゃって大丈夫? この先足りなくならない?」
「大丈夫でしょ! 芦花たちといられるなら運がなくても手繰り寄せるから!」
「本当に引き寄せそうだからアキくんは不思議なんだよね」
ふふっと笑う芦花に心打たれつつ、それ以外の運の無さに嘆いておこう。
たぶん芦花と同じクラス近い席になるためだけに運を使っているようなので、その他の運頼みの物事はことごとくだめなのだ。
「手繰り寄せれればいいんだけどね、芦花たちが関わらないことは微妙だよね……」
「あぁ……まあ確かにね」
「空から石やら木の実やら降ってくるし……」
「アキくんだけで買い物に行くとちょうど売り切れちゃったりしてたりね」
「炭酸系は全部爆発するし」
「当たり付きのものは全部ハズレたもんね」
そう、驚くほど運が悪い。
もはや、神のイタズラかもしれないレベルだ。神を恨んでおこうか。
とはいえ芦花の近くにあることの運の良さを考えれば仕方ないことではある。
だってこんなに可愛いし綺麗だし声も可愛くて優しいのだ。
そんな女の子と幼馴染として十数年過ごしているのだ。運も尽きようってね。
「でも私といるときはあんまりないよね」
「もしや芦花は幸運の女神だった?」
「そんなわけないよ、ただの幼馴染ですよー」
「ウッ」
「アキくん?」
困ったような笑みを浮かべた彼女のご尊顔に思わず呻いてしまった。顔が良い。良すぎる、さすが美容系インフルエンサー。関係ないか?
「失礼失礼。僕の幸運な幼馴染さんは僕の悪運を払ってくれてるのかもね」
「ふーん? じゃあもう少し私に感謝してもいいかもね?」
「ははー。神様仏様芦花様ー。こちら、この前手に入れた限定のお菓子です。ご査収くださいー」
なんて別に狙っていたわけではないけど、きっと芦花の好きそうな味かもと思い買ったコンビニのお菓子を献上してみる。
一個多く買って試しに食べてみた感じはたぶん当たりだとは思うけど……
「むむ、私の好きそうなやつ。アキくんまーた私に餌付けしようとしてない?」
「そんなことないよ? コンビニ探索してたら芦花の好きそうな感じのやつ見つけたから買ったんだよ?」
「……すーぐそういうこと言う」
「??」
そりゃいつでも優先順位は芦花が1番だからね。
何か見つけたら芦花が好きかなって思うのは当然のことでしょうに。
いやまあ自分が芦花のことを推しすぎててそういう発想なのは否めないけども。
でも現実で推しに貢げるなら貢ぐと思うんだよなぁ。
「アキくん、確かに好きそうなもの買ってきてくれるのは嬉しいけど、お財布大丈夫?」
「大丈夫。小遣いのやりくりは得意なもので」
「ならいいけどさ。真美と私の分のお弁当分によくお菓子とかくれるし、さらに勉強も付き合ってくれて運動も助けてくれる。こんなにもらっちゃったら私何返せばいいの?」
「芦花……」
貰いっぱなしではいられない芦花らしい優しさに嬉しくなりつつも、ここはきちんと止めておこう。
……もう、たくさんもらってるからこその恩返しだと。
「ぜーんぶ大丈夫。お弁当だってこの先役立つし、配信にも使える。お菓子はまあ僕も食べてるからおあいこ。勉強だってさっき言った通り僕の身にもなってるし。運動だって僕から焚き付けたんだから、そりゃ一緒にやるよ」
「でも……」
「僕がいいからいいの。芦花はもっともーっと甘えてくれてもいいんだよ? 芦花の方こそこうして甘やかさないと甘えてくれないじゃん」
「それは……まあそういうの苦手というか、怠けてるように思えるというか……」
いやいや、そんなわけ。
美容系インフルエンサーとして活動している芦花ぎどれだけその美貌を維持するために苦労しているのか。
男の僕には全部はわかんないし、理解はできないかもだけど、そんな頑張ってる芦花を推してるからこそ助けになりたいんだ。
「こーんだけ勉強もしてインフルエンサーとしても成長して、その上幼馴染との時間も確保してくれる。これを頑張りと認めなければなんなの?」
「うー、でも勉強は学生の本分ってやつだし」
「んー、それはそうだけど頑張ってないわけじゃないでしょ? 苦手な科目にも手を抜かず、得意科目はさらに伸ばして」
それを努力っていうんだよ。
そう彼女に伝えてみれば、秋が深まり暗くなるのが早くなってきた外からの夕日を受けて、彼女の頬を紅く染める。
眩しそうに手をかざしている彼女が口を開いた。
「ありがと。なんか頑張る気出たかも」
「もう頑張ってるけどね」
「もっとがんばろーってこと」
「じゃあ僕はそれよりももっと頑張っちゃおうかな」
あーそうやって追い抜いていくんだーなんて、芦花はいうけどさ。
ずっと僕の先にいる君に追いつくには、あとどれくらい頑張ればいいんだろうねって。
君の笑顔に助けられながら僕は思ってるんだよ。
冬が近づいてくれば暗くなるのも早く、その分教室にいられる時間も短くなる。
あまり暗い中を芦花に帰ってほしくない(一緒に帰るとしても)ので、この辺で切り上げ。
「芦花、暗くなってきたしそろそろ帰ろ」
「あー、確かに外もうだいぶ暗いね」
「続きはどうする? ウチでやる? また明日?」
「んー、もうちょい頑張ろうかな。さっき元気もらったし」
むっ、これは頑張り芦花さんの予感。
まあ隣同士だし、遅くなっても勉強してたで通せるしまあいいか。
頑張り芦花さんのためなら僕もどこまでもお供させていただきましょう!
忠犬アキ公!なんてね、まあそこまで美しいものではないけれども。