8月1週目。夏真っ盛りだからクーラーの効いた部屋はとっても涼しくて最高だ。
でも、一歩外に出たら全身不快な気分に包まれちゃう。それはもう蒸し風呂かと勘違いするくらいにはね。
そんな真夏日な今日に僕は現在駅前で待ち合わせ中。
かれこれ30分経ったけどやっぱ夏は待つのはきついなぁ。
本日の僕は白無地の半袖Tシャツに水色の半袖シャツを来ています。黒なんて来られないよね流石に。
下は薄手のジーンズ。足首が出てるから割と涼しいね。
流れ出る汗をハンカチで拭き取りつつ、ぼーっと空を眺める。
今日はでっかい雲が流れてるなぁ。
「相変わらずだな、荒鷹」
「よっ、守」
黄昏てるところに声をかけられた。
やはり彼女を待たせないようにしているのか早めだね。
今日の守は上は紺色の半袖シャツ、下は僕と同じようなジーンズだ。
夏だし、すっきりとしたシルエット。
「今日も1時間前から?」
「もち」
「この暑さできつくね?」
「待たせることに比べれば全然」
「ぶれないな」
「それが僕なんで」
当たり前のことを聞かれたので当たり前のように返す。
芦花を待たせるとか僕の中ではあり得ないので。
たぶん今の守なら真実を待たせることがないようなものでしょう。
「真実をこの暑い中待たせたい?」
「それはない」
「そゆこと」
「分かってしまうのが悔しいような、でもようやく追いついたような」
「?」
「お前がなんでそんな早くから待つのか、ちゃんとわかった気がしたからさ」
「あー」
んー、まあ近くて遠いね。
守のそれは彼女への好意からだろうけど、
そうだ。
僕のそれはそうじゃない。
まあ、適当に流しておこう。
「あづー」
「暑いな」
「やっほ〜! 2人とも早いね〜!」
およ、真実の方が早かったな。今日は20分前か。
そんでもってまあ、今日の真実は随分とふんわり可愛い系だ。
向日葵みたいな色のワンピースに麦わら帽子。夏の少女って感じ。
守もこれには顔を押さえてサムズアップ。僕はいいから彼女を褒めなさいよ。
「今日も可愛いです真実さん」
「えへへ、ありがと。守くんもカッコいいよ?」
「ん゛ん゛ん゛」
再起動して褒めたと思ったらまたフリーズした。
今のは真実の勝ち。
さてさてお熱いカップルのそばにいると僕も焼かれそうなので、ちょっと距離を話しておこう。なんか頭にハート飛んできた気がするし。
「おはよアキくん、暑いね〜」
「おはよ芦花。この前の配信見たよー、あれ美味しそうだったよ!」
「そう? ありがとね!」
15分前に芦花が到着。
今日の芦花は白のオーバーサイズのTシャツを、腰らへんで縛ってちょいお腹見せスタイル。
下はダメージ加工付きジーンズと、つま先の開いたパンプス(オープントゥって言うんだって)。
カッコ可愛い感じの雰囲気かも? 今日も素晴らしきかな。
「今日も似合ってるね!」
「ふふ、ありがと。もう皆揃った?」
「まだ酒寄さんが来てないよ」
酒寄さんなら割と早めに来そうだけど……あーでも遅刻しないギリギリまで勉強とかしてそうな気もするな。
とか言ってたらちょい小走りでこちらに向かってくる人影が。
噂をすればなんとやらってやつかな。
「ごめん皆待った!?」
「おはよ彩葉私もさっき着いたとこだよ」
「おはよ〜集合時間前だから大丈夫〜」
グレーのワンピースを来た超頑張り酒寄さんの登場だ。
今日は酒寄さんにはカラオケに行くとしか伝えてない。
のに、集合時間は11時にした。お昼前。あとは分かりますね。
「カラオケだよね? 久しぶりだわ」
「うん、でもその前に腹ごしらえしないとね」
「え、どこかで食べるの? 私安いところだと助かるんだけど……」
「ふっふっふ、今回はたかちーと芦花が出してくれるよ!」
カラオケの気合が入っているところに、芦花から昼食カットインをされて驚愕の表情になる酒寄さん。
お財布を心配してるみたいだけど、真実の言う通り今回は僕と芦花持ちだ。
正確には、僕、だけどね。
「どゆこと?」
「まあ、その、わたしたちがちゃんと付き合えたってことで、ご飯奢ってくれるんだって〜」
「いや、それは分かるけど、なんで私も?」
うんうん至極真っ当な疑問だね。君の普段の生活を知らなければね。
「まずは普段のお弁当、週のバイト日数を考えてから言おうね」
「むぐっ」
「なんならこの夏休み賄い以外でちゃんと食べてる〜?」
「ふぐっ」
「1日3食……は無理だとしても2食は?」
「……」
「視線逸らさない」
僕、真実、芦花からのコンビネーションにより無事沈黙。
まあ分かってたことだけどね。夏休み前からちょっと思ってはいたけども、さすがにそこまでお節介は出来なかった。
けども、チャンスがあるなら、ねぇ?
「や、私は大丈夫「今日の彩葉に拒否権はないよ〜」……私の人権」
「健康的で文化的な最低限度の人間らしい生活を行ってから主張してね?」
「酷くない?」
「健康的ですか?」
「うっ」
「自覚あるなら諦めてね」
相変わらず今日も目の下の隈は薄くなってないし、どうせ睡眠時間も最低限にしてそう。
なので、今日はしこたま食わせてストレス発散させて、寝る時間は取らずとも精神的な健康を目指そう! というわけだ。
そんなわけで、真実の希望で回転寿司へゴー!
移動中の尋問により、夏休みの主食が粉と水のパンケーキとかいう、もはや文化的かも怪しいものを食べてることが発覚した酒寄さん。
現在寿司屋内の席にて、両サイドに花を侍らせ飽食の刑に処されております。
「はーい次はこれ食べてね〜」
「あの自分で食べれモグッ!?」
「次はこれ」
「モグモグッ、あの、私子供じゃムグッ!?」
「おもしろ」
「酒寄さんが悪いからねぇ。観念すればいいのに」
僕と守はそれぞれ芦花と真実の対面で寿司をゆっくり食べてる。
あ、食べさせるのに夢中な2人の、というか3人分の注文はぼくがやってます。任せてね。
酒寄さんの両手はそれぞれ芦花真実に繋がれてしまったので、本当に雛鳥のようにお口に押し込まれてるのを食べてるだけ。
じゃあ、2人はどうやって食べてるかと言えば……。
「真実さん、はい」
「ありがと〜あむっ」
「隣から砂糖寿司飛んできた」
「あはは、彩葉の食べてる寿司甘くなってそうだね」
あ、首振ってるそんなことはないみたい。よかった。
守の手から真実の食べたい寿司をあーんをかましております。
はい、最初は隙見て自分で食べてた真実、途中で何を思ったのか守に口を開けて寿司を求め出したのだ。
最初は困惑してた彼も意味を理解してからは早かった。
耳真っ赤だけど、彼女を待たせるわけにはいかないと、すかさずお寿司を捧げる。
ちなみに、僕と守は手掴み派。真美も箸は使わない。あとはなにも言わない。
酒寄さんはお箸使ってそうな気もするけど、どっちだろ。
芦花? お箸使ってるよ、所作が綺麗だね。
「私もほしーなー」
「あ、はい」
「あー」
「……はい」
悪ノリしてきた芦花まで同じことをしてきたので、僕の精神は一瞬で赤の点滅を開始。
ほんと心臓に悪いです。
まあ、ちゃんとやりますけど!
となりの守の目がとてもうざったいけど。なんならさっきまで幸せそうにもぐもぐしてた真実もこっち見てニヤついてるけど!
わさびたくさん入れたろうかな。
「彩葉、まだ食べれる〜?」
「……んっ、うん、まあ」
「よーし、どんどんいこ〜」
「そろそろ私の手解放して〜!」
「じゃあもうちょいマシな食生活をする事を約束する?」
「うっそれは……金銭的な……その……」
「じゃあやめない」
拘束継続、ということで。
その後も僕らは女子はわいわい、男子は時々羞恥攻撃を受けながらお寿司をたくさん食べました!
お会計? そんなの気にしない気にしない。貯金は得意なんでね。
夜ご飯を作ったりし始めてから、多めのお駄賃と共に、うまくやりくりした分をもらって良いと言われてるので、そりゃもうセールやら特売やらうまくやりくりさせてもらいましたね。
あと、積み立てのやつもちょっとずつ、ね。
さてさて、お寿司の後はカラオケへ移動。
5人で案内されたのはちょい狭めの部屋だった。
長いソファ1つと狭めのソファ1つの4人くらいが適正ではって感じ。
席はどうしたものかね。
「とりあえずカップルはあちらの狭めのソファに」
「あ、はい」
「は〜い」
うむ、真実を長ソファ側に座ってもらって僕芦花酒寄さんで真ん中ら辺に女子を集まる感じがちょうどいいかも。
「さー、採点いれよ〜!」
「うっ、カラオケとかあんまり来たことないので不安が……」
確かに、スポーツ野郎だったからそういうのとは無縁だったな。
まあ、好きな歌を歌えば良いのじゃ。
「1番手はわたくし目が行きま〜す!」
「いったれいったれー」
「次は鳩河くんどうぞ」
「ありがとうございます」
トップバッターは真実から。
選曲はわりと最近目のアイドルの曲だ。
今時女子高生らしい可愛い感じの曲だね。
ご丁寧にちょっと振り付けまで覚えてるし、隣の彼氏釘付けですよ?
「さすが真実、こういうのは真実の得意なところだね」
「ね、芦花は何歌う?」
「んー、アイドルとかのやつはちょっと恥ずかしいからもう少し前のやつとかかな?」
「えー可愛いのにー」
真実の歌ってる間に僕のところにデンモクがきた。
入れる曲は……喉鳴らしにこれかな。
そのまま芦花へパス。
「アキくんは1発目はいつものか」
「うん、とりあえずのね」
「でもなんだかんだ80点後半取るから上手いじゃん」
「なんか歌いやすいんだよね」
デンモクをポチポチと操作しながら曲を探している。
1曲目が終わり点数は84点! さすが。
お次は守の……おおう、告白ソングですか。
題名からもう察したけど、内容もお察しのごとく、真実がりんごになりました。
芦花も入れ終えて、真実を見てニコニコしてるし。うん、僕もニヤニヤしてると思う。
酒寄さんは……はや。もう入れたのか。てか見えたのヤチヨのカバー曲では? さすがファン。
「なんか反対側から熱を感じる気がするんだけど」
「私のところはもっと熱く感じるよ」
「冷房強めようかな」
「いいかも」
僕らはお熱いカップルに当てられながら冷房を強めた。
情熱的過ぎて周りに熱が拡散してるんですけど。もうちょい、落ち着いてくれ。
点数は……76! ぼちぼち?
初めてなら上出来だね。
お次は僕。
よく歌ってるボカロの曲だ。
「〜〜♪」
たのし〜!
と、点数は86! よしよしいつも通りだね。
「荒鷹って歌上手いな」
「いや、採点の音程に合わせて歌ってるだけだよ」
「それが出来たら苦労しないんだけどね?」
まあ確かにそうかも?
曲聴いてそれっぽい音程をとってるだけだからあんまりわかんないかな。
お次の芦花は……これか。
ちょっと前に流行った曲だね。
「〜〜♪ 〜〜〜〜♪♪」
あ〜綺麗な歌声〜、耳から得られる幸せ〜。
でもどことなく、寂しさを感じるような。
高音の響きがとても綺麗で頭とろける〜。
……。
「はっ」
気付いたら点数画面だ。おお、87!
さす芦花。
「やっぱ芦花の歌声良いね」
「ありがと。ちょっと恥ずかしいけどね」
「もっと歌ってみたとか出してみたらいいのに」
「んー、考えとくー」
絶対考えてないやつー。まあ、無理強いはしないけどね。
ここに幸せになる人がいるので1ミリくらい検討してくれたらとても嬉し嬉し。
酒寄さんはヤチヨのカバーしてた曲を歌うみたいだ。
その歌声は……おぉ。
「──♫────♫」
澄んでいて、綺麗。
なのに。
どうしても、なにかから逃げてる、というか、追い詰められてるというか。
余裕がないように聞こえるような。
歌詞のせいではないと思うんだけど……なんでだろ?
いや、明るめの曲調だけど、歌詞重いな!?
うむむ、感情こもりすぎ。
「これは予想外です」
「うん、彩葉の歌、心にくる」
「ん、とんでもない伏兵だね」
さっきまで盛り上がってた向こうのカップルも急に落ち着いて酒寄さんの曲に聴き入ってるし。
恐るべし酒寄さん。なんでもできるな、逆に何が出来ないのでしょう?
「あの、そんなにしっかり聴かれるとは思ってなかったんだけど」
「いや、これは聴き入っちゃうよ」
「うん、もっと自信持っていいよ」
採点画面も94点! と盛大に褒めてることだし、これは確実に素晴らしい歌だったってことだ。
ちょっとしんみりしちゃったけど、次は真実の明るいアイドルの曲なんで大丈夫でしょ!
そこから僕らはたくさん歌ってカラオケを出た。
日はまだ沈まず、されど時間はもう夜の入り口をつげる時間だ。
もう1時間もすれば日も暮れて夜になる。
夜ご飯もー、って思ってたけど酒寄さんがこれ以上の奢りは返せないから無理! と断固拒否されてしまった。
ちっ、そう簡単ではなかったか。
まあ、仕方ないので本日は解散。
駅前にて皆と別れて家路へ。
芦花と並んだ帰り道。
空には雲に隠れた細い月。
「楽しかったね」
「うん、真実と鳩河くんは仲良さげで安心したし、彩葉もだいぶ無理してそうだけど、限界って感じには見えなかったから」
「そうだねぇ。酒寄さんに夏休み中のお節介は厳しいかなぁ」
ちゃんと酒寄さんの様子を気にかけてるようでなによりです。
まあ自然と目が追ってるのは見えてはいるんだけど。
当人は一切気づいてないからだいぶにぶちんだ。
さっき歌ってた曲のいくつか、たぶん酒寄さん宛てな気がしたし。
真実と守はたぶんお互いだし、芦花言わずもがな。酒寄さんは誰かわかんないけど。
僕? 誰とは言いませんよ、真実には気付かれてるだらうけど。
「アキくんに頼みがあるんだけど」
「なんだい」
「またお弁当始まったらさ、私の分はいいから彩葉にちょっとしたものでもいいからお弁当作ってあげてよ」
「……それは」
「や、アキくんに頼むのはお門違いなのは分かってるんだけどね。私よりもアキくんの方が上手いし、私じゃたぶん彩葉に逃げられちゃうからさ」
それは、んー。
嫌ではない、けど。
僕の1番の芦花の頼みだから、断りたくはない。
でも。
「……たぶん、今までみたいに多めに作ったからちょっともらうって形だから酒寄さんは受け取ってくれてたんだと思う。それでも借りがとか考えてそうだけど」
「うん、どっかでアキくんに何かの形で返すって言ってた」
「でしょ。でも、酒寄さんに向けたお弁当って形だと、受け取ってはくれないと思う。それは僕だろうが真実だろうが芦花でも」
きっと今押し切れてるのは、皆食べてるから、食べとかないと空気が悪くなるとか思ってると思う。
そんなことはないけど、今まで何度か普通におにぎりとか作るか聞いたことはあるけど、全部固辞された。
そこまで助けられるわけにはいかないって。
あの時の瞳には、ここではない遠くの誰かを見てるように見えた。
「そっか。アキくんでも押しきれないか」
「や、無理くりやれないことはない。と思うけど、芦花はそれでいいの?」
「私? 私は……彩葉が元気になってくれるなら……」
「……僕がなんでお弁当を作り始めたから知ってる?」
「? 知らない、かも」
うん、だよね。話したことないし。真実には……いや言ってないな。
「まあ健康管理、未来に役立つから、金銭感覚の育成、いろいろあったとは思う」
「真面目ー、アキくんらしいね」
まあ、どれも2の次だけどね。真面目かどうかすら怪しいけど。
「1番は食べてほしい人に幸せになって欲しいからだよ」
「そうなんだ」
「うん、ここで問題です。この食べてほしい人とは誰でしょう」
「えー、急じゃん」
ふっふっふ。
自分を蔑ろにしようとする芦花には悩んでもらおう。
まあ、僕の弁当のおかずがなくなっても、芦花の健康が著しく悪くなるわけではないけど。
僕の作る理由のほとんどがなくなるのだから、ちょっとくらいイジワルしたくもなるよね。
「えー、家族?」
「ぶー」
「未来の彼女?」
「ぶー」
「え、じゃあ真実とか友達?」
「はずれ」
「わかんない! 答えは?」
「教えてあげない」
「なんでよー!」
多分出ないとは思ったけど、本当に出なかった。
真実まで出て来たなら、自分を出してもいいと思うんだけどね。
いや友達って答えは、間違いではないかもしれないけど。
僕にとっては友達という括りではないから。
芦花は自分をそう思ってるかもしれないけどね。そう思ってるうちはわかんないと思うよ。
「さ、早く帰ってご飯の準備〜」
「ちょっとー! 答え教えてよー!」
「夏休みのしゅくだーい。分からなかったら、お弁当はいつも通り」
「えー、難しいよ。ヒントは! ヒント!」
ヒント?
んー、何言ってもバレそうだからなぁ。
「……僕に『KASSEN』で勝てたらいいよ」
「だいぶキツくない? アキくん強いじゃん」
「それくらいヒントが答えに近いの」
「むー、アキくんイジワル」
いくらでも言っていいよ。
答えが分かる頃には、きっと。
「今日の月は綺麗だね」
「話逸らしたなー」
ほら、分かんないでしょ?
カラオケにて歌った曲の一部(1曲目以外は順不同)
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