芦花と幼馴染   作:キイカ

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バイト戦士酒依さんの仲間になったよ

 

 

 

 本日はバイトの日。

 というか、8月に入ってから僕はアルバイトを始めていた。

 場所は酒寄さんの働くカフェ。

 なぜかって言えば、まあ芦花が酒寄さんをめちゃ心配してるし、ご飯のフォローとか出来ないから、賄いをしれっと渡したりしてなんとか出来ないかなって思ったのでね。

 夏休み前からお弁当がなくなったらどうしようかなって話は芦花としてたので、こんな形ではありますが、なんとかして見ようとした次第。

 一応早く仕事に慣れるために酒寄さんと同じ日に入れてもらってる。

 週5で時間も、基本は同じ、酒寄さんが上がりが早い時もあるけど、僕はフルタイムでいます。あ、約束とかあったら短い日もあるけどね。

 慣れてきたらほどほどの日数にしたいなとは思ってる。酒寄さんのサポートがメインであってバイト自体にはそこまでやる気はないので。

 仕事については目の前を突っ走ってくれる人がいると、背中を追うだけでいいので助かります。成長する速度が全然違うんでね。

 バイトを始めて思ったけど、酒寄さんまじ超人すぎる。

 働いてるところを観察してみてると、料理を運び、新人ちゃん(みおちゃん)のフォローをし、テーブルを片付け、お客様のクレームを処理したり、レジを捌いてと、1人で何役もこなしている。

 いやこれ一般女子高生の仕事量ではないでしょ。

 いつだかに店長が酒寄さんのおかげで回ってるとか言ってたけど、あれ誇張じゃなかったらしい。

 てか、もはや2人とか3人に分散してるのでは。そうであってくれ。

 

「荒鷹くん慣れた?」

「まあ、ぼちぼち。酒寄さんのおかげでね」

 

 バイトはもう片手を超える回数入った。

 仕事は1通り教えてもらって、今は慣れる期間。

 とりあえず酒寄さんのフォローができるようになったらいいなって感じ。

 で、バイトを初めて思うのが、時間の足りなさだ。

 酒寄さんが睡眠時間を削るのも少し理解できてしまった。

 フルタイムで働くと、高校生は休憩込みで9時間分拘束される。

 そこに睡眠時間、僕は6時間。酒寄さんは不明だけど僕より短いのは確か。

 で、普段の予習復習に2時間くらい。朝のルーティンが30分。

 ここまでで僕の場合なんと17時間半も使われているのだ。

 残りは6時間半。酒寄さんは僕より勉強をもっとしてるし、推し活も手を抜かないでいるとすると、そりゃ睡眠時間も削れるというもの。

 僕は残り時間を配信したり、個人的にツクヨミに潜ったり、皆と遊んだりで使ってるから、ほんとに時間が足りない感じだ。

 いやまあ、配信は2時間もしたら長い方だけど、未来の勉強にも手を入れ始めると時間なんてすぐ溶けてしまう。

 あとは単純に疲労感とかね。初めてバイトをした日はまじでそのまま寝たかったくらい疲れた。

 でも気合いでなんとかした。自分の体の悲鳴など、無視です無視。そんなところで怠けるのは()()()()()ので。

 

 

 

 そんなこんなで本日もバイト終わり。

 いつも疲れ切ってる酒寄さんをあの暗い夜道に1人放り出すのは忍びなかったので、芦花にも事前に伝えた上で家まで送っている。

 

「毎回送ってもらわなくてもいいのに……」

「こんな暗い道を1人で帰るとか女子高生なら正気じゃないでしょ」

「正気ですけど……でも最短ルートだし」

 

 まじでもっとマシなセキュリティというか、明るいところにある家はなかったのか。

 いや、うーん、どうも1人暮らしの家賃とかも払ってるってこの前言ってたから、もっと良い場所だときついのか。

 

「さすがにほっとけないよ」

「ありがたいけど、申し訳ないというか」

「勝手にやってるだけだから気にしないで」

「それが分かってるからなおのこと申し訳ないのよ。私今返せるものないよ?」

 

 や、見返りとか求めてるわけじゃないんだけど。

 普通に心配だし、芦花の心配事でもあるし。

 ないとは思うけど事件に巻き込まれるとか嫌だしね。

 

「人間助け合いで生きてるんだから、いつか返せたらいいな〜くらいに思っておいてくれたらいいよ」

「……助けてもらってばかりなのは、私が嫌なんだけど」

 

 一瞬僕ではない誰かを思い浮かべたのか、顔を曇らせた。

 誰かは知らないけど、別に助けてもらってばかりで悪いことがあるかな。

 

「その分だけ周りを助けてあげればいいじゃん。別に僕に返さなくても、芦花でも真実でも、誰かを助けてあげれば巡り巡って返ってくるよそのうち」

「まあ、そういう考え方もあるよね。私は借りを作るのが苦手だから、したくないってだけ。私にできる範囲で、やれることはするけどさ」

 

 頑固というか、頼り下手というか。

 押し付けられた好意には弱いけど、押し付けてこない優しさとかには意地でも受け取ろうとしないんだから。

 まったく、これだから1人でなんでもできる超人は。

 

「もっと頼ること覚えたら?」

「人を頼るのは、私が出来てない証拠だから」

 

 え、そんなわけ……って思ったけど、そう言った酒寄さんの目が濁り切ってて何も言えなかった。

 どういうわけか知らないけど本気でそう思ってそう。

 別にそんなことないと思うけどなぁ。むしろ頑張りすぎでは? 

 先頭を走り続けるのは簡単なことじゃないと思う。

 僕にはその気はないし能力もないけど、酒寄さんはそれが出来る能力があってその気があった。

 だから学校で成績トップ、運動神経も良いし、バイトだってめちゃ頑張ってる。

 なにごとも完璧な酒寄彩葉を目指してるんだと思う。

 いつだかにぼそっと呟いてたしね。

 でもそれができてないからといって自分を卑下することではないと思う。

 謙虚が過ぎたら嘘みたいに思えるのと同じく、卑屈も過ぎれば周りを貶めかねない。

 酒寄さんが出来ることが誰にでもできるわけではないよねって。

 

「……うん、とりあえずいつか返してくれればいいよ。今は、勝手に恩に着せとくから」

「ありがとう。絶対返すから」

 

 頑固〜。まあでもこういうとこだよね。

 酒寄さんが慕われてるの。

 普段からいろんな人の頼み事は断らないし、そうして受け入れてるからもっと頼み事が舞い込んでくる。

 それらも捌いて完璧であり続けるとか、僕には面倒でできないや。

 僕の1番を決めた時から、それ以外は()()()()()

 逆に酒寄さんは切り捨てずに全てを掬い上げようとしてるように見える。

 それは大変な道のりだろう、目の前で超無理酒寄さんになってるわけだしね。

 でも芦花はそんな酒寄さんの芯の強さというか、儚さというか、目を離せない輝きに惚れちゃったのでしょう。

 はぁ、なんとまあままならない。

 芦花()幸せなら僕はいいんだけど、どうせなら芦花()幸せにして欲しい。僕が幸せにできたら。

 他ならぬ芦花が酒寄さんを想ってるのだから、どうにかならんかなぁ。

 

「はぁ」

「急に何。ため息なんて」

「なんでも。世の中ままならないなって」

「あー、うん。私も1日が倍くらいあればなっていつも思ってる」

 

 うん、そうじゃない。

 

 

 

「送ってくれてありがとう。じゃまた」

「はいはい忘れ物ですよっと」

「……だからさ、それは荒鷹くんの賄いであってね」

「じゃあどうしようと僕の勝手でしょ」

「それはそうだけど」

「僕は家にご飯があるから酒寄さんが食べてくれた方が良いって、何度も言ってるでしょ」

 

 アパート前の電柱にて毎度恒例の押し問答を繰り広げていた。

 僕がバイトしている理由の1つでもある、賄いを酒寄さんに押し付けようとしているのだけど、何度やっても毎回最初は拒否してくる。

 押し切れたことないんだから諦めて受け取ってくれた方が時間の無駄も減るよ? 

 

「それはわかってるけど! 貰ってばかりなのが気になるの!」

「だーかーらー、僕が勝手に押し付けてるんだからいいんだって。この問答何回目? そろそろめんどいよ」

「面倒いとかゆーな! こちとら毎度弁当のおかずやら賄い押し付けられて借りの山に埋もれそうなんだよ!?」

「はいはい埋まっといてくださーい」

「おい!?」

 

 めんどくさくなった僕は手早く彼女の片手に賄いを押し付け、持たせると片道を引き返す。

 最近は押し付けて帰った方が早いと察した。

 最初は問答で解決しようとしてアパート前で30分くらいやってあまりにも不毛すぎて、家で虚無った。

 

「ぐっ、絶対、絶対返すからね!」

「はいはーい、そのうちねー」

 

 後ろ手に手を振りながら帰路に着く。

 途中で振り返り、彼女がちゃんと部屋に入ったことを確認。

 スマホを取り出し芦花のトークを開く。

 

『今日も無事送り届けたよー』

 

 帰り道を歩いてる途中で既読がついた。

 

『ありがとねわざわざ。私のわがままに付き合ってもらって』

『いいやいいよ。珍しい芦花のわがままだもの。叶えてしんぜよー』

『なにそれ、真実の真似?』

 

 ピロンピロンと芦花に本日の酒寄さんの様子を報告。

 まあ、いつも通りでしかないけど、それでも文面上の芦花は嬉しそうな感じがする。

 

『どうしたらもっと元気になるかな』

『本人の睡眠時間とかが大事だからこれ以上はキツいんじゃない? 食事面は賄い押しつけで1日2食になった日も増えてると思うし』

『睡眠はねー。推し活とかガチってるから無理そう』

 

 ヤチヨのだいぶガチなファンな酒寄さんは睡眠時間削ってでも推してたりするらしい。

 それで体を壊して推し活出来なかったら本末転倒では? なんて思ったり。

 

『そういえばさ、アキくんも推しがいるって聞いたんだけど』

 

「い゛っ!?」

 

 飛んできたトークに思わず変な声が漏れた。

 誰だ漏らしたやつ。

 そういう話をした覚えがあるのは……ダメだ、割といっぱいいる。

 というか、僕しかいない時に芦花との関係を聞いてきたやつには推しって言ってたからどこから伝わったかわかんね。

 

『アキくん?』

『いる、には、いる、よ』

『なぜにカタコト? マイナーな人とか?』

『いやいやめちゃ人気な人だよ!』

 

 あ、やべ、これはミスったやつ。

 

『私でも知ってるような人?』

『ソ、ソウデスネ』

『誰だろ。あ、テテテさんとか?』

『違うよー』

『じゃあ黒羽さん』

『ざんねーん』

『もしかして真実?』

『推しではないけどちゃんと見てるね』

『だれー!』

 

 うん、出てこなくて安心。

 出る可能性が割とあったけど、芦花は自分のことはあんまりあげないタイプだからなんとかなった。

 その後も芦花の追求をなんとかかんとか交わしつつ、家の近くにたどり着いた。

 まずはお風呂入って、その後にご飯かな〜。

 なんて考えてたら、お隣の家からガチャリと。

 ガチャリ? 

 

「おかえりー、アキくん」

 

 わお、推しで幼馴染が玄関からこんばんは。

 もうお風呂後かな、寝巻きの薄めのパジャマで可愛らしさマックスですね。横になっていいですか? だめ? そうですか。

 

「た、だだいま。どしたの、こんな時間に」

「いつも、戻りがこれくらいって言ってたからさ? お願いした身だし、労いというか、アキくん達の家族寝ちゃってるでしょ?」

「あー、まあそうだけど」

 

 我が家の両親は朝早め夜早めの健康社畜生活。

 バイト終わりに酒寄さんを送ってから帰ると、家に着くのが22時は余裕で過ぎるので、大変静かなお家に帰宅するのです。

 そのことを前に芦花に言ったことがあった。

 まさか、こんな形で帰ってくるとは思ってなかったけどね!? 

 

「で、それはそれとしてトークよりもちゃんと話した方がアキくんは誤魔化し下手だからね?」

 

 あ、まずい。

 追求を振り切ったと思ってたけど、これまだ終わってなかったやつだ。

 

「ご飯まだでしょ? 話し相手になるからさ、もうちょい聞きたいなって」

 

 あー、今日は随分と押しの強い幼馴染ですこと? 推しだけにってか? うまくないよ。

 まあ、幼馴染の優しいだけかは分からない頼みを断れるはずもなく。

 大体1時間くらいご飯を食べながら、なんなら食べ終わった後も芦花のリアル尋問を必死で回避するのでした。

 ちゃんちゃん。

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