芦花を強化しようと考えた結果別方向になったかもしれぬ
バイトのない8月の半ばのある日。
僕はツクヨミのSETSUNAの練習場にいた。
本日のご予定は、芦花とのKASSEN練習だ。
定期的に行っている、彼女の訓練。僕が教官というのも変な話ではあるけど、近しい人に得意な人がいるなら頼られますよねってことで。
ちなみに、守ともたまーにやってる。あいつは守る練習。真実のためだね。
「今日はどんな感じでやる?」
「んー、ROKAってさ、攻撃苦手だよね」
「うっ、そうだけど」
いつもは回避練習をしながら反撃とかなんだけど。
常々思っていたというか、まあ芦花の性格的にそうかなって思ってはいたけど。
彼女は優しいし、気配りも出来る。心の優しい素晴らしい女の子だ。
てことはあまり他人を傷付けるのも、嫌悪とまではいかないけど、苦手な部類なんじゃないかなと。
で、回避練習は被弾せずに反撃したり出来たらなと思ってやってわけで。
攻撃が得意でないなら、方針転換もありかなってね。
「ネイルでさ、味方を守ってみるのはどう?」
「守る? うーん、出来そうではあるけど耐久力は盾とかみたいにはないよ?」
「そこは、回避も織り交ぜてね? どちらかというと機動力のある盾っていうのは結構重宝すると思うんだよね」
てなわけで思いついたのがむしろ守らせるという手。
もとより近接で振り回すネイル、中遠距離にばら撒くネイルガンでは火力に乏しいというか。
もちろん攻撃ができるのは大事。だからここぞという時には攻めてもらわないとなんだけど。
それ以外の時にまだ攻撃に意識を振りすぎて被弾、退場、みたいなことになるなら身を守りつつチャンスを狙う方が芦花には向いてそうだなーって。
「なるほど。それならやってみよっか」
「よしよし、じゃあ僕がばら撒く弾を上手くネイルで弾いてね!」
そんなわけで芦花もやる気なので早速チャレンジ。
1回目。
まずは少なめの数を芦花の
彼女はそれを近しいものから狙ってネイルで弾いていく。
が、1つのネイルにつき10個くらい弾くと割れてしまった。
割れたネイルはクールタイムが発生する。むーん、5秒程とはいえ厳しいかな。
ネイルを保護するジェルとかをスキルで使って回数増えたりしないかな。
「んー、やっぱ耐久力はびみょいね」
「ね。でも、回避しながら自分に当たりそうなやつを弾くなら割といけそうかも。ジェルでコーティングってことでスキルに当てはめればもっと防御に回せそうではあるよ」
「そう? ならもうちょいやってみよっか」
お次は芦花の移動に合わせてばら撒く。これも
移動しつつ自分の進行方向の邪魔になりそうなものを弾いていく芦花。
ふむ、回避するよりも良いかも?
「良い感じかも。あとはこれに反撃も混ぜれたらいいけど……」
「出来そう? もうちょい回避と守りを練習してからにする?」
「うん、もうちょい付き合って」
おっけー。じゃあ今度はさっきよりも多めに行くよー!
「それそれそれー!」
「……わわわっ! 急に増やしすぎじゃ無い!?」
「実戦ならこれくらいはくるよ! ほら頑張って!」
「鬼教官だー! このっ、このっ!」
先ほどより濃くなった
おおー、なんだかんだ被弾は0? すごいじゃん。
とか思ってたらしれっと1発ネイルガンが飛んできた。
ボケっとしてたら当たってたけど、さすがに当たってはあげないよー。
でも、あんだけ必死そうにやってたのに、抜け目ないね。
「やるじゃん。あんなに余裕なさそうなのに、カウンター狙ってくるなんて」
「そんな、余裕、あるわけ、ないでしょ!」
「え」
え、どゆこと。今のネイルガンはなに?
勝手に打ち出されたの? こわ。
とか思ってると、ふと芦花の腰のホルスターにいるオコジョちゃんと目が合った。
きゅるきゅるな目でこちらを見ている。
……、この子ってAIだっけ。それとも飾り? にしては僕にやたら絡んできてるような。
「ねぇ芦花。そのオコジョちゃんって、勝手に動く?」
「オコジョ? あー、うーん、それっぽい動作はするけど、自由に動いたりはしなかったような……?」
「じゃあさ、オコジョちゃんにAIとかでサポートしてもらったら色々うまくいきそうじゃない?」
「あーなるほど。でも、そういうのってなんか色々やらなきゃじゃないの? 私詳しくないよ」
「……確かに。てか僕も詳しくないや」
いわゆるプログラムとか? システム的な?
残念ながらそこまでは僕もわからないです。
こういうときは自分もAIと言ってるツクヨミのお姫様に聞いてみよう。
「ヤチヨchatでなにかないか聞いてみよっか」
「そうだね。まあ、ネイル、というかこういう遠隔操作系の補助ってありかって感じかな」
「だね。それじゃ……」
早速開いて打ち込んでみよ〜ってところで、おや、なんか空が暗い……!?
「ちょっ、空から桃────ぐえっ」
「アキくーん!?」
どこからともなく降ってきた桃に見事に押しつぶされました。
的確な頭上からの襲撃、僕でも避けれないね。
「いた、くはないけど、なにごと?」
「ヤオヨロ〜! 何やらお困りのご様子! ヤッチョが解決してしんぜよ〜」
「ヤチヨ!? あ、分身体かな? でも、ちょうどよかったかも!」
降ってきた桃の中からは普段の頭身より小さめの、通称ミニヤチヨが現れた。
結構レアだとか聞いたな。こじんまりして可愛いかも。
はっ。いや、芦花の方が可愛いけど! このミニヤチヨは愛くるしさを前面に出してて可愛いと言わざるを得ないというか。
ぐぅ、ミニヤチヨはずるい。ミニ芦花も欲しい。いや、欲しいってなんだ。
「それでそれで〜、なににお困りかにゃ? この万能しごできAIに教えて教えて〜」
「えっと、私のネイルの操作の一部をこのオコジョにサポートしてもらえないかなって話をしてて。そういうのってAI的なのがいるから、どうしようって」
「ふむふむ。確かにそれにはAIサポートという選択肢もあるねぇ。それ以外に、事前にパターンとして行動をいくつか設定しておくのもありだと思うよ?」
「事前に設定?」
ヤチヨが言うには、AIサポートは出来るけど、負担が増える。
その分のスマコンの負担が使用者に行くので、ウルトとかに限定した方が良いとか。
確かに、事実上2つのキャラを同時に操作してるようなものだろうから、納得。
で、それよりもこういう時はこう動く、とパターンとしていくつかの行動を設定する方が、負担も軽く普段使い的にも楽では? とのこと。
「確かに。でも、その設定っていうのはどうやってやるの?」
「そこはヤッチョにお任せあれ! 元々少ない遠隔操作系武器だし、上方修正もいろいろ考えてたから案としても助かるんだよね! これを機に使用者が増えてまた面白くなると嬉しいんだ!」
「じゃ、ROKAのパターンいくつか考えよっか」
「おっけー!」
そんなわけでネイル操作のパターンをいくつか考えることにした。
サポートオコジョちゃんには、せっかくだし名前をつけよう! ってことで、チロちゃんと呼ぶことにした。
名前の由来? 僕と芦花の名前の1文字目を取った安直なセンスだけど、文句ありますか。
「チロちゃんちょっと借りるね〜。パターンはとりあえず3個くらいなら覚えれるから。それ以上はちょっと容量的に厳しいかもかもー」
「はーい。3個かぁ、どうしよっか」
「とりあえず、近接、遠距離で1個ずつはあった方がいいんじゃない?」
「そうだね、近接は……まあ避けてる時に射程範囲内にいたら攻撃してねって感じかな」
うんうん。まあ近接なんてそれくらいしかないし、むしろ回避に意識を全部持ってきそうだからそれがいいと思う。
なんなら防御用のもあってもいいかも?
「近接でも遠距離でも、意識外の攻撃に1度くらい反応する防御パターンもありじゃない?」
「1度だけ?」
「うん。何度も繰り返すのは負担増えるだろうし、1度防ぐだけでその後のゲーム展開とか変わったらするし」
まあ、1撃喰らえば落ちるってところを守れるのはあまりにも強いから、制限としては微妙かもだけどね。
パターンとして組めるなら、芦花が落ちづらくなるから良し。
連続攻撃とかは防げないし、強い1撃とかならぶち抜いたりしてくるだろうから、ほんとに気休めともいえる。
「遠距離は……余裕のあるネイルでカウンター? でも弾くのに使うからあんまり余裕ないかも?」
「んー、確かに難しいね」
遠距離パターンを考え込んでいると、何やら視線が。
ん? ミニヤチヨとチロちゃんがこっち見てる?
「どしたのヤチヨ」
「んっんー。なんでもないですよぉ? チロちゃん、ほらこっちこっちー」
なにやら意味深な視線を感じたけど、誤魔化されたような。
チロちゃんのそれはなんか、遊んでって感じに見えたけど。
簡易的なAIでもそんなにそれっぽい動きをするのかぁ。今時のAIすっご。
結局、あーでもないこーでもないと相談した結果。
反撃する瞬間に浮いた(空中にという意味ではなく、弾くのに使用していない)ネイルで一瞬攻撃して即座に防御に戻るという形で落ち着いた。
ミニヤチヨはその様子をニコニコ、時々ジト目で見ていた。
チロちゃんはヤチヨの元から戻ると僕の足元から登って頭の上まできた。
「おわ、なになに。急に登るじゃん」
「懐かれてるね。前々からやたら懐いてたけど、なんかもっと懐いてない?」
「なにもしてないんだけど?」
頭の上、羽周り、首周り、腕とあちこちを駆け回って、ちょっとくすぐったい気がしてきますが!
感覚ないはずなのにね。想像してくすぐったさを感じているのかもしれぬ。
最終的に僕の頭から芦花に向けて大ジャンプ。
驚いた芦花が反射的にキャッチしてことなきを得た。
「元気だねぇ」
「ね、定位置もホルスターから肩になっちゃった」
「空いちゃったし、拳銃でも持ってみる?」
「使うかわかんないけど、ありかも」
なんとなく思いついた案だけど、受け入れられた。
使うかどうかは芦花に一任。別に使われなくても、それはそれで。
「じゃ、はい。たぶん1番使いやすいやつ」
「ほへー。アキくんのとは違うねやっぱり」
「僕のは大型だし、ホルスターには入んないからね」
「もうちょい大型の拳銃もあるんだよね?」
「あるね。有名なのはデザートイーグルだったかな?」
「イーグル……」
そこに反応しないでください。
別にそういう意味で言ったわけではないんだけど、ほんとに、有名なのってそれしか思い浮かばなかったんだって。
「それも見てみたいな」
「えー……」
「ヤッチョにお任せ!」
「わっ、まだいた」
「失礼な〜。ユーザーとコミュニケーション取るのも、大事なお仕事なのです。決して、お仕事めんどくさ〜いとかではないのです」
「本音漏れてるよー」
背後から飛びついてきたヤチヨに驚いてしまった。
てか、このサイズだと肩車しても楽々サイズ……。
首に巻き付かれてると、ちょっと不安なので肩車に移行。
案外素直にされてくれたので安心。
「おぉ〜! 高〜い!」
「ヤチヨ浮けるんだからもっと高いところ見れるでしょ」
「それはそうだけど〜こう、浮遊とは違うんですよこういうのは」
「そういうもん?」
「ですです〜。彩葉にもしてもらったことないから新鮮かも」
「ん? なんか言った?」
なんでもないのです。なんて言われてヤチヨは黙ってしまった。
絶対なんか言ったと思うんだけどな。この距離で聞こえないなんて、聞こえないようにフィルターでもかけてるみたいだ。
まあ、それはおいといて。
肩車ヤチヨと戯れてる間に芦花には例の大型拳銃が渡されていた。
「おー、確かにさっきのよりも大きい」
「反動もすごいんだって」
「そうなの? 試してみるね…………うわっ! 確かにすごいや」
いきなり生えた的(たぶんヤチヨが出した)を狙ってみる芦花。
中心からそこそこ外れたところに着弾。
60点って出た。芸が細かいな。
「なるほど。これならダメージもそこそこ?」
「んー、拳銃系ならそうだね。改造とかしてないやつなら最高値かな?」
「そうだよ〜。でもでも〜、反動値も最大だから連射は効かないから要注意〜」
そりゃあんなの連発してたら反動で後ろに吹っ飛ぶしね。
現実でも反動をうまくツクヨミでも再現したってところかな。
「じゃあまた練習に戻ろっか」
「だね。ヤチヨありがとう!」
「ありがとーヤチヨ」
「いえいえ〜。このくらい朝飯前というか寝起き1発目のあくび前というか〜」
「分かりづらい例えをありがとう」
「ガーン」
しょぼんって感じのアクションをしながらヤチヨは手を振ってどこかに消えていった。
めちゃ助かったけど、かなり親身というか、本当に分身体だったのかな。
いや、本体なわけないとは思うけど。
まあ、どっちでもいいか。
「よーし、いろいろ変わったしやれることからやってみよー!」
「おー! 目標はアキくんを倒す!」
「ふっふっふ。頑張ってね」
いつになるかなぁ。まあ、しばらくは負けてあげないけどね!
誰かを守れる強さってあるよね
ってことで守りを強化することにしました
チロちゃんは漢字にすると千芦です。わかりやすい
ミニヤチヨは作者の好みです、なんならもっと小さいチビヤチヨ(かぐやにぶつかってごめんねしてたサイズ)もめちゃ好き