芦花の訓練が終わった後、そのまま散歩に連れ出した。
目的地は、ざわめく喧騒から遠く離れ、人通りもないようなところ。
この前夜に散歩してたら見つけた、心の落ち着く場所だ。
……まあ、落ち着かない部分もあるけれど。
芦花に見て欲しかったから、この前お昼の花畑を見せてもらったのもあるしね。
「とうちゃーく」
「ここがアキくんが見せたかった場所……綺麗……」
僕が芦花を連れてきたのは、白い花で埋め尽くされた花畑。
月の光のみが光源となって、辺りを柔らかく照らしている。
その月光を吸い込み花たちも淡く白く輝いている。
どこを見ても白い花々でいっぱいだった。
夜だからこそ映える美しい光景。これを彼女に見せたかったのだ。
「初めて見た時は声が出なかったんだ」
「分かるよ。こんなに綺麗だもん」
綺麗で、儚く。
でも力強く、私はここにいると、花たちが主張している。
何か悩んでても、ここでぼーっとすると全部どっかいったりするんだよね。
「どう? 気に入ってくれた?」
「うん。ありがと、連れて来てくれて」
「なら良かった。この前の花畑に見劣りしないといいなって、思ってたから」
「夜だからこその美しさがあるから、お昼のあの花畑とはまた別だよ」
それもそうか。
昼と夜で映える花は変わるだろうし、擬似的な太陽の下でもこの白い花畑は美しく見えるだろう。
でも月光に照らされたこの儚さは、太陽の元では出せない。
月明かりの神秘さを纏った、夜の美しさ。
ツクヨミならではとも言えるのかもしれないね。
「ツクヨミだからこそ、こうして綺麗に見えるんだろうね」
「そうだね。どんな花が咲いてるか、アキくん分かる?」
「うん、いくつか調べたんだ」
「そうなんだ、教えてよ」
聞かれると思ったから、答えても大丈夫なものと
例えば。
「これはレースフラワー、花言葉は感謝とかほのかな思い」
「ほのかな思い……」
レース編みみたいに咲くからレースフラワーなんだって。
花言葉はわざとじゃないよ? でも、ちょっと酒寄さんを考えそうだなとは思ったけどね。
「こっちはトルコキキョウ。花言葉は思いやり。芦花にぴったりかもね?」
「もー、すーぐそういうこと言うんだから」
「ほんとだってばー」
一重咲きと八重咲きがあるけど、芦花には八重咲きの方が似合うかも。一重咲きの華奢な感じも悪くないけどね。
思いやりに溢れてる芦花に、本当にピッタリだよ。
永遠の愛なんてのもあるけどね。秘密。
「あとはそこにあるのは割と有名だと思う月下美人。花言葉は儚い恋、儚い美」
「月下美人かぁ、聞いたことはあるね。にしても花言葉……」
わざとじゃないよ? (2回目)
でも、白い花の花言葉ってそういうの多かったんだよね。
夜の間だけ咲くからそういう名前なんだけど、月明かりの下の美人って今の芦花もそうだからお似合いかもね。
「あ、これとか僕らにお似合いかもね。白い朝顔」
「そうなの?」
「花言葉は固い絆」
「確かに〜」
調べた時は驚いたよね。
こんなにぴったりな花があるなんてって。
幼馴染として10年以上そばにいるからね、これ以上なくぴったりだ。
「他には有名なのだと、バラ、ユリ、カトレア、キクもあったね」
「たくさんあるね、その辺は名前全部知ってるやつだ」
「でしょ? あとは、すずらん、かすみ草、シクラメンなんかも聞いたことはあるんじゃない?」
「あるかもー。でもどれかは分かんないな」
たくさんの花が咲いていて、中にはあんまり聞いたことのない花もたくさんある。
でも、そんな花々に埋もれる芦花はとても綺麗で。儚く見えて、うっかり手を伸ばしてしまいそうになる。
手を伸ばして、触れられたら。
ダメダメ、芦花が選んだ人が現れるまで待たなきゃ。
「カラー、マトリカリア、ラナンキュラスなんてのもあったかな?」
「ラナンキュラスは聞いたことあるけど、あとは知らないなぁ。アキくんいっぱい調べたね」
「えっへん、芦花に聞かれそうだったからね」
まあ、聞かれて困るものを把握するためでもあるけどね。
うっかり聞かれたらやばいのとかあるし。
例えば、そこのストック。それもトルコキキョウと同じ。
あとは、パンジーなんかは愛の思いだったかな。
この辺は怪しいよね、って思ったから先回りして注目されないようにした。
「あ、アキくん、これは?」
「ん? ん゛っ……これ、は、ねぇ」
「? どしたの?」
芦花の指差した花、それはカランコエ。
ギリギリ耐えかな?
その近くのサギソウとかオステオスペルマムじゃなくてよかった〜。
「それは、カランコエ。花言葉は……幸福を告げる、あなたを守る」
「へー……あなたを守る……」
そこはつつかないでほしいな!?
いやまあ、気付かれないとは思うけどね。
僕が、君のために、だなんて、ね。
「いろんな花言葉があるんだね。勉強になったよ!」
「う、うん。ならよかった」
セーフ! あぶなー。
まあ、だよねとは思ってたけど。
「もっと回っていろいろ教えてよ!」
「うん、いいよ。次はあっちの方行こっか」
そう言ってその場を離れた。
……背後にあったアナベル、ブライダルベールを見て見ぬ振りをして。
それからあちこち回りながら芦花に調べた花言葉やら花の特徴とかを教えてあげた。
僕の知ってる範囲のことだけだけど、嬉しそうに聞いてくれて僕もハッピーです。
「ありがとね、今日だけでたくさんの花言葉を教えてもらっちゃった。今度は私も調べて教えてあげるよ」
「いえいえー。それはまたのお楽しみだね。今日はそろそろ遅いし、睡眠不足は美容の大敵だから解散しよ?」
「うん、じゃまたね」
「うん、またねー」
ちょっとゆっくりしすぎたので、芦花にログアウトを促した。
まあ、花言葉のことを考えてるとどうしても秘密のものが頭を駆け回るので、ね。
芦花の睡眠時間を気にしてるのも嘘ではないけど。
芦花を見送った後、僕はしばらく白の花畑を散歩した。
「あなたを守る、か」
白のカランコエの近くにしゃがみ、その花弁を撫でる。
触った感触はなくとも、当たり判定で花弁は揺れる。
揺れた花びらを眺めて、空に浮かぶ月を見上げた。
「……」
「おやおや、こんな夜遅くに考え事かな? 良い神々は寝る時間ですよ〜」
ぼーっとしてたら、先ほど出会ったミニから通常サイズに戻った銀色のお姫様が現れた。
「ヤチヨ? 盗み聞きは良くないよ?」
「ギクッ、なんのことやらさっぱり分かりませんな〜。ヤッチョはー? たまたまお散歩というか? 巡回してたら仲睦まじく歩いてる神々を見かけたので? お邪魔が入らないように見守ってただけですし?」
うん、全部吐いたね。
素晴らしいほどの白々しさ、もはや人間見たくもあるね。AIだけど。
「プライバシーのかけらもないじゃん。あーあ、涙ちょちょぎれそー」
「いやいやいや? 会話の内容は流石に聞いてませんとも! そこまでヤッチョ無粋じゃないので?」
「月下美人」
「儚い恋って昔の人は粋な花言葉つけたよね〜、一晩で咲いて散るその姿が美しいからこそ、そういう花言葉が似合うというか〜……はっ、釣られた!?」
「はい、アウト」
ちゃんと盗み聞きしてるじゃないかい。
まったく、ツクヨミの管理人ってのはそういうとこまで管理してるのかな?
「さ、流石に、誘導尋問はずるくない? ヤッチョおかんむり!」
「先に盗み聞きしたのが悪いよね。で、何の用ですか?」
「……バレた?」
「さっきのミニヤチヨが降って来た時といい、タイミングが良かったですのでね」
あんなピンポイントでヤチヨに質問しようとしてた時に降ってくるのはねぇ。
さらには2人で散歩してるところまで見てたってことなら、ずっと何かしら話でもあったってことでしょうし。
「ちょ〜っと聞きたいことというか、なんというか、ありましてね?」
「電子の歌姫様が聞きたいことってなんでしょう?」
「え〜っと、秋鷹くんの近くにめちゃ頑張ってて限界ギリギリな子っていたりしない?」
「……まあいますけど」
酒寄さんの顔がふっと浮かんできた。
が、なんでそんなことを? てか、酒依さんの事を知ってる?
「いやさ、別になんてことはなくて、めちゃ頑張ってる子ってさ、どこで倒れたり、折れたりするか分からないじゃないですか? それこそ、何気ない日常の途中で急に〜ってことも……あるわけですし」
うーん、まあそうかもしれないけど、確かに賄い渡して1日2食分はちゃんと食べれてる日は増えてると思うけど。
それ以外の食事がどうかは……そういえばこの前画期的な発明したとか言ってたような。
あれって貧乏飯のことなのかも? だとしたら、栄養面終わってそう。
「それで、ヤチヨさんは何を聞きたいのでしょう?」
「……私から頼むのはお門違いなのは分かってるけど、そういう子のこと、助けてあげて欲しいんだ。そりゃあいきなりこんなこと言われたら困るのは分かってるよ〜?」
「じゃあ」
「でもさ、人ってね。いなくなる時は、いつだって急なんだ」
僕が言葉を挟む前に、ヤチヨが刺してきた。
ほんとに、僕に刺さる言葉で。
脳裏を幼い親友が過った。
「秋鷹くんには、馴染みないかもしれないけど、人間ってね、ほんとふっとしたらいなくなるの。それこそ、瞬きの合間にでも。だからこそその一瞬を見逃したくないんだけどね。めちゃ頑張る子の輝きは、眩し過ぎて瞼を覆っちゃうくらいなのに、鮮烈に輝きすぎて、その命を燃やし尽くそうとしちゃう。もっとゆっくり生きればいいのに」
8000年を生きたAIライバーというのが月見ヤチヨの設定だったはず。
だけど、今僕の目の前で語る彼女の言葉は、それが設定などではない本当のことを話してるようにしか思えなかった。
瞳に映るのは、羨望、寂寥、困惑、はたまた心配か。
人に寄り添うAIライバーだとしても、人間臭すぎる彩だ。鮮やかで輝くようで、澄み切ったその奥には濁り混ざったような想い。
「8000年を生きて来たヤッチョにとって、人の一生は短い。それは、たぶんその時を生きてる人にはわからないと思う。100年生きれると言われたって、未来のことなんか分からないでしょ? 今から10年後の未来に何をしてるか想像できる?」
彼女の問いは、あまりにも重く。
「できないかも」
僕には一言しか返せなかった。
だって、たかが16年。もし100年生きるとしても4分の1にも達していない子供な僕では、その答えは持ち合わせられない。
「ね。なのに、未来よりも今を輝かせるために命を燃やしている。そういう人を何人も見て来たの。だから、私はそういう人を助けたい」
でもね。そう彼女は続ける。
「私はこの世界から出られない。電子の歌姫だから。現実世界には干渉出来ないの。それは、この時代を生きる人の子の仕事だから」
「ヤチヨ……」
「だからさ、ヤッチョからのお願い! そういう子が無理して倒れそうだったら助けてあげてー! きっと、いつか君にも巡り巡って恩は帰ってくるからさ! ね!」
そう言って強引に僕の手を取る。
おっと、それはファンに見られたらさすがに不味いのでは!
「お願い!」
「まあ、できる範囲のことはしますけど、当人が意固地だから期待しないでくださいね? 今までも結構あれこれ試行錯誤はしてるんで」
「うん、それでもいいの。そういう子が1人でも減ってくれれば、ヤッチョ感謝感激雨アラモード〜ってことなので!」
急におちゃらけた雰囲気にして、硬い空気を流そうとしてるな?
まあ、僕も苦手なので乗りますけど。
「それで、お話は終わり?」
「うん。あ、頼みを聞いてくれたし、何か1つヤッチョのできる範囲で頼み事を聞いてあげよう!」
「や、別に普段やってることの延長だからそんなのいらないけど……」
と、断りを入れたけど、その瞳は頑なに受け入れてはくれなさそうで。
「だーめ。これはヤッチョにとって大事なことだから。秋鷹くんが良くてもヤッチョがダメなの。まあ、今思いつかないなら、貸しってことでもいいよ?」
「んー、じゃあ貸しで。そこまで求めることもないし」
「んっふっふー。これでも世界で大人気の歌姫なんだけどにゃ〜。君は随分とヤッチョに興味がないように見えるね?」
ほれほれ吐いてみ? と銀色のお姫様が下からニヤニヤとおちょくってくる。
まじで人間臭すぎない? 中の人いないのが不思議なんだが。
「まあ、僕の1番は昔から決まってるので」
「よよよ? そんなに昔から? ヤッチョを差し置いてだなんて、ジェラジェラしちゃう!」
「ジェラジェラ……? うん。たぶん僕が生まれた時から」
「それはそれは〜。ヤッチョじゃ勝ち目ないね〜。ちなみにちなみに、お相手は?」
「……分かってるでしょ」
「えぇ〜、まさかそんなわけ〜。幾ら長生きしてるヤッチョでも、そんなの分かるわけ〜……って、もしかしてさっきの子だったりして?」
ほら、分かってるじゃん。
「正解」
「あ〜……うん、そんな気はしてたかもかも?」
「まあそういうことなので」
そろそろ僕も寝る時間だ。
お姫様と長話をしすぎたかも。まあ、貸し1つ作れたからよしとしましょ。
「そろそろ落ちます」
「うん。それじゃさらば〜い」
「あ、1つだけ」
「?」
ないとは思うけど念の為。
「秘密ですよ、この話」
「……もちろん。守秘義務は守るのでね〜。それじゃ今度こそさらば〜い」
月に向かって揺蕩っていく銀色を見送りながら、僕も現実に戻った。
さあ、明日もバイトだ。賄い押し付けがんばろっと。
書いといてなんですが、ヤチヨの口調やっぱむずい
今更なんですが、滲んでる特殊効果の内容を見れることをこの前知ったんですけど、みなさんご存知?
アナベル ひたむきな愛
オステオスペルマム 変わらぬ愛
サギソウ 夢でもあなたを想う
ブライダルベール 幸せを願っています