大事な人を撃つ覚悟は持てますか
『────痛いよぉ』
ごめん。
お腹に空いた穴を抑えながら君は、言った。
『────どうして……? 』
わざとじゃない。
お腹の穴を指差しながら君は、言った。
『────私のこと、嫌いになったんだ』
そんなわけない。
流れ出るはずのない液体のようなものを見せながら君は、言った。
『────ほら、こんなに穴あけちゃって』
やめて、見せないで。
抑えてた穴を見せながら君は、言った。
『────ほら、アキくんがやったんだよ?』
穴を見せて近付きながら君は、言った。
違う、そんなつもりじゃ────。
『────痛いなぁ、苦しいなぁ。ねぇ、どうしてくれる? 』
────ごめんなさい。
目前に迫る顔の見えない君がそう、言った。
『────アキくん?』
ごめん。
悲しみに暮れたような声色が、聞こえた気が、した。
『────アキくん!』
責め立てるような声色が、聞こえた気が、した。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい────。
「アキくん!」
────輪郭を伴わないはずの悪夢のようなそれは、いつの間にか現実にすり替わろうとして…………っ!?
あれ、夢?
目の前にラフな格好の芦花がいる?
お腹に穴は空いてないし、顔が見えないわけでもない。
あれ、ここ、僕の部屋か。
「アキくん! 大丈夫? うなされてたけど……」
「芦花……どうしてここに……」
「昨日、様子がおかしかったからさ。真実に相談したら突撃するか連れ出しちゃえって」
真実のお節介か。
でも、助かった。
昨日の意図せぬ射撃で、芦花を撃ってしまってから、僕のメンタルがそれはもうズタボロもよいところだったから。
おかげさまでありえない悪夢まで見てしまった。
彼女があんな顔で誰かを責めるようなことを言うはずがない。
彼女がありもしない傷を見せびらかすような真似をするはずがない。
君の優しさは分かっているはずなのに、その心の美しさに惹かれたはずなのに。
僕の薄汚い部分が、そこから目を背けようとしていたようで。
「今度真実になにか奢ってあげないとね」
「それはまた今度にしてね。で、大丈夫なの?」
「んー、体調はまずまず、メンタルはボロボロって感じ」
「今日の予定は?」
ズタボロメンタルに、普段通りな幼馴染の気遣いがよく効く。
大事な幼馴染兼最推しのご尊顔を朝から見せていただけるなんて、やはり僕は幸せ者なのかもしれない。
芦花の顔を見てちょっとメンタル上向きになって来たかも。ありがたい。
「バイトが11時からあるけど、それまでは考えてないかな」
「いつものは?」
「あー、うん、やるよ。やらないと気持ち悪いし」
普段の寝起きなら何も考えずとも動けてたけども、今日の寝起きだとだいぶ気が重くて動けなかったかもしれない。
ルーティンワークをするにも、精神病みすぎて気乗りしない可能性が。
いやまあ、そこはねじ伏せるけども。
でも、今日のは今までやりたくないと怠けようとしたどれよりも強かった。
それこそ、いっそどこかへ消えてしまえたらと思うくらいには。
まあ、そうはいかないけどね。僕には僕のやるべきことがあるから。
芦花が幸せになるのを見届けるということが。
「私も付き合うよ」
「いいの?」
「たまにはね?」
「そっか。……ありがと」
なんでズタボロかは聞かない優しいが、本当に染みる。
そうやって優しくされちゃうと、男子はころっといっちゃうから気をつけて欲しいよね。
……自分で考えといてなんだけど、すごい気分が悪くなってしまった。
芦花の優しさを独り占めだなんて、良くないんだけど。
でも、ろくに知りもしない男子にそれを与えられるのはなんかなぁ。無性に腹立つ。
芦花が選んだならいいけど。
すごく、すごーく歯を食いしばった上で涙溢れちゃいそうだけど!
「とりあえず着替えてくるね」
「うん、僕も準備する」
「じゃ、また後で」
そう言って彼女は出て行った。
1人になった部屋で、少しぼーっとする。
まあ、予想の範囲内だ。使う機会はほぼないとはいえ、たまに使わないといざという時に使えないからね。
さ、準備して外に出よう。芦花を待たせられないから。
いつものランニング。いつものスポーツウェア。
芦花も運動用のスポーティな格好だ。カッコ可愛い。さすが。
今日は彼女と一緒なのでペースは控えめ。あと彼女の分の荷物も持ってる。
彼女に合わせていつものコースを走る。
隣を走ってくれる彼女の様子を横目で伺う。横顔綺麗だねー。
普段通り、昨日のことを気にした様子もない。
まあ、当然だね。僕が想いすぎてるだけなので。
「芦花休憩は必要?」
「まだ、いける、よ!」
口ではそう言ってるけど、ちょっと息が上がってる。
最近運動してなかったな?
おサボりではないだろうけど、芦花のことだしいろいろやることでもあったのでしょう。
「途中の公園で休憩しよ」
「りょーっ、かい!」
了承も得られたので、もう少し走ってから公園にて休憩。
持って来たスポドリで喉を潤す。
芦花にも代わりに持ってた下手なボトルを手渡す。あとついでにタオルも。
僕も自分用のタオルで汗を拭った。
「……っあー! 生き返るぅ」
「汗止まんないからね、ちゃんと水分補給しないとね」
「まだ朝早いからマシなんだよねこれでも」
「そうだねぇ。お昼頃とかだとさすがにこんなランニングなんてしてらんないよね」
キコキコとブランコを揺らしながら、体に風を送る。
多少の前後動でもまあまあ涼しい〜。
「久しぶりに走ると、キツイけど気持ちがいいね」
「芦花のことだから心配してないけど、無理しないようにね?」
「はーい。そんなに体力落ちてるわけじゃないから、大丈夫大丈夫」
拭っても垂れてくる汗を纏っても、彼女の輝きは止まることを知らず。
なんかこう、キラキラのエフェクトが付いてるみたいに笑顔が綺麗だ。
すっぴんだからあんま見ないで〜なんて言うけど、君の顔ならどんな時でも綺麗で可愛いから自信持ってほしいな! 好き。
「さて、うちまでもう少し。残りがんばろ?」
「おっけー! じゃいこっか」
息も整って来たので、僕はブランコから立ち上がった。
荷物をまとめて仕舞いつつ、芦花の方を振り返る。
────痛いよ。
気のせいだ。それはもう他ならない彼女が証明してくれた。
ほんの一瞬でも瞳を閉じて。
「アキくん?」
開く頃には、前を歩く君がいる。
大丈夫。もう歩ける。
「ん、行こう」
さ、家に帰ったら昨日出来なかった予習しなきゃ。
ランニングを終え、シャワーを浴びた後。
朝ごはん食べよ〜なんて思ってたらピンポンの音。
芦花かな?
玄関カメラを見る。
やっぱり芦花だ。
「さっきぶり〜。ご飯まだでしょ? 一緒に食べよ」
「う、うん。分かった」
扉を開けて彼女を迎え入れる。
親たち? 走ってる間に仕事に行きましたね。
「ちょうど今から作るところだった感じかな?」
「うん、何かは決めてなかったけどね」
「私も手伝う〜。たまにはお弁当の恩返ししとかないとね」
一緒に料理だ嬉し〜。
でも、恩返しは大丈夫なんだよね。
むしろ貰いすぎてるというか。
芦花はいてくれるだけで僕にたくさん、たっくさんいろんなものをくれてるから。
そんなことされちゃうと、僕もっと頑張らないとなんだけどね。
「何作る?」
「んー、鯖焼いて味噌汁使ってあとはいつもの常備菜ちょちょいかな?」
「ふむ、じゃあ私卵焼き作る〜」
「やった、芦花の卵焼き好きなんだー」
彼女の
というか、彼女が作ってくれるならなんでも嬉しい!
「じゃあ、準備するね」
「うん、僕も」
鯖はグリルで焼くだけ。塩は先に少々。あとはお好みスタイル。
お味噌汁は、今日はわかめと豆腐でいっか。あ、なめたけある。入れちゃえ。
お米はランニング前に用意してたのでもうすぐ。
常備菜は適当な小鉢によそって〜。
「よっ」
お、綺麗。……卵焼きがね? いや芦花もだけど。
エプロンちゃんとしてるのえらい。これには花丸ですね。
ラフーな格好(Tシャツショートパンツ)なので、油はねは大敵。
大丈夫だとは思うけど、女の子の肌に傷なんて絶対ダメなのでね。
万が一でも跳ねたりしたら対応できるように目を光らせておく。
もちろん、鯖の焼き加減も、味噌汁をうっかり沸かしすぎないようにするのも忘れない。
「出来たよー」
「ありがと。綺麗にできたね!」
「伊達に練習してないので〜」
えらすぎー! もう一個花丸つけとく?
えらえら芦花さんの渾身の卵焼きは丁寧に切り分けてお皿へ。
魚も良い感じ。味噌汁もできたし、完成かな!
「じゃお米は好きな量よそってね」
「ん、ありがと」
湯気が上がってほわほっわのお米を茶碗につけてるのを横目に、僕はあれこれテーブルへ運ぶ。
あ、麦茶も置いとかないと。
冷蔵庫から冷えたそれを出して、グラスも用意する。
再度テーブルに戻れば、僕の分までお米をよそってくれていた。
「アキくん、これくらいで良かった?」
「うん、ありがと。ちょうど良いくらいだよ」
テーブルにつく。僕と芦花は対面。
麦茶を注いで準備完了。
それでは。
「「いただきます」」
ちゃんと手を合わせて言ってから、ね。
僕は、まずはもちろん芦花の卵焼きから。
「卵焼きもらうね」
「どうぞどうぞ」
おぉ、ぷるぷるしてる。
美味しそ。
「……美味しい! さすが芦花」
「ありがと。卵焼きなんて誰が作っても一緒じゃない?」
「そんなことないよ? 僕が作ったのと全然違うよ」
「そうかなぁ?」
うん、全然違う。
芦花の好みの味に合わせてる自信はあるけど、彼女が作った味と比べればまだまだだ。
彼女が作ってくれたと言うだけでこれだけ美味しく感じるのなら、僕は相当胃袋を掴まれてしまってるようで。いやまあその通りではあるけど。
でも、芦花の好みは甘めのはず、今日はちょいとしょっぱ目?
「今日はしょっぱ目だね?」
「うん、朝ごはんだし、アキくんはこっちの方が好きじゃなかったっけ?」
「…………むかーしに言ったかも」
やば感動の涙が出そう。
ほんとに昔に、それこそ5年とか? 前に言ったこと覚えてくれてるなんて。
僕の幼馴染記憶力良すぎない?
いつも芦花に合わせて作ってるから、もう覚えてないと思ってたよ。
たしかにどっちかといえば、そうではあるけど本当に誤差みたいなものだし。
なんなら芦花が、作ってくれるならどちらでも好物になるというか。
「美味しいね」
「うん、美味しい」
いつも普通に美味しいけど、今日はいつもよりも美味しく感じる。
芦花と一緒だからかな?
いつでも一緒に食べれたら。
ご飯を食べてよし、昨日の分の取り返し! と思っていたところ。
芦花もなにやら勉強道具を持って来ていて?
僕の部屋に移動して2人、ミニテーブルで顔を突き合わせた。
「あれ、課題終わってないの?」
「ううん? もう終わってるけど、アキくん勉強するみたいだし、私も復習とかしちゃおっかなって」
えらえらすぎて感動。
自主的に復習するなんて、さすが。
どこぞのグルメインフルエンサーにも見習って欲しいね。
課題は終わってるだろうけど、テスト前じゃないと復習やらないんだから。
「アキくんはなにやるの?」
「んー、2年の内容」
「……まだ1年だよね?」
「うん。でも早いに越したことはないよね」
や、あの、そんな引いた目で見なくても。
別に勉強大好きでやってるわけではないので?
未来のためですし? なんなら芦花のためですし。あとはまあ真実のためでもあるか。
真実だけ補習で遊びに行けませんとか、悲しいからね。
「そんなことしてる人そんなにいないんじゃない?」
「酒寄さんならしてそう」
「彩葉は例外」
例外だったかー。
東大行くって言ってるから、相当先取りして勉強してそう。
「アキくんも東大目指してるの?」
「いんや。さすがに進路までは考えてないよ」
「じゃあ、そこまで勉強する理由って?」
あー、んー。
理由って言われても、ねぇ。
芦花のためでしかないし。でもそれは言えないし。
どうしたものか。
「んー、自分のためかも?」
「自分のため?」
「うん、未来の自分が楽になるように、やりたいことが出来るように、かな」
「なるほど……」
そこまで深く考えて欲しくて言ったわけではなかったけど、彼女は何か思うところがあったのか口を閉じてしまった。
や、まじでそんな重い意味はないんですけども。
普通にまた勉強会とか楽しく出来たらいいなってお気持ちなんですよ。
対面の幼馴染の顔は、思考に深く沈み物憂げに見えた。
そんな顔も良いんだけどね。
「ほら、手止まっちゃってるよ」
「あ、うん」
「続き、進めよ?」
「そうだね」
そんなに考え込んでほしくなかったので、ここいらで戻って来てもらった。
何を考えてても気にしないけど、どうせなら一緒に何かしてる時間を過ごしたいからね。
ここからぼくがバイトに行く時間になるまで2人で時折おしゃべりしながら勉強を続けた。
「じゃ、バイト行くね。またね」
「うん、いってらっしゃい。また
芦花の家の前で別れる。
手を振って歩き出してから、ふと気付いた。
またあとで? 今日会う予定あったっけ?
まあいっか。今日も今日とて酒寄さんのフォロー頑張るぞ〜。
なんてことを考えていたので、芦花の言葉の意味に気付いたのはバイトが終わってから。
酒寄さんと共に退勤。夏休みだからかお客さんが多い……!
相変わらずあらゆる仕事で頼りになるバイト超人酒寄さんを、ちょっとでも楽になるようにもらえる仕事はもらって、みおちゃんがミスしそうになるのをフォローして。
「今日も乗り切ったね〜」
「荒鷹くん仕事覚えるの早いよね。めっちゃ助けられてるよ」
「目の前になんでも出来てる人がいるのでね? 背中を追っかけております」
「私は別にそんなにできてるわけじゃ……」
はいはい謙遜謙遜。
その辺は適当に流してお店な外に出ると、なにやらナンパしてる男が。
こんな時間に何やってんだ……と思っていたが、相手の
は? どこの馬ともわからんやつが、僕の大事な幼馴染をナンパしてる? 殺す。
「酒寄さん、芦花のことよろしく。先に帰ってていいよ」
「えっ? ちょ、え、芦花!? 荒鷹くん!?」
深呼吸で冷静になりつつ、芦花にはバレないように。
というか、こちらに背を向けて立っていたのでバレないけど。
ちゃんと笑顔を貼り付けられてるか、確認。よし、大丈夫。こっちを見ないでね、芦花。
おい、その汚い手で、触ろうとするな。汚すな。
聞く価値のない言葉で彼女の時間を無駄にするな。邪魔するな。
対して意識してもない容姿で彼女の横に立とうとするな。並び立つな。
そんな生半可な覚悟で、彼女を射止めれると思うな。相応しくない。
お前の前にいる女の子は、そんなお前でも無下にはしない優しい子だから。許さない。
代わりに、僕が。どうしようもないやつなど。
「やっほー。ちょっとお話よろしい?」
「え、はぁ? 誰お前」
「少なくとも君よりその女の子と仲良い人だよ〜。じゃあ、あっち行こっか」
「な、ちょ、離せ……力強! いてえって! 分かったから!」
芦花には顔を向けないように速やかに下手人を連れ出す。
肩に腕を回して歩き出す。力は……そんな入れてないつもりだったけど、無意識で入っちゃったみたい。失敬失敬。わざと。
あとは酒寄さんが良い感じに取り計らってくれるでしょう。
僕はこの脳足りんと大事なお話しを、しないと。お話だけ?
「あれ、待っててくれたの?」
「さすがに、置いてけないって」
「なんかごめん」
お話は15分くらいで終わらせた。
どうでも良いやつに時間を割きたくないし、でも今後芦花に手を出すようなことはないようにはする必要があった。
まあ、暴力はダメなので何もしてないよ?
でも、今頃しょっぱいお水とたわむれてるかもだけど。
いつだかの誰か忘れたけど中学のやつを思い出した。
あれも、似たようなやつだったような。
まあいいや。どうでもいい。時間の無駄だった。
「芦花、大丈夫?」
「私は別に。音楽聴いてたから話なにも聞いてなかったし」
「なら良かった。酒寄さん送るけど一緒に行く?」
「うん、行く」
じゃあ帰ろー。
前にも2人で歩いてもらって、後ろを1人着いていく。
さっきのこともあって周りを通り過ぎる男には、ちょっとキツいくらい睨んでしまう自分が分かってしまった。
仕方ないじゃんね。
いくら最高に優しくて、可愛くて、綺麗で、モテるってのが分かっていても、目の前でナンパ、しかも別に守とかみたいな爽やかイケメンとかでもなければ、酒寄さんみたいなめちゃ努力とかしてそうなやつでもなかったし。
控えめに言って勘違いの甚だしいやつだった。
大した努力もなく、ちょっと顔が良いと持て囃され、それで自信を持っちゃった可哀想なやつ。
理解ができない。なんでそれで芦花が振り向くと思ったのだろう。
酒寄さんくらいの人なら分かるけどね。彼女はすごい。
はぁ、せっかく朝から芦花といて気持ち上向きだったのに。
最後の最後でまた嫌な気分だ。
「〜〜でね?」
「〜〜そうなんだ。じゃあさ──」
楽しそうに喋る2人の横顔を眺める。
本当に嬉しそうに、笑顔で話す幼馴染と、それを向けられる努力家さん。
いいなぁ。羨ましい。
無事酒寄さんを送り届け、ついでに今日も賄いを押し付けることに成功。
来た道を芦花と2人折り返していく。
「なんか濃い1日だった気がする」
「そう? 私は普段通りだった気がするけど」
「芦花がそうならそうかも? 考えすぎかも〜」
芦花は普段通り過ごしてるだけで、僕が過剰に反応しすぎちゃっただけだからかな。
まあ、さっきのやつは過剰にもなろうって感じではあったけど。
隣を歩いてくれる幼馴染の、夜道でもわかる整った横顔をこっそり盗み見。
彼女は空を見上げて星を見ていた。
朝は曇ってたけど、夜はかなり晴れたようで、星が綺麗に空を彩っていた。
月は見えなかった。
「この時間ってこんなに綺麗に星が見えたんだね」
「そうだね。今日は雲が少ないから、より綺麗に見えるね」
普段はあんまり見上げないけど、隣の彼女に合わせて僕も空を見る。
名前は分かんないけど、隣の君と見ているから綺麗だと思う。
星が綺麗ですね、なんて、まあ分かるわけないけど。
この前月のことを言っても、気付かれなかったから、これも気付かれることはないだろう。
でも、口にはしない。それはあんなには漏らしたくはない。
あの時は溢れでたけど、いつかバレてしまえばこの関係性は壊れてしまうだろう。
君が幸せになって、僕が隣にいなくてよくなったら。
その時は、星が綺麗でしたねって、言うかもね。
月が綺麗でしたっていうのも、ありかな?
その時は、優しく笑って
「コンビニ寄って、アイスでも食べない?」
「いいね。私チョココーヒーのやつにする」
「じゃあ、僕は大福のやつー」
コンビニでアイスを買った後、いつもの公園のベンチでアイスを食べた。
芦花は2つで1つの吸うアイス。
僕は2つ入りの大福アイス。
時刻は22時を過ぎた。人通りはなく、とても静かで。
こんな時間に高校生である僕らがのんびりしてるのは良くないんだろうけど、でも家すぐそこだし、いいよね。
「夏はアイスが美味しいね」
「ねー。食べ過ぎない程度に、たくさん食べたくなるよ」
「アイスなら太らないんじゃない?」
「それはそうかもだけど、たまに食べるからいいんだよ」
それも、芦花と一緒ならね。
モチモチの大福を食べ終え、残りは1つ。
もちろん僕のじゃない。
「はい、あげる」
「え、いいの? 大福の1つはさすがに分けっこするのは申し訳なさが勝つというか」
「芦花だからあげるよ。代わりに、その片割れちょうだい?」
「分かったよ、はい」
僕と彼女のアイスを交換した。
「んー、これも美味しいよね」
「でしょ。チョココーヒーもいいね」
穏やかな時間が流れる。
平穏で、波風の立たない、ともすれば夢のことなんて忘れてしまっていて。
「聞こうか悩んでたけどさ、一応」
だから、アイスを先に食べ終えた君の言葉に、僕は反応ができなかった。
「どんな夢見てたの? 昨日様子がおかしかったのと、関係ある?」
ほとんど記憶から薄れていた。
というか、消し去ろうとしていた、それを掘り返される。
「あー……んー……えっと……」
「あんまり思い出したくない?」
それはそうだけど、でも心配してくれてる彼女の好意を無碍にはできないし。
かといって内容が内容だから思い出したいわけではない。
「それとも……私には、話せない?」
「……!」
そんなことは……、いや、ないとは言い切れないな。
話せたとして、君はどんな顔をするかな。
驚くかな、呆れるかな。それとも、考えすぎだって笑うかな。
いっそ笑ってくれたら、ちょっとは救われるかも?
「どう? アキくん。話してくれる?」
「……恥ずかしい話、になるのかな」
でも、これは話してしまってもたぶん大丈夫だと、思いたい。
ただ、僕が思いすぎてるだけだから、上手く話せば、ね。
「昨日のSENGOKUでさ、芦花を撃っちゃったじゃん」
「うん」
「それがさ、自分で思ってるよりも驚いちゃったみたいで」
「普段配信とかで撃ってるのに?」
「そう。他の人の時はなんとも思わないけど、芦花をやっちゃった時は、別だったみたい」
本当は驚きではなく、ショックだった。
そりゃ大事な大事な幼馴染を、間違えてっていうのは違うけど、ちゃんと狙えていたら当てなくて済んだものを当ててしまった。
僕は彼女を撃ちたくないし、誰にも傷付けさせたくない。
そういうルールというか、プライドというか、変な意地がある。
僕の前で、君を傷付けさせるのは絶対許せない。
僕の前じゃないなら、それは仕方がないことと流せはする。まあ、むむってなるけど。
「ふーん。……私が傷付くと思ったってこと?」
「う……まあ、有り体に言えばそういうことかも?」
「アキくんさぁ、私をそんなに弱く見てたの?」
「そういうわけではない! けど……でも、その、今まで僕が芦花を撃ったことってなかったじゃん」
「それは……そういえばそうかも?」
そうだよ。毎回狙って外してたんだから。
こうなる未来がなんとなくは、分かってたし。案の定当てちゃって夢見最悪だったし。
「だからさ、その、怖くなかったのかなって」
「もー、考えすぎだよ。別に今更になって怖いだなんて、思わないよ」
「なら、いいけどさ……」
なんとか芦花に誤魔化しつつ説明できたかな?
バレるとは思ってないけど、今回はだいぶ危うかったかも。
次はないように気をつけなきゃ。
「で、うなされてたのは?」
「え」
「それとうなされてたのって関係あるの?」
「それは……そのー……」
なんてこった。まだ続く感じですか。
「私を撃った驚きで夢見まで悪くなったって? さすがに信じられないよ?」
「あ〜、まあ、たしかに?」
「ほら、ぜんぶ吐いちゃいな。聞いたげるから」
ひぃん、僕の幼馴染包容力ありすぎぃ。
助けて真実ー! このままだと洗いざらい全部吐かされるー!
結局は、夢見が悪かったのはウルトの2段階目の反動と言うことでなんとか乗り切った。
実際頭を酷使して疲れてたのは間違いないので、全部が嘘ってわけではない。
とはいえ、芦花を騙したような形でちょっと心苦しい。
いつか、ちゃんと話せたらなって、思ってるよ。
メンタル乱高下により本心ぽろぽろしてるアキくん