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花言葉は────
3月3日、今日は日曜日だ。
年末年始を無事に過ごすべく、冬休み前のテストをなんら問題なく突破。
冬休みも皆で雪遊びしたり、今年はおばあちゃんちに行ったり、年越しは綾紬家と一緒に年越しのお参りしたり。
初日の出を見に朝から家を出たり。
5人で集まってお餅食べたり。
休みが終わって学校が始まっても、特に変わったことはなくて。
最後の期末テストも、結果は問題なし。皆進級の心配はなさそうで安心した。
あとはもう春休みに入るまでのんびり授業を受けるだけ。
そんな何もない日の休みに皆で遊びに行くと決めた日。
生憎なことに天気は曇り。降水確率も高いらしい。
今は降ってないけど、どうなるか。
とはいえ今日はお買い物メインだし、やばかったら屋内で時間を潰せば良いでしょ。
さ、待ち合わせ場所にいこー。
いつもの駅前集合。集合時間は10時。
相変わらず僕以外はいない。
まあ、1時間も早く来てたら当たり前ではあるね。
春が近づいて来て、気温が高くなって来たのかちょっと湿度もあって蒸し蒸しするなぁ。
なんて待っているうちに守が来た。
まだ45分前だ。
「相変わらず早いな」
「どーも。今回は守も早いね」
「そろそろお前を越したいところ」
「それはやめといた方がいいよ? 自分で言うのもなんだけどめちゃ早く来てるし」
「まあ、全員の時はいいけど、真実の時は俺も同じくらい早く行くし、おあいこだろ」
「さすが。真実の彼氏も様になってきたじゃん」
親友がちゃんと彼氏をやってるようでなによりだ。
このまま何事もなく、付き合い続けて、その先にまで……。
その時は、呼んでね?
「にしても天気悪いな」
「ね、最近は良い日が多かったのに」
どんよりとした空色は相変わらずで。
湿度すら伴う空気がむわっとする。
あー、もうちょい薄着の方がよかったかもー。
「2人とも早いね」
「やほやほ〜」
「珍しいね、2人とも一緒だなんて」
「今日は用事があったから真実の家に行ってたんだ」
芦花と真実が一緒に来た。
普段なら別だけどなにやら用事があったらしい。
なんだろ?
あ、今日の芦花は春っぽい薄ピンクのロングワンピースに上から白のケープを羽織っている。とても清楚な感じ。
真実は似た感じの薄黄色のワンピースに普段学校で来ているような色のカーディガンを羽織っている。
姉妹コーデってやつ? 雰囲気合わせてるし。可愛い。
「似合ってるよ」
「ありがと」
「可愛い」
「直球だね〜ありがと」
目の保養ですな。
今はまだ20分前。
さすがに酒寄さんはまだかな。
皆で話しているうちに時刻が5分前になったところで、酒寄さんが歩いて来た。
「おはよ〜」
「彩葉おはよ、今日の服いつものと違うじゃん」
「似合ってるよ〜かわい〜」
「あ、ありがと」
いつだかに見かけた、グレーのワンピースではなく、制服風な着こなしの可愛らしい感じの格好だ。
めずらしー。
「揃ったしれっちご〜!」
真実の号令でぞろぞろと移動する。
目的地は、駅ビルだ。
女子3人の新しい服を探しに、僕らは付き添い兼荷物持ちということで。
あとは掘り出し物とかあればいいなーってお気持ち。
なにがあるかなー。
2時間ほど探索して、掘り出し物ゼロ。
女子たちはあれこれ服を見て楽しそうだけど、気に入ったものはなさそうだった。
まあ、皆であれこれ見るのが楽しいから、それでいいかも?
お昼の時間なので適当なファミレスでも行こうかーという話になったので、近場のファミレスに移動中。
途中で花屋を見かけた。こんなところに花屋なんてあったんだ。
見覚えのある花、見たこともない花、いろんな花があった。
でも、なぜか目が惹かれたのは、紫色の不思議な花。
なんというか、説明しづらいけど茎に左右対称に花が咲いてる。
なんで気になるんだろ。
遠目で名前を確認すると、タツナミソウ? という名前らしい。
どんな花なんだろ?
ちょっと調べて……わぁ。重い感じ?
なんで惹かれたんだろ。
なんて。
気付いたら、周りに置いてかれていた。
「アキくん? 何見てるの?」
「なんでもなーい。今行くー」
やばやば、急げ急げー。
「結構並んでるな」
「まあお昼時だしね〜」
「5人も入れる?」
「名前書いて待ってみるしかないね」
僕と芦花以外の3人はファミレスのところで待っていた。
駅近のところで、近くで大音量のCMが流されている。
追いついた芦花はその輪にするりと入っていく。
僕はそれを後ろから眺めていた。
「きゃ────!!!!」
「ん?」
遠くで、なにか大声が聞こえたような?
いやでも誰かの奇声かもしれないかも?
まあ気のせいでしょ。
「何──?」
「わた──リア〜」
「俺────します」
「私サラ────「あとド────ね〜」そんなに────いよ!?」
皆なに頼むか考えてるみたいだ。
爆音のCMのせいで微妙に内容が聞き取りづらい。
僕は何にしようかなー。
なんて考えていた。
「人が刺されたぞ────!!!」
「え、刺された?」
なにごと? てか、どこからだ?
ぼんやりとメニュー考えていた頭は、どこからか聞こえてきた誰かの叫び声で急激に不安感に埋め尽くされた。
「そっち行ったぞ────!!!」
「逃げろぉ────!!!」
「な、なに? 何が起きてるの?」
遠かった叫び声は、どんどん近づいて来ている。
それに合わせて周りの人たちのざわめきが大きくなった気がする。
皆はざわめきに掻き消されて叫び声が聞こえていないようだ。
「また刺されたぞ────!!!」
「通り魔だ────!!!」
「皆逃げてぇ────!!!」
「え、通り魔? まじ?」
大きくなった叫び声は僕らの前の方から聞こえて来た。
遠くを見れば、ごたつくお昼時の人の群れが避けるように2手に別れている。
その中から出て来たのは、1人の男。
その手にはよくは見えないけど、鈍く光る銀色。微かに見える赤。
まさか。
「通り魔だ────!!!」
「もう何人も切られてるぞ────!!!」
「皆逃げて────!!!」
別れた人の波から、こちらに向かって来ている。
その先には、皆が。
いつの間にか場所が入れ替わっていたのか、芦花が背中を向けていた。
男はその手の凶器を振り回しながら、突っ込んでくる。
爆音のCMが邪魔したせいか、皆は気付いてない?
嘘でしょ?
急に並んでたはずの人の列がまばらに逃げていく。
気付いた時には体は動き出していた。
ちょうど男が来る方を向いていた真実と酒寄さんが、驚愕に顔を染める。
その顔を見て、ようやく守と芦花が振り向く。2人の顔が凍り付く。
間に合わない?
間に合わせる。
男が、芦花の目前まで、迫る。
銀色が、鈍く、光った。
それは。
それはだけは。
ダメだ。
「芦花っ!!!!」
「アキく──」
彼女の手首を掴んで力一杯引き寄せ場所を入れ替える。
その目の標的は、
そうだ。
それでいい。
「────っ!?」
腹部に衝撃が走った。
一瞬の冷たさと、異物が、通った、感じ?
じんじんと、熱を感じるような。
もしかして、刺された、のかな?
「────アキくんっ!?」
良かった。
芦花を守れた。
でも、目の前の、男は、まだ、狙ってる。
ダメ、だ。それ、は。
それだ、けは。ぜった、いに。ユルサナイ。
痛みは、まだ、感じてない。
到達してない。
なら、こいつを。
「逃す、か」
「!?」
刺されたのを抜かずそのまま、相手の顔を思い切り殴る。
うわぁ、殴った拳の方が、痛いかも。
少しだけ、冷静になる。
いや、なるな。
今止まったら、終わりだ。
芦花が、狙われる。
ダメだ。
ここで、終わりにしろ。
殴られたからか、そいつが手に持っていたそれを引き抜かれた。
うぐっ、ちょっと、きつ。
熱が、流れていくのを、感じてしまう。
でも、まだ。
「芦花、は」
「っ!?」
「絶対、に」
「ぐうっ!?」
「守、る」
「ぎえっ!?」
顔を狙って、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も。
倒れるまで。
その手の凶器を。
その瞳の狂気を。
全てが消えるまで。
「アキくんっ!? 止まってっ! ダメだよ、血がっ!」
止めないで、芦花。
今止まったら、もう、たぶん。
「お願いだからっ! 嫌っ! イヤッ! いやっ! ああああああああぁぁぁぁっっっ!?」
ごめん、ね。
泣かせたくはないんだけど、これで芦花に傷1つでも、ついちゃったら。
今度は、ツクヨミじゃない。
夢で見た悪夢が、ぶり返しそうになるから。
現実でなんて、僕が許せない。僕をユルセナイ。
「はぁっ……はぁっ……芦花……」
「アキくんっ! お願いだからもう止まってっ! その人気絶してるからっ! お願いだから座ってっ! ほらっ! 救急車呼んでるから!」
「うん……そうだね……」
無我夢中すぎて、不審者が気絶してるのに気付かなかった。
あぁ、手が痛いや。
お腹は……なんか、感覚ないかも。
あは、気が抜けたせいで体の力も抜けちゃうや。
へたり込む僕を芦花が支えてくれた。優しいね、ありがと。
でも、傷口は触らないで。手が、芦花の綺麗な手が、汚れちゃう。
傷口に触れようとする彼女の手を、そっと抑えた。
さすがに、汚れてるから、握れない。
「アキくんっ!? 痛いよねっ!? お願いだからっ、気をしっかり持ってっ! ダメっ! 目瞑っちゃダメっ!」
「大丈夫、だって。ほら、泣かないでよ、芦花。僕なら、大丈夫だから」
何が大丈夫なのか。
自分に言い聞かせてるのか、芦花に言い聞かせてるのか。
分からないけど、安心させたくて。
無理だね、出来るわけないよね。
遠くで、誰かが救急車を読んでるのが聞こえる。
間に合うかなぁ。
あぁ、芦花、泣かないで。
せっかくの綺麗な顔が、もったいないよ。
僕のためになんて、泣かないで。
泣くなら、嬉しくて、それがいい。
笑って、よ。
芦花は、笑顔が、1番、素敵、なん、だから。
「芦花────」
「なにっ!? やだ!? お願い! アキくん! 死なないで! イヤ!」
「────聞いて?」
ほら、お願い。
たまには、いいでしょ?
あんまり、しないし。
こんなとき、ぐらいは、ね?
溢れた雫を、取ってあげたかった。
けど────
「芦花……お願い……」
「なに……やだよ……アキくん……いかないで……」
「……大丈夫、だから。だから────」
────そろそろ、限界、かも。
言葉に出来たかわかんないけど、ちゃんと伝わったかな。
伝わらなかったかも。
掠れたような。
そもそも喉を出なかったかも。
でも、どっちでもいいや。
むしろ、聞こえてない方が、いいか。
きっと、僕にその気はなくても。
なってしまうから。
いっそ、聞こえないでいて。
この、最後かもしれない言葉も。
「────笑って芦花」
僕からの
雫が、降って来た。
雨か、彼女の涙か、もう、判別することすら出来ない。
脳裏には、さっき見た紫の花。タツナミソウ。
あぁ、そういうことか。
風邪、引かないでね。
今度は、肩代わり、出来ないかも、だから。
元気で、いてね。なんて、無責任だけど。
こんなこと、かんがえたくなかったけど。
真実、あとは、お願い。
守と、幸せになって。
守、ちゃんと、やれよ。
真実のこと、泣かすなよ。
酒寄さん、芦花を、頼みます。
いつか、気付いてあげて。
ヤチヨ、約束、守れなかったかも。許してね。
僕が先にそうなっちゃったかも。
芦花……ごめん。ありがとう。
ずっと、僕といてくれて。
────────ずっと、大事に想ってた。好きだよ。
ううん。違う。そんなんじゃない。この想いは、きっと。ごめんね────────愛してる。
近くで、
あぁ、そんなとこに、いたんだ、ね。
最後に、彼女に、手を伸ばして。
でも、汚れた手で触れたくなくて。
その手は、宙を漂い、なにも掴めないまま。
そして、僕の意識は闇に溶けた。
────『私の命を捧げます』