芦花と幼馴染   作:キイカ

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視点は芦花へ。
タイトルは『ルリタマアザミ』と読みます
花言葉?
それは────


手折られた瑠璃玉薊

 

 

 

 3月3日、皆で買い物しようと駅前で集まって駅ビルを探索しようと話していた。

 集合前に、真実の家に寄った。

 ちょっとした、相談事があったからだ。

 

「おはよー真実」

「おはよ〜芦花。相談事なんて珍し〜じゃん。彩葉関係?」

「ち、違うよ。今回はアキくん」

「およ? 幼馴染くんがどうしたの〜?」

 

 揶揄われるのはいつものことだけど、やっぱりバレてるのはなんか恥ずかしいな。

 でも、今回はそうではないので! 

 

「来月私たち誕生日じゃん? せっかくだしたまにはアキくんになんか送ろうかなって」

「ほぇ〜。いつもはどうしてるの?」

「2人で買い物して良さげなのをその場で買って渡してる」

「わお」

 

 真実がそんな味気ない誕生日なのか……って、ぼやいてるし。

 お互い長く一緒にいたからか、サプライズとかやらないし、あとはもうこういうスタンスの方がやりやすいってだけの話だ。

 でも、今回は変えてみる。

 なんでかといえば……。

 

「今回はさ、アキくんにいろいろ助けてもらったからさ、たまには驚かせてみたいなって」

「ふ〜ん? 真実さんは助けるのはやぶさかではないけど? でも、具体的に何をどうしたいの?」

「え〜っと、こっそり何か買って送ろうかなって。実は、去年はそれで私が買わなかったイヤリングくれたからさ」

 

 ちょっと真実さん? 去年の話で目を輝かさないでくれます? 

 そんなキラキラ顔で迫られても何も話さないよ? 

 お口チャックで、抵抗だ。

 

「……」

「むぅ、まあサプライズ的な感じを狙いたいのね」

 

 サプライズになるかは分からないけどね。

 でも、あのイヤリングのプレゼントは嬉しかったから、同じようにしてあげたかった。

 全然付けれてないのがちょっと残念だけどね。

 左耳のピアスが、私の今の定位置だから。

 いつかは付けたいけどね。

 

「おっけ〜。じゃあ、今日はそれとなく良さげなものを探そうか〜」

「よろしくね」

 

 よし、真実も味方にしたし、集合場所に行こう! 

 

 

 

 集合場所にはもう男子2人が来ていた。

 いつも思うけどあの2人早いよね。

 いつからいるんだろ。今度、もっと早くに来てみようかな? 

 なんて思いながら2人に声をかけた。

 アキくんは相変わらず流れるように褒めてくるし。

 私の幼馴染は、タラシ属性でも持ってるのかな? 

 でも、最近は真実にはやらなくなったし、弁えてるかも。

 それから集合5分前くらいに彩葉が来た。

 今日の服はよく着てるグレーのワンピースじゃなくて、制服風の組み合わせだった。

 何着てても彩葉に似合ってるからずるいなぁ。可愛い。

 

「揃ったし、れっちご〜!」

 

 真実の掛け声で私たちは駅ビルに向かって歩き出した。

 途中、彩葉に私と真実の衣服について聞かれた。

 

「今日の真実と芦花、服似てない?」

「んー、狙ったわけじゃないけどね。たまに被ることあるんだよね」

「そだよ〜決して彩葉を仲間はずれにしたわけじゃないよ〜」

「んなっ、別にそんなこと思ってないし?」

 

 んふふ、さてはちょっと気にしてるな? 

 今度皆でお揃いの服でも買って、一緒にお揃いコーデしようね。

 

 

 

 結論から言うと、探索は失敗。

 あんまり、良い感じのものは見つからなかった。

 候補には上がるけど、最終選考で全部弾かれてしまった。

 むぅ、また別の場所を探すか。

 なんてことをしてるうちにお昼時だったらしい。

 ファミレスに行こうってことで、そちらに向かう途中。

 アキくんが、気付いたら止まってるのに気付いた。

 視線の先には、花屋? 

 珍し、こんなところにあったんだ。

 何見てるんだろ? 

 紫色の花かな? 

 

「アキくん? 何見てるの?」

 

 声をかけたら、なんでもないと誤魔化されてしまった。

 別に、何見てるか気になっただけなんだけどね。

 でも、私も気になる花が1つあった。

 青紫色のトゲトゲした感じの、花? か、わからないやつ。

 名前は……ルリタマアザミ? 綺麗な名前。

 だけど、見た目はすごい、刺々しいと言うか、ウニみたいと言うか。

 ウニみたいは、真実の言いそうな感じだな。ちょっとうつったかも。

 

 

 

 アキくんと皆の後を追ってファミレスの前へ。

 お昼時だから流石に混んでるな。

 列を成してるところに私もするりと皆のところへ入る。

 近くのCMの音大きいなぁ。

 皆の声が聞きづらいんだけど。

 心なしか皆も声を張り上げてるように聞こえる。

 

「結構並んでるな」

「まあお昼時だしね〜」

「5人も入れる?」

「名前書いて待ってみるしかないね」

 

 鳩河くんと真実、彩葉と私は混み具合を確認しながら名前を書くやつに代表して真実に書いてもらう。

 私はメニュー見ようかな。

 取りがてら少しお店側に寄った。

 

「何頼む?」

「わたしドリア〜」

「俺はピザにします」

「私サラダでいいか「あとドリアとピザね〜」そんなに食べれないよ!?」

 

 私がメニューを見ながら皆に聞くと、あれこれ帰ってきた。

 彩葉は相変わらず安いもので済ませようとしてるし。

 真実、ナイスガード。

 こっそり真実に親指を立ててサインを送る。

 気付いてくれたので、ニヤニヤ顔が返ってきた。

 さすが、私の親友。通じ合ってるね。

 

「また刺されたぞ────!!!!」

「通り魔だ────!!!!」

「皆逃げてぇ────!!!! 

「ん?」

 

 なにか叫び声のようなものが聞こえた気がした。

 けど、気のせいかな。

 爆音CMのせいで、全然聞こえない。

 騒音被害では? これ。

 なんて、ことを考えていたせいか。

 私は気付かなかった。

 気付くのが遅れてしまった。

 だから。

 

「通り魔だ────!!!」

「もう何人も切られてるぞ────!!!」

「皆逃げて────!!!」

 

 その声が耳に入る頃には、周りは大騒ぎで。

 なにより、前にいた彩葉と真実が驚いた顔をしていたから。

 私と鳩河くんは振り返った。

 振り返った先には、鈍く光る銀色の何かを持った男が。

 

「────あ」

 

 こちらにもう着くところだった。

 う、そ、刺される? 

 そう思ったところで。

 

「芦花っ!!!!」

 

 幼馴染の呼ぶ声がした。

 手を強く引かれる。

 

「アキく────」

 

 私の場所と入れ替わるように。

 私が最後まで言う前に。

 彼は私のいた所に立って。

 そして。

 

「────っ!?」

 

 見えなかった。

 でも、アキくんが身を固くしたような気がした。

 ささ、れた? 

 さ、された。

 刺された、え、アキくん、が? 

 

「────アキくんっ!?」

 

 思わず悲鳴が漏れた。

 いや、漏れたというよりかは自然と口から流れ出た。

 止める間も無く、必要もなかったけど。

 私を庇って? 私の代わりに? 私のせいで? 

 取り乱してしまう。

 そんなの仕方ないことだとは思うけど、でも。

 アキくんは違って。

 

「逃す、か」

 

 彼を刺した目の前の不審者を強く睨み付けて、底冷えするくらい冷たい声を出した。

 一瞬いつものアキくんとは似ても似つかなくて、誰か分からなかった。

 そして、声と同じくらい冷たい雰囲気のまま、彼は拳を握りしめた。

 

「芦花、は」

 

 握った拳で。

 

「絶対、に」

 

 何度も。

 

「守、る」

 

 きっと私が襲われないように。

 刺されて痛くて辛いはずなのに、それを無視して不審者をどうにかしようとしていた。

 そんなアキくんの手から血が滲んだのを見て私は我に返った。

 

「アキくんっ!? 止まってっ! ダメだよ、血がっ!」

 

 それ以上はダメだよ! 

 アキくんの手が、手が壊れちゃう! 

 やめて! もう、大丈夫だから! 

 

「お願いだからっ! 嫌っ! イヤッ! いやっ! ああああああああぁぁぁぁっっっ!?」

 

 私のせいで、傷付かないでよぉっ! 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤだイヤだいやだいやだいやだいやだいやだっっっっ!?!?!? 

 涙が、流れる。

 止まらない。

 なんで、私の、せい、で。

 

「はぁっ……はぁっ……芦花……」

 

 途中息をついたアキくんがようやく止まる。

 

「アキくんっ! お願いだからもう止まってっ! その人気絶してるからっ! お願いだから座ってっ! ほらっ! 救急車呼んでるから!」

 

 彼は相手が気絶していることにも気付いていなかった。

 私は彩葉が救急車を呼んでいるのを、遠く感じながら聞いていた。

 

「うん……そうだね……」

 

 そういうと、彼はへたり込んでしまった。

 慌ててその背中を支える。

 そうして彼を正面から見て、絶句した。

 お腹から、血が。

 流れ出て……。

 思わず、触れようとして。

 でも、彼の手がやんわりとそれを抑えて。

 なんでよ。

 どうして止めるの。

 抑えさせてよ。私のせいなのに。

 なんで、何もさせてくれないの? 

 なんでよ、なんで。

 半狂乱気味に、彼に声をかける。

 

「アキくんっ!? 痛いよねっ!? お願いだからっ、気をしっかり持ってっ! ダメっ! 目瞑っちゃダメっ!」

 

 今にも目を瞑ってしまいそうな、今閉じてしまえば、もう2度と起きない眠りについてしまいそうで。

 私の瞳は涙を止めてくれない。

 感情が溢れて止まるところを知らない。

 止められない。心が拒否している。

 現実を。

 この惨状を。

 こんなありえない事実を。

 

「大丈夫、だって。ほら、泣かないでよ、芦花。僕なら、大丈夫だから」

 

 なのに、どうして。

 どうして、あなたはそんなに嬉しそうに笑っているの。

 なんで、辛そうな顔をしてくれないの。

 私はこんなに辛いのに。

 どうして当の本人が、大したこともないような顔をしているの!!!! 

 

「芦花────」

 

 いつもの声よりも、かなり、か細く聞こえる。

 嫌だ。

 

「なにっ!? やだ!? お願い! アキくん! 死なないで! イヤ!」

 

 もはや、何を言ってるのか。

 何が嫌なのか。

 何もかもか。

 今、目の前でなぜか笑っているあなたも。

 何もできない私も。

 震え続けるこの手も。

 止まらない感情の流れも。

 抑えられない心の衝動も。

 

「────聞いて?」

 

 聞きたくないよ……。

 そんなお願いするような言い方……。

 やだよ、やめてよ。いつもみたいに話してよ。

 いやだよ、隣にいてよ。

 

「芦花……お願い……」

 

 やだ……。

 いやだ……。

 なんでよ……。

 アキくんがなにしたの……。

 何をしたって言うの……。

 

「なに……やだよ……アキくん……いかないで……」

 

 幼馴染なんだから、私の隣にいてよ……。

 いかないでよ……。

 どこにも、遠くになんて……。

 私を、置いてかないで……。

 

「……大丈夫、だから。だから────」

 

 大丈夫なんて、言わないでよ……。

 そんなわけないのに……。

 聞きたくない……。

 いやだ、聞きたくない、聞かせないで。

 ダメだ、ちゃんと聞け。

 聞かなきゃ後悔する。

 嘘だ、聞いても後悔する。

 彼は、掠れたような、もはや声としては聞こえなかったかもしれない。

 でも、私は、理解できてしまった。

 無理だよ……そんなの……。

 

「──── 笑って芦花」

 

 酷いよ……。

 そんなこと言うなんて……。

 なんでよ、出来るわけないじゃん。

 こんな状況で、こんな状態で、こんな、こんな……! 

 雨が、降って来た。天気予報なんて、見てなかった。

 いつかの帰り道が頭を過った。

 いやだ、また一緒に濡れて帰ろうよ。

 小さい折り畳み傘で、2人で分け合ってさ。

 風邪引かないでねって、注意してよ。

 風邪引いたらお見舞いに来てよ。

 そんな、私に呪い(祈り)を残していかないでよ。

 そんなつもりじゃないのは、分かってるよ。

 でも、それなら、ちゃんと口にして伝えてよ。

 ずるいよ。

 なんで、それだけ言って、そんな……そんな────! 

 

「綺麗な、顔して、るの……!」

 

 ────ダメだ。

 心が……もう……いやだ……嘘だ……こんなの……夢……。

 何もかも投げ出したい。

 投げてしまおう。

 こんな、こんな世界なんて……。

 

「芦花っ!」

 

 遠くなる現実に、意識を投げようとして。

 親友の声が私を繋ぐ。

 繋がれて、しまう。

 やめてよ、私のことなんて、おいといてよ……。

 ほっといてよ。

 気にしないでよ!!

 そっとしといてよっ!!!!

 

「落ち着いて!」

 

 ……出来たら苦労しないよ。

 

「……無理だよ」

「いいから! 私の声を聞いて!」

 

 ……聞こえてるよ。嫌な音も、なにもかも。

 

「……もう、いやだよ」

「分かってる! それでも!」

「分かってない! 真実に、なにが……」

 

 良くない。

 分かっている。

 でも…………でも! 

 この、アキくんと過ごした10数年の思い出を、真実に分られたくない! 

 例え、それが善意だとしても! 

 今の私に、それは、必要ない! 

 

「……うん、分からないよ。でも、今の芦花は危ないから」

「…………放っておいてよ」

 

 分かってるよ。

 張り裂けそうな心の痛み。

 いや、壊れて粉々になったのかもしれない。

 どっちでもいい。

 どうでもいい。

 今、目の前で、眠っているように見える彼の、痛みに比べたら。

 

「だから、今は、私の声を、聞いて」

「…………」

 

 なにも、言わない。

 言えない。

 

「…………聞きたくない」

「お願い……芦花まで、いかないで…………」

 

 涙声が、聞こえて。

 ハッとした。

 

「……真実」

「残されるのが辛いのは、そうだよね。でも、芦花まで置いてかないでよ……」

「…………あ」

「私を……おいて、いかないで────独りに、しないでよ」

 

 ここで、私が、壊れてしまったら。

 真実が、長く過ごした一緒にいた彼女は、1人になる。独りに。

 鳩河くんや彩葉じゃ、埋めれない、私と彼との3人の3年間の絆に、穴が空く。

 ……ははっ。酷いや。

 こんなにも辛くて悲しくて、もうどうにでもなってしまえばいい。

 そんな私のことを、引き止めるなんて。

 でも、そうだ。

 真実を、独りには出来ない。

 私の理解者を。大事な親友を。幼馴染が許した最初の友達を。

 

「…………ごめん」

「……なにに?」

「独りにしようとしたこと」

「いいよ。私も酷いこと言った」

「じゃあ、おあいこだ」

「うん、おあいこ」

「だから、今だけ、ごめん」

「いいよ、私が隠す」

 

 優しい親友。

 ありかとう。

 今だけは、この雨と、あなたの小柄な体で。

 私の壊れてしまうような感情を、心の叫びを、流し切るのを隠して。

 じゃないと、もう、壊れ切ってしまうから。

 戻って来れなくなってしまうだろうから。

 

 ごめん、真実、少しだけ、あなたを恨むよ。

 

「────────ぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 記憶の中のあなたが、私にそっと笑いかけた。

 

 

 


































────『傷付く心』
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