たまには片付けましょう。
3連休最終日、今日のアキくんは受けれなかったテストを受けている。その後はバイトなので夜まで帰って来ない。
まだ4ヶ月近くすっぽかされた穴埋めは足りてないけど、仕方ないか。
今日も真実に構ってもらおう。
「真実〜うち来て〜」
『はいはい。少々お待ちくださいお嬢様〜』
昨日は真実のカフェ開拓に付き合ったので今日は私の我が儘に付き合ってもらう。
電話で呼び出し、サクッと用件を伝えた。
こんな感じのやりとりも、もう何度目かは分からないくらい。
4ヶ月の間にたくさん呼び出したり、呼び出されたり。
最初の1ヶ月の時が1番多かったかも。ほぼ、泊まりってくらい呼んでた。
今は落ち着いたし、
とはいえ、少し寂しい気持ちがまだ残っていて。
前だったら全然気にならなかった1人の時間が、ほんの少しだけ怖く感じてしまって。
こうして親友に助けてもらっている。たぶん、もう少しアキくんを振り回せば、大丈夫になると思うんだけどね。
「やほ〜今日も暑いね」
「ね、来てくれてありがとね。冷房で涼しくなってるよ」
「やった〜あ、お菓子買ってきたけど、食べる?」
「うん、じゃあお茶用意するね」
電話してからすぐ用意して来てくれたのであろう、メイク薄め(でも元が良いので可愛い)の親友が、お菓子も携えていた。
あ、これ前にアキくんが買ってきてくれたやつだ。好きなんだよねこれ。
私の部屋に移動して、クッションに座ってもらう。私はベッドに腰掛けてと。
先に口を開いたのは真実だった。
「で、今日はどしたの〜」
「んー、なんか、1人だなって」
「そっか、寂しいんだ〜。まったく、本人にはちゃんと伝えたの?」
「ううん。困った顔されるだろうから言ってない」
「はぁ〜。まあいいや」
でっかい溜め息で返された。
いや、さすがに彼に寂しいなんて言うのはお門違いだろうし。
原因が彼であろうと、それで私が1人でいるのがほんの少し怖いのは私が強くなかったから。
たぶん彩葉なら耐えれたし。てか、あの時も彩葉は驚いてはいたけど目に見えるほどはショックを受けてたようには見えなかった。
関係性の違いはあるだろうけどね。でも、うん、彼女は強い人だからね。
1人で生活費も学費も稼いで学校の成績もトップで、周りからも慕われる品行方正才色兼備完璧超人を地で行くような子だからね。
私たちの間では、そんなそぶりを出させてもらえなくて不服そうではあるけど、ふとした時にそういうところが出てる時はある。
弱さを隠して強さで守る、そう言う感じに見える。私はそういうところが凄いなって思って、格好良くて、その覚悟の決まった顔が、瞳が、綺麗だなって思ってたんだけど。
「今日、彩葉は?」
「今日も外せない用事があるんだって」
「んぁ〜、昨日もじゃない? 勉強よりも大事な用事なのかな?」
「わかんない。聞いても答えてくれないだろうし、聞いてない」
「……彩葉のこと、気にしてないの?」
「気にしてないわけじゃないけど……今は、アキくんのことの方が大事、かなって思ってて」
「あんだけ追ってたのに?」
「それは……そうだけど、あんなことがあったら仕方なくない?」
「まぁね、でも急には変えれないでしょうに。気持ちの変化でもあったの?」
それはそう、私は今彩葉に向けていた複雑な感情の整理をしようと思っている。
嫌いになったとかではない。大事な友達で、親友だ。
でも、アキくんも大事な幼馴染で、親友で……。
今更ながら、私が彩葉に向けていた複雑になった感情は、アキくんに知らない間に持っていた感情と似たようなものだと気付いてしまった。
あの日、私の中に穴がぽっかり出来てしまったから、なんとか埋めようとしても埋まらない。
真実が一緒にいてくれたから致命的に変わらなかったとはいえ、今もまだ穴は空いたまま。
アキくんと一緒に遊んで、振り回していると、その穴がなんとなくだけど塞がっているような気がする。
ようやく隣に戻って来てくれたからかな。いてくれないと逆に落ち着かないというか。
長年幼馴染として、一緒に居続けた弊害? なのかも。
「まぁ、そうかも」
「ふ〜ん……え。まじ?」
「まじまじ。私の中の気持ちの整理をしようと思って」
「そっかぁ〜……思い切ったねぇ。で、それは終わったの?」
「全然まだ。1人だと頭の中纏まらないから、こうして真実といる時に時々考えてるくらい」
「あ〜だからたまに上の空の時があるのか」
「え、バレてた?」
「もちろん。親友舐めんな?」
「そんなことないよ。でも、そっか。さすが私の親友」
お茶を飲みながら彼女はニヤニヤしてる。
照れてはくれないか。彩葉なら照れそうだけど。
私もお菓子食べよ。
「それで、彩葉の気持ちに好きはあった?」
「ごふっ、ごほごほ。……っはぁ、ねぇ?」
「ごめんごめん、あ、ちょ、今暑いんだから抱えないで……」
食べていたお菓子が盛大に咽せてしまい、慌ててお茶を飲んだ。
その後下手人を強制膝上抱き枕の刑に処した。
私は体温低めなので問題ないけど、真実は逆なのでこうして抱えられると暑くて大変なのだ。
が、まあ今回は彼女が悪いので文句は言わせない。
素直に抱き枕になってね。
「あつ〜……いや、芦花はちょっとひんやりしてるけども」
「私は真実の体温でちょうどいいかな」
「そりゃどうも。で、どうなの」
「ちぇっ、話逸らせなかったか」
「当たり前でしょ。大事な話なんだから」
むむ、なんとなく嬉しいような。
んーでも、彩葉への気持ちは……。
「……どうだろ。好きではあるけど、それは当たり前だけど親友としてだし」
「それが言えるようになったんなら、進歩したんじゃない? 前は言えなかったよね」
私に抱えられ顔の下で見上げている気がする真実が、私の腕をペチペチと叩いている。
確かに、前の私では言えなかったかも。というか、それすら自覚してなかったかも。
今の私は、親友として真実を思い、それが親友への好きだと理解して、彩葉への思いの1つもそうだと気付いた。
複雑なまま放っておいた気持ちを、紐解かないと、本命に辿り着けない。
彩葉への複雑な感情を1つ1つ言語化したら、その次はもっと難しい気持ちに向き合わないといけないから。
「……大変だ。気持ちの整理だけで、真実を抱えないといけないなんて」
「それ、大変なのわたしでは?」
おっと、お人形さんにバレてしまった。
強めに抱き締めて誤魔化しておく。
腕の中でちょっともぞもぞしてるけど、無視。
しばらくしたら諦めて落ち着いた。よし。
「はぁ。で、それ以外は?」
「全部吐かせる気?」
「何度も抱えられたくないのでね。わたしも守との時間があるわけだし」
「そりゃ何度も時間取らせるのは申し訳ないけど……待って今呼び捨てにした?」
「バレた?」
「さすがにバレるね。私を舐めないでよね、彩葉なら気付かないだろうけど」
さっきの意趣返しみたいなことして、まったく。
まあでも1年経ってるし、そんな驚くことでもないか。
「いつから?」
「ん〜あの日から? 気付いたらお互いさんくん付けるの野暮ったくて」
「そっかぁ。いいね、そういうの」
「でしょ〜」
幸せオーラをこちらにぶつけてくる親友に私も笑顔になってしまう。
愛いやつめ、なんて。鳩河くんにはちゃんと真実を幸せにしてもらわないと。
「それはそれとして。ほらキリキリ吐きな?」
「ちっ、誤魔化せなかったか」
「諦めな〜」
「うーん、友達としての好き。あれだけ頑張ってることへの尊敬、それを鼻にかけないことへの感心、でもそれをもったいないなって思う気持ちもある」
顔の下で真美が頷いている。
「単純に可愛いし、覚悟の決まった顔はカッコいい。その時の瞳の彩にドキッとしたのは事実だし。誰にでも分け隔てなく接するのは尊敬だよね、私は無理だし。運動神経抜群なのは羨ましいかな? 生活環境は心配とか、不安だね」
彼女がちょっと笑っている。
「もっと頼ってくれたらいいのにっていうのは、寂しさかな。私が力になれてない悲しみもあるのかも」
ちょっと脇腹くすぐられた。
やめてよくすぐり弱いんだから。
抗議の仕方が子供すぎるって。
「くすぐりやめて。ちょっと自己評価低めだったのは分かってるから。でも、アキくんみたいに力になれてないし……あ、ちょ、やめて」
くすぐりが悪化した。
やめて〜〜。
「もう、わたしも芦花もやれることはやってるんだから自信持ちなさい。たかちーは例外」
「分かったよ……んー、あとは、なにがあるかなぁ」
ごちゃついて絡まり固まった気持ちを、1つ1つ名前を付けて整理していく。
すると、驚くくらい自分の中がすっきりするのを感じた。
今まではあんまり深く考えず、ただ彩葉と遊んだり一緒にいたい、力になりたいと思ってたけど。
こうして個別に分けると、私は彩葉をどういう理由で助けたいのか。一緒にいたいのかも理解できた気がする。
そこに、友達としての好き以外はなかったかもしれない。
「整理出来た?」
「出来たかも」
「じゃあ、そろそろ解放して?」
「ダメ。まだもっと難しいものが残ってる」
「うぇ〜まじ? それはなに?」
「アキくんへの気持ち」
「……解散かいさ〜ん。帰宅しま〜す」
「ちょ、待ってよ真実!?」
私に抱えられていた親友は、なんとか脱出しようと暴れ始めた。
まだ、付き合ってもらわないと困るのだ。
逃がさないと言う意思表示を込めて強く抱き締める。
私と彼女の攻防は、私に軍配があがった。
「ぐぬ、身長差があるから、さすがに勝てないか」
「いきなり逃げないでよ」
「幼馴染への気持ちは直接たかちーへお願いします〜」
「そう言うわけにもいかないでしょさすがに」
さっきの彩葉への気持ちも、本人に言えるわけないんだから。
「仕方ないか。で、なに」
「単刀直入すぎるね。そもそもさ、前に話したことがあってあれが大体なんだけどさ。でも、本当にそうなのか、あの日から分かんなくなって」
「ふんふん。……芦花ってさ、好きってどんな気持ちだと思う?」
急だな。
いきなり真実が降ってきた問いは、難題だった。
私には、その好きがなにか、よく分からない。
「相手が欲しいとか、そういうの?」
「違わないこともないけど、そうじゃないかな。やっぱり、告白されても振ってるの、相手を好きになる自分が想像できてないのもあるでしょ」
「むっ、まぁ確かに。告白された人と一緒にいる未来が想像できなくて」
誰に告白されても、誰ともその未来は見えなかった。
「あとは、相手から顔が好きとか、中身が好きとか、身体がどうとか、声が好きとか、そういうことばっかり言われてきたから、好き自体がそういうものだと思ってない?」
「……まあ、そういうのもあるかも?」
大体の人は顔が好きで一目惚れだとか、よく見てないだろうけど優しい性格だとか、所作の綺麗なところとか、どこの中身か分からないところを好きだと言われたっけ。
身体がどうとかは……まあ、2人くらいは……1人はトラウマ気味なあの人。もう1人は高1で告ってきたあんまり良い噂のない人。
声は、何人かいたな。
確かに、私の好きな定義が、そういう外見の特徴とか、分かりやすい中身に寄ってるのは否定できないかも。
「好きってさ、そういうのだけじゃないんだよ。その人と仲良くなりたい、その人と一緒にいたい、最終的にはその人と共に在りたい、みたいな気持ちのことだと思うんだ。わたしは守にはそういう気持ちがあるし、そういう気持ちを持ち続けたいと思ってる」
「そうなんだ……」
「うん。あんだけわたしを想ってくれてるのが分かるんだから、わたしも返さないと申し訳ないしね。もちろん、そういうの抜きに好きになったからってのもあるよ。じゃなきゃ1年も付き合ってないしね」
抱えていた彼女の体温が上がっているのを感じる。
「大人っぽい」
「芦花が迷いすぎなだけだよ。好きにもたくさん形はあると思うよ。それこそ彩葉への好きも、わたしへの好きも、似たようで違うでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「だから、芦花の思う好きを見つければいいと思う。別に好きに正解なんてないから。芦花が自分で見つけた感情を大事にしな〜」
ひゃー、私の親友頼りになりすぎる。
こんなに可愛らしい体から、こんな言葉が出てくるなんて。
ちょっと想定外かも。
「ありがと、参考になったよ」
「ど〜も。幼馴染への気持ちは整理出来そうか〜い」
「ん、頑張るよ。これは私がなんとかしないといけないからね」
私とアキくんの関係の長さから出来たこの気持ちは、一筋縄では行かないと思う。
でも、答えを出さなきゃ。
じゃなきゃ、私を応援してくれてたアキくんにも申し訳ないしね。
「で、急になんでたかちーへの気持ちの整理をしようとおもったんだい?」
「一昨日さ、買い物行ったって話、昨日したじゃん? その時にさ────」
実は詳しく言ってなかった部分を説明した。
「────って言ったらアキくんが変な顔してて。私もちょっと恥ずかしくて試着室篭っちゃったんだけど」
「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
なっが。
溜め息長過ぎて吐かれた先の私の腕、潤ってるんですけど。
「……あのさ、いや、もう何も言うまい。たかちー頑張れ」
「なんでよ、ちゃんと説明してよ」
「…………これ、わたしが説明するのはたかちーに申し訳ないんだけど」
「なんでよ!?」
分かんないんだけど!?
「あー、んー、えーっと、どうしたものか。とりあえず、まずはたかちーとたくさん遊んだりしたら分かるんじゃない?」
「? まあ、しばらくは穴埋めのためにその予定だけど」
「じゃあそれで。わたしは何も言わないから。気持ちの整理も頑張ってね。自分で答え出さないと意味ないから」
なんなの?
真実はそれきりお菓子をさくさくと食べ始めてしまった。
謎が深まってしまった……。
クソボケ……。
まあ、無自覚なのも乙だよねということで。