攻め攻め芦花さんにたじたじなアキくん、まだターンは終わってない!?
水掛け集中砲火から速やかに逃走して、生贄に酒寄さんを差し出そうと砂浜に戻ってきた。
ビーチチェアで優雅に休んでいる酒寄さん。真実の持ってたサングラスを借りたようで、中々様になっているね。
「あれ、荒鷹くんもう戻ってきたの?」
「なんか集中攻撃されたから退避してきたよ。皆酒寄さんと遊びたそうだったから行ってきたら?」
「そうね、せっかく海まで来たし楽しむのも大事よね」
よし、誘導成功。
サングラスを頭の上にスライドして、皆の待つ海辺へ。そこは濡れ地獄の入口ですよーへっへっへ。
しこたま濡らされたし、ちょっと乾かしがてら僕も休もうかな。
「よーっす。頭は冷えたか?」
「お陰様で芯からひんやりしてるよこんちくしょう」
「ありがたく思ってくれ。明らかにお前顔赤かったからな、綾紬さんが怪しむぞ?」
「さすがにあれは不可抗力でしょ。てか、今となってはバレてもいいかの精神でもある」
本当は自分から告白するのがいいんだけど、それはそれとして僕からの好意というか、感情に気づいてほしいなという思いは多分にある。
いや、気付いてもらえないとむしろ、自分が納得できないというか。
収まりのつかなくなった感情を、言葉にするなら2文字で終わってしまうけども、そこに辿り着くまでにかかった時間があまりにも報われなさすぎる。
僕からの一方的な超特大矢印を、芦花に向けるのはいいけれど、彼女ともし双方向になったとき、その大きさの差で怯えられたりしたら……。
素直な気持ちを吐き出すだけなのに、拗らせすぎた想いが、あまりにも重く、深く、大きく、なってしまった。
いつでも思うんだ。
彼女は、こんな特大の感情を、受け止めてくれるんだろうかって。
いまだに踏み込もうとしないのは、きっと心の奥底に怯えと恐れがいるからなのかもしれない。
拒絶、はされないかもだけど、引かれたらどうしよう。
抱えきれないよ、重すぎるよ、なんて言われたらどうしよう。
きっと彼女ならと期待する自分と同じくらい、恐怖で震える自分もいる。
これが、想いを伝える前の試練なのだとしたら、あまりにも苦難の道すぎる。
覚悟は決めた。でも、相反した気持ちが僕のもう何歩かを遅らせる。
きっと、もうゴールは近いはずなのに、未だにその姿は見える気配がない。
あれだけ守と真実の背中を押したはずなのに、いざ自分のこととなるとこんなにも臆病だなんて、笑われてしまうね。
守はちゃんと漢を見せたのに、なんてざまだ。
ため息が出てしまう。
「お前がいいならいいけどよ、後悔すんなよ?」
「しないよ。気持ちがバレたならそこで覚悟を決めるよ」
「どうだかな。お前はそういうとこで日和そうだ」
「……守も似たようなことを言うんだね」
「誰かに同じようなこと言われたのか?」
うん、遠い昔の、親友にね。
青い蒼い空を見上げながら、呟いた。
そうか、とひと言発した彼も、そのまま同じように見上げている。
あいつも、きっとどこかで見守ってくれてるはず。
不甲斐ない姿はもう見せ切ったから、頑張らないと。
もう何度目かな気合いを入れ直す。
とはいえ、芦花からぐいぐい来られちゃうとどうにも調子は狂っちゃうけどね。
「さてと、みんな戻ってきたらお昼にしようか」
「お、荒鷹お手製の海弁当だな?」
「まあ屋台飯を作ってきただけだけどね」
「それでも楽しみだわ。腹減ってきた」
「はやいて。4人が戻るまで我慢」
「つまみ食いしたい」
「ダメ」
「ケチ」
ケチで結構ですー。
せっかくたくさん用意したんだから、皆で食べたいよね。
「いっぱい水かけたー!」
「私びしょ濡れなんだけど……?」
「彩葉、わたしも」
「私もなんだけど真実」
水遊びも満喫したのかようやく4人が帰ってきた。
順に、上から下までびっしょり濡れてるかぐや、それ以上に濡れてもはや髪の毛が大変なことになっている酒寄さん、水を浴びたことにより癖っ毛が発動してややテンションの低い真実、そして謎に顔は全く濡れてないけど首から下は大体濡れてる我が幼馴染。
いや、なんで顔だけ死守出来てるの? すごい技術だな、これも美容インフルエンサーが成せる技……なのかな?
「おかえりー、お昼にしよー」
「やっほ〜い! ご飯の時間だ〜!!!」
「うおっ、めちゃ元気になった」
「真実だから当然だよね」
ご飯だよーと声をかければさすがはグルメインフルエンサー。先ほどのローテンションなどなかったように一気にボルテージが上がった。
思わず守が驚いてるよ。芦花は当たり前のように流したけどね。
「かぐやも作ってくればよかったー!」
「さすがにこの人数の費用はちょっと……いやでもいつももらってた分お返しするべきだったか?」
「いつものやつだから気にしないでね、ほら食べよう」
「さてさて、なにかになにかな〜?」
持ってきたでっかい容器をいくつかマットの上に広げる。
1番大きいやつに今回のメインが入ってます。
その他はおかずだよ。
「オープン!」
「お? おぉ〜!」
「「「焼きそばだ〜!!!」」」
「ソースだよ〜」
やっぱ屋台といえばソースの焼きそばだよねってことで。
朝から皆の分もりもり作ってきました。麺は頑張ってフライパンで少し焼き目をつけております。こうするとカリッとして美味しいんだよね。
で、ソースは普通に中濃ソースだけじゃなくカレー粉をちょっと入れてピリッとね。
具材は野菜も取れるようにたくさんキャベツにもやし、にんじんたまねぎ。全部細めに切ったから食べやすいはず。もちろん豚肉も入ってるよ。
あと恒例の卵焼きに、ミートボール、ミニ唐揚げ。
味濃いものばっかだと飽きるからきゅうりの漬物と大根の漬物も用意したよ、これでお口リフレッシュ。
メインの焼きそばはそれこそ6人分以上(真実の分を考慮)ある。これのおかげで来る時肩が痛かった。さすがに重かったよね。
「す、すご……こんなにたくさん?」
「アキくん気合い入ってるね、去年はここまでやってなかったよね?」
「去年はちょっと夏バテ気味でやる気が……というのは冗談で。おにぎりの気分だっただけだよ。今年はせっかくだし焼きそばたくさんやるかーってなっただけ」
「にしてもたくさん作ったねー! 1人でやったの?」
「そうだよ、用意できるものは前日にやってるけどね。野菜切ったりとか唐揚げつけたりとかは」
「かぐやもやりたーい! 今度教えて!」
「機会があったらね」
超特盛焼きそばに皆興味津々のようでなによりです。
皆に取り分けれるようにお皿も持ってきたけど、全員に回してもまあまあ残りますね。
とりあえずもう我慢できなくて口から涎のこぼれそうな方が1名いるので早く食べましょ。
「それじゃ手を合わせて……」
「「「「「「いただきます!!!」」」」」」
食事の挨拶と同時に真実がさっそく焼きそばをぱくり。
「んまぁ〜! たかちーさすが!」
「どーも」
「んん〜! アキ! 今度作って! 見たい!」
「また今度ね〜」
「荒鷹、俺お前に勝てる気しないんだけど」
「年季が違うからね。まあ、精進あるのみだよ、彼女の胃袋掴みたいならね」
「ぐぬぬ」
絶賛している食欲コンビはあっという間にお皿を空にしておかわりに入った。はや。
守はなんか愕然としてるね。まあ当然ですが? こちとら年単位で作り続けてますので?
んで、反応がなかったように見えた酒寄さんはというと。
「無言で泣いてる!?」
「美味しくて……かぐやのご飯もめっちゃ美味しいんだけどさ、荒鷹くんのって庶民的というか家庭的というか、こう少しほっとしちゃうのよ」
「なんか複雑な感想ありがとう。とりあえずかぐやが捲れるか絶対伝えないでね」
「分かってるよ。……あぁ、うま。私もおかわりもらお」
「あ、はい」
大絶賛のようでなによりです。
あ、気付いたらおかずもちょこちょこ減ってる。
皆よく食べてくれてるようでなによりです。
そういえば芦花がなにも言ってないな?
あれ、なんかすっごい半目で見られてる?
「どしたの、なんかついてる?」
「いや? そういうわけじゃないけど。あ、焼きそば美味しいよ、ありがとね」
「いえいえ〜。皆でご飯食べたかったのでね」
「……うん。卵焼きもいつも通りで、美味しい」
「ふふふ、これは普段のと変わらないやつだよ。他のは多少味付け変えたりしてるけどね」
「私は、卵焼きが1番好きかな。アキくんの卵焼き食べるとなんかホッとするんだよね」
そう言ってもらえると卵焼き作ってきた甲斐がありますね!
正直入れるか悩んだけど、芦花のことを考えてたら勝手に作ってた。我ながら恐ろしいね。
焼きそばも好評でなにより。でも、芦花はなんだか不満げというか、なにか思うところがありそうな感じがするね。
「どもども〜。にしても芦花、なんか気になることでもある? 綺麗なお顔にちょいと陰りが見えますよっと」
「言い方〜。いや、なんてことはないんだけどね。なんだか、アキくんが褒められてるのが嬉しいんだけど、少し言葉にしづらいような気持ちもあってさ、なんだろうね」
「んん?」
言葉にしづらいとな。そう言われてもちょっと心当たりがないですね。
いつも通りのことしかしてないはずなんだけど、なんかあったか?
まあ芦花も分かってなさそうだし、置いておこうかな。今はご飯を楽しみましょうね!
「分かんないことはおいておこう! ほら、唐揚げも食べてよ!」
「そうだね、おいとこっと。じゃあいただきまーす」
おいしー、って頬張ってる君も可愛いね。
やっぱり悩むよりも笑っていてね。
「ろかってやっぱり……」
「どしたのかぐやちゃん」
「いや、なんでもない!」
「?」
かれこれおかわり5回目の食欲旺盛な2人会話が、少しだけ聞こえた気がした。
綺麗に平らげられたお弁当箱を片付け、しばし食休み。
大きめビーチマットなので、皆で座れます。
が、さすがに高校生(1人年齢不明)5人ともなるとちょい狭い。
ビーチチェアは酒寄さんがゆったりと使ってるので、その他5人がマットにいるわけで。
かぐやはもう動き始めていて、なにやらビーチボールを膨らませ中。
真実は守の胡座の上でなにやら談笑中。距離ちっか。これがカップルの距離……。
芦花は僕の隣で日光浴、と言っていいのかは分からないけど、麦わら帽子を被って海を眺めている。
僕? 隣の綺麗な横顔をたまにチラ見しながら同じように海を見てるよ。
今日は快晴なので、面白い雲とかもなかった。寄せては帰る波をぼーっと見るのも心が落ち着いていいよね。
「穏やかだねぇ」
「ね。これだけ天気が良いと、清々しい気分にもなるね」
「雲一つもないもんね。海日和ってやつだ」
「たしかに。いつか沖縄とかの海も行ってみたいな」
「いいね、皆で行こうよ」
ぼんやりとした会話を、続ける。
しかし、僕の発言にすぐには返事がなかった。
あれ、なんか変なこと言ったかな。
「……そうだね、行きたいね」
よかった、返ってきた。
けど、なんか間が空いたな。
なんだろな。
「アキくんは、皆で行きたい?」
「ん? まあ、その方が楽しいんじゃない?」
「それは、そうだね。でも、その……」
なんだ? 歯切れが悪い感じ。
言いづらいことでもあるのかな。
「……たとえば。そう、例えばの話なんだけど!」
「う、うん」
「2人で行くのとか、どう?」
「2人?」
「うん」
「誰と誰?」
「私とアキくん以外いる?」
「……」
「アキくん?」
思考が停止しました。
再起動まで少々お待ちください。
「おーい、アキくーん」
「はっ」
「ちゃんと聞いてた?」
「なんだっけ、沖縄の話だっけ」
「そう、例えばだけど2人で行けたとしたらって話」
気のせいじゃなかったかー。
いやうーん。芦花と2人で旅行? ご褒美ですか?
でも沖縄かぁ、海行ったり、観光名所見たり、美味しいもの食べたり?
……悪くはないけど。
「悪くはなさそうだけど、どうせならもっと近場でのんびりしたいかも」
「そうなの?」
「うん。旅行も悪くはないけどさ、近場の温泉とかで過ごして緩く時間を使うのもありだと思うんだ」
「たしかに。遠くに行くよりも近いところの方が時間もたくさん使えるもんね」
「そゆこと。旅行自体はいいけど、気を張っちゃうしね。僕は芦花と2人ならもっとのんびり過ごしたいかも」
じゃないと色々振り切れそうだし。
「そっかぁ。アキくんはそういう感じかぁ。なるほど」
「なになに? なにを納得したんだい」
「気にしないで。大きめの独り言だから」
ずいぶんでっかいねぇ。
まあいいけどさ。
にしても、早くからご飯作ってたから、やっぱし眠気が……。
「くぁ〜……ぁふ」
「おっきいあくび。眠くなっちゃった?」
「さすがに早起きしすぎたかも。昨日の夜も仕込みやら勉強で普段通りよりちょい遅めだったし」
「いろいろありがとね。少し寝たら?」
「でも、皆といるのに……」
「気にしないって。今も彩葉寝そうだし」
ほんとだ。サングラスで隠してるけど、呼吸の間隔が緩やかになってる。
でもなぁ、真実とか守とかかぐやの前で無防備に寝るのはなぁ。
「俺らちょっと買い物行くけど、どうする?」
「かぐやも行く〜!!!」
「私はパス」
「僕も」
「おっけ〜、じゃあ行ってくる〜」
「いってら〜」
タイミング良く。
いや、良すぎないか?
狙ってるんじゃないかってくらいちょうど良く、3人が離脱。
この場に残るのは、寝息をたて始めた酒寄さんと、眠気が襲ってきてる僕と、なにやら僕を寝かせようとしている芦花。
これ、寝ろと言われてる?
「なんか、皆行っちゃったね」
「ね。おあつらえ向きに寝れそうな感じになってしまった」
「いいんじゃない? 戻ってきたら起こしてあげるよ」
「いいの? ん〜……じゃあ、ちょっとだけ……」
「ふふ、おやすみ、アキくん」
体育座りのまま、項垂れるように頭を下げて目を瞑る。
思いの外眠かったのか、すぐに意識は遠ざかって────。
「首痛めちゃうから、仕方なく。うん、仕方なくだから、ね」
────幼馴染の、優しい声に気付かないまま。
僕の意識は沈んでいった。
「かぐやちゃんも空気読めるようになったねぇ」
「でっしょぉ〜〜!! あれは確実に抜けないといけないふいんきだったからね!」
「たしかに、そういう雰囲気だったな」
「ん、ふんいき? ふいんき? 違うの?」
「正しいのはふ ん いきだね〜」
「そうなんだ! 難しいね!」
「よくあるミスだから気にしなくても大丈夫だよ。どっちにしても伝わりはするしね」
「日本語すっげぇ〜」
「? ところで、気のせいじゃなければ、荒鷹と綾紬さん近くないか?」
「え〜ほんとにぃ〜……あ、たしかに」
「! ろか、肩貸してる!」
「かぐやちゃん見えるの!?」
「なんかろかの顔がすっごい優しくて、嬉しそうな顔してるのは見えたから! きっと、そんな感じなんじゃないかなって!」
「ありうる〜。芦花ったら、水着なのに大胆だね〜」
「たしかに! 水着なのにだいた〜ん!」
「これ、荒鷹起きたら大変なんじゃないか?」
「それはそうかも。でも、それもまたおいしいよね」
「たしかに」
「おいしい? 食べるの?」
「違う違う。展開が良いよねってこと。おいしいにもそういう使い方があるんだよ」
「ほぇ〜! 日本語ふか〜い」
「かぐやちゃんの語彙力が分からなくなってきた」
「俺も」
「かぐやも〜♪」
「「いや自分は分かってなさいよ」」
水着といえど、素肌は素肌。
起きたらアキくんはどうなってしまうのでしょう!
ちなみに、まだ芦花のターンがあるよ!