さてさて、みなさま覚えてますかな、水着のこと。
彩葉が倒れたとグループに流れて、親にどうしても早く帰りたいとねだって1人だけ先に帰ってきてしまった。連絡が来て次の日のことだった。
そこそこ距離あるから大変だったけど、そんなの彩葉のことに比べたら苦でもない。
家に着いたのがおやつどきの前くらい。
まだお宅訪問しちゃっても大丈夫かな?
一応連絡入れておこう。
『今からお見舞い行こうかなって思ってるんだけど、大丈夫?』
彩葉に連絡して、返ってくるのを待ってる間に荷物の片付けをする。
予定より2日ほど早かったけど、まあまあ量あるなぁ。
とりあえず洗濯ものとか回さないと。
お、通知の音。
『お見舞い来てもらうほどじゃないよ。大丈夫、ありがと』
「はぁ……まあ彩葉ならそういうと思ってたけどさ」
予想通りと言えばそうなんだけど、うーん。
ここは、幼馴染の力を借りるか。彼なら断れないだろうし。
電話、出てくれるかな。どうせなら声が聞きたい。
するりとでてくる欲に、ほんの少し苦笑い。
連絡先から彼の電話番号を押す。
コール音が響く。
……。
『もしもし? どしたの芦花、帰ってくるのもう少し先じゃなかったっけ?』
1週間も空いたわけじゃない。
のに、久しぶりに感じる幼馴染の声は、安心感があって。
帰ってきたなと、思ってしまう。自分の家なのに。
「あ、アキくん? 彩葉が心配で帰ってきたんだけどさ、お見舞い断られちゃって。一緒にどう?」
『そーゆーことね。いいよ、かぐやに聞けばOK出るでしょ』
「りょーかい。お願いしていい?」
『任せといて〜、じゃ、後でね』
「うん、後で」
通話を終える。
短いけど、声が聞けてなんか、嬉しい気持ちになった。
むぅ、さすがに焦がれすぎ?
比べるのはどうかと思うけど、彩葉の時にはここまで焦がれていなかったような。私の心は複雑らしい。
さて、ちゃんと外出用の服に着替えよう。今の服はおばあちゃん家で過ごす緩い服だから、外には出たくはないかな。
帰ってくる時に電車とか乗ったけど、そこはまあ他人しかいないし、気にしない。
私がROKAだってバレなければ大丈夫っしょ。
彩葉へのお見舞いはなんなく終わった。
まだ顔色は悪そうだったけど、よくなってはいるみたい。
無茶なことはしないようにかぐやちゃんに見張られていて少し笑ってしまった。
遅い時間帯の勉強も全部止められてるって。あの彩葉が深夜勉強をしてないだなんて驚きだ。
あまり長居も出来ないので一応買ってあった向こうのお土産を渡して退散した。
アキくんはこの後バイトらしく、残念ながらそのまま職場に向かってしまった。
1人になってすることがなくなった。課題はないし、配信は帰省するから休みと流してしまったし。
うーん、そういえばこの前のかぐやちゃんとアキくんのコラボの配信が話題だったような。
私宛に見て! ってコメントも来てたし。
時間あるから見てみようかな。
「ふぃ〜終わった終わった。帰ろ〜」
本日のお勤め終了〜。
酒寄さんの穴埋めで入ってるけど、やっぱすごいね。さすがに僕1人じゃ埋め切れないや。てかシフトどうなってるのさ、女子高生1人が抱える仕事の量じゃないでしょ。
着替えて速やかに退店。
帰路を歩きながらスマホの確認。連絡はないとは思うけど……およ?
芦花から? なんだろ。
『アキくん、プールいこ』
………………?
文面見てもちゃんと理解できなかった。
プール? 皆でかな?
『皆で?』
確認のため返信。
いや、さすがに2人でプールだなんてそんなまさかね。
うぉっと? 着信? 芦花だ?
「もしもし?」
『プール、皆じゃないよ』
「……えぇ?」
『2人で、行こう?』
え。
えええ。
えええええ〜〜〜〜!!??
ど、どゆこと!? なんで2人!?
なんかあったっけ!? そんな話とか約束とかなんもなかったよね!?
『アキくんは、いや? 私と、2人で行くの』
何の反応も返さない僕に、芦花の声が少しだけ低くなった気がした。
怒ってるわけではないと思うけど、慌てて僕も返す言葉をなんとか考える。
「い、いや、そんなことない、けど。でも、いいの? 2人だけだなんて」
『いいの。2人っきりで、行きたいの』
ウッ。断れない……。
2人っきりで行きたいだなんて、なにごとなんだ?
『いつがいい? 明日? 明後日?』
「あ、えっと、明後日でも、いいですか?」
『なんで敬語? いいよ、明後日ね。楽しみにしてる』
通話が終わった。
明後日、芦花とプールかぁ。
僕、生きて帰れるかなぁ。
やたら明るい満月が僕を見下ろしている。
満月、月、月見……。
ヤチヨぉ、幼馴染が分かんないよ僕。
落ち着かない心とは裏腹に足はちゃんと家に向かっていた。
いないよな? と思いつついつもの公園にいったら、さっき電話したのに普通に待っている幼馴染にびっくりしてしまった。
バイトでのことを少し話して、そのまま帰宅。
別れ際に、耳元で「期待しててね」って、呟かれてばって振り返ったらクスクス笑ってる芦花が、手をひらひらと振りながら玄関を通り抜けていった。
くっそ、弄ばれてるぅ……。小悪魔めぇ……。
絶対赤いであろう顔を見ないように洗面台で顔を3回くらい洗ってしまった。
日が経つのは早いもので。
あっという間に約束の日が来てしまった。いや、しまったなんて言い方はよくないな。
めっちゃ楽しみではあるからやっと来たなんだけども。
うぐぐ、心が落ち着かない〜!
正直海でもだいぶやられてたのに、2人っきりだなんて、果たして耐えられるのか。
頼む、小悪魔は出さないでくださいお願いします〜。
「やっほ、結構早く来たつもりだったんだけど。アキくん早いね」
「おはよ、芦──!」
お祈りしてて声をかけられるまで気付かなかった。
後ろから来た芦花の声に振り向くと、続きの言葉を出そうとした喉がなにも言わなくなってしまった。
というか、僕もフリーズしてる。
いや、あの、え、うそ。
「アキくん? どしたの? なんか、変?」
だめですダメですそんな屈んで下からの上目遣いまで組み合わせられたら死んでしまいます。
いや、あのね。
本日の芦花さんはなんというか大変眩しくて。
夏だし暑いから肩の出てるオフショルダートップスなのはわかる。白がとっても似合ってる。
でも、下がいつもと違う。
いつもなら、肌見せしないようにジーンズとか、ロングスカートとかが多いのに。
なのに、今日は。
「変、じゃないよ。すごい似合ってる」
「そう? 良かった、こういうの普段着ないからさ、ちょっと不安でね」
そう、普段着ないであろうデニムのスカートなのだ。しかも、ちょいダメージ加工つき。
………………え?
見た目はとても涼しげで、肌の綺麗な芦花の、美しい肩とか足とかが映える素晴らしいコーデだ。
でも、たしか、芦花は、肌を見せるのは、そういう人だけって。
え。
まさか、ね。
そんなわけ。
落ち着け、早まるな。
まだ芦花が幼馴染だから気を抜いてるだけかもしれない。
冷静に、冷静にだ。
「大丈夫、本当に似合ってるよ。似合いすぎてあんまし見せたくないかな」
「ふふ、そう言ってくれるなら嬉しいな。それじゃいこっか」
やばい、今日の芦花は強いぞ。
軽く流されちゃったし。
初っ端からこの先が不安です……。
電車に揺られることしばらく。乗ってる間も芦花の服装が気になって気が気じゃなかった。ついでに不埒な輩が近寄らないようにくまなく気を配っていたので疲れた。
大きな流れるプールが有名なところにきた。
2人ともアクティブに遊ぶよりかはのんびりしたいよねって、この前海で話したことが反映されてる感じです。
で、僕は今更衣室前のベンチに座って待っております。
男の着替えはサクッと終わるからね。
女性の着替えを待つのが男の仕事ですよ。
「にしても、水着、水着。なんか忘れてるような……」
プールの話が決まってからなにか忘れてるんだよね。
なんか、致命的なことを……。
思い出せないんだけど、なんだろ。
ん? なにやら向こうがざわざわしてるような。
「お待たせ」
と、ざわめきの中心を歩いてきた、僕の幼馴染は──。
あぁ、思い出した。
そうだよ、水着ってもう1つ選んでたじゃん。
バカだな僕、こんなこと忘れてるなんて。
目の前に立った、僕の選んだ水着を着ている幼馴染の素晴らしい破壊力。
「アキくん?」
小首をかしげる姿さえあまりにも可愛くて。心臓がバクバクと早くなっていく。
──あの時選んだ水着の、シアートップスとパレオを着ていなかった。
いわゆるビキニだけ。
そんな攻め攻めな子でしたっけ。
分かんないけど、無理──。
「え、ちょアキくん!?」
思ってるより刺激が強かったのか、芦花の声が遠くに聴こえながら、意識がどこかに飛んで行った。
芦花さん、それは反則です……。
ちょっと着替えに時間かかっちゃったのと、恥ずかしいから小走りで幼馴染のところに行ったら、目の前で気絶されました。
どゆこと?
「アキくん? アキくーん」
だめだ。反応なし。
えぇ……そんなことある?
水着見せただけで、気絶? されるとか。
どうしよ、とりあえず日陰に行きたいところなんだけど。
あと、周りの視線がちょっと気になる。
やっぱ攻めすぎたかな。アキくん以外に見せたいわけじゃないから、当人がこれだと意味ないんだけど。
とりあえず上は羽織っておこう。
下は後でいいや。
「起きてー、焼けちゃうよー」
むう、ほんとに反応ないな。
どうしたものかな。
肩を貸して歩こうにも、アキくん大きいからさすがにきついし。
でもいつ起きるかも分かんないし。
ええい、強硬策だ!
「起きて! アキくん!」
ちょっと頬を叩く。
もちろん痛くないようにね。
ダメそうだな、肩も揺らしてみよう。
む、肩幅大きい……、私すっぽり入りそう。
何考えてるんだ私。
早く起こさないと。
「う」
「あ、起きた」
「芦花? 夢?」
「夢じゃないよー現実だよー」
「ワアーボクノエランダミズギダー」
すごい棒読みじゃん。
そりゃもう1つはこの前見せたんだから今回はこっちになるよね。
アキくんが選んでくれたからどっちも着てあげたかったし。
「とりあえず移動しよ? ここは日差しがすごいよ」
「……はっ。あ、うん。パラソル借りようか」
「そうだね、そうしよっか」
ようやく再起動してくれたみたい。
私の水着姿でそうなってくれたのなら、嬉しいんだけど、恥ずかしくもある。
でも、そっか、アキくん気絶するくらいには私のこと意識してくれてたんだ。
ふふふ、やっぱり気のせいじゃなかったかも。
かぐやちゃんの動画で見た、あの時のアキくんの雰囲気というか、見えてないけどきっと浮かべてたであろう顔を想像した。
絶対優しい顔してるなって。
で、それが柔らかめの卵焼きの時だったから、たぶん私のことも考えてくれてるはずって。
固めが好みなのは真実と彩葉だったし。鳩河くんとかぐやちゃんは分かんないけど、まあ私だけとは断定できないけどね。
それでも片隅にでも私がいてくれてたなら嬉しい。
だから、いてもたってもいられなくて誘ってしまった、
わざわざ普段履かないミニスカートまで履いて、肌は見せないって言ったのにね。
シアートップスもパレオもあえて外して、反応を伺おうとして。
結果として大成功だったけど。
意識してくれてるならチャンスはいくらでもあるはず。
アキくんのこと、落としちゃうんだから。
……言っててちょっと恥ずかしいかも。
芦花の破壊力抜群な水着姿に悩殺(事実)されて、なんとか蘇生。
上だけ来てくれてたから大分火力下がったけど、シアー素材だから透けててね、なんか、抑えられてるようで火力が上がってるような。
二段構えってやつ? 隙もないね。
「とりあえず日焼け止め塗らないとね」
「うん、アキくんもちゃんと塗りなよ?」
「僕は別に気にしないけど、焼けた跡が痛いのはやだから塗りまーす」
「よろしい。私も……ねぇ、アキくん?」
なにやら不穏な気配をキャッチ。
この流れ、前にも似たようなことしたな?
「背中塗ってなら、拒否したいところ」
「バレた?」
やっぱりね。
日焼け止めの話から絶対来ると思った。
さすがに今回は遠慮させていただいて──。
「アキくん、だめ?」
「……うぐぅ」
──遠慮させてくれませんでした。
ずるくない? ちょっと瞳を潤ませて小首を傾げながらおねだりしてくるの。
かぐやの真似かな? かぐやのなら効かないんだけど、芦花のは特攻なんですよ。なんでも聞いちゃうよ?
はぁ、負け負け、僕の負けです。
今回も白い灰になるしかないか。
「……分かったよ、塗るよ。今度は我慢してよね?」
「うん、きっと、大丈夫、なはず。たぶん」
こんなに信用できない大丈夫は初めてなんだけど。
絶対、ダメだと思うから心を強く持とう。
てか、またトップス脱いでもらわないと。
「このままじゃ塗れないからトップス脱いでね」
「わかった」
透け感のあるシアートップスだから、脱ぐ前から見えてはいたんだけどさ。
やっぱり布越しじゃなくて直接見ると、ほんっとに綺麗な背中でね。
やっぱ触れるの躊躇っちゃうよ。
でも、この綺麗な背中が焼けちゃうのはもったいないし、痛くなっちゃうだろうから頑張らねば。
焼けた肌の芦花もそれはそれで良さそうだけどね。
「じゃあ、塗るよ?」
「うん、お願い」
更衣室で結んできたのであろう、三つ編みの織り混ざったポニテを軽く上げてくれる。
こちらに無防備なうなじとか、背中とか全部曝け出してる形です。
うぅ、耐えろ、耐えるんだ僕。
今度は失敗しないように、日焼け止めを出して、しっかり肌の温度にならしてから塗り始める。
冷たくなければ、声は出ない……よね?
なんて、思っていたのですが。
「……んん」
「……」
「……んぅ」
「…………」
「んっ……ぁふ」
「………………」
「んぁっ……ごめん」
はい、だめでした。
我慢しようとしてくれてるのは分かるんだけどね!?
うん出来てないね!
なんなら最後は耐えきれなかったせいかちょっと色っぽかったよ!?
健全な青少年の前でとんでもない声出すのやめてもらってもいいかなぁ!?
こちとら理性の紐ギリギリなんだがぁ!? もともと焼かれてる脳みそが灰になるよ!?
優しく丁寧に塗ってるのが悪いのかな!? もうちょい粗めに……いや、それは芦花の肌によくないから却下。
やはり、僕が耐えるしかないのか……くぅ。
「……背中の上は終わったから腰塗るね」
「ありがと、よろしくね」
なんとか半分くらいは終わった。
残りは腰回りだけ。
なんだけど……。
「……」
「んっ」
「…………」
「……うぁ」
「………………」
「ゃんっ」
だぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!
無 理 ! ! ! !
絶対わざとでしょ!
もはや理性壊しに来てますよね!?
抱きしめちゃうよ!? いいんだね!? ぼく止まれないよ!?
「……アキくん? 終わった?」
はっ。
あともう少し声かけてくるのが遅かったら周りとか気にせず抱きしめてた。
危ない危ない。理性が敗北をするところだった。既にしてるって? うるさい、おだまり。
わかってるんだよ僕も、負け戦だったのは。
でもね、やらなきゃいけない時があるんだよ。それが今だったってだけ。
「……オワッタヨー」
「ん、ありがと。……えっと、しばらくしたらプールいこっか」
「ウン、ソウダネー」
でも、それはそれとして少し心を落ち着かせる時間が欲しかった。
ので、芦花の気遣いというか、僕の様子を見て察してくれたのであろう提案がとても嬉しかったです。
うん、その照れた顔さえなければ満点なんだけど、その顔だと確実に僕の理性を削ってるんですよ。
恥ずかしがられると僕も恥ずかしいんだが。
むしろ堂々としてて……っていうのは無理か。
前回もダメだったしね。諦め。
「ねぇ、そういえばさ。感想もらってなかったなーって思ったんだけど」
芦花が控えめにこちらを見ながら、そんなことを言ってくる。
そういえばさっきは悩殺されてそれどころではなかった。
うん、今見ても非常にドキドキが止まらないんだけどね。
でも、ちゃんと伝えないとね。こういうのはとても大事。
「えっと、お世辞とか抜きで本当に似合ってる。自分で選んだの忘れてて芦花のセンス最高だなって思うくらいには」
「……えへへ、そっか。そんなに似合ってるんだ。アキくんが選んでくれた水着、見せれてなかったからさ」
「卒倒しかけるくらいには、破壊力あるよ。……出来れば他の人には見せたくないなっておもうくらいには」
「ふふっ、そっか。そっかぁ、見せたくないんだぁ」
ぐっ、聞こえてたか。
かなり小さく言ったつもりだったんだけど。
でも、紛れもなく本心だから何も言わない。
今日の芦花は、誰にも見せたくないくらい可愛くて綺麗で、僕の心を掻き乱す小悪魔だ。
正直周りの男の視線が気になって仕方がない。
誰が、いつ、彼女に手を伸ばしてくるか。
全てを隠したくなってしまう。僕のではないのにね。
ラッシュガードは今日も用意してるけど、2人っきりだから、僕がいないところではどうなるかわからない。
僕も力は強くはないからね。出来る限りそばにいよう。
「もう、からかわないでよね。芦花はほんとに何着ても似合う素敵な子なんだから」
「…………そういうこと真っ直ぐ言うのずるいよ」
「なにがずるいって?」
「なんでもありませーん」
意趣返しみたいに小さく言ってるけど、聞こえてるからね?
なんのことかはわからないけどさ。
まあ、お互い様、なのかな?
のんびりと過ごせたらいいけど、無理な気がするよ。
はい、いつかの水着2着目ですな。
このまましばらくいちゃつく……かもしれない?