おいたはダメだよ〜。
お昼を食べたら少し休んで波のプールへ! と思っていた日が僕にもありました。
今? なぜか幼馴染の膝に横にされてます。
……水着を着ると大胆になるんですかね? 前もされた気がしますが。
開放感のせいかな? 天使と悪魔の葛藤とかないのでしょうか。本人が小悪魔すぎて天使がどこかに行っちゃってる気がするけども。いや芦花は天使でもあるけども。
いや、嬉しいけど望んだわけではないんですよ。
「今日もお弁当ありがとね。疲れてるんじゃない? 少し休みなよ」
なんて、言って強引に転がされてしまったので抵抗できませんでした。
……する気がなかったとか言わないでね。
芦花にめっぽう弱い僕にはこうして彼女のお膝に転がされて寝かされて、頭を撫でられてそのまま寝かけてるわけです。
ううう、頭を撫でるのは反則ぅ……気が抜ける〜。
「やっぱり眠そうじゃん。寝ちゃっていいよ?」
「いや、でも、2人で来てるから芦花が……」
「いいの。頑張った労いぐらい、させてよね」
眠そうなのは君の優しい頭撫でのせいなんですが……。
でも、やばい、睡魔が、強すぎる……。
芦花の撫でテクが上がってるのもある気がするぅ……。
うぁぁ〜〜、意識が……落ちる……。
「おやすみ、アキくん」
優しい芦花の声色を最後に、意識がゆっくりと沈んでいった。
「んぁ……ん、んん〜〜っ」
なんか首が痛い気がして目が覚めた。
ゆっくり体を起こし伸びをして、周りを見ると芦花がいなかった?
時間は……ん、10分くらいかな、寝てたの。
どこに行ったんだろ、連絡は残されては……ないね。
むむ、可能性的にはお手洗いかな。飲み物はあるし、ご飯は食べた後だし。
急ぎで買うものもないだろうし、となると残されるのがそれというわけで。
いつからいないのか分かんないけど、今日の芦花を1人にするのはよろしくないので、迎えに行こうかな。
さすがにお手洗いの前にいるのはまずいから、見えるところで待とう。
「さて、お手洗いはどこだっけ」
「ねえ、あなたさっきピンク髪の女の子と一緒にいたよね?」
「はい? そうですが……」
移動をしようとしたところ、横から見知らぬ人に話しかけられた。
どちらさま?
「急にごめんなさいね。あなたの連れの子、なんだか面倒ごとに巻き込まれてるみたいよ」
は、え。
面倒ごと?
こんな短時間で?
「え、本当ですか? 彼女はどこに?」
「売店の方で見かけたわ。早く行ってあげた方がいいわ」
売店の方か!
急がなきゃ!
あ、でもその前に。
「ありがとうございます!」
「転ばないように気をつけてね〜」
感謝の言葉は忘れずに。
見ず知らずの僕に親切に教えてくれた女性にちゃんと、ありがとうを伝えて転ばない程度に走って移動。
言われた通りの売店の近くの邪魔にならないところで幼馴染と、知らないやつがいた。
微妙に野次馬というか、流れを見てる人がいて少しイラっとする。止めに入れよ。
芦花はちゃんとトップスも着てるしパレオも巻いてるけど、やっぱり隠しきれない魅力が、余計なものを釣り上げてしまったみたいだ。
まあ、なんというか予想はできたんだけど。今回は不甲斐ない僕の理性の敗北というところか。
とりあえず芦花に何かある前に割って入ろう。
「ごめん、待たせたね」
「アキくん!」
「あぁ? 誰だお前。俺は今そこのかわい子ちゃんと話してんだけど」
どれくらい捕まってたのか分かんないけど、少し、震えてる。
それに、手首が、赤い。
強く握られた?
痛かったよね。怖かったよね。ごめん、すぐにこれなくて。守ってあげられなくて。
赤くなってしまった手首を優しく撫でる。
ピクリ、と小さく彼女が反応する。
「おいてめぇ、無視してんじゃねぇよ!」
芦花は後ろのやつを気にしてるみたい。
そんなやつほっとけばいいのに。
とりあえず僕の着てたラッシュガードを羽織らせとこう。こんな野次馬どもには見せたくない。
「これ、羽織っといて」
「ぇ、あ、ぅん。わかっ、た」
「おい!!! 聞いてんのか!!!」
僕が渡したラッシュガードを羽織り、その裾をぎゅっと握っている。きっと、今もまだ怖いのだろう。
……うるさいなぁ。
芦花が怯えるだろ、黙ってくれよ。雑音が過ぎて耳障りだ。
君の声なんてどうでもいいよ。
早く失せてくれないかな。
「なに? うるさいんだけど。迷惑なの分かんない?」
「あぁ? 迷惑かなんて分かんねぇだろうが! お前の方が横から入ってきて迷惑だよ!」
こんなに怯えてる芦花を見ても自分が迷惑じゃないと思える神経すごいね。尊敬しちゃうよ、いらないけど。
「あっそ。彼女は僕の連れだから、どっか行ってくれる?」
「お前の連れ……? はっ! そんな地味でつまんなそうなやつより俺の方が100倍イケてるだろ! そうだよなぁ!」
まじでうるっさ。
別に僕が地味なのは間違いじゃないけど、君がイケてるかとは別問題じゃない?
それに、芦花は君みたいなオラついたやつ苦手なんだよね。
とりあえず声のトーン下げてくんないかな。芦花がずっと震えてる。
「彼女の様子を見てそれが言えるなら君の目は節穴だね。はやく立ち去れば? 格好悪いよ、ナンパに失敗したのに威勢だけで続けようとするの」
「てめぇっ! 調子乗ってんじゃねぇぞこの……
「おぉ、傷物、ねぇ」
いよいよ威勢だけだなぁなんて思ってたら、外見で判断してきたか。どうせ芦花のことも髪色とかでチョロいとか思ってたんだろう。カスが、沈めるぞ。
芦花も優しいからちゃんと断りきれなかったのだろうけどさ。それは美徳ではあるけど、こういうやつにはもったいないし通じないんだよね。芦花の優しさでさっさと退散すればよかったのに。
まじで救えないなこいつ。どうでもいいけど。ナンパしてる相手の状態も見れないような観察力もないチャラいだけのやつに、芦花が振り向くわけないのにね。
こんなやつになんと言われようと何も思わないし、時間の無駄でしかない。そも名前も知らない、知る価値もないやつの言葉に響くものなんてない。
めんどいし、監視員さん呼ぶか。それか呼んでもらうか。少し周りを見回していると、苛立った男がこちらに寄ってきた。
「そんな傷物のやつより、俺の方がいいだろ? な? ほら、こっちで話そうぜ?」
「……彼女に近寄るな」
「……てめぇ! 邪魔すんなっ!」
強引に僕をどかそうとしてくるやつを、力づくで妨害。
別に僕も筋肉ないわけじゃないし、なんなら筋トレもたまにしてるからまあそこそこではある。
腹筋割れてたり〜なんてことはないけど、今みたいな状況で軽く力負けするほどでもない。
まあ、正直頭に血が昇ってるからちょっと普段よりも力増してる気がしなくもないけど。
こちとら最愛の幼馴染が怯えてるし、手首は赤いしで、ムカついたんだ。穏便に済ませようとしてるうちにどっか行って欲しかったんだけど。
しかたなし、この後はもう帰宅になるだろうけど、少し力づくで抑えるしか──。
「この傷のことも知らないくせに……」
「……芦花?」
──後ろで震えてたはずの幼馴染から、いつもよりも低い声が聞こえた。
この声は……もしかしなくても、めっちゃ怒ってるのでは。
なんで? そんな怒るところ……もしかしてこの傷跡のことか?
「なんでこんな傷が出来たのかも知らないくせに、傷物とか言わないで。あなたに出来る? 友達のために、その身を持って庇うことが」
「な、え、は?」
「どうせ無理でしょうね。傷のついた体には価値がないと思ってるあなたには」
怯えていたはずの彼女は、僕の後ろから一歩踏み出して、隣に並んだ。
そっと、僕の腕を掴み、少しだけ震えているのを伝えてくる。
普段の可愛らしい、僕を癒してくれる声ではなく、誰かのために怒る凛とした声の彼女がいた。
その誰かは、言わずとも分かっている。
「彼はね、私のために死ぬかもしれないのに、その身体で庇って私も守ってくれたの。この傷は、私を守るためにで出来た、出来て
ナンパ男は、芦花の本気の怒気に押されて何も言えなくなった。
僕も、芦花の紡ぐ言葉が心をくすぐるようで、なんとも言えない気持ちになっていた。
証、か。
確かに、君を守るためにできたこれは、傷跡なんて言うより、証の方が耳触りがいいね。
男の勲章とも呼べそうだ。最愛の彼女を守った時に出来た、なんて。
「表面しか見れないような浅い見方で、彼を見ないで。どうせ、誰かを庇えるような覚悟も持ち合わせてないだろうに。そんなあなたよりも、彼の方が万倍素敵よ」
「……う」
「それとも、ここまで言わないと分からない? ────ナンパなんかしてるあなたよりも、私のために命をかけた彼の方が、遥かにカッコイイよ」
お、おう、ぼろくそにいうじゃん。
いやまあ別にこいつがどうなろうと知ったこっちゃないというか、興味を持ってないというか。
最初から別にどうとも思ってないし、芦花を怖がらせたならそれ相応の報いはって思ってただけなんだけど。
ていうか、あの、僕も照れてしまうんですが。真正面からカッコいいとかステキとか言われちゃうと、ね。嬉しいけど恥ずかしいっす。
なんか、芦花さんがオーバーキルしちゃった。
僕とこいつの男としての違い的な、覚悟の違いを証明してしまった。
周りの人も僕を見る目が変わってるように思う。いや、今更だな。
野次馬は野次馬らしく外野でいればいい。こちらに干渉しようとしないでね。
「何か言うことは?」
「……ないです。すみませんでした……」
「なら視界から消えて。気分が悪いの」
「……はい、すみません」
わぁお、芦花の圧に負けてすごすごと退散しちゃったよ。
なんか、拍手まで起きてるし。
見せ物じゃないんだけど。
ナンパ漢が去ったところで、僕らも目立ちすぎたので退散しないと。
とりあえずパラソルに戻るか。
「芦花、一旦戻ろう」
「うん、その、ごめんね」
「なにが? 謝られるようなことなにもなかったよ?」
芦花の手を引いて、野次馬の壁を突っ切って借りた場所に向かう。
道中なぜか芦花に謝られたけど、よくわかりませんね?
「その、1人で動いちゃったから、面倒ごとに遭遇しちゃった」
「それは、僕が寝こけてたのが悪いから。芦花は悪くないよ」
「でも、私がアキくんに休んでって言ったから」
「それで休もうとしたのは僕の意思。あーでも、一言連絡は欲しかったかも」
「なら、それのごめんってこと。……いや、それだけじゃないけどさ」
うん、分かってるよ。
でも今回のことは芦花は悪くない。気にしないでほしいね。
せっかくのプールなんだから、楽しまないと。
借りたパラソルに着いた。
芦花はまだ悩んでるみたいだけど。
「さ、波のプール行こう? 気分切り替えないとね」
「……そうだね、いこ」
ほら、強引に連れ出しちゃえば、そんな考えてる余裕なんてなくなるよね。
浮き輪を持って突撃だ!
「いやー、まさか綺麗にひっくり返るとはね」
「大丈夫だった?」
「まあまあ水飲んじゃったけど芦花のおかげでなんとか」
浮き輪に乗って波のプールで遊んでたら、驚くくらい綺麗にひっくり返って沈んでしまったよ。
正直死ぬかと思った。急に沈むと思うように体が動かないもんだね。
芦花がすぐに引っ張り上げてくれなかったら、また親友に呆れられてたかもしれないよ。
「もー、気をつけてよね。私も心臓止まるかと思ったんだから」
「ごめんね〜」
「ん、よし。さて、この後どうする? もう1回どこか入る?」
「ん〜、あ。あのウォータースライダー乗ってなかったよね。あれいこっか」
「いいね、2人で乗れるかな?」
「乗れるでしょ〜」
そういえばあったの忘れてたよ。
流れるプールがメインすぎて、頭から抜け落ちてた。
浮き輪を置いて並ぶ列へ。
待ち時間はほどほどみたい。
楽しそうに滑っていく他のお客さんを眺めながら、芦花と雑談タイム。
話してたら待ち時間なんて、あっという間で。
順番はすぐに来たように感じられた。
「それでは2人並んで座ってください」
「はい」
「はーい」
順番は、芦花が前で後ろが僕。
僕が前だとたぶん芦花はあんまり楽しめないんじゃないかなって思ったのでね。
で、専用のチューブに乗るわけなんだけど。
「もう少し詰めてください」
「えっと、もっとですか」
「はい」
最初の位置だとダメみたいです、注意されてしまった。
それから再度変えたんだけど、ダメみたいで。
結果、ほとんど肌が触れ合うくらいの距離になってしまった。
ち、近い……。
「ほら彼氏さん、ちゃんと彼女さんのこと支えてあげてください」
「か、彼氏じゃ……!」
「……彼女……ふふ」
芦花さぁん!? なんでそんな嬉しそうなんですぅ!?
係員さんもなんかニヤニヤしてるし!?
早く出発させてくれませんかね!?
「はーい、それでは参りますよ〜いってらっしゃーい」
「ちょ、いきなり──わぁぁぁぁ!!!!!」
「ひゃ〜〜!!!」
距離を離そうとしたところで後ろから押されてしまい、うっかり密着。
何かを言う前にスライダーの流れにのまれ、僕は悲鳴を上げながら芦花をギリギリ抱きしめない程度の状態であっちゃこっちゃ振り回される羽目になった。
スライダーの内容、頭に残ってないんですけど……。
近すぎる距離とか、少し触れ合ってしまった肌の感触とか、頭爆発しそうで……。
とりあえず休みたい……と思っていたんだけども。
「楽しかった! アキくんもういっかい!」
「まじぃ?」
なにやら芦花が大層お気に召してしまったようで。
手を引かれて再度列に並ぶことに。
今度は前がいいなぁ。それならきっと大丈夫なはず。
「はーい、2回目ありがとうございまーす。それではどうぞ」
「じゃ僕前ね」
「私後ろいくね」
待ち時間は相変わらず早く感じて。
サクッと回ってきた僕らの番。
さっきとは反対に座って、やっぱり詰められるのかなと思っていたら。
僕が座って、芦花が座る──ところで、思ってる何倍も近くに気配が。
てか、え、ほぼ真後ろ?
「えいっ」
「!!??」
とか、なんとか頭を回してたら、後ろから手が生えてきました。
とても綺麗ですべすべです。触り心地良さそう。
誰の手でしょう!
はい! 幼馴染です!
……あの、これ、完全に抱きつかれてませんか。
「おぉ……熱々ですね。それではいってらっしゃーい!」
「もう少し突っ込んで──あぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いぇ〜〜〜〜い!!!!」
背中に当たってるその、柔らかい感触とか、暖かさとか、気のせいじゃなければ感じる心臓の鼓動とか。
後ついでに肌に感じる息遣いとか、あの頭爆発するって。
肝心の幼馴染は楽しそうで、何も言えなくて。
相変わらずスライダーの内容は記憶に残らなくて。
結局2回滑って残ったのは、幼馴染がめちゃ近かったことだけだった。
「芦花さん? あの、近すぎませんでしたか?」
「だって、詰めてって言われるじゃん? なら、最初から詰めといた方がいいでしょ?」
「いやあの、詰めすぎでは」
「……アキくんは嫌だった?」
「いいえ、そんなことはありません」
「なぜに敬語」
ずるいって。嫌かと聞かれたらそんなわけないんだから。
禁止カードですよまったく。
でも、楽しそうならいいか。
途中で雰囲気ぶち壊しのくそったれが入ったけど、今こうして楽しそうに笑ってくれてるなら、僕の理性なんて安いものだ。
……それはそれとして加減はしてほしいんですけどね。僕にも限界というものはあります。
その後もう1回乗りたがる芦花をなんとか宥めて流れるプールでのんびりした。
さすがに3回目は耐えられないて。水着の幼馴染は無防備が過ぎるよ!
誰かを守るためについたのなら、それはどんなものであれ立派な勲章だし証でしょう。
それはそれとして、芦花さん楽しそうですね。