短め。
一筋縄ではいかない。
アキくんが去った後、なんとも言えない空気になったKASSEN場。
かぐやちゃんはやりすぎた? って顔してるし、真実と鳩河くんは顔を見合わせて首を振ってる。
彩葉も渋い顔してるし、どうしようか。
私も顔が熱い。ほんとに、本当にアキくんの推しが私なのだとしたら、恥ずかしいってわけではないけど、照れてしまう。
好意的に思っている相手から、推されてるのは想定外過ぎるし、逆に関係性が進めづらいような気もしなくもない。
でも、アキくんは何も言わずに逃げたから、まだわからない。
たぶんここには戻ってこないだろうし、ログアウトは……してないみたい。
てことは、たぶん家にいるかな。
ならこの場は終わらせて向かわないと。
「じゃあ、今日は解散かな?」
「そうだね、流石に疲れたし〜」
「解散しましょ」
「なんか、ごめん」
「そう思うなら踏み込まないようにしなさいよまったく。私とは関係とか距離感違うんだから」
「あんまり怒んないであげて。アキくんが説明しなかったのが悪いし」
「ろかぁ、アキにごめんって言っておいて〜!」
「ん、わかった」
練習に付き合わされたカップル達は早々にログアウト。
ちょっと落ち込み気味のかぐやちゃんは、彩葉にツッコミを受けてたけど、最後は私に伝言託して抜けていった。
残ったのは私1人。
こんな流れで話すことじゃないかもだけど、聞きたいことはあるし、話したいこともあるかもしれない。話すかはわからないけど。
とりあえず、私もアキくんの家に向かおう。
音を立てないように静かにアキくんの家に到着。
彼は……縁側で寝転がってるみたい。
寝てる……? いや、なにか呟いてる?
聞こえないし、話さなきゃだから近付かないと。
気付かれたらまた逃げられたりして。
そんなことはないと、思う、けど。
「好きだ」
え?
聞き間違いじゃない、よね?
誰のことを?
私、だと、いいんだけど。
でも、名前を出してないし。
としかしたら私じゃない可能性がある。その可能性があるのが悲しいけど。
ここは慎重に……。ちゃんと確認しないと。
足音を立てずに、ゆっくりと彼に近づく。
そして、次の言葉がはっきりと聞こえるくらいの距離にきた。
「芦花──好き」
彼の口が紡いだ言葉を、聞いた。
時が止まった。
え。
うそ。
ほんとに?
錯覚だとは思うけど、そう感じるくらいの衝撃が体を突き抜けた。
ちゃんと意味を理解するのに時間がかかる。
なのに、反射的に私は彼の名前を呼んでしまった。
「……アキ、くん?」
私の口から漏れ出た言葉に、1人だと思っていた彼は、酷く驚いた様子で起き上がった。
その顔は照れと驚きと恥ずかしさでごちゃまぜで。なにより、やってしまったという後悔も感じられる。
「……芦花、いつから」
「えっと、その、今さっき、だよ」
「……聞こえた?」
「んっと、その……」
伏し目がちなアキくんの顔は見たことないくらい弱々しくて。
少しだけ嬉しかったはずの私の気持ちが萎んでいくのを感じた。
ようやく、彼の気持ちが聞けたと思ったのに。
なんで?
どうして、そんなに辛そうなの?
私が言い淀んだ反応から察したのだろう、彼は重い溜息をついた。
「……こんな形で、伝える予定じゃなかったのに」
「ごめん……盗み聞きするつもりは」
「いいんだ。僕が、踏み出せなかっただけだから」
その言葉から、アキくんがちゃんと考えて気持ちを伝えようとしていたことを私も察した。
そして、それをぶち壊してしまったことも。
最近アキくんの反応が好感触で、少なからず好意がありそうな気がして。
少し気が早ってしまったのかもしれない、もしかしたら望んだ答えが得られるかもと。
さっきのかぐやちゃんの問答のときも、どんな答えが出るか気になって仕方がなかった。
誰が推しなのか、それを聞きたくて。
そして、もう少し踏み込めたら、好きな人がいるかを聞けたら。
なんて思っていた。
でも。
「アキくん、私……」
「こんな形なのが申し訳ないけど、うん、僕は芦花のことが好きだ」
「……! 嬉しい、よ?」
私も、そうだと思った。
でも、彼に私も好きだと返すには、彼の表情は重苦しくて。
両思いのはずなのに、まるで重なったように思えない。
なんでかな、まるで私の好きが、届いてないような。
あ、まだ私は気持ちを伝えれてない……!
いやでもあれだけ好意的に接してたのに、伝わってない?
「僕は……僕は芦花のことが、好き……だけど」
「アキくん……?」
「好き、なんだ……でも、ううっ……」
「大丈夫? 休も? なんかおかしいよ」
好き、好きだと伝えてくるのに、言うたびに苦しそうに、辛そうな顔になっていく。歪んでいく。
どうして? 私に好きっていうのが、そんなに嫌なことなのかな。
心が、絶望に浸るのを感じる。
塞がれてきたはずの穴が、ヒューヒューとその存在を主張してきている。
「好き……でも……愛……うぁぅ……」
「ね、ねぇ、本当にどうしたの?」
好意を感じてはいる。
たぶん、アキくんは私のことを好いてくれてるはず。
なのに、なにかが違うのか悩み苦しんでいる。
私の好きを伝えられないまま、一方的に好意を伝えられている。
いやだ、そんなのは。
私の気持ちも、伝えなきゃ。私たち、両思いなんだって、分かってもらわなきゃ。
「聞いてアキくん。私も……私もアキくんのこと、好きだから」
「……ぅ? えぁ……好き? 芦花が、僕のことを……」
「うん、好きだよ、アキくん」
伝えた。ちゃんと目を見て。私の気持ちが届いてほしくて。
それまで思い悩んでいた顔が、一瞬だけど嬉しそうになった。すぐにまた戻ってしまったけど。ちゃんと嬉しいと、思ってもらえた。
でも、彼の黒い瞳は濁っていて、届いてるか怪しくて。
言葉を反芻していても、理解が追いついていないように見える。
「芦花が、僕のこと、を好き……ぁ、ぅぁ、好き、好きだけど……!」
「あ、アキくん!?」
ついには頭を掻きむしるように抱えて唸り出してしまった。
なんで、何が起きてるの?
気持ちを伝え合うのってこんなにも、苦しそうな気持ちにさせるものなの?
目の前で呻く好きな人を前に、その背中をさすってしかあげられなくて。
でも、それすらも逆効果のように見えて。
「ぅあ……好き……違う、これはもっと……」
「ど、どうしたら」
「でも、芦花が好きって……言って、くれて……うぅ」
意味のなさないような言葉を流しながら、膝から崩れ落ちる。
表情さえ見えなくなり、彼が何を思ってるのかも分からなくなった。
今、どんな気持ちなのか、私の言葉への反応は。
嬉しかったのか、それとも今みたいに苦しかったのか。
何もわからない。
不意に、彼の体から力が抜けて、両手がだらりと地に落ちた。
「……」
「えっと、アキく、ん?」
声をかけても反応はなくて。
近寄って肩に触れても、なにも反応がない。
気絶した?
でも、その割にはログアウトされないし。
意識が落ちてるなら強制ログアウトが発生したはず。
なら、意識はあるよね。
まさか、無視されてる? ちょっと悲しいかも。
「あの、なにか言ってほしいな」
いつもなら、返ってくるはずの彼の優しい声色が、今は何一つ返ってこない。
いつもなら、私を見守ってくれる彼の優しい瞳が、今はこちらを見ていない。
いつもなら、優しく微笑みかけてくれる彼の顔が、今は何を浮かべてるのかすら分からない。
「ね、ねぇ?」
返答は、ない。
そう、思っていたけど。
「………………芦花」
「な、なに?」
不意に名前を呼ばれて心臓が強く跳ねた。
でも、その声は、いつもよりもかなり低くて。
どちらかといえば、この前のナンパ男に対して話していたときのような低い声。まるで、何かに怒っているかのよう。
でも、なんで。
私に、怒ってる?
心当たりはない、けど。
「………………ごめん」
「……え?」
一言、謝罪。
謝られるようなことをされてもないし、そんな覚えもない。
でも、はっきりとそう告げた。
そして、彼は桜のようなエフェクトを撒きながら消えていった。
うそ、ここでログアウト?
なんで?
なんで何も言ってくれないの?
私、振られたってこと?
急激に、視界が暗くなるのを感じる。
寒さを感じないはずのツクヨミで、凍えるような冷たさを感じる。
心の穴が、広がっていくような感覚すらある。
まるで、1人になってしまったよう。
悲しい、辛い、苦しい。
どうして、なんで、今までずっと仲良くしてきたのに。
あまりにも感情が溢れそうで、もう少しで涙が溢れてしまいそう。
ぐるぐると頭の中を、過去の思い出が巡り巡る。
元より電気のついていなかった部屋、私の雰囲気と相まってあまりにも暗い。
そんな中で、場違いなくらい明るい音が響いた。
ぴこん。
縁側で座り込んでいた私の元に、一通のメッセージが届いた。
差出人は……ヤチヨ?
『今日の花畑では、イベントが開催されてるよ〜要チェケラ!』
そんな気分じゃないんだけど……。
てか、なんで急に?
運営からならツクヨミ運営って、感じでくるだろうし。
個人宛で来るような内容か?
そもそも、なんでヤチヨが?
分からない。なにも。
今の私の精神状態で、そんなところへ行ったって。
でも、なぜか、行った方が良いと、直感が伝えてくる。行かなきゃ後悔する、と。
なんでかな。
分からないけど、もしかしたら、何か、わかるかもしれない。
これがアキくんに関することなのかも分からないけども。
「行くしか、ない」
溢れて零れそうな感情に気をつけて蓋をしながら、私はメッセージの場所が示す場所へ。
それは、去年に彼に連れられて行った、白の花畑だった。
しばらく芦花視点が続くよ。
大丈夫、ハッピーエンドは、もうすぐ。