芦花と幼馴染   作:キイカ

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まずは、花から。


芦花の思い出探訪〜花畑と花束〜

 

 

 

 ヤチヨのメッセージに誘われて、私はいつかの白の花畑に来た。

 常夜のツクヨミにおいては、幻想的とも言えるくらい儚くも美しい月の下の白。

 月光を見に浴びて、纏い、見るものを魅了する花畑り

 そこは、相変わらず美しくて、こんな状況じゃなきゃ素直に楽しめた。どうせなら、アキくんと一緒に来たかった。

 ふと周りを見渡しても、ヤチヨの姿はない。

 いや、管理人なんだからいる方が驚きではあるのだけど。

 分身もできるスーパーAIだから、いるとしたら分身なんだろうけどね。

 なんて、ぼんやりと花畑の入り口で立ち尽くしていると。

 

「〜♪」

「ミニヤチヨ?」

 

 どこからともなく現れたミニヤチヨ。

 その他には手紙が。

 誰から? 

 

「えーと?」

『本日はミニヤチヨ達があなたに最適な花を持ってきてくれるよ! さぁ! 花畑の中心へ!』

 

 今の私に最適な花? 

 そんなこと言われても……私の気分最悪、に近いくらいなんだけど。

 何持ってきても喜べないよ。

 でも、手紙を持ってきたミニヤチヨが私の手を引いている。

 にぱーっと笑みを浮かべて、こっちだよと言わんばかりに。

 ……。

 にぱー。

 …………

 ぐいっ、ぐいっ。

 

「分かったから、あんまり引っ張んないでね」

「〜♪」

 

 押しに負けて、引かれるがまま花畑の中心へ。

 どこを見ても白、白白。

 多様な花が、視界一面を埋め尽くす。

 手を引いていたミニヤチヨが止まり、私の頭の上に移動する。

 チロちゃんみたいなことしてるね。

 チロちゃんは、フードの中から出てくる様子がない。寝てるのかな。

 

「一体何の花が運ばれてくるのかな」

「〜? 〜〜♪」

 

 だいじょーぶ! と言ってるように感じる。

 なにがなんだかね。

 彼女は楽しそうだけど、私はそんな気分では……。

 と、思っていたら。

 早速別のミニヤチヨが花を持ってきてくれた。

 

「〜!」

「あ、ありがと」

 

 私に手渡すと、どこかへと消えていく。

 手元には、一輪の花。

 これは……。

 

「レースフラワー?」

 

 レース編みのような見た目の綺麗な花。

 たしか、前に来た時はアキくんが最初に教えてくれたっけ。

 花言葉が「感謝とほのかな思い」だったかな。

 ほのかな思いか。あの時は彩葉に向いてたな。

 でも、今思えばほんのりアキくんにも向いてたのかもしれない。

 ぼんやりと思いだしていると、気付いたらすぐ近くでミニヤチヨが花を持って待っていた。

 私が気付くと、にこりと笑って花を手渡していく。

 今度は……トルコキキョウ。花言葉は思いやり。

 私にぴったりだって、彼は言ってくれた。

 でも、今思えば彼の方がいつも思いやりに溢れていた気がする。

 あれ、でもこれもう一つ花言葉あるみたい。

 

「えーっと……ぇ?」

 

 視界に映るアイテム欄の、説明のところをスライドして出てきた言葉に驚いてしまう。

 そこにあったのは、「永遠の愛」。

 

「永遠の、愛」

 

 あの時、アキくんは教えてくれなかったもう一つの花言葉。

 これのことを知っていたのか、それとも知らなかったのか。

 分からないけれど、でも、なぜか彼なら知っているような気がして。

 心臓が強く跳ねた。心が暖かくなる。

 でも、それと同時に重さを感じてしまって。

 永遠だなんて、そんなの、受け止め切れるのか。

 その言葉の真意が、分からない。

 

「〜?」

「……ううん。大丈夫」

 

 頭の上のミニヤチヨが心配そうに降りてきた。

 そんな顔しないで。

 大丈夫、マイナスな感情ではないの。たぶん。

 ただ、分からないだけ。

 でも彼の心の一端に触れた気がした。

 

「さ、次の花は何かな」

「〜!」

「わっ。今度の子は勢いすごいなぁ」

 

 心持ち改めて、次の花を待っていたら、元気なミニヤチヨがこちらに飛び込んできた。

 受け止めて、撫でてあげる。

 嬉しそうにされるがままだ。可愛いね。

 しばらくしてからその他の花を渡してくれた。

 今度は2本。

 これは、月下美人と朝顔。

 たしか、花言葉は「儚い恋、儚い美」と「固い絆」だったかな。

 儚い恋、今思えば彩葉への恋は儚いものだった。でも、それがなければきっと今には繋がってないと思う。それが、アキくんへの想いと違うと気付いたから。

 絆は、今も変わってないと思う。いや、変わってしまうのが怖くて進めないのかもしれない。

 幼馴染の絆から、先に進む。それが、怖いのかもしれない。

 ……アキくん。

 あなたは、何を思っているの。何が苦しかったの? 

 

「教えてよ……」

「〜⭐︎」

「……うん、もらうね」

 

 少しだけ寂しい気持ちになった。でも、少し笑顔の明るいミニヤチヨが新たな花を届けてくれた。

 これは、なんだっけ。

 あまり見覚えのない花。

 アイテム欄から、確認してみる。カランコエか。

 カランコエは……たしか、「幸福を告げる」だっけ。

 あれ? そういえばもう一個あったはず。忘れちゃったな。

 スライドして見つけた。

 

「あなたを、守る……」

 

 思い出した。

 あの時は意識してなかった。

 そういうものなんだなと、思ってたけど。

 あの日を経験して、わかった。

 あの日のアキくんが、この花の説明の時にほんの少しだけぎこちなかった理由。

 そっか。この時にはもう、その覚悟があったんだ。

 

「〜??」

「大丈夫、これは悲しい涙じゃないよ」

 

 ふと、現実の方で頬を熱いものが流れるのを感じた。

 ツクヨミでもそれはフィードバックされたのか、私のアバターは涙を流している。

 そう、悲しいんじゃない。嬉しいんだ。

 こんなにも早くから、彼が私を思っていてくれたことが。

 それに気づかなかった私が、少し悔しい。

 どうして気づいてあげられなかったのか、と。でも、あの日の私は、盲目だった。いつかふっと消えてしまいそうな彩葉を繋ぎ止めたくて。なんとか力になりたくて。

 そんな私を、彼はきっと内心思うところがあったのに、応援してくれて。

 本当に、優しくて思いやりのある、男の子だ。幼馴染で、良かったと思う。

 

「でも、なら、なんで」

 

 だから、あの時の反応が分からない。

 アキくんは、私の告白に確かに嬉しそうな顔はしていた。

 でも、ほんの一瞬でまた、苦しそうな顔に戻ってしまった。

 まだ。まだ、私はアキくんをちゃんと分かってあげられていない。

 もっと知らないと。彼がきっと隠していた想いを。

 

「「「〜〜♪♪」」」

 

 密かに決意していた私のところに今度は3人同時にミニヤチヨが現れた。

 2人は私でも知っているような、バラやユリカトレアなどの花を持っていた。

 残りの人が、見たことのない花を3本。いや、ちらっとはここで見かけた気がするけど。

 ……確か、アキくんが遮るようにしてきた、かも? 

 もしかして。

 

「ありがと。受け取るね」

「「「〜〜!♪」」」

 

 私から手を振って離れていく3人。

 受け取った3本の花の名前。

 アナベル、オステオスペルマム、サギソウ。

 花言葉は……「ひたむきな愛」「変わらぬ愛」「夢でもあなたを想う」。

 やっぱり。

 

「どれも、思いの丈が溢れてるじゃん……」

 

 口角が上がっているのを感じる。

 どうしても、笑みが浮かんでしまうのが止められない。

 気付いてなかっただけで、彼はずっと意思表示してくれていた。

 こんなにも、熱烈で、感情的で、それなのにひっそりとバレないように。

 いじらしいにも程があるでしょ。

 

「もう、アキくんったら」

「〜♪」

「ん、あれ、何持ってるの?」

 

 3本の花が、あまりにも直球な花言葉で笑顔を止められずにいた。

 頭の上のミニヤチヨが、何かを持って楽しそうに降りてきた。

 その手には、また見たことのない、花。

 そっと私に手渡されたそれは、とても綺麗で。

 

「これは……ブライダルフラワーって言うのね」

「〜♪」

 

 それを渡すと彼女はニコニコと私をそのまま見守り始めた。

 これは、花言葉確認しろってことかな。

 どれどれ……これ、は。

「幸せを願っています」か。

 ……はぁ。

 

「ほんっとに、いじらしいというか。遠回しというか」

 

 幸せを願っているのではなく、幸せにしたいの間違いじゃないのかな。

 そんな花言葉の花があるかは分からないけど。

 というか、願うよりもしたいの方が積極的だし私も嬉しいんだけど。

 一緒に、幸せになりたい。そんな願いじゃダメだったのかな。

 

「〜♪」

「なーに? それくれるの?」

 

 いつのまにか目の前のミニヤチヨがほんとに小さな花束を持っていた。

 さっきまでは持ってなかったのに。

 花束かぁ。あれ、花束……そういえば。

 ちょっと前にアキくんからもらったっけ。

 ……待って。まさか。

 急いでアイテム欄に保管していた花束を探す。

 

「あった」

 

 そこまでアイテム欄をスクロールすることなく目当てのものを見つけることが出来た。アイテム名は花束だから、何の花があるかは分からない。

 でもすぐに取り出して、気づいた。

 ついさっき見た花がいくつもあった。

 アナベル、ブライダルベール、トルコキキョウ、オステオスペルマム。

 その他の花は見たことがあったらなかったりがまちまちだ。

 でも、その4つの花の、花言葉が分かっていた。なら、残りの花も。

 

「…………やっぱり」

 

 どれも、4つの花と似たような花言葉ばかり。

 色ごとに花言葉が変わるものもあるのに、ちゃんと合わせてきている。

 この時には私もほんのり、意識していたくらいだった。

 でも、やっぱり彼は私にずっとバレないように想いを送っていた。

 

「…………ふふっ」

「〜?」

 

 思わず顔を隠して笑ってしまう。

 ミニヤチヨが不思議そうにこちらを伺ってるけど、あんまり見ないでほしいな。

 ちょっとにやけすぎて可愛くないかもだから。

 嬉しい、こんなにも想っていてくれたことが。

 なにより、それに気付いてあげられたことが。

 今まで気付けなかった、彼からの静かな想いをようやく受け取れた気がしたから。

 

「これが、狙いだったのかな。ヤチヨって、本当にAIなのかな?」

「〜?」

 

 もし本当に狙ってやっているなら、あまりにも人間の感情を理解しすぎでは? 

 ただのAIには出来そうにもないけど。

 まあ、その辺はおいておこう。

 とりあえず、ミニヤチヨから花を渡されることイベントは終わったみたい。

 最後に受けとった花束が最後のよう。

 あれ、これ名前ついてる。

 

「『愛の花束』……って、直球すぎるでしょ……」

 

 しかも、私に渡されても……ん? 

 あ。

 そういうことか。

 花束っていくつかの花を合わせれば作れる。

 アキくんもやってたし。

 そして、プレゼントにもなる。

 私の手元には、ミニヤチヨたちがくれた、たくさんの花が。

 ……おっけー。理解した。

 

「今度は、私からも返してあげないと」

 

 もらった花で花束を作成する。

 でも、これを渡すには、まだ足りない気がする。

 私の、彼への理解が。

 一体いつから、そして、どれぐらい、なのかを。

 そのためには、もっと知ってる人に話を聞かなきゃ。

 今日はもう遅いから、明日にしよう。

 アイテム欄にしまった私の花束たち。

 1つは彼のくれた『花束』。

 もう1つは私が作った『想い花』、そう名付けた。

 ほんとは、私もアキくんに習って花束にした方がいいかなと思った。

 でも、もう隠さないと決めた。隠したら、またわかって貰えなくなるかもしれないから。

 ちゃんと、伝えると決めたから。

 そのためにも、明日、親友と話そう。

 きっと、彼女は知ってるはず。

 私の知らない彼のことを。

 

 

 







まだ、巡るよ。
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