次は親友との語らい。
花畑でアキくんの隠された思いを知った次の日。
親友に会いに行く前に、彼の家に寄ってみた。
けど……。
「ごめんね芦花ちゃん。アキ昨日から泊まりに行ってて」
「泊まり、ですか」
「そうなのよ、どこかは分かんないけど、2日か3日くらいで帰ってくるとは思うわ」
「分かりました。ありがとうございます」
彼はいなかった。
急に泊まりに行くだなんて、彼らしくない。
いつもは大体予定とかも教えてくれるのに。
でも、泊まる相手なんて想像がつく。
だから、後にしよう。
今会っても、まだ、彼に向き合えない。
「お待たせしたみたいだね」
「やっほ〜そんなことないよ〜」
昨日のうちに明日会おうと連絡した我が親友──真実と合流。
場所は、駅前のカフェ。
そういえば中学生の時にみんなでカフェに行ったなぁ。
あの時の場所とは違うけどね。
なんだか、思い出してしまった。
「真実にしては早くない?」
「しつれーな。わたしだって早い時もあるよ?」
「ごめんごめん」
いつもなら私よりは遅く来る彼女が、珍しく私よりも早く来ている。
思うところはある、けど。
「それで〜? 話って?」
彼女は素知らぬふりでいる。
私の誘い方がいつも通りなのもあったかもだけど、それなら早くは来てないはず。
昨日のアキくんのことはまだ、真実には話してはいない。でも、あの時の様子とかで察しているのかもしれない。
真実は、そういう機微に聡いからね。
彼女が指定したカフェは、この時間は人が少なく、取っていた席も奥の方で、これからするであろう話にピッタリだった。
「聞きたいことがあってさー」
「なになに〜? わたしで答えれること〜?」
「うん、たぶんね」
もしかしたら、知らないかもしれない。
そうかどうかは、聞いた時の反応でわかる。
「真実さ、私の知らないアキくんのこと、知ってるよね」
「ん〜? 幼馴染である芦花よりも知ってることなんてないと思うけど?」
私のくる前に頼んでいたらしい、カフェオレを飲みながらなんでもないように答えられる。
表情は変わらない。
でも、ほんの一瞬視線が左上に行ったの見てたよ。
本当なら視線はブレないよね。
「そっか。じゃあさ、真実から見てアキくんってさ、私のことどう思ってるように見える?」
「……大切な幼馴染、でしょ?」
「ふふ、大切、ねぇ」
そっかぁ、そう見えてるんだ。
なんだ、私が気付いてなかっただけかぁ。
「……どしたの、わりと普通のこと言ったと思うんだけど?」
「いやさ、前までなら大切って言葉をそのまま受け止めてたんだけどさ。今は、そうじゃないって気づいちゃって」
真実が失言したわけではない。
なんならいつものように返している。
でも、真実から見ても私は大切にされているっていうことが、わかったのが嬉しいのだ。
当たり前のように受け止めていたけど、当たり前じゃなかった。
そもそもあの日から隣にいてくれるのが当たり前じゃないと気づけたから。
「…………昨日、なにかあった?」
「ん〜秘密〜」
「そこ隠す〜? 教えてよ〜」
なにやら訝しげな顔でこちらを見てるけど、私はウキウキ気分なので気にならない。
黙る私に焦ったくなったのか問いかけてきたけど、さっき上手いこと流したの忘れてないからね。
意地悪な親友には教えてあーげない。
「知りたい?」
「うん」
「じゃあ、ちゃんと答えて」
「……ものによる、かも」
よし。言質は取った。
さて、何を聞くか。
というか、そういえば前にも似たような話をした気がする。
あれは、彩葉と真実と3人で女子会したときか。
あの時2人にアキくんについて聞かれたっけ。
今となってはあの時の答えが違うものになっている。
だとしたら、真実も違う答えを持っているのかもしれない。
例えば、勉強する理由だとか、料理のこととか。
「逆になになら答えてくれるの?」
「……勉強する理由。と、これは推測になるけど、お弁当を作る理由かな」
「ちょうど聞きたいなって思ってたことだ。てか、前に女子会した時に聞かれたことだね」
「あー、そういえばそうだね。まあ、わたしはあの時点で知ってはいたんだけどさ」
観念したのか、ちょっとだけため息をついて答えてくれた、けど。
うそ、そんなに前からだったの?
てことは、それよりも前からアキくんは……。
どこまで遡れば、辿り着けるんだろう。
「いつからなのか気になるけど、とりあえず勉強について教えてよ」
「ん〜、前にさたかちーが勉強する理由なんていってたか覚えてる?」
それは、たしか……自分のため?
あれ、未来のためだっけ。
「やば、覚えてない」
「未来のためとか言ってたはず。で、まあ実際は違うんだけどさ」
「そうなの?」
どっちにしろ曖昧なのでそこは気にしない。
大事なのは、その本当の理由の方だ。
「たかちーがあんだけ勉強してるのは、芦花、貴女に教えるためだって」
私に、教えるため……。
そのために、塾に行かずとも、受験を乗り切れるだけの学力を、身につけてくれた。
なんのために?
そこまでする理由は?
自分の時間もあるはずなのに、どうして。
「なんで、そこまでして」
「そんなの1つしかなくない?」
「え」
「ほんとにわかってないの? まだまだにぶちんだねぇ」
むぅ、分かってないのが悪いとはいえ、ちょっと腹立つ。
その柔らかほっぺもちもちしてやる!
「あひゃ〜なひふるの〜」
「生意気言う口はこうだぞー」
「ひゃ〜やめへ〜」
真面目な話の途中で、ちゃっとブレイクタイム。
いや、私の気晴らしでしかないんだけど。
でも真実のほっぺもちもちしてたら少し頭の中が落ち着いた。
分かってないというよりは、無意識にその答えを見落としていたようにも思える。
昨日の花畑でも、感じた隠された思い。
ずっと、私に向けていた思い。
「もしかしなくとも、私と一緒にいたいから?」
「……せいかーい。芦花と一緒にいたくて、時間を増やしたかったからだと思う」
「わーい……だと思う?」
「ん、たかちーからそこまで聞いたわけじゃないから。わたしが聞いたのは、芦花に教えるためってとこ。でも、そんなこと言うからには理由があるからさ、ちょ〜っと普段のこととか様子見して考えたら、そういうことかなって」
なるほど。
私とは違う視点で見てる真実がそういうなら、あながち間違いではないのでしょう。
私の知らなそうなアキくんを知ってるのは少し嫉妬してしまうけど。
でも、今その部分の穴埋めをしているようなものなのだから、我慢しなきゃね。
「勉強については分かった。じゃあ、料理は? 確か、食べて欲しい人に幸せになってほしいからとは聞いた……けど」
「……はぁ。この流れで分からないわけないよね? まさか」
言ってる途中で私も気付いた。
真実が呆れた顔で私を見てるけど、仕方ないじゃん。
彼の思いに気付いたのが本当に最近だったんだから。
前に聞いた時に友達でも、未来の彼女でも、家族でもないと言われて、分からなかった。
今考えても、その答えが分からない、けど。
「私に美味しく食べてほしい、から?」
「どう考えてもそれしかないでしょ。卵焼きの好み、みんなの覚えてる?」
「え、えっと……」
彩葉も真実も固め、鳩河くんはしょっぱ目の卵焼きを作ってきたことがあったからそうなはず。かぐやちゃんは分かんないけど、この前の配信のかんじだと彩葉と同じっぽい。甘めが好きそうではあるけど。
あれ、そうするといつもの柔らか甘めって……。
「気づいた? いつもたかちーが作ってきてる卵焼きの好みがばっちり合う人、1人しかいないよね。作ってる当人は反対の味が好みっぽいんだから」
そっ……かぁ。
私のために、わざわざ作ってくれてたんだぁ。
確かにいつもあるし、いつも美味しかった。
いつから作ってくれてたかは分かんないけど、気づいた時にはもうお弁当のおかずに仲間入りしてた。
そう考えると、お弁当の彩りももしかして考えて作ってくれてたのでは。
男子高校生のお弁当にしては彩色のバランス良かったし。栄養も体を壊さないようにとか言ってたような気がするけど、私のことも気遣ってくれてた?
そんなところまで、気にしてくれてたのかな。
頭が上がらない思いだ。
でも、まだだ。もっと知らないと。彼の思い、私の知らない思いを。
「はは、私全然知らなかったんだアキくんのこと」
「いや〜たかちーがめちゃ隠してただけでしょ。ほんとはこの話も秘密にしようと思ってたし」
「え、そうなの?」
「うん、口止めされてる」
「話して大丈夫?」
「ん〜まあやばいかもだけど、折檻されそうになったら助けてね⭐︎」
そんなにやばい秘密ではないと思うんだけど、折檻って……。
まあ、助かるけど。
「私にはあんまり叱ったりとかしないのに、真実にはするんだね」
ちょっと嫉妬が漏れたような。
いや、別に怒られたいだとか、そういうのではないんだけどさ。
なんか、私の知らない一面を真実が知ってるのは、ね。
「ちょちょ、わたしに嫉妬とかやめてよ? わたしもたかちーからしばかれかねないんだから」
むう、気やすさを感じる、
私とはまた別の気やすさだ。
「それに、芦花に怒らないのは、芦花が努力してるからじゃない? わたしが言うのもなんだけどさ、芦花って体型維持とか頑張ってるし、美容とかも気にしてるじゃん。そういうところをたかちーは見てるからむしろそのサポートとかしてるんだと思うよ」
「別に頑張ってるつもりはないんだけど……」
「いやいや、努力の賜物でしょう、その珠肌と艶髪。わたしだって意識してるし頑張るけど芦花ほどはね」
そんなことないと思うんだけどな。
真実のお肌ももちもちすべすべだし。さっきも触ってた心地よかった。
まあ自分の肌を自分で触ってもあんまり実感湧かないから仕方ないかな。
「芦花はさ、たかちーが芦花の前で笑ってなかったこと、どれくらいあった?」
「急になによ、ん〜……ん〜?」
努力してるしてないで少しだけ押し問答があったけど、一旦横に置いといた。
そしたら真実が不思議なことを聞いてきた。
笑ってなかったことなんて、ほとんどなかったような。
どんなに大変な時でも、私の前では彼は笑顔を見せていた。
……あの日も、そうだった。
この前のプールのときは少し怒ってたな。
昨日のも、ほんとに珍しいくらい。
あれ? そう考えると私アキくんの笑顔しかほとんど見てない?
「知らないと思うけど、たかちーって芦花の見てないとこだと普通に真顔だったりするよ? なんならたまに目つき悪いし」
「え〜嘘だぁ〜……えっ、まじ?」
「まじまじ」
「諌山しんじつの名にかけて?」
「おいこら」
ごめんって、ちょっとふざけただけ……。
あ、やめて、手のひらのツボ押しは痛いですっ。
あ、そこまじで痛い……いたたたたっ!!!!!
「急にふざけないの」
「ごめんって。でも、私が見たことないんだから信じられないのも仕方なくない?」
「それも、たかちーが見せないように隠してたことだよ。徹底してね、芦花にはそういうところは見せないでいたから」
「なんで、なの? 知ってる?」
「分かんない。でも、芦花にはそういう一面を見せたくなかったんじゃないかな。好きな人にカッコ悪いところ見せたくない的な」
あ〜、なるほど。
好きな人に可愛いところを見てほしいの反対ね。
なんとなくわかった気がする。
「もしくは、単純に芦花といて嬉しいとか、楽しいとか」
「……そうだったら、嬉しいな」
私といて笑顔になるくらい、嬉しさとか楽しさが溢れるのなら、私も嬉しい。
「今更謙遜しなさんなって〜気づいたんでしょ? たかちーからの想い」
「バレた?」
「会話の内容とか反応でね。まあ、昨日のあの後あたりかな?」
「んー、まあそう、と言えばそう」
不自然に濁した私の言葉に、真実もおやと気付いた様子。
ちゃんと言い切れないのは、あの反応がどっちか分からないから。
「……まあ、焦らなくてもいいんじゃない? たぶん芦花にはまだ知らないといけないこともあるだろうし」
「なによ、知ったような口の利き方するじゃん?」
「まあ、これでも2人の親友を長く務めてますので?」
それはそう。
私たちのことまでよく見てくれてる彼女は、本当に得難い親友だ。
今思えば色々と思うことはあっただろうし、口出ししたいこともあったはず。
でも、それら全部飲み込んで見守ってくれていた。
大切にしよう。
この先も、道が別れようとも、お互い忙しくて大変でも、定期的に会えるように。
「ありがと」
「いえいえ。そういえばさ、知ってる?」
「なにを?」
「月が綺麗ですねって、言葉の意味」
そのままじゃないの?
前にアキくんにも言われたことあるけど。
「その顔は知らないね? まあ、芦花はあんまり気にしたことなさそうだもんね」
「むぅ、教えてよ」
「まあ、言わずとも分かりそうだけどさ。たかちーが芦花に向けてる思いを回りくどくいったものだよ」
「それって……」
真実は悪戯が成功したような、ニヤついた顔で口を開く。
────『君を愛してる』。
次が、最後だよ。