芦花は勝てるのか……?
ツクヨミにて招待コードを眺めながら、3日ぶりに会う幼馴染のことを思う。この2日間、隠された想いをいくつも見つけ、理解し、それでもなお底の見えない彼の気持ち。何を想って私を呼んだのか。そもそも、なぜあのタイミングなのか。
指定された時間にはまだ早い、後1時間くらいはある。
でも、逸る気持ちが誰もいなくともいいから行ってしまえと送り出そうとする。
「アキくん……答えて、くれるかな」
SETSUNAのプラベとなれば、確実に戦うことになる。
勝てれば、いい。きっと知りたいことに答えてくれるはず。
でも、その確率はかなり低い。私と彼では腕に差がある。
もし、負けてしまったら。
彼がどうするのか、分からない。
「……だめだ。待ってられない。行こう」
早く確認したい、顔を見たい、声が聞きたい、話したい、そうした焦り。
この2日間一度も会えず、寂しい、悲しい、元の日常に戻りたいという思い。
想いを通わせたい、彼の横にいたい、一緒に笑っていたいという、願い。
ごちゃ混ぜになった気持ちと願望が、待つことを拒否させた。
誰もいないことを察しながらも、その手がコードを打ち込んでいく。
転送の光が体を包み込む。
眩い光の後に、私は秋の中にいた。
「……え?」
視界を埋め尽くす、沢山の紅葉。
秋の色に染まった木の葉を微かに散らせながら、立ち並ぶ木々。
舞い落ちた葉が彩る石畳の広場。所々に立つ石の灯籠。
今まで見たことのないマップだった。
そして。
「あっ」
私が、ずっと会いたかった人がそこにいた。指定された時間よりも1時間も早いのに、そこに。
こちらに背を向けたまま、呆然と立ち尽くしている。
私に気づいているのか、分からないけど。
早く声が聞きたくて、顔が見たくて。
長く会ってなかったように感じる。たった2日なのに。
あの時の1ヶ月に匹敵するほど、私の体感では同じくらいには。
思わず駆け出した。
そして、私の足跡に気づいた彼がこちらに振り向いた。
「アキくんっ!」
「……やぁ、よく来てくれたね」
その顔には、いつも頭に被っている天狗のお面。
顔を隠している、まだ見せてはくれないみたいだ。
さらに、声色も私の知っているそれよりも低い。感情を感じさせないような。いや、抑えているように思える。
いつもなら、名前を呼んでくれるのに、今回は。
どうして? いつもみたいに呼んでよ、ねぇ。
「まだ時間じゃないけど、始めよっか」
「ねぇ! 聞きたいことがたくさんあるの! アキくん──」
「それは、僕を倒して聞いて」
「──!? っぅ〜〜!!」
元々すでにSETSUNAよエリア内だったようで。
その手にいつもの銃剣を2丁出現させた彼は、挨拶がわりのマシンガンをこちらに向けて放ってきた。
咄嗟のことで驚いてしまったけど、反射的に回避してことなきを得る。
まだ状況は飲み込めない、でもやらなくちゃ。
ネイルビットを全て浮かべる。最近慣れてきた10個使い。それも彼のおかげだけど。
フードのチロちゃんにはスタンバイだけしてもらっておこう。私1人ではさすがに無理だ。
なにより、腰に携えたそれも、いざとなれば。
回避して体制を整えた私は、反撃のネイルガンを飛ばす。
まあ、当たるとは思っていないけど。
軽いステップと、翼を使った立体的な機動でなんなく避けられる。
やっぱり、上手いなぁ。
「勝ったら、答えてくれるんだね?」
「……かもね」
「曖昧な返答! でもいいよ! 答えてくれるまで今度は逃がさないんだから!」
彼は普段とは別人な程に静かだ。いつもならもう少し言葉を返してくれるのに。
でも、今は気にしない。
まずは勝つ。話はそれからだ。
ネイルをそれぞれ散開させつつ、角度をつけてアキくんを狙う。
直撃というよりかは動きを誘う、ないしは当てやすくするために。
意図的なばらつきのある弾に、これも練習してきたから多少上手くなった大型の拳銃──デザートイーグルの弾丸を加える。
最初の頃は反動が大きくて上手く扱えなかったけど、今はそれにも慣れて、反動を逃しながら連続で打てるようになった。
そのどちらも、本命じゃないけど。
2種類の弾を角度、射線、速度などの性質をもってアキくんに選択させる。私のやりやすいように。
拳銃を撃ちつつ、私はアキくんに接近する。
遠距離では勝ち目のない私には、近寄るしか勝ち筋がない。
それさえ、かなり細いものだけど。
それでも、やりとげるために。
「えぇーい!!!」
「……おぉ、上手くなったね」
「教えてくれた人が良かったからね!」
「そりゃどうも」
相殺じゃなくて、避けるのを選んだ彼は、自分に当たりそうなものだけ避けて、私から距離を取った。
狙いがバレてるかも? でも、気にしてる場合じゃない。
ガンガン攻めて、距離を詰めて、近接で仕留める。
それが、1番の勝ち筋だ。
「逃げないで!」
「……近接は苦手なんだ」
「知ってる!」
「だろうね」
逃げる鷹を追いかける鹿、追いかけっこの始まりだ。
逃げ回る彼を追いかけ続けて、10分くらいは経ったかな。
擦りダメとか込みで3割削り、同じく反撃のマシンガンの掠りで同じくらい持っていかれた。
思ってるより食らってないけど、ダメージも入れれてない。
結局寄り切れずにのらりくらりと避けられてるし。
「んむぅ〜〜!! アキくんっっ!!」
「なんだい」
「どうしていつもみたいにやらないの!」
そうして追いかけっこをしているうちに私は気づいた。
思い返せば今までもそうだった。なんで気付かなかったのか。
彼は私との訓練の時はマシンガン
普段のKASSENとかではショットガンにライフルの方が多いのに。
まただ。また彼の知らないなにかが生まれた。
私の質問にも彼は答えてくれない。
ただ、少しだけ雰囲気が優しくなった気がした。
「手加減? それなら私怒るよ? 今回は真剣にやってるんだから!」
「そういうわけでは……」
「なら、なんでよ! 答えてよ!」
「そういうのも全部、終わってからにして」
むうぅぅ!!!
頑固なんだから!
あったまきた!
溜まってきたウルトを切る!
いくよチロちゃん!
「なら、もっと追い込むんだから! チロちゃん!」
「……おぉ」
私自前のネイルに加えてチロちゃんのネイル、合計で20個。
ネイルの操作に慣れた私は、チロちゃんがいるとき限定で倍の数のネイルを操れる。というかまあ、サポートしてもらってるんだけど。
これで、もっと削ってあわよくば……!
「いくよ!」
先ほどよりも複雑になった私の弾幕。
それでも彼は避けてしまう、とはいえ避けたらそうだしちょこちょこ掠りではない被弾が見え始めた。
が、私もネイルの操作に気を取られて被弾が増える。一部はチロちゃんのオート防御がなんとかしてくれるけど、アキくんの手数の前には意味ないよね。
削り切るのが先か、削り切られるのが先か。
体力バーを見ている余裕はない。
とにかく攻めて攻めて攻め続ける!
そして、近接を狙うのも忘れない!
「やっと寄り切った!」
「うぉっと」
近接爪モードのネイルに切り替え切り掛かる。
彼も銃剣の先のところで受け止める。
鍔迫り合い、と言っていいのかは不明だけど、拮抗した状態に。
今がチャンスかも。
「アキくん、私が勝ったら答えてくれるんだよね」
「……」
「それとも、アキくんが勝ったらなにかある?」
「…………僕が勝ったら、芦花の話を聞くよ。でも、芦花が勝ったら僕の話を聞いて欲しい」
「……え?」
ようやく口を開いてくれたかと思ったら、答えは思ってるのと逆のものだった。
私が勝ったら私の話を聞くではなく、アキくんの話を聞く?
その逆もなんだけど、どういうこと?
意図がわからない。普通にやったらアキくんの勝ちのはずなのに。
でも、そう言われてしまったからと言って手を抜く気はない。
体力の推移はどちらも残り3割切ったところ。
ウルトはまだ残ってる。これでいけるかな。
「よく分かんないけど、押し切るよ!」
「さ、頑張って」
鍔迫り合いのまま周囲に浮かべたネイルで一斉攻撃。
まあバレてたから交代されちゃったけど、逃すはずもなく。
右手に拳銃を持って追撃を仕掛けながら、ギリギリ近接の範囲内にいる彼に爪を振り回す。
掠ってはいるけどやっぱりちゃんとは当てれない。
彼の弾丸も擦りだけ。
変わらずジリジリとHPを削られていく。
もう、残り1割。
いけるのかな。無理なのかな。
それでも、何を言われるかは分かんないけど、何を言われたとしても、私は彼の隣に立つために……!
「やあぁぁぁ!!!」
「……! まじかっ」
もはやなりふり構わない突撃。周りのネイルを弾くことだけに集中。チロちゃんに制御は丸投げして、私は近接ネイルと拳銃で狙う。
大ぶりに振ったネイルの攻撃を慣れたバックステップで避けられる。
そこに飛んできたマシンガンは浮かぶネイルが流してくれる。
勢いそのまま回転しながら再度ネイルで攻撃、今度はさっきよりもより近く、避けづらいところまできた。
彼も被弾を予測したのか銃剣で防ごうとしている。
ここだ。
私は近接のネイルを遠距離に切り替え、左手を空ける。
結果軽くなった私は勢いよくくるりと回転し、右手に持ち続けていた拳銃を両手で構えた。
「これで……!」
「ほんと、上手に──」
私のブラフに釣られたアキくんはせめて弾を防ごうと銃剣を盾にしようと構えた。
取った。
「ここ!」
「えっ、嘘でしょ?」
防御に身構えて動きが止まった彼にタックルを仕掛ける。
不意をついたそれに、彼は対応しきれず押し倒される。
そのまま馬乗りで上をとって、拳銃を構えた。
彼は、目をパチパチと瞬かせると、状況を全て察して体の力を抜いた。
そして、お手上げと横になったまま手を頭の横においた。
「私の勝ち、だね」
「うん、さぁ、トドメをどうぞ」
このまま降参って言うてもあるけど、彼はそうはしないようで。
じゃあ、わたしが撃って終わりにしないといけない。
この引き金を引いて、彼を……撃って……撃っ……て。
心臓が強く跳ねた。心底嫌な跳ね方だ。
今になって私は気付いた。彼を好きだと気付いて、ようやく。
この手で、彼を倒すことが出来る気がしない。
これはゲームで、VRで、現実には干渉しない。分かっている。
なのに、頭の片隅にあり得るはずのない妄想が鎌首をもたげている。
私に撃たれて、胸から血を流す、彼が。
それは、あの日を連想させるようで。
「うっ……うぐぅ」
「……芦花?」
吐くほどではない。でも、気分が悪くなって。
手に持っていた拳銃を取り落とした。
そこで、彼はようやく私の異変に気づいた。
その声色が、いつもの私を心配してくれる優しいものに戻っていて。
それが少しだけ嬉しくて。
「大丈夫? 体調悪くなった?」
「……大丈夫。ちょっと、嫌なこと思い出しただけだから」
「…………降参するよ。これ以上は負担をかけられない」
何かを察した彼は、普段の声色に戻してサレンダー選択した。
私の画面にYOUWinと表示される。
武器は消え、景色も通常のプラベ用の待機場所に戻った。
「お疲れ様。おめでとう、芦花の勝ちだよ」
「……あまり誇れないけどね」
「いいや、ちゃんと勝ち取ったものだよ」
「…………まあそれはおいとく。それよりも」
「分かってるよ。ここじゃなんだし、僕の家行こう」
「ん、わかった」
変わらずお面をつけているアキくん。
雰囲気はいつもに近くなったけど、なんか違和感は残っている。
それも、向こうで解決すると信じて。
先にワープしたアキくんの後を追った。
芦花が撃てなかったことに気付いたアキくん。
それはつまり自分と同じ……?