アキくんが焼かれたのはいつから?
初めて会ったのは物心つく前のことで。生まれた病院が一緒で、部屋も同じなら顔も合わせてるだろうけど、その時のことは覚えていないけれども、たぶん仲良くしたいと思ったんだと思う。
幼稚園も一緒で、よく一緒に遊んでいたと母からは言われた。彼女の母親からも楽しそうだなと言われていたらしい。
「わたしろか! よろしくね!」
「ぼくはちあき、よろしくろかちゃん」
「ちあきくんね! じゃあ、あきくんだ!」
たぶんそんな会話もあった覚えがある。
小学校に入り、物心ついてからは彼女をずっと目で追っていたと思う。楽しそうに笑う君の横顔を。もちろん僕もたまに笑わせてたと思いたい。
「あはははっ!」
「……ろかちゃん、楽しそうで良かった」
そんな僕にちょっとした事件があって、変わらなくちゃいけないと思って。
でもその勇気が持てなくて、怯えていた。いや、正確には変わったところで意味がないじゃないかと諦めかけていた。
そんな僕に君は優しく笑いかけて花丸をくれた。今でも忘れられない、小学1年の7月頭。
「あきくん! がんばったね、えらい! はなまるあげる!」
「ろかちゃん……!」
なんてことはない、思い立って3日間くらい努力をしていた。それを、君に見たかったのだ。
多分君は機嫌が良かったのかもしれない。
幼馴染だからかもしれない。
頑張り続けられない僕に、それでも花丸をくれた。助けてくれた。
だから、僕も本気で変わろうと思ったんだ。僕に花丸をくれた君に恥じないように。
いつか僕も君を助けることができるようになって、花丸を返してあげたいと。
そう願ったんだ、あの日から──。
「全然覚えてない……」
「まあ、僕もうっすらとって感じだけどね。それでも、あの日の芦花が僕を救ってくれたから、あの時の芦花が、僕の光だった」
アキくんから結婚前提のプロポーズといっても過言ではない告白を受け、まあ、今更断るわけもなく。あまりにも嬉しくて、それと気が動転してしどろもどろの返事にはなってしまった。具体的には「は、はい……」なんて。もう少し頑張れ私。
というか、出てきた箱の感じとか、アキくんの真剣な雰囲気とか、その辺からもしかして? なんて思っては居た。
まさか、ほんとに指輪が出てくるとは思わなかったけど。今は、私の左手の薬指に嵌めてもらった、銀色の煌めき。ちらりと見ては、そのままぼーっと眺めてしまう。
嬉しい、ドキドキする、幸せ、もっと一緒に、あなたとずっと。
とめどなく湧き上がる想いが、この指輪を見ていると溢れてくるのだ。
私が指輪を見てニヤついてるのに気付いたのか、彼も同じところを見て、少し顔を赤くしている。
「……その、自分でも重いなと思ってます」
「ううん、いいの。アキくんの想いの重さに見合ったものだと思う」
「ちなみにそれ、メビウスの輪って言うんだけどね。捻れて繋がったところから始まりも終わりもない。なんてところから、永遠の愛をイメージしてたりするそうです」
「永遠の愛……ふふ。愛されてるね、私」
「そりゃもう、僕の永遠の1番だからね」
「私も、同じだよ」
想いを隠さなくなった彼は、それはもう視線からも表情からも優しさというか、愛情が溢れていた。私を見るその眼差しが、私に話しかける声色が、優しいを超えて、甘い。
なんか、どこまでも私を甘やかそうとしているように見える。
たぶん本当に甘やかそうとしている気がするけどね。隙あらばって感じ。用心しないとダメ人間にされそう。
料理もできるし、勉強だってできる。良い旦那さんになりそう……。
……はっ。専業主婦の未来が見えた気がした。いや、悪くはないけども。でも、彼におんぶに抱っこはさすがにね。
私もちゃんと対等に彼を愛したい。じゃないと溺れさせられてしまうから。
「ねぇ、話にあった事件って?」
それはそれとして軽く流された事件が気になった。
あの頃はあんまりアキくんとは一緒にいなかったから、知らないことだった。
「……それ聞きたい? 楽しい話じゃないんだけど」
「そりゃまあきっかけになったことだし、想いの原点に近いなら知っておきたいというか」
「芦花がそういうなら……」
あまり気乗りはしなそうだけど、昔を振り返るように彼は目を瞑った。
止まっていたブランコを、小さく揺らし始める。
「覚えてないだろうけど、僕小学校入って2年くらいまではわりと丸くてさ」
「丸く?」
「まあ、太ってた。と言ってもめちゃくちゃではないよ? まあ周りからしたらって感じ。タイミング悪く周りが細めの子ばっかだったのもあるかな」
そんなに太ったかなぁ。
記憶は朧げだけど、そんなことなかったような気がするけど。
「ふ〜ん……」
「怒ってらっしゃる。で、まあ、なんといいますか。そうなると周りから揶揄われまして」
私が無意識に怒りを滲ませたのが分かったようで。
ついだにアキくんが濁した言葉も察した。
なるほど。
私の怒気が強くなったのを感じ取った彼は苦笑いを浮かべた。
「それ、イジメられてたってことだよね」
「……ありていに言えばそういうことです」
「能天気だった当時の私にムカついてきた」
「なんでよ、芦花は関係ないよ」
「いーや、幼馴染なんだから、気付いてあげられなかった私が悪い」
「その時からもう僕は隠し始めてたんだから気付けるわけないでしょ」
「むうぅ、鈍感な私め……」
「自分に怒ってらっしゃる……」
今だから大事な彼をイジメていたやつにたいして怒ってるけど、当時なら仲の良い幼馴染がそんな目に遭ってたなんて知ったら絶対大暴れしてたはず。
昔の私は今ほど優しくはないのだ。もう少し子供らしくお転婆してた気がする。
まあ、アキくんが途中から優しく──今思えばお姫様扱いに近いものをしてきたからなりを潜めたけど。
今からでもお礼参りしようかな。
「で、そのやった人たちは?」
「あいつらは、ちゃんと報復したよ? そこは抜け目ないよ、下手にほっといたら調子にのるだろうしね。たしか、3、4人いたけど、全員泣かして2度と関わらないようにさせた」
「さすがアキくん。やるねぇ」
「我ながらその反応はどうかと思うな。まあ、今となっては顔も名前も忘れた程度のやつらだけど」
「アキくん興味ない人の名前とかすぐ忘れるもんね」
この前のプールも、いつかのナンパされた時もそうだけど、アキくん時折黒いオーラみたいなの出てるからね〜。
アキくんがもう覚えてないようなレベルならいっか。
にしても君、他人に興味持たなすぎでは。
「だって、芦花に関わること以外どうでもいいし。どうでもいいことより、芦花の好きなご飯とか味付けとか、好きなものを覚えていたいし。それ以外は全部切り捨てたよ、君のために生きてるからね」
おぉ、劇的に重たい発言だね。
でも、愛されたらの実感できて嬉しいかも。
世間的には重すぎるとか言われるかもしれないけど、私はそれぐらいのほうが心地良い。
少しだけ、驚いちゃったけどね。
「わぁーお。重めの愛の面目躍如だね。愛されてるぅ」
「……いや?」
「んーん、一途だなって。でも、ちょっと極端すぎない?」
「芦花に関わりがあれば別だよ? それこそ真美とか、酒寄さんとかかぐやとか」
「そう考えると鳩河くんってすごいね」
「あいつは……確かに。認めるのは癪だけど、親友、だし」
あ、照れた。
中学からの付き合いであそこまでアキくんを懐かせるとは、鳩河くんも侮れないかも。
「そういえばさ、この数日間って鳩河くんのとこにいたでしょ」
「……バレたか。まあ、泊まれるような友達なんてあいつしかいないしね」
「てことは、真実に話を聞いた時に意味深な顔してたのって」
「……詰問されました。まあ、結果的に味方してくれたから良かったけど」
「真実折檻されないか怯えてたけど?」
「しないよ、あ、でもなんか秘密漏らしたみたいなこと聞いたから、すこーしお灸据えないと」
「やめたげてね?」
「芦花が言うなら」
これ手綱握らないと真実が危ないね。
気をつけとこう。アキくんは怒ったら怖いからね。私は怒られたことないけど。
「そういえば2人には報告しないとね」
「あー、そだね。確実に茶化される……いや、案外やっとかみたいな反応かも」
「そうかな? そうかも? まあ、明日には会うだろうし、その時でいっか」
「だね」
私はブランコから立ち上がり、隣のブランコに座っていた彼の手を取り立ち上がらせた。
「ほら、そろそろ帰ろ? 明日もあるしさ」
「ん、そうだね」
取った手をそのまま、繋ぐ。
幼馴染の時はできなかった、というかするわけなかった恋人としての第一歩。
なんだか照れくさくて笑ってしまう。顔が熱いし彼が見れない。
熱烈な愛の告白も受けてるのに、こんな些細なことで恥ずかしくて照れてしまう。
我ながら初心かも……。
「……」
あ、いやこれアキくんも照れてるわ。
露骨に顔背けてるし。
でも、手だけはしっかり握り返してくれてる。
えへへ、うれし。
幸せな気分なので、にぎにぎしてみる。
彼がぴくりと震えたけど、すぐにやわやわと反応が返ってきた。
小さなことだけど、ちゃんと返してくれる。
また体温が上がった気がする。心臓もドキドキしてる。
「あのさ、芦花」
「なぁに?」
「……っぅ、えーと」
やば。
さすがに今の声はなし。
いくらなんでも甘すぎたかも。
幸せな気持ちが溢れすぎて声にまで乗ってしまった。
アキくんが照れすぎて変な振動起こしてるし。大丈夫かな。
「アキくん?」
「その、さ。2人の時だけでいいから、名前で、呼んでほしぃ、なって……」
「……なるほど」
そんなに恥ずかしがることかなって思ったけど、言われてみればいつもアキくん呼びで、気付いた時にはそうだったな。
そう考えるとちゃんと名前で呼んでる時の方が珍しい?
……私まで恥ずかしくなってきてしまった。
「いい、かな」
「ん、わかった」
やばい、思ってるより心臓が暴れてる。
普段呼び慣れた呼び方を変えるだけ。
しかも2人きりの時のみ。
なのに、こんなにも、気持ちが溢れてしまう。
すー、はー、すー、はー。
深呼吸しても、残念ながら落ち着かなかった。
諦めるしかない。
覚悟を決めろ私!
「……
「……! ありがと、芦花」
私が名前を呼んだだけで。
それだけで彼は満たされたように嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そんな、それだけでそんなに喜んでくれるの?
そんなのもう、いっぱい呼んであげるしかないじゃん。
「千秋」
「ん」
「ちーあき」
「なーに」
「千秋!」
「どしたの」
「嬉しそうだなって」
「……まあ、芦花に呼んでもらえるのは、凄く嬉しいし」
うっ、その照れた笑顔は私にも効きます。
照れて、でも穏やかで、幸せそうに笑う君。
幼馴染の関係のままではこの瞬間には辿り着けなかった。
貴方は1人で抱えていって、私はそれに気付けないまま。
本当によかった。心底安心してる。
こんなにも身近に、私を大事に想って、愛してくれる人がいることに気付けた。
運命ってやつ、なのかな。
だとしたら、今までの道のりも大事な物だと思える。交わることのなかったかもしれない私たちの道が、今交わって1つの道になった。
この先は、彼と一緒に歩いていける。
隣に貴方がいるなら、どこまでも。
「千秋」
「んー?」
「大好きだよ」
「……んぐっ、僕も」
「えー、そこはちゃんと言ってよー」
「……」
黙ってしまった彼は、繋いだ手を頼りに私を引き寄せた。
そして、そのまま顔を私に近づけて……。
ん? なんで耳元に?
「愛してるよ」
「んぐふっ」
不意打ちは反則だよ……?
かぐやに下の名前で呼ばせなかったのは、それは芦花だけの特権の予定だったからでした。
今作中で彼の下の名前を呼ぶのは芦花だけでいいのでね。
あと今更ですがお気に入り400UA55000、ついでに日刊も23位に居たみたいで驚きやら嬉しいやら。
みなさん応援ありがとうございます!
2人はの熱い感想も見てて嬉しいです!評価もありがとうございます!
2人の物語は終わった雰囲気出てますが、超かぐや姫としてはまだ中盤もいいとこ、まだまだ続きますよー。