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酒寄さん達引っ越しの日。
僕と芦花、真実たちも手伝いに来ていた。
と言っても僕らのメインワークは、引越し先での荷物の片付けとか。主なかぐやが買ったよく分からないものだね。
今は4人で引越し先のマンション前で家主を待っている。
「いやー、すごい高いね」
「ねー、家賃やばそう」
「35だって〜」
「うわぁ、小遣い何ヶ月分……いや、何年……」
空に聳え立つマンションを見上げながら、その高さをぽかんと眺める。芦花は隣で現実的な視点で苦笑い。
真実が芦花への返答をあえて額まで言わずに呟いたところで、守の顔が青くなった。
うん、気持ちはわかるぞ。小遣い換算だとそうもなるよね。僕も配信の収入とかあってもさすがに無理。
でも、高いだけあって防音もちゃんとしてるそうだし、セキュリティもばっちり。前のアパートから2段階進化したみたいだ。
「ここの最上階なんだってね。景色すごそう」
「私下見れるかなぁ」
「高すぎて怖そうだよね」
「わたしはエレベーター長すぎて毎日使うのダレちゃいそう」
「分かるわー」
景色はすごそうだけど、その分エレベーターの昇り降りは大変だよね。
うんうんと僕らも頷いていると、家主2人を乗せたタクシーが到着した。
「皆、おまたせ」
「おまたせぃっ!」
いつも通り元気いっぱいなかぐやと、これから住むことになる居城の凄さになにやらビビり気味の酒寄さんが登場。
住む前からそんな顔してたらお片付けが捗りませんよ?
「それじゃ行こーぅ!」
「れっちご〜」
「鍵私が持ってるんだからね〜!」
かぐやが先頭で突撃、真実がその後をついていき酒寄さんも鍵を持った手を振りながら追いかけていく。
僕らも後を追いたいところですが、その前に男子組は確認事項が。
「さて、片付けるにあたって僕と守は注意することがあります」
「なんだ?」
「当たり前ですが、酒寄さんもかぐやも女の子です。ダンボールを開ける時は中身が何かを確認してからにしましょう」
「確かに」
「あと、2人の部屋に持っていくものもあんまり僕らは触れないように。プライバシーも大事」
「間違って衣服、特に下着だとか肌着開けたら……分かってるね?」
「もちろんです綾紬さん」
「なので、僕らは重そうなものを運ぶのをメインで」
「うぃっす」
「力仕事よろしくね」
お互いちゃんと事前に注意すべきことを確認していざ、お手伝いへ!
酒寄さんに先導されて、2人の新居へ。
驚いたことに、2階があった。マンションの一室? っていいのか分かんないけど2階があるとかすごー。
で、リビングも広いしキッチンも広い。お部屋もいくつかあってかぐやが散らかしても大丈夫そうだ。
とりあえず室内に積み込まれたたくさんの段ボールを解体するところからスタートです。
見るからにでかいかぐやの謎物体は置くスペースを確保してから移動することにした。
てなわけで目の前にはダンボールがいくつか。事前に酒寄さんが中に何が入ってるかを分かりやすく書いてくれてる。それを見て自分でやっていいかを判断してる。
一つ目は……本? 大丈夫そうなので開けてみたら、酒寄さんの勉強用参考書やらかぐやの読んだとは思えない流行りの漫画やらラノベとか。
「酒寄さーん。これ本類が入ってるけど出しちゃう〜?」
「あー……いや、入れたままでおねがーい」
「はーい、かしこまー」
家主から放置が指示されたので一旦横へ。
お次は……調理器具類か。これはかぐやかな?
「かぐや〜調理器具はー?」
「ん! かぐやがやりやすいようにやるからこっちお願い!」
「はいはーい」
ダンボールごとキッチンへ移動。広いところに中身を出していって空のダンボールは潰しておく。
残りはかぐやに託して次の箱へ。
これは……衣類って書いてあるから触れません。
「酒寄さん衣類よろしく」
「あっ、おっけー」
酒寄さんは軽やかにパス。
一瞬芦花の視線を感じたけど、何もないですよ? 当たり前じゃないですかやだー。
さてさてお次はっと。
これは……なんだ? 道具としか書いてないな。
開けていいのか分からん。
「酒寄さん、この、道具? ってなに?」
「あー、それ多分かぐやの買った細々とした雑貨だと思う。聞いてみて」
「ほーい」
ダンボールに入るくらいの小物雑貨が入ってるようだ。
キッチンの家具をしまい終えたかぐやに箱を持って近づく。
「ん? どしたーん?」
「これ、かぐやのやつじゃない?」
「おー、そだね。これは〜かぐやの部屋持ってくからもらう!」
「りょ、どーぞ」
箱ごと渡してかぐやは2階へ。彼女の部屋は2階にあるらしい。酒寄さんも部屋は2階にしたようだ。
「守ー、いくぞー」
「おー、せーの」
ほどほどにスペースが出来たので、かぐやの大きな荷物を移動。
トーテムポールみたいな謎の物体、ゲーミングキリンのような置物、普通に大きい姿見、あの部屋のどこに置かれてたのか分からないデカ目の狐のぬいぐるみ、絶妙にぶさい……可愛いかもしれないうさぎのぬいぐるみ。
一体どこから集めたのか分からない品々を、守とリビングへ移動する。どれもまあまあサイズがあるので僕らが担当した。
「……これ本当にいるのかな」
「やめとけ、詮索しない方が身のためだ」
「何目線だそれ」
それからも黙々と片付けを続けて、ダンボールが残り三分の一くらいまで減ったところで、お昼を食べることになった。
本日は作ろうにもまだ具材とかないので、出前をとることに。
今回はかぐやの希望でピザになった。
6人もいるのでレギュラーサイズ3枚と中々の光景になった。ついでにサイドメニューとかも頼んじゃってさながらピザパーティーと化した。
「いえーい! 手伝ってくれて感謝かんしゃ〜!」
「皆ありがとね! お昼代は私たちでだすから」
「いやー、そういうつもりではなかったけどありがたくいただきます」
「ここは厚意に甘えようかな」
「ピザもいいよね……」
「もう食欲の目だ……」
届いたそれを広げて、なかなか大きいテーブルの周りに立って並ぶ。椅子はまだ用意してなかったので立食スタイルだ。こういうのも悪くないね。
「それじゃ! いただきまーぁす!」
「「いただきます」」
「いただきます! ……あむ」
「いや早」
早速ピザに飛びつくかぐや。よりも早くすでに一切れ齧り付いている真実。早すぎるのよ……彼氏呆れてますが。
僕もチーズたっぷりのやつを、取って食べる。
むっ、チーズが……伸びて……むむ、むむむむむ?
「んむむ〜」
「わははっ! アキのやつチーズすげー伸びてるー! かぐやもやるー!」
「荒鷹くんなにしてんの……ぷっ」
「彩葉笑ってんじゃん。でも、アキくん面白いよ今の状態」
いやあの、僕はわりと必死なんですよ。
思いの外伸びるチーズに、離れていく手。そして垂れないように間をカバーする手。
かぐやが面白がって真似ようとしてるし、酒寄さんがくすくす笑ってる。
芦花があらあらみたいな感じでフォークを使って横からチーズを絡めてくれた。
おかげでのびーるチーズから解放された。こいつは、難敵だった。
「ありがと芦花」
「あのまま放っておいたら、引越し初日にチーズこぼすことになってただろうからね」
「不名誉すぎる。でも、かぐやが先ほどポテト転がしたの見てたから1番ではないね」
「家主でもないのに落としてたらどっちにしてもダメでしょ」
「それはごもっとも」
芦花からフォークを受け取って巻かれたチーズを口に運ぶ。
久しぶりにピザとか食べたけど美味しいな。さすがに自分で作ろうとは思わないけど、もっと本格的なのも食べてみたさはある。
なにやらかぐやが自分で作る! なんて意気込んでるのが聞こえたけど、それには釜を用意するところからスタート……いや待てよさっきオーブンあったからいけるのか?
自作ピザでも始めそうだなぁ。かぐやならやりかねない。
「あ、芦花ほっぺにピザのソースが」
「え、取って〜」
ふと芦花の顔を見ると頬にピザソースが。
彼女にしては珍しいな。
取ってというので、指先ですっと拭ってあげる。
ほらと差し出すと、そのままパクりといかれた。
…………。
「……芦花さん?」
「ん? ……あ、えと、ピザおいしーなーって」
「無理がありませんかそれは」
「いや美味しいのはほんとだし」
「それで僕の指を食べる理由にはならないのでは」
「もったいないじゃん?」
「まあ、そうかもだけど」
認めてはもらえなそうなので諦めた。
一瞬感じたぬるりとした感覚がソースを掠めていく感じ。
……やめよ。
気持ちを切り替えて周りを見ると、かぐやがチーズを伸ばすチャレンジをしていて、酒寄さんがそれをハラハラした目で見守っている。ちゃんとフォークを構えてさっきの芦花みたいな感じだね。
真実は全種類制覇して今は小休止してるみたい。僕らが満足して残ったのを食べようとしてるみたいだ。守は同じく制覇一個手前といったところ。なんだかんだよく食べるね。
僕と芦花は3枚くらい食べてサイドをつまんだら満足したので、酒寄さんに許可をとってベランダに出た。
高層階故の風通しの良さ、というか吹き込む風が涼しい。柵から顔を出せば、街並みが一望できた。これは素晴らしい景色ですね。
「涼しいね〜」
「うん、それに眺めもいいね。夜は星とか見えそう」
「確かに。落ち着いたらお泊まりとかさせてもらおっかなぁ」
「いーんじゃない? 女子4人で楽しくね」
「男子は2人で男子会?」
「ん、遅くまでゲームで対戦だね」
「わー、それも楽しそう」
青空を眺めながら、夜の星空を想像して楽しそうな笑顔を浮かべた芦花。
女子4人に混ざるのは無理なんで、その時はメンズはメンズで集まってわちゃわちゃしときます。
あー、でも、付き合った今なら。
「……じゃあさ、今度する?」
「ん? なにを?」
「その、遅くまでゲーム」
「誰と?」
「2人で」
「……それは、お泊まりのお誘いですか?」
「それが分かってるなら言葉にしなくてもよかったのでは」
「間違ってたら恥ずかしいじゃん?」
遠回しにお泊まりしようと言ったのが、微妙に伝わらなくてなんか恥ずかしくなってしまった。
いや、ぼくがちゃんと言わなかったのが悪いな。
「ごめん、へたれた」
「アキくん、すーぐ濁し気味に言うんだからさ、こうやって直球で当たってあげないと」
それはそうなので何も言えぬ。
その分芦花がぶち当たってきてくれるから助かるんだけど。
「ん、いーよ。今度、ね」
「……ありがと」
「感謝言われるようなことあったかなぁ」
「なんか、言いたくなったの。気にしないで」
「はーい」
勢いで誘って、OKがもらえたけど。
よくよく考えると理性の危機でもある。
まあ、どうにかなるでしょという楽観的思考で考えるのをやめた。
あとは当日の僕に丸投げ。きっとうまくやってくれるはず。
さて、そろそろ片付け再開かな。
「そろそろ戻ろっか」
「だね。片付け終わらせないとね」
風にたなびく桃色の髪を抑えながら、彼女はふんわりと笑った。
耳には、僕がプレゼントしたイヤリング。あの日からつけているものが、キラリと輝いた。