──今は昔 誰もが知る物語
──かの有名なかぐや姫はこう言った
──そんな結末ちっとも望んでないし
──運命だからってキミそれで頷くの?
暗転したステージから流れるイントロ、酒寄さんの伴奏、そして流れるように歌い出すかぐやのソロ。
ヤチヨと共に踊りながら歌う様はとても楽しそうで、人生を謳歌していて。
途中で入ったかぐやの両手をぎゅっと合わせて握り祈るような振り付け、その表情が面白くて。
──誰かの書いたお話じゃない
──ここに いる キミと 私
次のヤチヨのソロが、静かで少しだけ落ち着かせてくれた。
その間もかぐやは酒寄さんのそばで踊り続けてる。いや、めちゃめちゃ見てる。
でも酒寄さんも踊ってるかぐやを楽しそうな顔で見てるな。
と、思っていたらかぐやが酒寄さんの手を取って走り出した!?
──懐かしいような
ステージ端? を目指して走るかぐやに引っ張られる酒寄さん。
──初めてのような
たどり着いたのは、端の方。
たぶん偶然だけど僕らの斜め前らへんだった。
引っ張られるままだった酒寄さんが顔を上がる。
何を思ったのかはこちらからは分からない。でも、彼女の顔が明るくなったように見えた。光の当たり方って意味じゃないよ、精神的な意味ね。
いつの間にやらそばに来ていたヤチヨと共にかぐやが彼女のそばを舞う。
──そんな歌だ これは──
──キミと今見てるこの景色
──何億回思い出したろう
リズムに乗る酒寄さん、ヤチヨと対になるように踊るかぐや。
そして、ヤチヨにしては少し感情が込められている気がする歌声。
AIライバーとしておそらく考えられた歌声とかなのだろうとは思うけど、今のそれはどちらかといえば今を楽しむように聞こえる。
星降る海がヤチヨの歌声としてベースにするなら、今は確実に楽しんでるよう。
まあ、考えすぎだとは思うけど。AIだしね。
──七色きらめいて
──EX-Otogibanashi
一瞬かぐやとヤチヨが増えて、1番内側の2人の瞳にそれぞれEとXが映った。
御伽話、そのEX。これはEXTRAかな? たしか追加の、とか極上の、みたいな意味があったような。
追加の御伽話? 極上の御伽話? どっちにしてもどゆこと?
あ、そういえば超えていくみたいな意味もあったような。だとしても御伽話を超えていく? ちょっと分からん。
耳に残るフレーズだけど、さすがに意味は分からなかったな。まあ歌詞だしいろいろあるでしょ。
──そうよ私がヒロイン そのハートを射抜いてあげる
──知らないなんて言わせない
──名前呼んで 私は誰?
おっとぉ? ここで酒寄さんも伴奏しながらステップし始めたぞ?
いやそのキーボード持ちながらどうやって演奏するんですか?
──押し倒されぬお姫様
わぁ、そのまま華麗にくるりと回って決めポーズまで決めてますね。
こいつはテンション上がってますよ珍しい。
かぐやはさておき酒寄さんがニッコニコで笑顔なのレアですな。クラスの男子どもが野太い声上げてそう。
──一度きりの人生 一度きりの今に
──ねぇ、私たちいるんだよ
並んで電車ごっこをするみたいに揃えて歩く3人。とても楽しそうだ。歌詞の通りに一度きりかもしれない今を楽しんでる。
一度きりの人生、一度きりの今に、か。
確かに僕らの人生は主観では一度っきりだもんね。転生だとか輪廻みたいな難しい話はなしにして。
だからこそ後悔なく今を生きたいし、したいことはたくさんやってみたい。念願叶った芦花とのことも、そうだし。
今を、楽しまないと、ね。
──きっと永遠だった 会いたいと願うまで そうよ 私──
ここまで激しく動いていたからかかぐやも酒寄さんもVRとはいえ汗の表現が発生してる。
──あれ? 今ヤチヨの頬をなにか流れたような? 気のせいかな? 気のせいか、電子の歌姫だし汗とか出ないはず。いや案外発展してたら分からんのかも?
──そんな おとぎ ばなし
最後はかぐや、ヤチヨ、そしてハモリで声を合わせながら3人流れるように座り込んでポーズを決めて終了。
マイクから聞こえる荒い息遣いと共に、ほんの少しだけ静寂が支配する。
でもほんとに一瞬だった。
「ヤチヨサイコー!」
「ヤチヨー!」
「かぐや結婚してくれー!」
「かぐや愛してるぞー!」
「いろP好きだー!」
「いろP笑ってー!」
爆発するような歓声。拍手、熱気が会場を包み込んでいた。
僕らもとりあえず、拍手はしてるけど感無量といったところ。
横にいる芦花と真実が感動して泣いてるからね。守も呆然とした顔、アホみたいでおもしろ。
会場を見回していたかぐやと僕らの目があった。
こちらに手を振ってくれて、酒寄さんにも知らせて彼女も控えめに手を振ってくれた。
こちらもほどほどに振り返しておく。あんまり激しくするとバレそうだしね。
彼女たちほどではないけど有名な方が数人(自分含め)いるので、面倒は避けたいしね。
友人ファンサが終わった後、かぐやはなにやら酒寄さんに話しかけたようでその内容が余程だったのか酒寄さんが顔を赤くしている。……なにを話したんだ?
鳴り止まない喝采、歓声の声も終わらず、アンコールも始まるかな? と思った。
が。
「芦花、アンコ──ールする……ん? なんか今乱れた?」
「ん? なに──が? ……確かに音声乱れてるかも」
不意に挟まった音声の乱れ。
それは僕たちだけではないようで、観客席の各地で歓声とは違うざわめきが広がりつつあった。
そして、その異変に気付いたのは、ステージのかぐやがこちらを見て手を振ろうとしていた時だった。
ざわめきが気になってはいたけど、ヤチヨもいるし問題はないはずと思い不意に視線があったかぐやに手を振ろうとした。
その傍に見た事ない人型が近寄ってきていた。
ひたすらに白くて、頭だけツクヨミでも見たことのあるような灯籠で構成されたもの。
それは、かぐやにも酒寄さんにもバレずに近寄り、かぐやの腕を掴んだ。
「かぐや!?」
「かぐやちゃん!?」
腕を掴まれたかぐやが力が抜けたようにへたり込んでしまった。明らかにおかしい挙動だった。疲れているとはいえ、掴まれてただけだ。
その光景を目の当たりにした僕と芦花は思わず大きな声を出してしまった。
周りもそれに気付いたのかざわめきが大きくなる。
なおも寄ってきている灯籠頭の白いやつに酒寄さんが咄嗟にKASSENで使っている双剣を取り出して振りかぶって────。
「は……?」
「え? どういうこと?」
────その腕を切り飛ばしまるで血液を流すように紺色の何かを吹き出した。
本来ならば桜のエフェクトが出て消える。
しかし、その異形の腕は切り飛ばされて転がりそのままそこにある。
その断面から流れ出る人とは違う色の液体のようなものが、酒寄さんを後退させる。
「ここからで向こうに行けないのかな!」
「無理だってそういうお客さんがいるだろうから全部遮断されてるよ!」
いつのまにか彼女たちの近くには何人もの灯籠頭が。
囲まれている。助けに行きたいところだけど、観客席とステージには乱入防止の透明な壁が設けられていて侵入することはできない。
指を咥えて見てるしかないのか……。
ヤチヨは、ヤチヨはなにを?
こういう不具合、というかエラーはヤチヨがすぐに直してくれるのでは?
そう考えたところで、まるでタイミングを見計らったように近寄っていた灯籠頭が1人弾け飛んだ。
「おいたは、ダメだよ〜」
普段よりもだいぶ低い声のツクヨミ管理人、ヤチヨの声だ。
人差し指を指揮棒みたいに振って、灯籠頭を吹き飛ばしていく。
飛ばされなかったやつのうちの1人が数歩後ずさって、彼女に向かって頭を下げた。どういうこと? 知り合い?
疑問に余ったのも束の間、灯籠頭たちが急に消えていった。
……これは一体。
「今のは一体〜? 何が起こってしまうんだ? 続報を待て!」
そして、もはやわざとらしさすら感じられるそぶりでヤチヨはこれがドッキリか演出であったように宣言した。
周りの観客たちはヤチヨの案出だと思ったものが大半だったようで。ざわめきも落ち着きつつあった。
でも。
「あれは絶対違うでしょ」
「うん、かぐやちゃんの様子がおかしかったもん」
未だに呆然としているかぐやと、その傍らで不安そうに支えながらヤチヨを見る酒寄さんの姿が、これを演出などではないと思わせる。
とりあえずあとで大丈夫か連絡しよう。
この場の4人の意思が見事に揃った瞬間だった。
忘れてた、というかそれどころじゃなかったけど真実と守も横で心配そうな顔してました。普通に僕が芦花しか視界に入ってなかっただけです。
ライブがクローズし、一旦真実の家で集まり酒寄さんにメッセージを送った。でも返事がなかなか返ってこなかったので解散することに。
現実に戻ってきた僕は、すぐにこちらに来ると言う芦花に了承のスタンプを押し、彼女を待った。
10分もしないうちにインターホンが鳴り、彼女が来た、
玄関に迎えに行き、そのままリビングへ。
テレビではさっきの時間帯にこの近辺で大規模な通信障害についての臨時ニュースが流れていた。通信障害以外に、いくつかの大型電子機器には月が映り、また他のモニターには今年の9月12日が繰り返し表示されていたようだ。
たぶんライブ終わりの音声の乱れはこれが原因だと思う。
何が原因で起きたかは不明のようで、今はまだ何も分からないようだ。
月がなぜ映し出されたのか、9月12日になにがあるのか。何も分からない。
「何が起きたのかな」
「分かんないけど、かぐやに触れたやつが関わってるのは確かだよね」
「あの白い、なんだろ」
「灯籠じゃないかな。ツクヨミでも似たようなの見たことあるし」
「あー。灯籠ね。あれがどこから来たのかも分かんないけど、そうだよね」
「ヤチヨの事だからそういうのはすぐに対処してくれる……と思うけど」
管理人ヤチヨはバグやエラーはすぐに修正するし、そういうおいたは許さないタイプだ。
だからこそ、あのバグかエラーか、その両方なのか。灯籠頭が現れた時にすぐに反応がなかったことが気にかかるんだよね。
「酒寄さんがヤチヨと話してるだろうから、今度聞いてみよう」
「そうだね、てか返信あった?」
「いや、まだ何もない。グループ話の方も反応ないね」
「うーん、大丈夫かな」
未だに返ってこない2人からの返事。
酒寄さんにもかぐやにも送ってるけど、音沙汰なし。
グループの既読も2つ足りないまま。
もやもやするけどどうしようもない。
なんとなく、気分が落ち込みそうで、荒ぶりそうな不安定さを感じ始めた。
その時。
「千秋、落ち着いて」
「……っ! 芦花?」
「顔、険しいよ?」
芦花がそっと僕の手を握ってくれる。
心配そうな顔で僕を見つめている。
いけない、彼女の前では笑顔でいると決めていたのに。
手を伝って彼女の体温が届く。思ってるより僕の手は冷えていたようだ。とても暖かく感じる。
「ごめん、ちょっと焦ってた」
「いいよ、私もだもん。千秋が私よりも焦ってるから、少しだけ落ち着いてるだけ。不安なのは一緒だよ」
「芦花……」
言外に1人で不安にならなくともいいと、言われたようで。
なんだか情けなくて、でもちゃんと見守ってくれることが嬉しくて。
繋いだ手を少しだけギュッと握った。
「……よし。落ち着いた。とりあえずしばらく待とうか」
「そうだね。返事来るまでのんびりしよ?」
もやつきが止まったわけではないけど、考えたところで何も進まないので一体置いといくことにした。
遅い時間だったので芦花を長居させられなかったので、1時間ほどで解散した。
返事が来たのは日付が変わる前。
「私は大丈夫」と酒寄さん。
「ライブで疲れちゃった〜」とかぐやから返ってきた。
それが本当なのかは、本人たちにしか分からないけど。