コラボライブの次の日。夏休み最終日だ。いや正確には1日も休みだからまだあるんだけど、8月の終わりなのでね。
僕は1人で白の花畑を訪れていた。芦花は真実と一緒に酒寄さんにライブの感想を伝えるとのことで、今は夏期講習を受けてる酒寄さんを待ちながらツクヨミでのんびりしてるそうだ。
僕と守も呼ばれてはいたんだけど、守が課題がもう少しで終わりそうなので不参加になったので、僕もちょっと野暮用的なのを片付けようと抜けたのだ。
その用事がもしかしたらここで片せるかも? と思って。
前に来た時に都合よく空からヤチヨが降ってきた。今回も都合よく、とは言わずともひょっこり出てきたらラッキー程度に散歩している。
見つからなければ諦めて芦花たちのところに顔を出す予定ではあるけどね。
にしても。
「相変わらずこの花畑は綺麗だなぁ」
一面の白い花海。季節を超えた四季の花々が咲き乱れるここは、今でも観光名所ではある。
でも、その割に知名度はいまだに低い。
イベントがあんまり開催されないからってのもあるのかな? 中心地の方ではなにかしらイベントが起きるし。
ここはそういうのがない正しく花を観るための場所って感じ。花に興味がなければ面白くもないだろうしね。
場の雰囲気も相まって静かで、騒ぐのにも向いてないし。
そういうところが人を寄せ付けないのだと思う。
だからこそ、隠し事とか、秘密のお話に向いてるわけで。
「バレバレだよ〜出てきな〜」
「むむっ、このヤチヨを見破るとは。こやつ、出来るっ」
「いや明らかに花畑の中にメンダコ浮かんでたらバレるでしょーが」
狙い通りというか、ご丁寧に微妙なボケをかましながらご本人が登場。いや、数ある分身の一つだろうけどね。
うん、メンダコを頭の上に乗せてたら白の中に赤が一点目立ちまくりですよ。隠れる気あります?
「まあまあそれはそれ〜。今回はどうしたんだい? 1人でこんなところにお散歩かにゃ〜」
「ん〜散歩はメインではないよ。今回はヤチヨ目当て」
「およよ? ヤッチョに用事とな〜? 何かな何かな〜?」
なんというか、あからさまにテンションを上げていると言うか、ふざけ倒してるような口調に聞こえちゃうのは気のせいかな?
普段のヤチヨもおとぼけスタイルではあるんだけどさ? なんだか今は、少し鼻につくような。
「昨日のアレ、なんだったの?」
「アレ、とは?」
前置きとか、もう少し入れても良かったんだけどめんどくさくなった。
ていうか、煙に巻かれて有耶無耶にされそうな気がしたのでね。自称8000年生きてるAIさんならそういうのもお手の物そうだし。
単刀直入な聞き方にヤチヨもにっこり笑顔の瞳が細くなる。
「昨日のライブの終わりに出てきた、灯籠頭」
「あーアレね〜。や〜ヤッチョも探ったけどわかんなくてさ〜。悪い子のいたずらかにゃ〜って思ってるんだけど、どう思う?」
質問した僕に逆に問い返してくるヤチヨ。やっぱり真面目に答える気はなさそうだねぇ。
まあ、そんな気もしてたけど。
「それは、僕に聞かれてもね。ただのライブ見てた僕には分からないよ。そーいうのは詳しくないしね」
「なら、なんでそんなことを気にするんだい? 昨日も言ったけど、続報を待ってくれればよいのでは?」
「ん〜それはそうなんだけどね。でも、ヤチヨはなんか知ってそうな気がしたからさ。灯籠頭が消える時に、なんかされてなかった?」
あからさまにかぐやが脱力して、酒寄さんが警戒してて、一日経った今でも原因不明ってのはさすがにおかしいよね。
普段のメンテもほんの数時間程度、バグ修正だってそんなにかかってなかった。
なら今回のことも一晩経って朝にもなれば、ヤチヨが本気で確認してたら何かしら進捗はあるはず。
なのに、何もわかってなさそうなふりをしている。怪しいよね。
「ん〜? 気のせいじゃないかにゃ〜。ヤッチョはなにもされてないよ?」
「ふーんそっか。なんだか謝られてるように見えたけど、気のせいだったか」
そう僕が言うと、ヤチヨの目が一瞬だけ薄く開き、口元の笑みも固くなった。
「うんうん、遠くだから見間違いだよたぶんぶん。聞きたいことは他にあるかい?」
だけど、彼女はしらを切るつもりらしい。まあ、僕も確証はないから詰め切れないけどね。
ここは退散しておこうかな。聞きたいことも聞けたし。
「いや、大丈夫。ちなみにだけどさ、ツクヨミってそういうセキュリティってちゃんとしてるよね?」
「そりゃ〜もちろん! 神々が楽しく遊べるように、それを妨害するような悪い子は管理人ヤッチョが許さないからね!」
「……そっか、そうだよね。ありがとヤチヨ、ばいばい」
「よよよ、それではさらば〜い」
僕の質問が終わり手を振りながら空へと消えていくヤチヨ。
確認というか、前提事項のようなことを聞かれ、彼女は当然ですよと胸を張っていた。
ならばあれも許さないし、ちゃんと根本の確認は終わってるはずではと思う。
部外者な僕には明かせないなら分かるけど、エラーやバグといった形ならそうといえばいいはず。
そうでないなら違うと思えてしまう彼女の答え方だった。
まあでもあんまり考えたところで僕にはよく分からないし、今のところかぐやが元気か怪しいくらいしか実害もなさそうだから一旦放置でもいいのかな。
「さてと、用事は済んだし帰ろっと」
芦花達は酒寄さんにちゃんとあれを見せれたかな?
彩葉の夏期講習終わりに私と真実は彼女をツクヨミへと呼び出した。
表向きの理由は昨日のライブの感想を伝えるため。裏は……。
「講習お疲れ様、彩葉」
「おっつかれ〜彩葉〜」
「2人ともお待たせ、ありがとね」
河原喫茶、通称ツクヨミ川床。背面の川を見ながらお座敷でバーチャルパフェとかを楽しめる待ち合わせスポットで有名なところだ。
彩葉が来るまでここで私と真実は駄弁っていた。千秋は用事があるからどこかへ行っちゃったし、鳩河くんは課題のラストスパート中。
なので残った私たちはここで持て余していたわけで。元々彩葉に感想を伝える予定はあったから、ちょうどよかったしね。
「で、私なんで呼ばれたの?」
「それはもちろん」
「昨日のライブだよ!」
呼ぶ時に『今からツクヨミ集合ね』としか送らなかったからなんで呼ばれたかわかっていないご様子。
まあ、当事者ほどそういうのは分からないものかなとは思う。
のでね、ちゃーんと感想を伝えてあげないとね。
「え、そういうのはかぐやに……」
「いやいやいや、彩葉もあそこにいたじゃん」
「かぐやちゃんが歌上手いのとか踊りが上手なのは知ってたし」
「でも彩葉の演奏はあんまり聞けてなかったし、ライブで踊るのは知らなかったもん」
そう言うと彩葉の顔が赤くなった。
ふふ、現実でも赤面してるな〜? 相変わらずかわい〜ねぇ。
「や、あれはちょっと気分が乗ってしまったと言うか……。一応振り付けは見てたからノリに乗れてしまったというか。一応私は演奏がメインだからダンスはほどほどでいいよとは言われたんだけどね」
「ばっちり合わせてたじゃん! めっちゃ楽しそうだったしさ、てかあれ! 一曲目の!」
「……! いや、あれはダメです! 忘れて! 忘れなさい!」
「無理でーす、長期記憶に保存されましたー」
「わたしも〜」
「だぁぁぁぁ!!!!! はずい!!!!!」
あの「ヘイベイビー」は、昔の私だったら落ちてたね。うん。
千秋と結ばれてなかったらほんとに危うかった。彩葉はほんと不意打ちが上手い。
真実も一瞬とはいえキュンとしてたみたいだし。あの一言で何人の人を沼に沈めたのやら。我が親友といえど恐ろしいばかり。
当人は恥ずかしすぎて恥ずか死しそうだけどね。今も照れの赤面エフェクトと、怒りの湯気みたいなエフェクトがすごい出てる。
いかにも恥ずかしくて見せられませんよって感じ。
「まあまあ、そんなに恥ずかしがらずに」
「もう一回やってよ「へいべいびー」」
「ぜっっったいにやらん!」
「えー」
「けちー」
「なんとでも言いなさいっ」
アンコールは効きませんでした。残念。
でも、いつかはやってくれると信じてる。ちょろ葉のことだし、かぐやちゃんが頼めばいけるっしょ。
「まあ、要するにね」
「昨日のライブがさ」
「「良すぎちゃって泣いた〜〜〜!!!」」
「あ、えと……ありがと……ございます」
「演奏も最高だった〜!」
「花丸つけたげる〜〜」
若干の誇張がないこともないけど、間違いでもないのでね。
本当に良かった。それは確かだ。心の底から楽しげに演奏して、時たま踊る彩葉は今まで見た事ないくらいキラキラ輝いていて。
かぐやちゃんのおかげなのかなって思うくらいには、2人のコンビは最高だった。
だからこそ、最後のことが気になるわけで。
「かぐやちゃんは元気そう?」
「かぐや? あ〜……魚捌いてたよ?」
「魚?」
「何の魚〜?」
「白甘鯛って言ってたかな?」
何故に魚……?
真実は食べたーいとか言ってて興味が逸れてるけど、私はそんなに食い意地張ってないので逸れません。
当初の目的、感想を伝えるはコンプリートした。
ので、お次は裏の目的──彩葉に花火大会に行ってもらうを遂行しよう。
ちらりと真実に目配せ。
食い気に気を取られてるように見えた彼女だけど、私の目配せにはちゃんと反応してくれた。さすが親友、わかってるね。
私は宙に四角を描いた。それをツクヨミが感知して私のデータフォルダにあったチラシを映し出す。
「なら、ちょうどいいかな?」
「ん? なにこれ」
「夏の終わりに花火大会なんて、どうだい? お嬢さ〜ん」
「なにそれ誰の真似よ」
明日9月1日の夜、三郷花火大会が開催される。
そのチラシだ。なんでそんなものを持っているかといえば、昨日千秋と話したあと、2人に元気になってほしくて少し探したのだ。
直近で良さげなのが合って良かったとは思ったけど、さすがに急すぎたと言うか突拍子もなかったかなとは思ってる。
なにより。
「みんなで? いいんじゃない?」
「いんや〜? わたしたちには重大な使命がありまして〜」
「え、え?」
私たちは一緒に行く気がないのだ。
チラシを出しといてなんだけどね。
今回は彩葉とかぐやちゃんが2人で行って楽しんで欲しい。そこに私たちはいない方がいいかなと思ったのだ。
2人だからこそ話せることもあるだろうし、私たちを意識して話せないことがあっても困る。
まあ、どうかはわからないけどね? 私たちの勝手な憶測というか。
「わたしも芦花も、大事な大事な彼氏がおりまして」
「私たち、デートしに行くからさ?」
「え、2人が提案したのに?」
うん、それはそう。
だけど、ごめんね。
私たちはおじゃま虫にはなりたくないのですよ。
「うん、というわけで」
「あとはよしなに〜」
「うっそでしょ〜」
彩葉の情けない声を聞き流しながら、私たちはツクヨミからログアウトした。
目を開けばそこには隣で座っている真実が。
「上手くいったね」
「ね〜。我ながらデートを持ち出したのはなかなかの手では〜?」
「彩葉ならトリプルデートとか言わないだろうしね」
「そもそもダブルデートすら思考になさそう」
「確かに」
現実、私の部屋で私たちは一緒にツクヨミに入っていた。
ログアウトした後のことを話し合うためにもね。
辻褄合わせのために千秋や鳩河君にも連絡しなきゃだし、さすがに彩葉があの2人に連絡するとは思えないけどね。
万が一千秋が個人的に連絡をしてたりして、流れで聞かれたりすると面倒だから。
「でも、どうせならダブルデートがてら私たちも行っちゃわない?」
「え、鉢合わせたらどうするの?」
「そこは大丈夫でしょ〜。さすがに人が多いから早々会わんて。屋台は巡りたいけど、今回は我慢するよ」
「ん〜……ならまあいいか。アキくんに頼んでなにか作ってもらう?」
「あり〜! やりぃ!」
元々は元気のなさそうな2人のための花火大会の提案が、なぜか本当にダブルデートすることになるとは。
まあ、楽しそうだしいっか。
あ、てか花火大会行くなら浴衣。
「浴衣、真実はきてく?」
「もち〜。芦花もでしょ? たかち〜メロメロにしちゃいなヨ〜」
「も〜メロメロだと思うけどね」
「……おぉう、カウンターも出来るようになったとは」
? なんか真実が思ってるのと違う味の物を食べた時の顔してる。どうしたんだろ。
さて、明日だしレンタルの浴衣探さないとね。
千秋にも連絡してお揃いにしたいな。
「さ、真実。浴衣のレンタル探すよ」
「はーい。守にも連絡しとかないと。課題終わってなくても明日は花火大会行くよっと」
わぁ……鳩河君頑張れ……。
この辺芦花たちの出番少ないからどこまで捏造(言い方)するか悩みますな。