似合いそうな浴衣探すの大変だったぜ……。
酒寄さんとかぐやへ花火大会のことを伝えた芦花から、その花火大会に真実たちと行こうと誘われたのが昨日の夜。
僕らは行かないというか、邪魔をしないようにするという話だったと思うんだけど。
なんでか知らないけどそこからバレなきゃ大丈夫でしょ! ということでダブルデートになったらしい。
いっそいで浴衣を借りる羽目にはなったけど、まあ男子の浴衣は相当に奇抜とかおかしくなければいいよねって事でサクッと済ませた。
紺色の生地に縦ラインの模様、帯は明るめのグレー。目立たず落ち着きすぎずだと思いたいね。
集合時間は16時と、芦花に言われた。場所は駅前。なのでいつも通り1時間前についておこうと家を出たのだけど……。
「やっほーアキくん」
「え、え? 早くない?」
「いぇ〜い、たかちー遅刻〜」
「まあ、遅刻というより騙されたってのが正しいな……」
集合場所にはすでに3人の姿が。
え、まさかの遅刻? そんなことある? 1時間前に来てるのに?
「ふふ、実は嘘の集合時間だよ? アキくんいつも早いから試しに遅い時間を伝えてみたけど、まさか1時間も早いとはね」
「いや、その、まあそうだけどさ……え、いつから待ってた?」
「ん〜私はいつもどおりだよ?」
「わたしも芦花に同じく〜」
「俺は30分くらい前かな」
ぐぁ〜、騙された……。
芦花はいつもの通りなら15分くらいか。ぐぬぬ、まさかこの僕が芦花を待たせてしまうとは。
でも嘘の時間を伝えられちゃったら仕方ないか。
「普通に時間教えてよね。まったく」
「ごめんごめん、それじゃいこっか」
歩き出した芦花の後を追う。
驚きで忘れてたけど、今日は皆浴衣で集合していた。
守は黒に赤の帯、男の子らしいやつだね。
真実はピンクにイチゴ柄、帯が黒で守とは反対になっている。狙ったのかな? でも可愛らしい感じで似合ってる。
「あ、そうだ。浴衣、どう? 似合ってる?」
前を歩いていた芦花がふと思い出したようにこちらに振り向き、その場でくるりと回った。
ぶっちゃけ後を追ってる時から思ってるのと違う色合いで驚いていたけど、すごく似合っていてどうでも良くなった。
芦花は僕と同じ紺色ベースに赤い菊の柄が散りばめられている。帯は白。なんだか……僕の色と似ているような。
髪型は三つ編みにした髪をお団子にしてすっきりとした雰囲気。う、うなじが……。
「と、とても、似合っておりまする」
「なにそれ、緊張してる?」
「いやだって、いつにも増して大人っぽい雰囲気だし……でも可愛いし……」
いやほんと大人っぽさ全開で、同い年に見えないというか。大学生に見えちゃうのでは?
でも可愛さもあるし、綺麗で素敵だし。
だから待たせるのとか嫌だったんだけどな。絶対有象無象が集まるだろうし。
ぐぬぬ、今度は2時間早くするか……?
「アキくんが来てから浴衣を予想して合わせてみたよ。たぶん紺色だろうなって思ってたけど当たったみたいね」
「うん、予想的中だよ。芦花だったら水色か白とか着てくるかなって思ってたんだけど」
「んー、その選択肢もあったんだけど、どうせならお揃いにしたくてさ」
「うっ、可愛い」
可愛い。
理由まで可愛いとか無敵ですかな?
僕の彼女は天下無敵だったかもしれない。
後ろから生暖かい視線を感じないこともないけど、無視一択。今は目の前の素敵な彼女に夢中でいたい。
改札を抜けて電車に乗り込む。終点の駅までなのでそこそこ長い。
運よく空いたボックス席があったので皆で座った。
「にしても、2人はおそろ、俺らも帯とベースの色を交換してるけど同色と。よくもまあ合わせれたよな」
「女子2人の予想の精度じゃない? もしくは僕らが分かりやすいか」
「どっちかといえば分かりやすい方だよね守は〜」
「アキくんも同じ〜」
「「ぐぬぬ」」
お互いの浴衣を見ながら雑談。
僕と芦花はお揃いだし、真実と守は彼の言った通り色を入れ替えただけ。男の選ぶ浴衣なんて大体黒か紺色ばっかだから、そう言われるのも仕方ないとは思うんだけどね。
それはそれとして分かりやすいのはぐぬぬってなる。まあそれだけ理解がもらえていると考えましょ。
同じ電車にはおそらく目的地も同じ浴衣の人がちらほら。
さすがに酒寄さん達の姿はなかった。良かった。
これで顔を合わせてしまったら非常に気まずいからね。
「それで、本日のたかちーは何を作ってきてくれたので〜?」
食い意地の張った
もとより昨日のうちに何か作って欲しいと頼まれてたからいいんだけどね?
その鋭い眼光は浴衣女子の目ではないと思うから控えた方がいいよ? 彼氏も引くんじゃない? ……それはそれでいい? あ、そう。
「本日は醤油焼きそばでーす。屋台飯なら焼きそばだよね、でも前回ソースはやったから今度はしょーゆ〜」
「いぇーい、たかちーの焼きそば〜」
「いつもありがと〜」
「助かってます〜」
「くるしゅうないくるしゅうない」
少しだけ胸を張って得意げにすれば、周り3人が控えめに手をヒラヒラさせて主役ですよみたいな感じで引き立ててくれる。
……いや、なんか恥ずいからやめよ。
すぐに手を振って終了。
ご飯は向こうについてからと言う事で、お披露目はまた後で。
終点はまだまだ先、いつだかぶりの4人でのおでかけ、たわいもない話でたくさん盛り上がる予定だ。
「とうちゃーく!」
「着いたね〜ん〜〜」
「さすがに、体が、ん〜〜」
「立ってるよりは楽ですけどね〜」
駅につき改札を出た先で体を伸ばす。
ん゛〜〜体がバキバキいってる〜。
真実だけはそんなにって感じ。これは体格の差か? 言ったら怒られるので言わないけど。
花火大会の会場は川沿いなので移動。
屋台で買うかは、焼きそば食べたあと次第?
まずは場所を取りたいところ。
これが問題なんだよね〜。酒寄さん達がどこに場所をとるかは分からないから、これはまじで運次第。
ここは芦花でも拝んでおこう、結構運がよろしい。というか僕の幸運の女神なので。
「いいとこ取れるといいね」
「芦花の運に期待してる〜」
「私そんなに運良い?」
「僕に比べたらね」
「あー」
この前1人で散歩してたら蝉が飛んできた僕に比べたら、ね。あれはびっくりした。
なんならカナブンに追突されたこともある。あれは思ってるより痛かった。てんとう虫にもぶつかられたし、虫に縁でもあるのかな。
今は浴衣だからご遠慮願いたい。
「真実は先に買っとけば? どうせ足らないだろうし」
「確かに〜守も他の店並んで買っといて〜」
「へいへい。分かったよ」
芦花にお祈りは済ませたので、前を歩く食いしん坊に屋台を先に巡るように伝えておく。
人数分は作ったけど、どうせ物足りない顔されるのは目に見えてる。なら先に買っといた方が混んでから買うよりもいいだろうしね。
僕と芦花はこれで十分だろうから場所取りしたらのんびりする予定。
「にしてと人多いな」
「はぐれないよう手を繋いどけば? 真実は見失うと大変だよ」
「だ〜れが小さいって〜?」
言ってない言ってない。思ってはいるけど。
でも会場に向かう人の流れはすごいから、ほんとにはぐれると大変だ。
隣を歩く芦花の左手をそっと握る。流されたら困るし、変な虫が来ないとも限らないしね。
「あっ……」
「はぐれないように。……まあ、繋ぎたいのももちろんあるよ?」
「うん、いいよ」
握った強さと同じくらいの強さが返ってくる。
夏場のじんわりした暑さが、握り合った手を汗ばませるけど、芦花だからか気にならない。いや僕の手がどうかは気になるけどね。
前のお2人もちゃんと繋いでるようで。さすがは先輩カップル、手を繋いでるのが当たり前に見えるね。
「くっつけた僕らが言うのもなんだけどさ、お似合いだよね」
「ね、私たちも周りからそう見えてるかな?」
「んー、そうだといいね」
「お似合いすぎて近付き辛いが〜」
「2人の世界が広がるとねぇ」
僕らの世界て、言い過ぎでは?
「そんなに?」
「え、自覚なし?」
「お互い無限に甘やかそうとしてるの周りにばら撒かないで欲しいが?」
そんな気は1ミリもないんだけど、相当だったようです。なんかすみません。
元々芦花しか見てないから仕方ない、じゃだめでしょうか。だめですか、はい。
「自重出来たら頑張ります」
「そ、そんなにかぁ……恥ず」
「まあ、幸せな時期だろうから何も言わないけどさ」
「周りを見てからいちゃつけ」
「うっす」
「はい……」
繋いでない右手で顔を隠す芦花さん。僕は普通に顔が熱くてそらしてます。
これが、付き合いたてゆえの、手抜かり……?
やはり外でデートはハードルが高かったかな?
もうちょいお家デートでならしてからにすれば良かったかも。
「でも芦花といると嬉しくて、幸せになっちゃうからさ」
「まあ、そうだよな。で、も、周りを見ろ」
「芦花のたかちーにしか見せてないような可愛いところを公開したいなら止めませ〜ん」
む、それは嫌だな。
芦花の可愛さは全世界に知らしめたいところではあるけど、家での気を抜いたところとか、甘えてくる可愛さとかは僕のものだけにしたい。
ぐぬ、ちゃんと自重を覚えよう。
うっかりお外で芦花と気を抜かないようにしないと。
「気をつけるよ」
「よろしい。芦花もこんな感じでたかちーには甘いんだから。ちゃんとお互い意識するんだよ?」
「はい、真実教官」
「誰が教官じゃい」
先輩彼女と彼氏さんからのありがたーいアドバイスを頂きました。
……たぶん、2人も同じような経験があるから言えるのだろうね。
うん、初期の頃に確かにやってたような気がする。
なんて、話をしているうちに会場に着いた。
人はまばらで場所取るのも楽そうだ。
「とりあえず向こうのほうに行こう」
「さんせー」
「同じくー」
「れっちごー」
満場一致で階段登ったところを右に歩いて行く。
ちょっと歩いてから、降ったところのシートを広げて良いエリアに到着。
真実が用意してくれたレジャーシートを皆で綺麗に伸ばして地面に設置した。
僕と芦花が真ん中ら辺に座ったところで、真実たちは出店に買い物へ。
「それじゃ買いに行ってくる〜」
「留守番よろしく」
「いってら〜」
「行ってらっしゃい」
2人は階段登ったところの出店に向かう。
と、その前に真実が戻ってきた。
「間違っても、いちゃつきすぎないよーに」
「しないよ!」
「真実〜!!」
「ひゃ〜逃げろ〜」
いらない忠告だけして真実が小走りで逃げていった。
あの小悪魔め。
余計なことを言われたせいで返って意識しちゃうじゃないか。
ほら、隣の芦花も顔が赤いし。なんか視線が上の空で、空いてる右手がパタパタと顔を仰いでる。
もー、僕もまた顔が熱いし。
真実め、後で絶対お説教だ。