真実の置き土産により、絶妙に気まずい空気が発生中。
いやまあ、ぼちぼち花火を見に来た人たちが周りにシートを敷いたりして増えてきているので、いちゃつく? のはさすがに出来ない。
出来たとしても人前ではしませんよ? ええ、さすがにね。信頼がない? 残念です。
それはそれとして買い物に行った2人を待つのも暇なので、どうしたものか。
「ねーアキくん」
「んー? なーにー?」
「なんでもなーい」
「なんだよもー」
「呼んだだけー」
なんだ? 可愛いか?
呼ばれてなんだろと思ったら呼んだだけでしたと。
なんか漫画のワンシーンにあったような気もしなくもない。
現実ではこんなにも可愛いとは。いや芦花が可愛いからかな?
というか、やられたらやり返さないとね?
「ろーかー?」
「なぁにー?」
「呼んでみたー」
「私の真似〜」
ゆっるゆるの中身のない会話、とても気が楽になるね。
「花火見るのいつぶり?」
「んー、去年の皆で行ったやつかな?」
確か夏の終わりに5人で見に行ったよね。
あの時はまだ芦花も酒寄さんを想ってた頃か。懐かしい。
「1年ぶりかぁ。まあそうそう何度も見るものでもないか」
「ここからだとどこもちょっと距離あるからね。見に行くのも楽じゃないからねぇ」
「前行った江ノ島とかの方なら、花火大会結構やってそうだよね」
「ん〜……確かに、結構やってそう。湘南の方は割と多いね」
「いいね〜向こうは花火の音とかよく聞こえるんだろうな〜」
上を見上げてまだ夕暮れ色な空を眺める。
雲1つない晴天で、花火を見るのにもってこいな天気だ。
「次は2人で見に行きたいね」
「行こうよ、まだ時期的にやってるところはあるしさ」
「どこのがいいかな〜」
「芦花となら、どこへでも」
「……もう」
照れちゃった。
本心なんだけど、いや知ってるとは思うけどね。
どこへでも行けるし、どこへでも行きたい。君とならね。
なんて思ってたら、芦花が顔を近づけてきた。
ん?
「千秋はすーぐ、そういうこと言うんだから」
「うっ……芦花さん囁きはずるいっす」
「え、なに?」
耳元で小声で2人きりの時だけの名前で呼ばれるのはダメです。
心臓が暴れてしまいます。
耳から入る幸せにより頭が一瞬パーになりかけました。
当人にその気がないのが1番タチ悪いけど、自覚ありでやってきてたら小悪魔もいいとこなのでこのままでいて。
僕の心臓のために。
「お待たせー!」
「荒鷹なんか顔赤くね?」
「なんでもないよ」
「なにがあったのかな〜?」
「デコピン」
「やめてぇ」
囁き攻撃を耐えて心頭滅却していると、ちょうどいいところに2人が帰ってきた。
手にはじゃがバター、イカ飯、串焼き、りんご飴、鈴カステラと甘いものからしょっぱいものまでコンプリートしてる。
……どんだけ食べる気なんだ?
「焼きそば食べてそれも食べるの?」
「うん。よゆー」
「守?」
「言うな。俺も慣れたけど驚いてんだ」
「真実はよく食べるね〜」
目の前に並べた戦利品を見て満足げな
彼氏の方を見ればなんか温度のない瞳になってるし。
芦花は何も考えてなさそうな返事だ。頼むからもうちょい止めてくれ。
一応僕らも食べることを想定してるらしいけど、それにしたって多くない?
まあ、どうせ全部真実の腹に入るならいいか。
全員揃ったのでバッグから焼きそばを取り出す。
今回はタッパーに詰めてきた。どでかい容器だと持ってきづらいからね。今日は浴衣で動きづらいし、その辺を考慮しました。
通常サイズの3つと、
「ほい、焼きそばだよ〜」
「いぇーい」
「あからさまにでかいのが……」
「分かるだろ?」
「なんか、すまん」
「慣れたよ、僕も」
「まじですまん」
どでかタッパーを見て、悟った守くん。
はは、謝られてもね、もう慣れ親しんだ工程さ。
1つだけ3倍くらいの量だから、3人分作るのと真実の分作るので労力が変わらないという。
今朝は大変だったなぁ……。集合が遅かったからなんとかなったよね。早かったらまたまた寝落ちしてたかもしれない。
今日だと芦花の浴衣ひざまくらコースの可能性があったので、回避できて良かった(?)。
「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます!」
僕芦花守は穏やかーに。真実は待ちきれないよ? と言わんばかりに焼きそばにかぶりついた。一口がでかいて。
今回は醤油といってもいろいろ混ぜた特性醤油でして。砂糖やら味の素やらオイスターソースやら白だしやらが混ざっておりまする。
配合は秘密にしとくけど、真実の反応的にも問題なしのようだね。
「ん〜美味しい。さすがアキくん」
「なー荒鷹〜今度料理教えてくれよ〜まじで追いつける気がしないんだが〜」
「どーもどーも。守は今度なんか作ってきなよ。それのレベルによる」
「うっす先生」
だれが先生だ。
真実は食べるのに夢中で話に参加してこないので、僕らも静かに進めるとしよう。
買ってきてくれたじゃがバターとかイカ飯も少しもらう。
ご飯物を食べながらご飯物を食べる……これいかに?
炭水化物の爆弾だな〜と思考を飛ばす。芦花がバランス気にしそうだけど、今日は許して欲しいよね。
縁日で野菜は取れない……。
串焼きを串から外して1つつまむ。
んー、縁日の味ですな。あまじょっぱ。
「祭りとかの串焼きってなんでこんな美味しく感じるんだろうね」
「お祭り効果ってやつじゃない?」
「確かに祭りの時に買う串焼きとか焼きそばってめちゃ美味いよな」
「わかる」
「うわ急に喋った」
もぐもぐしてたはずの真実の声にめっちゃびっくりしてしまった。
本人は不服そうだけど、さっきまで焼きそばで口がいっぱいだったじゃないですかやだー。咀嚼早くない? そしてもう半分くらいないんだけど。
早すぎるって。3人前はあったはずなのに……。
「食べるの早すぎじゃない?」
「美味しくて」
「あ、はい」
そう言われちゃあ何も言えないね。
「まあ、ゆっくりお食べ」
「んむ」
「もう口いっぱいだし……」
ハムスターばりに頬張るじゃん。
小動物みがすごい。
真実がもぐもぐと食べ進めるのを横目に僕らはのんびりと箸を進めた。
多分1.5倍くらいスピードの差があったね。食べ終わったのがほとんど同じなのが怖いところでした。
「ふぃー美味しかった!」
「あんだけあったのにぜんぶ平らげよった」
「やはりブラックホール……」
「自分の彼女ながら満足させられる未来が見えない」
「全員言い過ぎでは〜?」
いや、ほんとのことでは。
流石にあの量食べたらもう横になってしばらく動けないよ?
芦花なら6割くらいは残るだろうしね。
守でもキツイんじゃないかな?
一体真実のどこにそれだけの容量があるのか。というかその栄養はどこへ……?
こじんまりした体格に思いを馳せてたら鋭い目つきが飛んできたので明後日の方向を見て回避。なんでもないですよ?
「花火は……もう少しかな」
「だね、あと30分くらいじゃない?」
「ワクワクするねぇ〜」
食べた後のゴミはまとめて、タッパーは回収しました。
花火もぼちぼち始まりそうで、暗くなってきたお空に期待が高まる。
今頃どこか別のところで酒寄さん達も見てるんだろうなぁ。
ちゃんと楽しめるといいけど。
ぼーっと空を見上げていると、花火が始まる前の空撃ち? みたいなのが始まった。
空の色も暗く、夕焼けは彼方に消えていった。
アナウンスと共に、花火が空を彩り始めた。
ドン! ドン! と腹に響く音、微かに煙の匂いが鼻についた。
夏の匂いともいえる、かもしれないね。
「響くね〜」
「このドンっ! て感じが花火大会に来たーって感じするよね」
「分かる〜」
「たまや〜でしたっけ?」
「かぎや〜もなかったっけ」
「どっちもじゃない?」
「どっちでもいいか」
打ち上がる色彩を呆然と見上げる。
赤色、青色、黄色、緑色、それらが混ざったもの、笑顔を形作ったもの、花の形をしたもの、たくさんの花火が夏の夜空を明るく染めあげている。
横に座る幼馴染の顔を盗み見ると、視線は花火に釘付けで。その瞳は色とりどりの花を映し出していた。
綺麗な横顔が、さらに綺麗に目を離せないようになっていて。
花火を見に来たはずなのに、まーた視線が持ってかれちゃう。
なんて思っていたら、気づかれちゃったようだ。
「私ばっか見てないで、花火みよ?」
そっとそばによって花火にかき消されないよう耳元で囁かれる。
うっ、声がいい。
あとにこりとはにかむのは可愛すぎます。
視線が固定されるのをどうにか引き剥がしながら、頑張って空を見つめる。
尾を引くように弾けた後の花火のキラキラが空に桜を描く。枝垂れ桜? みたいな感じ。
かと思えば低いところでたくさんの花火が放たれて、小規模な光のカーテンを作り出す。
そうして低いところに視線が集まったところで、1つの花火が空へと上がっていった。
ぐんぐんと伸びやかに昇って……。
「大きい……」
「めっちゃ響いたかも」
「かなり大きくて、響きも良かったかも?」
鮮やかに黄色の大輪を空に咲かせて、僕らの腹にも振動をお届け。
僕らの浴衣は暗い色だからあまり映えないけど、暗いのもあってか白い肌の芦花は花火の色をよく映していた。
赤くなったり黄色く輝いたり、青く染まったり緑に反射したり。瞳が1番それを映し出しているのは当然なんだけど。
芦花を見てるだけで花火を見てる気分になってしまえた。これが白の浴衣だったら芦花だけ見てたかも。よかった紺色で。
またまた芦花に視線が吸い寄せられていたので、気合いで空を見る。
そうしていくつもの光弾と光の花を見送っていると、ふと視線を感じた、
横を見れば、芦花がこっちを見ていた。
「どしたの」
「んー、綺麗だなって」
んぐっふ。
いや、それは芦花へのセリフでは。
男に負ける言葉では無いでしょ?
「芦花の方が綺麗だよ」
「もー、アキくんったら」
あ、これもしかしてハメられた?
綺麗だよって言って欲しかったのかな?
策士め、いつでも言ってあげるのに。
「いつだって芦花は綺麗だよ。花火がほのかに映る肌も、その煌めく瞳も」
「う……だからそうやって褒めちぎるのがダメなんだってば……」
あ。
うっかり2人っきりぐらいのお気持ちで褒めてしまいました。
ついついうっかり。
紛れもない本心なので撤回はしませんけどね!
誤魔化しとばかりに芦花の左手に右手を重ねる。
むぅ、という声が聞こえたような気がしたけど、重ねられた手を退けられなかったので許されたと思いたいです。
空には土星、ハート、月、太陽みたいな形の花火が広がった。
芦花が、こてりと頭をこちらに寄せてきた。
僕も何も言わずにそれを受け入れる。
2度目くらいの枝垂れ桜が空を埋め尽くして、光の雨のように夜を流れた。
そして、一際大きな光の種が空に打ち上げられ、夜空に植えられ。
今日見た中で1番大きく、カラフルで、綺麗な花を咲かせた。
その後にはキラキラと終わりを惜しむように散る花びらみたいに光の粒を残して消えた。
ちょっとして花火大会終了の放送が流れた。
「終わっちゃったね」
「ね。あっという間だった」
前2人にバレる前に姿勢を元に戻した芦花は、名残惜しそうな雰囲気だ。
僕ももうあと30分くらい見てたい気分。まあ、無理は言えないよね。
周りが帰宅のために動き始めたところで、前2人も起動した。
「さーて、人混みが捌けるのを待ったら時間かかるからね、頑張って帰りましょ〜」
「おー」
「帰りは満員電車だなぁ」
「ちゃんと盾になるように」
「うっす」
花火の余韻に浸りながら、僕たちはシートを片付けゴミを途中のゴミ箱に捨てて帰路に着いた。
なんとなく物足りなくて、4人でコンビニで花火を買って真実の家の近くの空き地で追加花火をした。
あまり派手にやると怒られるので粛々と控えめにね。
でも、線香花火で誰が1番長く残るかを競うのは外せなかったよね。
1位はなんと守、普通に何もしてなかったので長く残った。
2位は芦花、3位は僕で4位が真実だ。
真実が謎にこちらに突っ込んでくるものだから、巻き添い食らって真実のあとすぐ落ちてしまった。
マイペースに楽しんでいた2人が残った感じだね。
ゴミとかは真実が捨ててくれるらしいので、あとは託して僕らは帰宅。
いつもの公園で、ブランコに座る。
「花火、綺麗だったね」
「うん、めっちゃ綺麗だった」
「次は2人で、かな? それとも彩葉たちも一緒?」
「どっちもいいね。でも、先に2人で見たいかも」
「ん、なら探さないと」
「そうだね」
キコキコとブランコの揺れる音。
よく分からない虫の鳴く音。
蛍光灯が発するジーッという音。
僕らの交わす言葉。
さっきまでいた喧騒とは真反対な静かな世界。
世界に僕らしかいなくなったような錯覚でもしてしまいそうだ。
「ねぇ芦花?」
「ん? なに?」
「その、さ」
こんな時に言うのはすごい恥ずかしいと言うか。
もう少し流れで、雰囲気で、言えたらよかったのだけど。
花火の時には言い出せなくて、でも正直気持ちが溢れそうで。
もう少しだけ、踏み出したくなった。
「したいことが、あるん、だけど」
「ん〜? 言ってみてよ」
「えっ……と」
口にするのが本当に照れ臭くて、声に出来そうにない。
だから、彼女の耳元でこっそりとつぶやいた。
それを聞いた彼女は、一瞬後に顔を真っ赤にした。
でも、嫌がるそぶりはなくて。むしろ、すごく嬉しそうで。
「……ん、いいよ」
「ありがと」
「でも、その、私も気恥ずかしいから、さ」
どっちも顔が赤くなって、なんだか変な雰囲気だ。
でも、それくらいじゃないと踏み出せそうになかった。
だから勇気を振り絞った。
「芦花」
「あ……アキくん……」
さっきまで聞こえた周りの音が遠くなって。
聞こえるのは自分の心臓が強く跳ねる音と、同じく聞こえるくらい近づいた君の鼓動。
ブランコから立ち上がって、そのまま距離を詰めた僕らは。
誰もいない公園で、2人だけの世界で。
ほんの一瞬だけ、お互いの熱を交換した。
照れ臭くて、しばらくお互い顔が見れなかった。
でも、とても幸せだった。
興奮冷めやらぬ頭で家に入った僕が見たのは、かぐや卒業の文字だった。