先生は汚い大人です 作:こうすけ増田劇場版
かつお節の出汁1,5リットル、昆布の出汁1,5リットル、みりん50CC、醤油50CC、砂糖大さじ1杯、塩小さじ二分の一、鯨の背脂を入れて煮込み、下処理をした大根、厚揚げ、卵、竹輪、牛すじ、タコ、焼き豆腐を入れて60℃ぐらいをキープして長時間放置し……おでんの完成である。
「先生、先日は申し訳ありません」
「気にするな」
尾刃が先日のわっぴーエンドのオチについて改めて謝罪がしたいと言ってくる。
飲みの誘いがあったにはあったが飲むつもりは特に無く、誘いがあるならば自分でおでんを作らせてくれとおでんを作った。ただのおでんじゃない、おでん用の鍋を用いておでんを作っている。
大根エリア、厚揚げと焼き豆腐エリア、牛すじと手羽先エリア、玉子エリア、タコエリア、竹輪エリアと6つのエリアで分けている。
おでんが煮えてきてそろそろ食べ頃なので尾刃になにが要るかを聞いたら取りあえずは一通りくださいと言ってきたので一通り盛る。
「謝るならば歌住にだ……あの後に食べたんだろ、きな粉ドーナツ」
「はい、とても美味しかったです……この大根に負けず劣らずで」
「おでんとドーナツを比較対象にするのはどうかと思うぞ」
あの後に一応はヴァルキューレ警察は大麻きな粉ドーナツを食べた。大麻という名前からして嫌な名前ではあるが、実際のところは手間暇かけた極上のドーナツであり満足している。上手い具合にフォローを入れたりしようとしているつもりだが、おでんとドーナツを比較対象にするのはダメだろう。
「あ、すみません」
「謝るな……相変わらず疲れてるな」
「ええ……これでもあの日からは大分マシになっている筈なのですが」
キヴォトスの問題児達を総出でのハンティングゲームをしたあの日、あの日からは大分仕事内容はまともになった。
問題児達をぶち込む所にぶち込むことが出来たし、外部からの協力をしていたら物資の供給や関税等を断ったり色々としまくって問題児達は捕まった。捕まった結果、キヴォトスの治安は多少はマシになった。
「あの時の先生は恐ろしかったです……本気で私達生徒を見捨てるつもりだと思われて」
「当たり前だ。俺はある程度はいい子にしている奴にはちゃんと真面目に返すけど、それ以外ならばそれ相応の報いは受けてもらう……特に尾刃みたいなのは報われなきゃいけねえよ」
「私が、ですか?」
「お前は警察の立ち位置だ……警察ってのは良くも悪く嫌われるし、正義を翳していい限度がある……嫌われ役とか真面目にしているだけなのに、自分の思い通りにならないからって不良の生徒達は調子に乗るなよって言いやがるからな。彼奴等の方が社会のゴミだからな」
当たり前だが正義だなんだと名乗っているならなにをしてもいいわけじゃない。
おとり捜査とか現実的にはアウトだったりするが、正義を実行する為に上手くバレない様に偉い奴等は動いている……正義を実行する為に意図的に黒い物と関わらなきゃいけないのは皮肉なもんだ。
怪しい動きをしているなと鋭い洞察力で見抜いたからと言って色々と勝手に調べ上げるのは普通にアウトだ。
前にとある世界の転生者が、そういう独断と言うか取りあえず相手の個人情報を徹底的に調べ上げる行動にブチギレてさすおに達を社会的制裁とかあの手この手で戦って勝利したとか言ってた。コナンの行動とか色々とガッツリと犯罪行動になる。
「最初に決めたルールはしっかりとある。そのルールは何時かは変わるかもしれねえけど、本来はそのルールに則らなきゃならない……そのルールに対して文句を言ったり抜け穴を探そうとしている奴等は当然居る。組織的に特例を作っちゃいけねえ……その為の模範とならなきゃいけねえからお前はキヴォトスでも頑張ってる方だよ」
「先生……どうせ他の生徒にも似たような事を言っていますよね!先生って何時もそうですね!私達生徒の事をなんだと思っているんですか!」
「そうか。じゃあ、お前には二度とこういう事は言わないし誘うことはしないわ」
「え、あ……そういう意味でなく」
「冗談だ、冗談」
「……先生、私の反応を楽しんでませんか!?」
「いや、マジで言っている」
最初に決めたルールを守っている。これが一番難しいんだ。
誰もが抜け穴を通ろうと探すし択をしようとする。それ自体は決して悪いわけじゃねえが自分の都合のいい様にルールを捻じ曲げる奴が確実に生まれる。特に力を持っているロクでもない大人ならば尚更だ。
尾刃はそういうのが一切無くて頑張っているのだから素直に褒めている。
定期的にキヴォトスから元の世界に脱走するルートを考えては生徒の泣き脅しを喰らう……心?動かねえよ。
「まったく、先生は……全メニューおかわりです!」
「酒が入ってないからってバクバクと……アルコールが解禁されたらカパカパ行って飲兵衛になる未来が見えるな」
「私は限度を守るつもりです!……そう言えば、今まで先生からこういう食事を作って頂いた事が度々ありますが一度も飲んでいる所を見たことがありませんね」
「お前なぁ……俺、年長者だからはいそうですかでカパカパと飲めるわけねえだろ」
「宅飲みならばそこまで気にせずともよろしいのでは?」
「いや……先生の間は酒は飲まねえよ」
「あ、アレですか!教え子と一緒に飲みたいと」
「違う、完全に断ち切ってる……料理酒と味付け以外で酒は一滴も口に含んでない」
別に下戸とかじゃないし飲みたい時とかは普通にあるが、キヴォトスに来てからは味付けで使ったりする時以外は酒は一滴も飲んでいない。尾刃は生徒達が数年後には飲める年齢になるからそこで解禁しようとしていると推察するがそうじゃない。単純に飲む気にならないだけだ。
「ここは学園都市なのでアルコールやタバコの類は酷く規制されていますが、願掛けでしょうか?」
「んなわけねえだろ……明日も休みってわけじゃねえんだから飲むに飲めねえだろ。明日も休みって事ではじめて本当に余計な事を気にせずに1日の休みを堪能出来る。1日だけポツンと休みもらっても全くと言って意味が無いし、俺に休みはねえ」
「シャーレは激務と聞きますが、そんなになのですか」
「ちげえよ、お前等が色々と誘ってくるからだよ」
「…………!?」
酒を飲まないのが願掛けとかじゃなくて単純に飲もうって思いは無い。
周りが学生だらけのキヴォトスで付き合いがあるのは学生ばかりだから年長者として酒を飲まない様に慎重になっていると言えばそうだが、俺には休みが無いから飲めないのが一番でありそれを聞いた尾刃が驚いている。
「なにを驚いてんだ?……俺はシャーレの先生として働いているが、先生の領分を幾らか越えている事をさせられている。シャーレの先生だからヨイショしようと企む奴とかそういうのは勿論のこと、先生として慕っている生徒との付き合いだ。休みなんて無いも同然だ」
「無いも同然ならば」
「自分の時間がねえんだよ……1年にたった1日、誕生日だけ。その日すらもお前等は壊そうとしてくるんだからホントに迷惑だ」
断ればいいと言うが断れば不機嫌になる生徒の多くが目に見えている。
俺はアレか?叩けば音が鳴る玩具だと思われてんのか?
「あんま言いたくねえが、先生を何でもしてくれる人って思ってるけどよ俺だってキャパはあるわけで、元々要領が悪い方なのも自覚している。その内に先生はなんでも言うことを聞いてくれる物だと思って気付けば生徒の奴隷だよ、奴隷」
先生と生徒の関係性は先生は生徒の奴隷だ。
こういう風に尾刃との付き合いでおでんをつつきあっている時間だって、言いたくないけど付き合いだ。普通に大根の煮物程度で終わらせようと思ったけれどもおでんになったんだから。
「断ればって思ってんだろうが、それだったら2週間ぐらい行方を教えずに旅行に行くけど」
「すみません、それだけは絶対にしないでください!……キヴォトスが滅びる未来しか見えません」
「だから俺だけじゃなくて外部と交流してもう何人か先生を呼べって言ってんだろ!ワンオペ状態なの分かってる?ワンマン状態なの分かってる?イケメンで大きなイチモツを持ってて性欲がある奴と頑張れよ」
「先生……防衛室長がシャーレを乗っ取って1週間以上の暴動が起きたのを忘れたのですか!先生以外にシャーレの顧問は務まりません!」
プレナパテスの世界線は俺が倒れて詰んだ。だったら俺のワンマン経営はダメな事は証明されている。
俺のワンマン経営じゃなくて他にも色々な奴に権力を、錠前辺りならば親身になって色々とやってくれる……けど、錠前達にはその前に色々と知ったり感じたりしなきゃダメだからいきなりポンッと権力渡せねえ。
他の生徒と言うか大人を用意しろと文句を言えば尾刃は顔を青ざめる。不知火の一件を思い出す。
「あの時は正直言えば怖かったのですよ……キヴォトスの数多の勢力から命を狙われていると。悪夢しか見ない日々で」
「実際、狙撃されてたからな」
立場上は不知火を守らなきゃいけない側だったが、キヴォトスの数多の勢力からよくも先生を!と睨まれていた。
何処が手配したかは知らねえが、不知火を狙った狙撃が……威嚇とかじゃなくて確実に仕留める為に眼球を潰しにいってたな。裏の世界じゃ今でも不知火の首には高額の賞金が賭けられてるし。俺?……億単位とだけは。
「俺にとっちゃ文字通りの自分の時間は1年にたった1日だ……それ以外の時間でもし1人の時間が生まれたら……お前等に聞こえるレベルで舌打ちをする」
一日外出録ハンチョウの牧田さんみたいな理由で舌打ちをする。
先生でもなんでもない自分をやってきた筈で喜ぶべきなのに何故か無意識に舌打ちをしてしまう。
「先生は疲れている大人なんですね……もっとこう、ポジティブにいきませんか?」
「尾刃、お前はまだ若いからいいんだ。今はまだその日が訪れないが将来どうしても元気が出ない日がきっとあるはずだ。そんな日に押しつけられるボジティブという聞こえのいい言葉の皮をかぶった現実逃避や責任放棄をしていけば着実に生気が持っていかれ、心の中の防衛本能が死ぬんだ。防衛室長の様に」
「死んでいません!矯正局送りにされただけです!」
「実質死んでるも同然だろ……俺は定期的にやる気が出ない日がやってくるが、皆はそれを放っておいてくれない。それは俺が頼れる先生だからとか心配してくれるとかじゃない。俺という存在が身勝手に輪を乱すことでちゃんとした明日を迎える事が出来なくなってしまうから……構われるよりも無視される方がとっても気が楽だって、先生は先生になってわかったよ」
ホントにね……安西先生は諦めたらそこで試合終了だって言ってるけど、諦めても終わらせてくれない試合だってあるんだよ。
諦めていいのならばとっくに諦めて逃げ出したいって思ってることは多々あるからな。
「なにかストレス発散をしませんか?」
「そうだな……明星の等身大のフィギュアか抱き枕が欲しい。それに対して全力で腹パンしたりバックドロップを仕掛けたい」
こう、明星って普段の言動から某アイドルマスターなアイドルを連想するんだよ。
だからさ、腹パンしたりバックドロップとか入れて普段から溜まっているものを発散したい。
大人だってな、時にはむしゃくしゃしたという理解も納得もしてくれなくてもいい理由で暴力に走りたいものだ……心の防衛本能が我慢するなって言ってて、明星辺りの等身大フィギュアをボコボコにするのは適切なストレス発散をしたい。
「人生と言う長い長い道を危険運転しようとしているバカな奴等が多い、そういう人の道を正そうとしてもそういう善意や親切心は受け取れる状態だけの相手だけに使うようにしなきゃケガするだけだから……キヴォトス人に喧嘩を売るにはコレ使わなきゃならない」
キヴォトスを滅ぼしかねないから絶対に使わないけども、キヴォトス人に喧嘩を売る時は慎重にならないと。
「……先生は疲れているのですね」
「人より出来ない人になりたい。この人だから仕方ないと見下されると同時に最初から期待されていない人間になりたい……俺は、何処で道を間違えたんだ……よし!シャーレの辞表を出しに行くか!」
「キヴォトスが滅ぶのでダメです!」
っち、勢いに身を乗せればいい感じの空気で辞職を認めてくれると思ったが無理だったか。
おでんの具材を大体食べたので、うどんを入れて〆に入り終わった。