こんなヒロインもいるのだなと、おおらかな心で見て下さい。
輪廻転生と言うものがある。
所謂、生まれ変わりの事だ。小説では良くある話…なのだが。
私もそれを経験してしまった。つまり、生まれ変わったのだ。
生前、自分が何となく死んだのは覚えている。死因は分からない。まだ、寿命で死ぬ年齢ではなかったから、多分事故か事件に巻き込まれたんだと思う。
神様には特に会わなかった。記憶にないだけかも知れない。
気が付くと生前の記憶を持ったまま、3歳の娘になっていた。
娘だ。生前…前世は男だったが、女として生きなければならなくなった。まあ、仕方ないだろう。
ああ…我が息子よ。さらばだ、もう会うこともあるまい。
前世では結婚して子供もいたので、悔いはない…事もないが。
鏡が無かったので水面を見ての感想になるが、赤毛のストレートヘアはサラサラで、容姿も整っていると感じる。
目は青く、典型的な西洋人の姿を思い出させて、我ながら可愛らしい。
子供の頃は行動範囲が狭くて良く分からなかったが、成長するにつれ周りが見える様になると、どうやら文明レベルは中世〜近世辺りの様だ。
生まれた所が田舎なんではっきりとは分からんが、本が高級品ながら我が家にあったので読んでみると、大体そうらしい。
本、と言えば、私は幸運にも文字を習う事ができた。
この程度の文明だと生まれに拠っては文字が習えない可能性があったが、助かる事に私が生まれた所は村長の家で、貴族や商家に嫁に行く可能性があるから読み書きは必須なのだそうだ。
この世界はまだ王政で、貴族制度が存在する。
私の生家は村のまとめ役としての村長の家で、貴族ではない。村を幾つかまとめて管理しているのが男爵で、ここから貴族になる。
その上に子爵がいて、制度上では男爵の上なのだが権限的には複数の村〜町を管理するのが男爵、大きな町〜都市を管理するのが子爵程度らしい。まあ男爵が町長、子爵が市長と言う感じか。
だから、交易できる港町なんかを支配している男爵の方が子爵より裕福、なんて事もあるらしい。
その上が伯爵で、県知事相当の地域を支配している。ここからは上級貴族で、明確な違いとして騎士を始めとする軍隊を所有できる。
子爵、男爵も持てるが、あくまでも自警団扱いだ。
その伯爵をまとめているのが侯爵で、地方方面軍を指揮し、実質的な支配者は侯爵になる。
その上は公爵と王家で、直轄地と親衛騎士団を有しているが役割は侯爵をまとめた国家運営になる。中には直轄地を持たない公爵家もあるとか。
法衣貴族や公爵が支配している地域など、例外もあるけどね。
ま、私には王家なんて関係ないだろう。
運が凄く良くて男爵、物凄い奇跡が起きれば子爵の跡継ぎに嫁ぐくらいだ。
多分、近くの町の商家の息子か、村の有力者、もしかしたら10歳年上の兄の部下に嫁ぐくらいかな…。
そもそも嫁ぎたいかは別として。
残念ながら、魔法はなかった。本当、残念。
いや、奇跡を起こす聖女がいたらしいけど…。
村長宅の数少ない文献で調べても、直近で200年くらい前なんよね…。
なんて事をマナーや教養と一緒に勉強しながら、気が付けば今日、12歳の誕生日を迎えた。
その日の夜、親父に急用とかで書斎に呼ばれた。
「レイナ、改めて誕生日おめでとう。とうとう12歳か…」
そうそう、よく考えたら自己紹介してなかったな。
私の名前はレイナ・ターナー。ターナー村の村長である、目の前の親父の長女だ。
家族構成は親父がグラウス・ターナーでお袋がクリスティ・ターナー。
10歳離れた兄が一人、カリウス・ターナーがいるが、今は伯爵の騎士団に入隊している。
「お前を呼んだのは、実はな…。寄親であるグラバス男爵様の娘がお前と同じ歳で、御学友兼お付きの侍女として男爵様の元に来て欲しいとの話があってな…」
「男爵様の娘!?父ちゃん、男爵様には子供が居ないって…。養子取った?」
「ここでは父ちゃんはよせ。養子ではなく実子でな…。その、市井で育っていたらしくてな、何故かは伏せるが…」
ああ、メイドとか一般人に手を出したか、愛人でもいたか…。男爵の奥さま、遠くから見たら気が強い感じだもんね。
しかし親父、流石に12歳の娘には説明し辛いか。
とりあえず12歳の娘に手を出さないとは思うが、女癖の悪そうな男爵への警戒レベルを1ランク上げておくか。
「お父様、それは分かったのですが、何故私を指名してくるのですか?」
実は昔、嫌な事があって私は男爵を嫌っている。その事は親父も知ってる筈なのだが…。
「おう、相変わらず切り替えが早いな。男爵様の御息女は、その、市井の出身のせいか、奔放らしくてな。お前の男勝りな性格が似合っていると…」
「誰が男勝りですか!」
いや、誤解である。確かに前世が男だったのは間違いないが、猫を総動員して淑女らしく行動している筈なのだ。
これはきっと幼い頃、妹分が出来て喜んだ兄が、木登りや釣りや冒険ごっこに連れ回した印象が残っているのである!
あと、前世で学んだ大陸拳法の使い手なのも、もしかしたら僅かに影響してるかも。これも前世を含めて数十年間、只管に
歳上の悪ガキ共の根性を叩き直したのは良い思い出だ。
「そう言う所だ…。ま、まあ、その男爵令嬢もな、色々問題…ヤンチャ…少しばかり変わっていてな、男爵様と奥さまが揃って頭を下げて頼まれてな…」
はあ!?仮にも貴族の男爵が!?
普段、親父に横暴な命令したり、奥さまもツンとして下々に関わらない様な感じなのに。
しかし最下級とは言え貴族に頭を下げられては、気の弱い親父じゃ逆らえないか…。
とは言え、少々処ではない、不穏な言葉があるんだけど。
「で?お父様、お相手のご令嬢にどんな問題が?」
「あ、いや、問題など…」
「良いから可及的速やかに白状なさいませ!」
柔らかな陽射しの中、馬車がトコトコ揺れながら進んでいる。冬の寒さも和らぎ、漸く春が訪れてくる良い季節の中、私のご機嫌は斜めっていた。
馬車の中ではなく、私は御者台に乗ってから不貞腐れて足を投げ出している。行儀が悪いのはごもっともなれど、どうにも苛立ちが治まらない。
「お嬢様…そろそろ、機嫌を治して頂けませんか?」
そう言ってくるのは、村で先代の村長であるおじいちゃんの代から仕えている、親父の執事の様な事をしている御年70歳のトーマスさん。
「そうね…そろそろ、平常心になりますか」
私はガバっと起き上がると、御者台に座り直した。
親父から聞いた話によると、お相手のご令嬢は男爵家に来て3ヶ月になるのに、未だに勉強をする事なくマナーも学ばす、理由のわからない事を叫んだり安くもない紙に意味不明な文字を書き綴ったり、奇行が目立つと言う。
山猿、とは親父が言いかけた言葉だ。
まあ、それは良い。男爵の子供が恥をかこうが、知った事ではない。
そもそも、私が男爵を嫌いなのは…。
まだ小さい頃、私の家の仕事で一番辛いのは、井戸の水汲みだった。昔ながらの釣瓶落しで、ロープの付いたバケツを井戸に落としては汲み上げ、タライに入れて台所まで運ぶのだ。
貴族に生まれていればメイドとかがやったのかも知れないけど、村長程度では自分でやらないといけない。
で、思い付いたのが前世の記憶にあった手押しポンプを作る事。近所の鍛冶師の息子や細工師の息子と結託して、竹で細工して手押しポンプを自作した。
竹って、ヨーロッパにあったっけ…?とは思ったが、回りを見ると大航海時代でもないのにジャガイモやトマトがあるから、今更だと思い直した。
それから何度か試作を重ね、とうとう手押しポンプが完成。子供の体重で動かした手押しポンプで井戸の水が汲み上った時は、皆で大歓声を上げたものだった。
そこからが問題。視察に来ていた男爵が鍛冶師の家に取り付けていた手押しポンプを見つけ、とりあげて伯爵へ男爵家の発明として上げてしまったのだ。
子供の私達の言い分は、全く聞き入れて貰えなかった。
いや、それもまだ許容範囲だ。どうせ、権利云々の法律もないし、利権を守る力もない。そして金儲けしようとしていた訳でもない。
ただ、自分が楽になれば良かったのだ。
しかし、あろう事が男爵のやつ、我が家に付いていた手押しポンプを見て、使用料を払えと言ってきやがった!鍛冶師の家のよりも早く付けた、手押しポンプ第一号の使用料を!!
親父は男爵に逆らえないし、使用料は高いしで、結局我が家の手押しポンプは破壊されてしまった。チクショーめぇ!
男爵が帰った後、同じく破壊されて怒りに燃えた鍛冶師と細工師の息子達を集めて、今度は見つかり難い場所にある井戸にジャイロミル型風車と羽根車を使用した風力ポンプを製作して、取付けて使ったけどね。今度は絶対に秘匿して外に漏らさん、と3人で誓いあったもんだ。
細工師が歯車がクソほど面倒臭いって言ってたから、壊れたら次は鋳物屋を巻き込むか…。
そもそも、ベアリングがないから摩耗が激しいし、摩擦係数が高くてチョロチョロしか出ないから効率が悪いんだけどね。丸一日回して、タンクに1日分が何とか貯まる感じ。
ベアリングの基礎は教えたから、ボールベアリングでなくても円筒ベアリングでも作れないかな…。後は細工師の息子に任せた。
話が大きく逸れてしまったが、兎に角男爵は嫌いだった。
その男爵の頼み(命令)で?山猿な娘の教育(監視)を?この私にしろと??
思い出すだけで苛立ちが募る!
…いかん、平常心、平常心と…。
漸く男爵の屋敷がある村が見えてきた。
これから山猿を相手にしないと駄目なのか…。
気が重たいなぁ…。