ヒロイン矯正!   作:アールエー

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その11 戦場の女神

 

王都から国境までは約10日の道程だった。

早馬を使えば4日くらい掛かるらしい。馬を乗り換えたら、もう少し早いが。

 

着いた場所は、国境から1日の距離にある砦の一つと聞いた。流石に男爵令嬢を戦場まで連れて行く事はなかった。

正直、戦場と変わらなく思えるけど。

 

砦に着くと、砦の騎士と兵士達が出迎えてくれた。しかし、誰も彼も眼つきが鋭く、態度も歓迎している様に見えない。と言うか、何しに来た!?って雰囲気だ。

中にはネットリとした視線を遠慮なく浴びせてくる男もいる。前線の男部隊だと、女自体を滅多に見ないのだろう。

 

戦場に女二人で物見遊山に見えたのか、今回の戦争は聖女のせいだと本気で思っているのか…。でも、呼び付けたのはそっちなんだけど。下級の兵士達には、誰が呼んだなんて関係ないか…。

 

「な、何て数なの…?それに、この悪臭は…」

 

砦は負傷者で溢れ、しかも続々と運び込まれている。砦から見える丘の向こうに見える人達も、現在こちらの砦を目指している戦傷者の集団らしい。

更に立ち込める悪臭。死臭、腐敗臭、そして排泄臭。適切な処置や清掃をしてないのは明白だった。

お嬢様は部屋に入れず、立ちつくした。

 

「お嬢様、お嬢様…気を確かに。ここまで来た以上、とにかく怪我人を救わねば」

 

「うう…そうよね…。ね、ねえレイナ…。片っ端から治療する間、できるだけ清潔にできないかしら…」

 

「うーん、着いてきた神官様達や騎士達にお願いをしますし、私からも指示は出しますが、難しいと思います」

 

「何でよ〜。ナイチンゲール見た事あるけど、大体洗浄から始まるでしょ!」

 

「まず私達にその権限がないですし、実績のない小娘の言う事に従わない、と言うより歓迎すらされてないみたいですし。それに、お嬢様が治療すれば清潔不潔に関わりなく即座にここから離れるのではないかと」

 

「ああ…。私が治療すれば、こんな所に長居しないか…」

 

「兵士からすれば、怪我して漸く戦場から離れられたのに、無理矢理治療されて再び戦場に送り出す悪魔に見えるかと」

 

「ちょっと止めてよ、やる気無くす事言うの!私は小悪魔になりたくても、悪魔とか嫌よ〜」

 

「申し訳ありません。先ずは治療を行なって実績を積みましょう。戦場に迷い込んだ小娘から、幾人もの兵士を救った聖女と認められたら、味方が増えるでしょうし権限も発生すると思います。私も手伝いますし、できる限り周囲だけでも清潔さを保ちます」

 

「わ、分かったわ、レイナ!よーし、やるわよ!」

 

そう言って気持ちを持ち直したお嬢様だったけど、直ぐに気持ちは霧散した。

連れてこられた部屋は、重傷者が集められている部屋だった。手足のない者、包帯代りの布がジワジワ赤く染まる者、中には傷口にウジが湧いている者。生きているのではなく、死んでない者達がベッドどころか何も敷いてない床に転がっていた。

 

「レ、レ、レイナ〜無理よこんなの、どうしたら良いのよ…」

 

お嬢様は泣きそう、いや半泣きで縋り付いてくる。雰囲気的にも、死神が天井で手ぐすね引いて待ってる状態っぽい。

今までの治療は、ちょっと怪我したとか打ち身とか、熱が下がらないなんかの軽い症状の人が主だったから、レベルが違い過ぎる。

 

「トリアージは私にも分かりません。一先ず片っ端からいきましょう。お嬢様、私が手当しながら治療の指示をしますので、目を瞑っても構いません、治療をお願いします」

 

「わ、分かったわ…が、頑張る…」

 

私達は、早速近くの患者から取り掛かる。ちなみに私の聖霊様は火の聖霊なので、数秒間手に火を燈して煮沸消毒っぽくする事ができる。私自身、聖霊様の力を使えば燃えている薪なんかを直に握っても、沸騰する熱湯に手を突っ込んでも火傷をしない。服は燃えるけど。

魔女裁判で火刑に処せられても、高笑いをして仁王立ちする事が可能だ。素っ裸で。

…よく考えなくても、最早人間じゃねーな。凹む。

 

とにかく、治療を行う。怪我人の服を切り裂き、包帯を外して負傷した箇所を露出する。痛みが激しい時は、長いまち針を使って鍼治療での麻酔を試みる。武術の聖霊のためなのか、適切な人体のツボが頭に思い浮かんでくるので助かる。

そしてお嬢様に、負傷箇所の接骨や神経接続なんかを注意して貰い、光の聖霊様の力を使う。

こちらも頭の中に人体構造が浮かび上がるそうで、目を瞑っていても治療はできるみたいだ。

 

次、次と治していくと、助かりました、ありがとうと御礼を言われ、お嬢様も環境に慣れてきたのか段々しっかりと対応できる様になってきた。

でも、内臓をやられていた負傷者を治した後、女神様…と呟いて直ぐに亡くなった時は泣き出してしまった。

怪我が治っても、体力が尽きたらしい…。光の聖霊様の加護でも、助からない人がいるのか…。

 

ひとしきり泣いた後、次の方も亡くなりそうですと告げると、健気に立ち上がって治療を続けた。こんな時は無我夢中になった方が良い。ただ、後でゆっくり休ませないと。

 

重傷者が一通り終わり、軽傷な者も粗方治療すると、お嬢様は用意された部屋に戻り、夕飯もそこそこに倒れる様に寝てしまった。

流石に今日は精神的に堪えたようだ。そっと毛布を掛け、調える。

さて、今日の周囲の様子を見る限り、私には夜にもう一仕事残っているみたいだ。

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