深夜を回った砦の中、お嬢様はぐっすり就寝中なのか、静けさが辺りを支配していた。
時々、うなされているのが心配だけど。
お嬢様が寝ている部屋は砦の貴賓室で、高級貴族の視察の時に使われる。室内扉の鍵がしっかりと掛かる部屋は倉庫以外、余りないのだ。
私はお嬢様と同じ部屋に簡易ベッドを持ち込み、ドアの横で寝ていた。ベッドは、ドアが中途半端にしか開かない位置に置いている。ドアを開けたらベッドに当たって気が付くし、いざ逃げる時には困らない。
さて、何故こんな警戒をしているかと言えば、兵士達の中にかなり邪な視線をかけてくる奴が数名いたからだ。
まさか聖女に手を出す事はない…と思いたいが、戦場の中で正気を失う事もあるだろう。
一応、神官様達にも危険性を伝えてはいたが、はっきりとした危険ではないので、何処まで危機感を持っているか。
そう言う私も、念のためにしている筈…だったのだけれど、深夜にガツンとベッドに扉がぶつかり、意識がはっきりする。動き易い服を着ていた私は、侵入してくる影に一発蹴り込んでドアの外へ追い出す!
「この様な夜深けに、レディの部屋へ何用でしょうか?」
相手の数は5名、1人は子爵家の子息で騎士団の小隊長をしていると紹介された覚えがある。
お嬢様へネットリとした視線を浴びせていた奴だ。手に持っているのは、合鍵か?
「ああ、いや、お優しい聖女様に慰めて貰おうと思ってな…。あんたでも良いや、少しお相手してくれよ」
そう言って5人でジリジリと範囲を狭めてくる。中には既にベルトに手をかけている男も。いや、本気なのか?
「聖女と認定されたお嬢様は、名目上の立場は公爵家や王家の姫様と同じになります。貴方方の暴挙には、必ず厳罰が下りますよ」
「くひひひ…なに、お互いに黙っていれば良いんだ。あんたらも、今から起きる事を周りに吹聴されたくあるまい?おい、お前らはこの女の相手をしろ!俺は聖女様に慰めて貰うからよ!」
うーん何て下品な笑い方なのでしょうか。
これは、手加減要りませんねぇ。
「ねぇ、レイナ!何だか外が騒がしいんだけど、何かあったの?」
「はあ、聞いた話ですと、門の上に5人ほど兵士達が裸で吊るされていたそうですよ。全員、手足粉砕骨折して玉を潰されていたとか」
「え…何それ、こわっ!」
お嬢様と私が砦に来て数日の時間が経過した。
最初こそ数多くの負傷者が押し寄せて来たが、ある程度治療を進めていくと数が安定してきた。
まだ国境での小競り合い程度で、徐々に押し戻しているのも関係あるのだろう。
今回の騒動の発端となった隣国の将軍は、戦闘当初に無双して以来、姿を現していない。
負傷者の数が減り、急を要する患者も少なくなってきた事で、キャサリンお嬢様も余裕を取り戻しつつあった。
実際、かなりメンタルは鍛えられているし、そもそもの強さもある。よく働いていると、感心するばかりだ。
治療の腕前も鰻登りで、どういう原理なのか何処から細胞の原料を供給しているのか、手足の欠損の再生までできる様になってしまった。
ちなみに、こっそりと私の腕前も上がっている。鍼治療の腕前はプロ並みだと思うし、光の聖霊様の加護ほどではないけれど、怪我程度なら簡単に治す事ができる。
キャサリンお嬢様曰く、加護を併用した私のマッサージは、ツボへの刺激も含めて天下一品だそうな。お肌ツルッツルのプルップルになるし。
兵士達の間でも、神格化されてきている。
初日の阿呆共は別として、最初の頃は花束を持った貴族関係者がちょこちょこやって来ていた。しかし聖霊様の加護の力を見て、又は実際に受けるにつれ、神聖にて不可侵との認識が広まったのか、声をかけるのも畏れ多い感じになってきた。
お嬢様はチヤホヤされたい方なんで、最初の頃の
変わったのは私も同じで、当初こそはお付きのメイド程度と見られていたのが、お嬢様が神格化してしまい私がターゲットにされる様になった。余り、嬉しくはないが相手が貴族関係だったりする為、逆にお嬢様に守って貰う事が多くなったのが不満だ。
私も聖霊様の加護を受けていると公表すれば変わるだろうけど、気楽な立場でなくなるし…。それにお嬢様と無理矢理、別々に活動させられそうだし。
黙っているのも何だから、聞かれたら言う程度に考えている。
こうして砦での立場が上がれば、要望も通り易くなると言うもので。初日にお嬢様が言っていた砦内の清掃、汚物除去や不潔な包帯等の洗浄がされる様になり、みるみると過ごし易くなっていった。
こうして清潔さが保たれると、発病や重症化リスクが抑えられる様になってくる。まだ実感を得るには数日から数十日の期間が必要だろうが、しっかり記録を取るようにお願いしている。
何れ有用性が認められた時、お嬢様の手柄が一つ増えると思いたい。
「お嬢様、本日の患者は以上になるそうです。お疲れ様でした」
治療の合間にお茶の準備をして、お嬢様へ差し出す。お嬢様は受け取った甘めのお茶を、ゆっくり飲み出した。
「あ〜今日も疲れたわ。もう、すっかりお医者様の気分よ。レイナも看護師の仕事、ご苦労さま」
「いえ、お嬢様の負担に比べたら、特に問題はありません」
ただ、何時までこの状況が続くのか、いつ帰れるのか不明なのが頂けない。小競り合いに何らかの決着が付かないと帰れないのか…。
終わりが見えないと、精神的負担も大きい。今は気が張っていてお嬢様も頑張れているけど、ある日突然疲れが噴出する場合もある。私が良く見ておかないと…。
それから更に日数が経ち、戦況が落ち着いたのか負傷者が出なくなった。と思ってたのもつかの間だった。
今日は暇ね〜なんてお嬢様と話していたら突然轟音が響き渡る。えっなに地震!?と慌てていると、騎士が1人、飛び込んできた。
「敵国の将軍が、10騎程の騎兵を連れて突撃してきました!避難をお願いします!」
…もうね、蛮族の行動力を甘く見ておりました…。がくっ!
「ニヤケ顔で下半身を露出して迫る複数の男達は、想像の100倍気持ち悪かったと犯人は自供しており………」