「砦の門って、普通いきなり破壊される様な作りをしてないでしょ!?」
「え?油断して開けていた?慌てて閉じようとして間に合わず、門を突破された!?」
「だ、大体前線から1日の距離があったんじゃないの?見張りは何してたの?」
「はあ?1日は歩兵の移動時間で、騎兵だけなら2時間もあれば着く?しかも近くの森に潜んでいたらしい!?」
お嬢様が騎士と問答をしている間、元々直ぐに逃走できる様に用意していた私は、荷物をまとめてあった大型のバックを手にした。
「お嬢様、時間がありません。直ぐに撤退を。馬車では追いつかれます、裏手に馬を用意しておりますので、そちらへ!」
「えっ、わっ、分かったわ!に、荷物を…」
「食料と貴重品はここに。身一つで構いません!」
お嬢様の手を取り、即座に駆け出す。
ここ数日で砦の内部は把握している、最短距離を通って裏手にある
廊下を走り、扉を開けて外へ飛び出せば、そこにはあちこちに傷を負った厳つい大男が待ち構えていた。
「ふんっ!この砦の厩はここだけだからなぁ!この場所に逃げて来ると思っておったわ!」
うわ~。身長は2メートル超え、体重は私の3倍以上ありそうな男は、あちこちを板金で補強した血塗れの全身革鎧を着ており、周りの兵士を物ともせずこちらへ迫ってくる!
私も14歳にして身長170センチメートルと、女の中では高い方だが、相手は更に見上げる高さだ。
しかし敵の、多分将軍にまで砦の内部構造知られているって、どうなってるの!?
仮称将軍は3メートルはある大槍を振るって周りにいた兵士を薙ぎ払った。ドシャとかグシャとか、聞きたくない音が響き渡る。
咄嗟に、横にいて怯えて突っ立っているだけの王国兵士が持っていたブロードソードを奪って、お嬢様の前に躍り出た。
「メイド…?という事は、奥の金髪が聖女だな!金髪の小娘、我が陣営に下だれぃ!!こんな王国なんぞにいるのは勿体ないぞぉ!!」
大男から発する凄まじい気迫の籠った大音声は、お嬢様の抵抗の気力を粉砕するのに充分な破壊力があった。
「お嬢様!気をしっかり持って、聖霊様の加護で光のバリアを張って下さい!ここは私が護ります!」
「ほう!メイド、赤毛の腰ぎんちゃくよ、儂の前に立つだけでも褒めてやるぞ!」
大男は、ブンッと大槍を振り回す。昔から槍術三倍段などと言われ、無手の者は剣相手に、剣の者は槍相手に3倍の段位が必要とされている。単純に言えば3倍強くないと駄目なんだが、素で言えば大男の方が、技量は兎も角フィジカルが違い過ぎる。
早い話、勝てる訳がない。後方だからと武具を用意しなかった私の落ち度だ。
勝てる訳がないが、やるしかない。加護の力を、最大限に活用するしかない!
全身に加護の力を漲らせる。槍相手では、懐に飛び込む他ない。加護の力での、所謂奥の手もあるが今は温存する。
大男は私に何かを感じ取ったのか、大振りしてくれたら良いものを槍を細かく突き出し、牽制をしながら一定距離を保つ。やり辛い〜!
細かい突きで、チマチマ失血を強いられると良くない。比較的大振りの突きを見極め、剣を槍の横に叩き付けつつ一気に前へ。
目の前に丸太の様な膝が迫る、懐に入られた途端に蹴りを繰り出すとは、実戦経験が豊富な証拠!
左腕にて膝を横払いに受けながら、身体中心を軸に回転して後掃腿(後ろ脚による足払い)にて相手の軸を狙う。
ガキン、と大男の脛当てに当る音が響くが、体重差があり過ぎて倒れない。しゃがんだ体制から起き上がる勢いを以て、剣を突き出すが槍の石突きに阻まれ、そのまま吹き飛ばされた。
「やりおる、赤毛の小娘!儂の突き技に、逆に突っ込む事で懐に飛び込むとは、並の勇気ではあるまい。儂は将軍職を担うマイヤー伯レオンハルト、名を名乗れい!!」
「レイナ・ターナー、ただの村娘で聖女様の侍女よ」
再び半身で剣を構える。あ、ちょっと歪んでる…。数打ちの粗悪品だなぁ。
マイヤー将軍は大槍の穂先を下段に構える。うわ、一番嫌な構えだ。こっちの足を狙えるし、突き上げる様に上も狙える。そして距離を詰めにくい上に、詰めたら槍を回転させて石突きが来る。
ちらっと後方を確認すると、お嬢様は光のバリアをちゃんと張っている。これなら、少しはお嬢様の前から移動しても大丈夫だろう。
こうなったら足を使って攪乱してやる!
槍の攻撃範囲を掠める様に、将軍を中心に円形に走る。槍で突きを繰り出してくるが、飛び跳ね、転がり弾いて躱す!
そして転がった際に石を拾って投石!
「ふん、小賢しいわ!!」
槍を引いて石を弾く隙に、突撃!が、即座に対応して下段に槍を突き出すのを躱して…躱せない!?
しまった、股下へきた穂先がスカートを貫いて…。スカートは1枚布ではなく、厚めの生地の下にパニエやらを履いている状態なので、槍は完全にスカートを貫く事なく、穂先に絡む様にグルっと巻き込んだ!!
「あ、あわわ…」
完全に足を取られた!ええい、転んでも只で起きるものか、槍を抱き込む様に倒れながら、狙うは持ち手!剣を振るい、小手に当てる。
変な体制で振るった剣に、鎧の小手を破壊する力はない…が、奥の手、加護の炎!
「ぐああ!」
突如燃え出した剣先に、流石の将軍も咄嗟に手を離す。大槍を奪ってやった!でもスカートから離れないよ、これ。
「ええい、炎を使うとは卑怯だぞ!」
「戦場で卑怯もへったくれもないわ!それより乙女の
「な、何を人を変態みたいに言うでないわ!」
槍を抱きかかえて距離を取ると、ドカドカと大人数が雪崩込んできた。
「将軍!そろそろ王国の援軍が来ます!砦の兵を抑えるのも限界です!」
「ぬうう…。おい赤毛の小娘!勝負とその大槍は預ける!貴様も加護持ちだな!?戦が終わったら儂のところに嫁に来い!!」
「ふん!この槍は貰ってあげる…はあぁ!?よ、嫁ぇ!?」
将軍の部下達が引っ張ってきた馬に飛び乗り、颯爽と去っていく将軍達。道を塞ぐ兵士達は、何の障害にもなってなかった。
全く、嵐の様な戦闘だった。つ、疲れた…。
お嬢様が慌てて駆け寄ってくる。もう、涙目だ。
「レ、レイナ〜。怪我、怪我は?ボロボロだよ〜」
「あ、お嬢様。大丈夫ですよ、自力で治療できております。転がったり槍で突かれたりで、服はボロボロですが…それよりも!」
「な、なに?」
「プロポーズ受けたのは前も今も初めてです!前は私からした方なんで…」
「いや何言ってんのよ、落ち着きなさいよ」
今回の戦略目標は聖女の誘拐。
聖女を前線に出すため、死者を少なく多数の負傷者を将軍が生産。
聖女が現れたら位置を特定、占領地を奪還させつつ兵力を国境へ集めさせる。
国境で大規模な衝突を演じさせ、その隙に砦を落とす事ができる少数精鋭を突撃、聖女を誘拐する。
本当は砦に籠もらなくて、前線に出てくれたら楽だったんだけど、仕方ないか。