あれからアルベルト達は大人しく授業を聞く事になった。特に舎弟達は姐さんチース!と言わんばかりに頭を下げてくる。
わたしゃレディースの
それより、教室の中で私がアルベルト係になっているのが変だ。百歩譲って生徒がそうなってしまうのは許せるとしても、教師がそうなのは駄目でしょ。溜息出そう。
本日は放課後、お嬢様のお供でフレデリカ様の主催するお茶会に招かれている。
出席者はフレデリカ様と婚約者の王太子シリウス様、シリウス様の腹心で宰相のウィリアム侯爵が子息のグレン様と婚約者のミシェル様、そしてお嬢様。
錚々たるメンバーだ。
「お久しぶりです、ミシェル様。その後、お身体の具合はどうですか?」
「はい、聖女キャサリン様。お陰様で調子が良くなり、こんなに空気は美味しいのだと再認識をしているところです」
「私からも御礼を申し上げます。我が婚約者の為に御加護を頂き、感謝の念に堪えません」
攻略対象である侯爵令息グレン・ウィリアムズの婚約者、ミシェル・ドワイト伯爵令嬢は、病弱なお嬢様でライバル令嬢として原作に出てきた、らしい。
お互いに愛し合っていたグレンとミシェルだが、聖女と行動を共にする間に聖女に心を引かれ、グレンは板挟みになった。それでもミシェルを選ぼうと考えた矢先、ミシェルが危篤状態になる。ミシェルを恋敵として見ていたはずの聖女は、その垣根を越えてミシェルを救い、ミシェルも心打たれて身を引く決断をする…というシナリオだった。
しかしお嬢様は最初から攻略を諦めていたので、だったらとフレデリカ様がミシェル様を紹介して、先に治療を施したのだ。
「但し、聖霊様の治療は病気を治すもの。病弱な身体ではまた別の病に罹りますよ。少しでも外に出て、身体を動かさなければなりません」
「はい聖女様。最近ではグレン様と一緒に乗馬をして、身体を動かしております」
二人は恩人と見なしているのか、侯爵令息と伯爵令嬢が男爵令嬢に取る姿勢とは、とても思えない態度で接している。
しかしお嬢様の聖女ムーブも、板に付いてきたようだ。
戦場から戻ってきた後の状態は酷いものだった。帰って数日してから、突如フラッシュバックを起こして泣き叫び、不眠になり、食も通らず憔悴しきっていた。私も付きっきりで看病し、共に悩み、励ましつつも共感し。少しずつ流動食から食べさせ、回復して再び聖女の活動をするのに三カ月の時間を要した(トラウマ回復としては早い方だと思う)。
特にお嬢様を追い込んだのは、生命の危機ではなく、血塗れの負傷者でもなく、加護を使ったのに救えなかった人達だった。そして、実は後に本当は救えたんだと気付いた時のショックは、計り知れないものだった。
手足を再生する加護でも救えない場合があると思っていたのに、気付けば簡単な事だった。
それは失血死。手足や内臓を再生しても、流れた血までは補えなかった。それに気付いて増血のイメージを追加したら、それ以後死者は出なくなった。
この事実に辿り着いた時、二人して愕然としたものだ。所詮は医療の素人、一体何人の生命をその手から取りこぼしたのか。
今は笑っていられるまで回復したが、あれも聖女としての仮面を被っての姿だ。未だに傷付いた心を隠して、笑顔を出している。板に付いてきたのも、ある意味当然と言えた。
お嬢様は、本当に強くなってきたと思う。
ところで私はというと、背後でお茶出し、菓子の用意、空いた皿の取り替え等、侍女として働いております。
一緒に働いているのは、一つ歳上のフレデリカ様の乳姉妹にして侍女、グリンド子爵令嬢のローザさん。公爵家にお邪魔した時から、侍女としての基本を叩き込んでくれた私の先生である。
とはいえ、彼女は私が聖霊様の加護持ちである事を知っているし、先日の試合も見られていて、逆に私のファンだと言ってくれた。
「落ち着いたらローザもレイナさんも、椅子を用意して、座って下さいな」
「フレデリカ、平民であるレイナ嬢を席に着かせるほどの、重要な話と言っていたが…」
「はい殿下。ここの、この信用できるメンバーだけで話したい事があります」
フレデリカ様は、私達が座るのを見て、話を始めた。
「ここにいる方々と、今護衛に着いている騎士団長のご子息、アーサー・ブラウン様が私に取って最も信用できるメンバーになります。ただ、アーサー様は実直な方、嘘が付けない方なので本人の意思もあり席を外しております」
「うむ、アーサーも騎士団長を目指すなら、腹芸の一つも身に付けろと言っているのだが…。まあ、今は仕方あるまい。しかし、私の腹心のグレンと婚約者のミシェル、君の乳姉妹でもあるローザまでは分かる。そしてキャサリン嬢、聖霊様に選ばれ、数多くの人々を救ってくれた聖女なら問題ないだろう。だが、レイナ嬢を敢えて選んだ理由を最初に教えてくれ。キャサリン嬢の腹心でかなりの武人だと噂されているが…」
「はい殿下。レイナさん、申し訳ないけれど、力を示して頂けないかしら?」
前もって私の加護の事を殿下に話したいと相談されていた為、特に問題なくお見せする事にした。
「はい、フレデリカ様」
そう言うと、私は腕を捲って掲げた。その途端、腕に纏う様に燃え出す炎。最近、温度や酸素濃度を調整できる様になり、赤い炎から青い完全燃焼の炎に進化した。
「こ、これは…どういう事だい?フレデリカ…」
「申し訳ありません殿下。百聞は一見にしかずと申します。キャサリン様は光の聖霊様の御加護を受けておりますが、このレイナさんも炎の聖霊様の御加護を受けております」
「な、なんと…」
「まあ、青い炎は予想外ですが…」
「夢は超高温まで高めてプラズマ化する事ですね」
「貴女は何を目指しているの!?」
一瞬目ん玉ひん剥く公爵令嬢でしたが、直ぐに平静さを取り戻しました。これが分かるのは転生者だけですが、何故にお嬢様はお目々がクエスチョンマークなの?
「と、とにかく、この御加護を以て聖女様を守護し、悪魔将軍を追い払ったのです。私は信用に値すると思いますし、それに…」
フレデリカ様はシリウス王太子殿下に向かい直しました。
「ハドルド殿下の周辺や貴族派閥の暗躍について、私が提言した事は覚えてらっしゃいますか?」
「もちろんだ。私や公爵家の方でも調べ、貴族派閥軍の反乱の兆候や、隣国との繋がりを見事に言い当てたフレデリカの見識は、父上も高く評価されている」
「それなのですが、実は少ない情報から事実に辿り着いたのは、このレイナさんなのです」
「…そうなのかい?」
「申し訳ありません殿下。もっと早くお話するべきでした。手柄を横取りする様な真似をして…」
私が話した事を、信頼できる人達に話して対策していたのだろう。自分の手柄の様に話したのは仕方あるまい。出自の低い私の意見と言えば、信頼度が大きく下がってしまう。場合に拠っては聞き入れてすら貰えないだろう。
「大丈夫だよフレデリカ。分かっているから」
「分かっているとは…殿下?」
「君は自分で思う以上に、感情が表に出ているんだよ?君の母上も時折溜息をつく程度には」
うわ、フレデリカ様の顔がみるみる真っ赤に。
多分、自分ではクールな大人の女のつもりだったのだろう。精神年齢を考えると、間違いではないけどね。
「褒められても暗い顔をしていたから、他にブレインがいるのだろうと思ってはいた。仲の良い聖女様かな、とも考えたが真逆侍女の方だったとは。それでも、君が提言して対策が取れたんだ。君の実績として、将来の后に、私の妻に相応しいとして皆が認めたんだよ、俺のフレデリカ」
「で、殿下…シリウス様…」
そう言って王太子殿下はフレデリカ様の両手を握り締める。フレデリカ様は真っ赤になり過ぎて蒸気が上がりそうだ。
よし、許す、やれ!そこだ、ブチューっといけ!
とか心の中で野次馬ってたら、咳払いが隣のグレン様から聞こえてきた。
「殿下、それ以上は我慢して下さい。俺だって我慢してるんだから」
「いやしかしグレン、もう成人を過ぎて16歳になっているのだから、少しくらいは…」
「駄目です。平民はともかく、貴族は学園卒業まで一人前と認められません。いい加減、お願い致します!」
うん、何度もヤリかけているらしい。まあ、15〜6歳と言えば前世での中高生男児、性欲猿だよなぁ。分かる分かる。
ちなみにミシェル様は顔真っ赤で俯いて、ローザ様は呆れ顔、我がお嬢様は吹っ切れているのか、ニヤニヤが止まらないっぽい。推しと友人のイチャコラシーンだからなあ。このニヤニヤが他の人には聖女の微笑みに見える不思議。
しかしそろそろ、話を進めて頂きたいと存じます。