お嬢様へのお茶会やパーティ等へのお誘いは、膨大な数になった。全ての会に出席するには、お嬢様が10人いても足りないだろう。
正直、村娘の手に余る。男爵家でも無理。
結局フレデリカ様経由で、公爵家と王家にお願いするしか方法がなかった。
幾つかの招待を受け、返信を出しながら手土産や着ていくドレスの手配を済ませる。
社交休日期間は、私はお嬢様の側を離れて別の使命を果たす事になる。長期間お嬢様から離れるのは、侍女になって初めての体験だ。
デビュタントが終わり、明けて週末の土日。
私は翌週の社交休日期間の間に、王家の剣の鍵を求めて旅に出ないといけない。
その為の準備がいるから、色々忙しいのだが。
「ちょっ!高!落ち!」
「レイナ!しっかり捕まっておかないと、振り落としちまうぞ!」
アルベルトに連れられて、何かと思えば乗馬体験である。
恥ずかしい事に前世の若い頃、阿蘇で乗馬体験したのだが、その時に馬に落とされて以来、馬は苦手である。いや見た目以上に高いんだよ、不安定なんだよ!
あいつら、言う事聞きやしないし!
「だから素人にギャロップは無理ぃ!」
「何、言ってやがる!
なんか、馬の速度は
「女だって馬くらい乗れねぇと、やっていけねえからな!速いのに慣れたら、今ぐらい何ともないぜ?」
アルベルトが馬を囃し立てると、更に加速する!いや、私がアルベルトに抱きかかえられている様に前に乗っているんだけど、捕まる場所がない!
「ういひいぃぃい!」
鞍の取っ手とアルベルトの腕にしがみついて耐えるしかなかった。我ながら、年頃の娘の出す声じゃないな…。
その後、小型の馬に乗せて貰い、乗馬を習う事に。さっきの馬はかなり大きな戦馬で、アルベルトの愛馬だそうだ。あれくらい大きくて力が強くないと、二人乗りすれば普通は馬が潰れてしまうらしい。
「これくらいなら、楽ね〜。いや、さっきのが怖すぎる」
「レイナも可愛らしい所があるんだな〜」
「うるさい!」
しかし、なんか馬に慣れたのは有難い。あんまりなショック療法の様な気がするけど。
「こいつら軍馬も、偶に走らせないと鬱憤が溜まるからな。道案内してくれて、助かったよ」
王都の周辺には自由に乗馬できる所と、王家所有だったり貴族専用だったりする場所があり、下手に練習すると痛い目に遭う事がある。
公爵家で前もって聞いていたので、簡単な地図(地形が載ってない落書きみたいなもの)で案内はできた。
「これくらいなら、私の道案内は要らなかったんじゃ…」
「学園入学から、先週末のデビュタントとやらで、ずっと忙しかっただろ?鬱憤が溜まるのは人間も一緒だしな。気分転換にはなっただろう?」
「…そうね。気分的にスッキリしたかな」
「俺の所に嫁に来れば、毎日スッキリするぜ」
最近、私の何が気に入ったのか、ちょくちょくこんな事を言ってくる。
まあ、父親からの命令もあるのだろう。何と言っても加護持ちだしね。
「御断りします。私が欲しければ、自分の意思で口説き落としなさいな」
ま、元男の私を口説けるもんならね。
しかし気分はスッキリしても、悩みそのものは無くなってない。
来週以降、今度は王家の剣の鍵探しに旅立つ事になる。原作知識でここにある、こうやって取る、とかは聞いている。しかし、本当に上手くいくかは分からない。私自身は原作知識なんて無いのだから。
いや…本当は、計画している日数、長期間お嬢様と離ればなれになる事が、想像以上に心に影を落としているのもあった。
…私自身、お嬢様との関係に依存しているのかな…。
「黙りこくってどうした?まだ何か、心配事でも思い出したか?」
「…いいえ…。心配事はあるけれど、対策は取っているわ。やるべき事をやり、全ての手を打っているのなら、明日の困難は今日の楽しみを邪魔する事はない」
慣れてきたので、馬を少し走らせる。
「明日は明日の風が吹くって言うでしょ!今日を楽しみましょう!」
「誰が言ったんだ!?その通りだが!」
よく分からないけど、多分馬は
「おいレイナ!そんなに飛ばして大丈夫か、初心者が!」
「気持ち良いよ、アルベルト!ところで聞きたい事がある!」
「おっ!やっと様を取ったか。なんだよ聞きたい事って!」
「馬はどうやったら止まるの!?ブレーキ、ブレーキはどこ〜!!?」
「ブレーキってなんだ!?良いから手綱を引け、この馬鹿ぁ!!」
アルベルトは気持ちの良い奴だ。友人としては最高なんだけどなぁ。なんで、私は男じゃないのかね…。