「…以上が、私からの御報告となります」
ここは王宮の王太子殿下の執務室。
社交休日期間の最終日、グレン様と共に探索報告の追加確認として、当時の様子をシリウス王太子殿下に口頭で報告した。書記はグレン様。
「ありがとう、レイナ嬢。簡潔に、起きた事だけを時間軸に沿って教えてくれて」
社会人の必須スキルである。
「隣国のアルベルト殿には、私からも正式に礼を入れておこう。報奨金も考えないとね」
そうして頂けたら助かります。報奨金は受け取らないかも知れませんけど。
「…で、アルベルト殿とはお付き合いするのかな?」
「なんで、誰も彼もそう言う方向に持っていかれるのですか…」
「誰から言われたのかは分からない…いや、予想は付くけどね。私としては、貴重な加護を持つ聖女の行く方を考えないといけなくてね」
う、まあ、そうですよね。
もしアルベルトと結婚となれば、隣国に行くわけで。5年後に和平が崩れた時に、悪魔将軍と炎の聖女がタッグを組んで、同時に襲って来るという悪夢が実現する可能性が非常に高いし。
「私としては、今のところアルベルトと結ばれる事なんて考えていませんが…」
「将来的には分からないと。これを見て貰えるかな?」
そう言ってシリウス王太子殿下が机の上に置いたのは、1枚の調査結果。
「……え…。隣国の者らしき人物と、グラバス男爵が…?」
「そう君自身を口説くと同時に、貴族らしく親経由で婚姻の了承を得る行動に出てる。まずは強欲なグラバス男爵に贈り物をして、それから君の父親のターナー村長に君を隣国へ嫁に出すよう、要請をしたらしいんだ」
あ〜うん、なるほど。正攻法と搦め手と、両方使ってきたんだ。
「隣国のやり方ではないですよね?習慣的に合わない様な…。これは、親密にしている貴族派閥に相談しているのではないでしょうか」
「まあ、そうだろうね。こちらの風習に合わせて求婚しているんだ。隣国は放牧が主な産業で、我が国の貴族の多くは蛮族扱いしているが…。しかし理知的、文明的に決して劣っている事はない、むしろ戦闘においては数段上と考えても不思議ではない。いや、本当は…」
シリウス王太子殿下は何か言いかけて、椅子の背もたれに深く寄りかかる。
「とりあえず、王権にてそちらの方は止めておいた。君という聖霊様の御加護を持った人を、他国に譲る訳にはいかない。…本当は二人目の聖女だと公表したいんだが…神国がどう出るか予想がつかない。強硬手段には出ないとは思うが、最近のキャサリン嬢への圧を見るとね」
そう、最近は教会からあちこちに治療をお願いして、そのまま教会に滞在させようとしたり、郊外に立派な御屋敷を用意して案内したり…。
世話を焼く神官も、どんどんイケメンになってきて、「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」とばかりに私にまで声をかけてくる。ごめんけど、ナヨナヨした奴には興味ない。
…基本的にお嬢様、チヤホヤされるのが好きだからなぁ…。満更ではないのが、ね。
一応、お嬢様に声はかけている。「これは孔明の罠だ!」とね。でもお嬢様、孔明を知らないんだよな…。
「しかしお嬢様、夏季休暇の後半は神国に訪問の予定がありますが」
「そうだ、長期訪問になり我が国の目が行き届かない場面が多く出るだろう。その時、一番頼りになるのがレイナ嬢なのだが…貴女も聖女となると、最早どういう手段に出るやら、こちらも誰を護衛に送ればいいのやら…」
あ~あ、王太子殿下、頭を抱えてしまいました。
この国の女性は、外交で直接表に出る事はありません。パーティ等に出席のため、旦那に着いて外国に行く事はありますが、せいぜい仕事としてならば、相手の奥様同士でお茶会を開くくらいものです。
従って侍女やメイドはいても、直接護衛する女性騎士の様な存在が少ないのです(王族の外遊等の為に数人の女性護衛官はいる)
「もちろん、騎士団にて周囲を囲う事はできる。しかし聖女は交渉どころか、直接現場に行って活動するからね。信頼できて腕が確かで四六時中ピッタリ着いて回れるのは、レイナ嬢しかいない」
「分かりました。ひとまず親経由の話だけは止めて頂くと助かります」
「それと、ハドルドに会って話して欲しいんだ」
「私が、王子様と…ですか?」
「理想は、夏季休暇になるまでの3ヶ月弱の間に、ハドルドにキャサリン嬢を口説き落として貰って婚約発表が出来れば良いのだが、気持ち的にも内部の調整でも、王族の婚約発表会の準備期間としても無理だ。せめて、仲良くして貰ってキャサリン嬢の気持ちだけでも掴んで貰いたい。そこで、レイナ嬢に仲を取り持って欲しい」
あらら…。フレデリカ様との間と、これで2回目ですね。仲人おばさんでもしようかな?
「分かりました。取り持つ事は致します。…結果に保証はしませんが」
「構わない。ハドルドには男を見せて貰わないとね。先にハドルドに会って話をしてくれ」
というわけで、今度はお見合い大作戦ですか…。