私はカテーシーをして、じっと相手の反応を待ちます。身動き一つしません。
「アルヘルム王国、第二王子のハドルドだ。頭を上げろ、返答を許す」
許可が下りたので、私は漸く頭を上げ挨拶を行う事ができた。
「お初にお目にかかります。国の至高たるハドルド王子殿下に、ご挨拶申し上げます。聖女キャサリン・グラバス様の侍女を務めております、レイナ・ターナーと申します。以後、お見知りおき致したく存じます」
「うむ」
ハドルド王子殿下は短く返答されました。
それを見てたシリウス王太子殿下は、私に少し近付いて言いました。
「ハドルド、これからレイナ・ターナー嬢の持つ力を見せて貰う。それにより、私が彼女をどの立場で接しているか、分かって貰える筈だ。レイナ嬢、ハドルドは貴族派閥であったが、これからの関係を進める為にも、君の協力が必要だ。見せて頂けないか?」
「御心のままに、殿下」
私は両腕を前に出すと、一気に燃え上がらせた。おおっ…と王子が声を上げると一歩引いた。
距離はあるから、熱くはないと思うけど。
「これが…兄上の言っていた、彼女を優遇しなくてはならない理由ですか?」
「そうだ、ハドルド。彼女も聖女キャサリン嬢と同じく、聖霊様の御加護を得ている、聖女なのだ」
「で、では、ターナー嬢もまた、聖女と同じく病人すら癒す奇跡を行えると?」
シリウス王太子殿下は少し考えて、私に問いかけた。
「そう言えば、余り詳しく聞いてなかったな。どうなのだ?レイナ嬢」
「はい、癒しの力については、私は怪我を治す程度しかできません。代わりに身体能力を強化し、炎を身に纏う事ができます。キャサリン様へ御加護をお与えになった聖霊様は光と癒しの聖霊様、私は炎と武術の聖霊様より御加護を受けました」
「なんと…。聖霊様は、何柱もおられるのですか…」
「そうだ。そして私はレイナ嬢を、非公式ではあるが聖女と同じ扱いにしている」
「何故です?兄上。公表して表立って力に…いや、教会、神国…ですか?」
「そうだ、彼等は我々はもちろん、国王陛下から見ても厄介だからな。ちなみに、陛下もレイナ嬢の秘密は共有している」
段々、驚愕から立ち直ってきたハドルド王子は、納得してきた様だ。
「分かりました、兄上。この様な秘密を打ち明けて頂き、光栄に存じます。この信頼に応える様、努力しますよ。後で秘密を共有しているメンバーを教えて下さい。ターナー嬢、いや兄上と同じレイナ嬢と呼ばせて貰っても良いかな?」
「もちろん構いません、殿下」
元々、お嬢様やフレデリカ様がレイナ、レイナと呼ぶから、王太子殿下も呼び始めたのよね。
「で、ではレイナ嬢。貴女はキャサリン嬢、聖女様の腹心と聞く。その、キャサリン嬢について色々相談したい事が…」
この時ばかりは王族の仮面を脱ぎ捨て、年頃の青少年になっているのが何とも面白かった。
「それでは、私は王族を辞めない方が良いのだな?」
「そうです、殿下。キャサリン様は、この国の医療制度を進めていきたいとお考えです。その夢に、共に歩んでいけるのは恐らく王族として、医療に対する理解と進めるだけの権力を持った、殿下だけだと思います」
というわけで、お嬢様に好かれたい大作戦の打合せです。
正直、王子殿下の顔はお嬢様の好みっぽいので(最推しの王太子殿下と似てますし)、性格の良さと愛してるって感情を表せばイケそうな気がします。お嬢様に、既に心に決めた方がいれば別ですが、今のところ居ないようですし。
あ、ツンデレは物語ならともかく、現実では受け入れるのは厳しいので、意地悪な言動はNGで。
お嬢様が持つ夢を応援するスタイルだと、大丈夫じゃないかな…?
「お嬢様の夢を、否定したり止めさせなければ良いかと。困難な事項を問題提議であげるのは構いませんが、一緒に問題解決に向けて考えてあげると、好感度アップ間違いなしです」
お嬢様が、この夢を諦める事はまずありません。
あの日、フラッシュバックを起こして夜中に飛び起きた日、「ごめんなさい、ごめんなさい!救えなくてごめんなさい!!」と私に抱き着いて、大声で泣き喚いたあの夜から、私とお嬢様の生涯の目的になったのです。
「お嬢様の気持ちは、こんな感じで大丈夫かと。残りは王子殿下の努力と愛で、お嬢様の心を撃ち抜いて下さいませ。しかし、それよりも大きな問題が王子殿下側にあります」
「ハドルドの、貴族派閥の問題だな」
それまで、俺はフレデリカの心を鷲掴みだぜ!という余裕からか黙って(ニマニマして)聞いていたシリウス王太子殿下でしたが、派閥の話題となると出てきました。
「私は母上に嫌われても、派閥を抜けるつもりだったが…」
「昔、フレデリカ様に、公爵閣下が貴族派閥の切り崩しをしていないかと尋ねた事があります。後にフレデリカ様が聞いたところ、やはり行っていたそうです」
「それは聞いた事があるな。母上がカッカきていたぞ」
「ハドルド王子殿下、その切り崩す対象とされた貴族の方々と、聖女様に世話になった方々を集めて派閥内派閥を作られたら如何でしょうか?」
王子二人は、マジマジとこちらを見た。
「それは考えていたが…。顔に似合わず、何と言うか悪辣な事を考えるな」
ええ〜。顔に似合わずって、顔で考えているわけでは…。それに、日本の与党だって内部で派閥作って政策を推し進めていたし。随分、派閥抗争はマスコミに叩かれたけど。
「それにより全員でなくても良いし、中立派になっても構わないのです。貴族派閥が一枚岩で無くなると力が失われます。それでも、彼等にとって王子殿下が離脱するよりは随分マシですし、王子殿下が派閥の指導権を握る事は難しくないと思います」
「まあ、そうだな。ハドルド、権力は目的があるなら持つに越した事はない。派閥を抜けたら楽かも知れんが、諦めろ」
そう言って、シリウス殿下は笑うのだった。