「以上が現在の状況となります」
ここはシリウス王太子殿下の執務室。
フレデリカ様にお嬢様への虐め問題を相談したら、ここへ連れられてきた。
メンバーは私とお嬢様、シリウス王太子殿下とフレデリカ様にローザ様、グレン様とミシェル様、そしてハドルド王子殿下。外ではアーサー様が控えている。
ここで、私が集めた虐めの実態と証拠を公表した。
首謀者はアリシア・ローランド伯爵令嬢。茶髪ストレートの一見地味な令嬢だが、学問では優秀な方だ。
実際に行われた、或いは未遂に終わった悪戯と、証拠…と言っても指紋や映像等の物理的証拠はほとんどなく、証言や犯行当日のアリバイ等の証拠だ。
更に証言も身分制度の中では私や下級貴族では意味がなく、侯爵令息のグレン様や同格のミシェル様に直接目撃して貰う様、調整をした。地味に苦労した。
ハドルド王子は頭を抱えていた。
「そうか、アリシアが…」
アリシア・ローランド伯爵令嬢は、王子殿下の婚約者「候補」として王宮に出入りしてたんだけど…。
不幸だったのが、10年ちょい前に流行り病が発生して、侯爵家以上の丁度良い年齢層の令嬢が亡くなった事だと思う。現状、侯爵、公爵家の御令嬢の年齢は、上は20代半ば、下は一桁だし。
唯一の年齢バランスの取れた令嬢がフレデリカ公爵令嬢。だけどこちらは王太子殿下の婚約者。
そして肝心の側妃殿下が、侯爵家以上でなければ他国の姫君と拘った為に、何時迄も候補のまま置き捨てられた形に。
他国の姫君も、簡単に見付かる筈もなく。このままでいけば、アリシア嬢が王子妃になる筈だった。
…トンビに油揚げをさらわれるが如く、聖女が持っていかなければ。
冷静に考えるなら、側妃殿下を説得して先に候補の文字を外して貰えたら、違ったのだろうけど。
「それは無理だな…。母上は、半狂乱になっていたから、冷静な判断など出来なかっただろう」
…騒ぎになるのは分かっていたのだから、王子様がもう少し隠れて付き合ってくれたら…。
愛に恋する年齢層だからなぁ…。今更、言っても仕様がない。
「ハドルド…お前がもう少し忍耐強くあればな」
「申し訳ありません、兄上…」
仕様がないのだけど、兄としては言うしかない。お労しや兄上。
その横では、今まであった伯爵令嬢の「やらかし」をリストアップしたものを見て、お嬢様とフレデリカ様がヒソヒソ話している。
「ちょっと、これ完全に乙女ゲームの悪役令嬢じゃないの」
「でしょ!?私も報告聞いてびっくりよ」
「権力を笠に文句や嫌味を言う事12件、物を壊したり隠す事5件、水をかけたり物を投げ付けられたりが3件、えっ!階段から落とされそうに!?」
「それ、未遂だけどね。後から押そうとした取巻きの令嬢を、レイナが首トンして止めたらしいけど」
「えっ!首トンとか出来るんだ?」
「あ〜、本人の言うには、首をへし折る瞬間に治療すれば、無傷で気絶が可能だって…」
「なんて力技…!こわっ!」
「そうよね、無傷とは一体…」
グレン様がトサッと報告書を置く。
「この報告で、伯爵令嬢の悪行の証拠は掴みました。とはいえ、実際は大した悪行ではないのですが…」
「ええ〜?レイナは何度も殴られたんだけど。教科書を破られた事も嫌だし。私には直接の害こそなかったけど、防いでくれたレイナのお陰なんだから!」
まあ、それでも加護の力で怪我とかしてないし、未遂の段階で阻止したのも多いし。私の手間は増えたけどね。私が殴られたのは、貴族が平民をって事で罪が非常に軽いんだよね。この貴族優先の身分制度の国じゃ、怪我してないから実質無罪じゃないかな。物を捨てたり破ったりした分の金銭補償で終わりかな?
「そうだな。こちらから勧告して、損害賠償を支払わせよう」
シリウス王太子殿下は小さな溜息と共に結論付けた。それで、終わりの筈だった。
学園が終わると、私とお嬢様は公爵家の馬車に乗って、公爵家へ帰る。
フレデリカ様が一緒に乗る事もあるけれど、王宮に向かう事が多いので大体は二人で帰る。
異変に気付いたのは、私の気配探知だった。
誰かが馬車の後をつけて、こちらを見ている。人数は3人。殺気らしきモノは感じない。
3人だったら、ただ見ているだけかも知れない。
その日は、それ以上の事はなかった。だが、手を打つに越した事はない。
数日後、再び馬車での帰り道。
「…お嬢様」
「ん?どうしたのレイナ…あっ、もしかして前に言ってた…」
「はい。数は15名。こちらの護衛は3名と私ですので、かなり不利ですね」
「だ、大丈夫なの!?そんな人数で」
私はにこりと笑う。実の所、これは想定範囲内だ。愛用のワンピースブレードを取り出すと、馬車の窓を開ける。
「お嬢様は念の為、バリアで身を守って下さい。外の破落戸は私が倒します」
そう言って、馬車の上に乗った。
周りの騎士達は、公爵家の騎士だ。何度か手合わせをして、私の実力は身に染みて分かっている。そして公爵家の命で、私の指示に従う様に言い渡されていた。
こういう時の対処法は、既に全員に周知済みだ。
「敵襲、後方より15、前と左右の三方を守れ!御者は前方に障害物の可能性、留意して馬車を止めるな!」
私は後方を注意しながら、掌に灯した炎を打ち上げた。炎は上空へ飛び、ボフッと音を立てて消え去る。それと同時に馬車の速度が落ちた。
どうやら、予想通り馬車を止める障害物があったようだ。
だが、ここは郊外とはいえ街の中、メインの道を完全に塞ぐのは無理がある。
それでもスピードの落ちた馬車に向かい、複数の抜き身の剣を持った騎馬達が襲い掛かる。
既に射程圏内に入って来ている騎馬に対し、懐にあるワンピースナイフに加護の力を全力で込めて投擲!
1本目が先頭の馬に刺さった。可哀想だけどごめん!全力の加護を使ったから、ナイフは凄まじい熱気を放っていて、馬の肉を焼き鬣まで火が着いた。
背中の騎手を振り落とし、大暴れする馬。あ、後方の別の騎馬も暴れて騎手が落ちた。
慌てて迂回する後方の騎馬に再度投擲!命中!
「ちくしょう!弓だ、弓を出せ!まずはあのメイドを殺すぞ!」
賊の1人が叫ぶが、それが彼の遺言になった。
「誰を殺すって?」
横合いから飛び出してきたのは、愛馬に乗ったアルベルトだった。持っていた槍を一閃すると、賊の首が飛んでいく。その後には舎弟が二人、姐さん加勢します!とばかりに槍を振るう。
こんな事もあろうかと、アルベルトに影の護衛を頼んでいたのだ。先ほどの炎は、その合図だった。
隣国の兵士は、こちらの兵士三人分だと言う。破落戸では何人いても相手にならなかった。
「アルベルト、1人は生かして!全員、お嬢様の安全を優先、先に公爵家に避難します!」
馬車は障害物を避けると、猛然と走り出す。前方にはもう、敵の気配はない。
そのまま、公爵家の敷地に飛び込むのだった。
「レイナ!報酬のほっぺにチューを忘れるなよ!!」
そんなアルベルトの言葉を背中に受けながら。
公然と、そんな事を叫ぶな!馬鹿ぁ!!
アルベルト君を好意的に見て頂いて、有難い事です。
なるっべく、好青年をイメージして書いております。
…最後の文章で、崩れそうですが。