ヒロイン矯正!   作:アールエー

35 / 35

今回は水害の描写があります。
見たくない方は後書きにあらすじを書きますので、そちらでお願いします。


その35 流されて

 

前に王家の剣は不要とか言っていたけど、王太子殿下の意見は違った。

 

「失われた王家の剣は、我がアルヘルム一族が聖霊様に認められ、正統に王国統治をできる事を示す物だ。取り戻せる可能性があるのなら、必ず取り戻さなければならない」

 

王族の誇りと尊厳にかけて、となれば反論できない。しないけど。

東側にある国境付近は、約8ヶ月振りとなる。あの戦闘から随分経ったが、中々お嬢様のトラウマは改善されないものだ。最初は青い顔をしていた。が、直ぐに改善される事になる。

そのお嬢様と乗っている馬車は、王族の馬車だった。おい。

 

「こうしてキャサリン嬢と旅ができるとは、天にも昇る気持ちですよ」

 

「まあ、お上手ですわハドルド様」

 

お嬢様の気持ちが安定するのは結構なのだけど、この甘ったるい空間に数日滞在しなくてはならないのは、拷問ではないだろうか?国境まで10日あるんだよ!?

私はお嬢様と並んで座り、前にはハドルド王子と従者が1人。その中で王子とお嬢様はイチャコラし始めた。

あ、こら、手を握るな、御触り禁止じゃ!

 

目の前には王子の従者、確か子爵家の子息でケリーという名前の男の子がいた。

ケリー様も少々ウンザリ顔で、諦めた眼で首を左右に振っていた。

 

「お嬢様、もう少し距離を。グレン様が王家の男は手が早いと…」

 

「えっいや、レイナ嬢、それはちょっと…」

 

「申し訳ありません王子殿下。シリウス様から王太子権限にて、俺が我慢しているのに弟に先を越させるなと厳命されておりまして…」

 

「あ、あ、兄上〜!?」

 

うん、こりゃ先が思いやられるな。

 

王太子と王子が二人に公爵令嬢に聖女と、次代の中心人物が一堂に会する旅団は、当たり前だが前後左右を騎士団長率いる騎士団に護られた、かなり物々しい集団になっていた。

王子と王太子は別々の馬車に乗り込み、距離を置いた上にデコイとして複数の馬車が運用されていた。もし万が一王太子と王子、どちらかが襲われたら、助けずバラバラに逃げる様になっている。

最悪、どちらかが助かれば良いのだ。

 

その意味では王子と聖女も別々に乗せたら良いのに。誰の強い希望かは、言うまでもない。

 

この希望が良かったのか、裏目に出たのか。

 

天気予報は現代日本でも外れる事があるが、こっちの世界では全く当てにならないものだ。

多分、台風だかハリケーンだかに遭遇して、集中豪雨が発生したのだろう。日程の7日目にして大雨洪水波浪警報が発令。いや本当に王国が発令してないし、内陸部なので波浪もないけど、心の中ではそうだった。

前が見えない程の大雨に遭遇したのだ。

 

大きな川の横にある高級宿にて、足止めを食う羽目に陥った。だけど見る限り雨は激しいが、川の増水は然程ではなかった様に感じた。そこに油断があったと思う。

 

二日目の朝、雨は小降りになり、これなら出発できるかと私とお嬢様は馬車に乗り込んだ。遅れてハドルド王子も乗り込んでくる。ケリー様は荷物の手配等で、もう少し時間がかかるとの事。

 

後で聞いた話によれば、山の中で土砂崩れが発生し、天然のダムが形成されていたそうだ。平地の方では小降りになっていたが、山間部では集中豪雨が発生し、明け方前にダムが決壊。鉄砲水として、凄まじい勢いで私達が泊まっている街に向かってきた。

 

私達が泊まっていた街は、大きな川が街の東側に流れ、その支流が分岐して中規模の河川として街の西側を流れる、所謂中州になっている。

東側の河川に大きな土手を作り、防壁や櫓を組み込んで隣国からの侵略に対する最終防衛ラインを形成、西側の河川には南から船で補給物資を運ぶ手筈になっていた。

 

その土手が、今回の雨での鉄砲水で決壊。

土手から氾濫した川の水は土石流として街を飲み込み、馬車まで迫った。襲撃に備えて防御力が高い馬車は、防音力も高く気付いた時には土砂は目の前だった。

 

「お嬢様、馬車を包む様にバリアを!」

 

二人を連れての脱出は無理。そう判断して馬車から1人飛び出す。土砂は馬車の前方から襲って来る、今から転回して逃げるのは無理。そう判断した私は、暴れ馬に引き摺られない様、御者席に座ってスカートに隠したナイフで馬具の革でできた連結部を切り、(ながえ )(馬車本体と馬をつなぐ棒)を固定した部品を外した。それと土砂が襲いかかったのは、同時だったと思う。

 

土石流に飲み込まれた馬車は、あっという間に押し流される。光のバリアが球状に包んで水に浮いていく。つないでいた馬の嘶きが響くが、何とか助かって!と祈るしかない。

急速に傾く馬車の屋根に飛び乗り、行く末を見守るが、最早制御は不能だった…。

 

「レイナ嬢、一体どうなっているのだ!?」

 

馬車の窓からハドルド王子が顔を出してきた。

 

「恐らく、河川が氾濫しました!今、馬車は流されています!お嬢様、バリアはどのくらい保ちますか!?」

 

「わ、分かんない!頑張る!」

 

長時間は無理か?

私は素早く馬車の中に乗り込むと、ドアの隙間を加護の炎で溶接した。車内温度がたちまち上昇する。

 

「あっつい!ちょっと暑いよレイナぁ!」

 

「すみません!あと少し…終わり!」

 

丈夫さの為に、ドアの周囲が鉄で補強されて良かった!少しドア本体が焦げたけど。

 

やがてお嬢様も力尽きて、バリアが解除される。馬車本体が水に浸かるが、じわりと浸水するものの何とか浮いていた。ドゴン、ドゴンと流木がぶつかり、全体が軋むが流石は王家の馬車。今すぐ分解とはならない様だ。

しかし、馬車は西側の支流に入って流されていく…。海まで何kmだったっけ?

 

「馬車が壊れるまでに、何とか陸地に上がりましょう」

 

「しかし、何故この様な目に…」

 

「色々不幸が重なった故だと思います。ひとまず、生命がある事に感謝して、次の行動を模索しましょう。それより…」

 

私は後方のトランクに入っていた服を取り出す。ドレスが幾つかと、私用の簡易な服が詰まっている。

 

「お嬢様、申し訳ないのですが、この服に着替えて下さい。平民の男性が着る様な簡易な服ですが」

 

「えっレイナ、なんでこんな服持ってるの!?」

 

「和平が成ったとはいえ、元戦地。当然、準備は怠りません」

 

前回はドレスで戦って苦労したからね。もっと戦いやすい服を用意するよ。

 

「そのドレスだと、万が一の時は泳げません。これに着替えて下さい。王子殿下、紳士なら…分かってますよね?」

 

「あ、はい」

 

ハドルド王子が目を瞑って後ろを向いている間に、私とお嬢様は着替えるのだった。





あらすじ
王家の剣の探索を続ける王太子。仲良くなった王子と聖女。
早朝出発するつもりで馬車に乗ったら、洪水が起きて馬車ごと流されてしまった。
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