引き続き水害、及び山中遭難の描写があります。
30分か1時間か?馬車の中は腰近くまで水に浸かり、私達3人は屋根の上に移っていた。
雨が止んだのが幸いして、そこまで濡れてはないけど、馬車は中々岸に近付かない。
その間、私はドレスをナイフで引き裂いて、せっせとロープを作っていた。
「結構、お気に入りだったのにな、そのドレス」
「背に腹は代えられません、お嬢様。助かったら新しいドレスを新調しましょう」
「そうだな、私から贈らせて貰うよ、キャサリン嬢」
皆仲良く流されながら、私は道具作りを、お嬢様は馬車の周辺を見て流木がぶつかるのをバリアで防ぎ、ハドルド王子は遠く脱出できそうな場所を探していた。
やがて木々が茂る岸辺に寄ってきた。これでいけるか?簡易ドレスロープを投げ、2回目で木に引っ掛ける事に成功。
ギギギギイイイィ!!
ものすごく嫌な音を立てて、流されている馬車が濁流に逆らって止まろうとする。
引っ掛かったドレスが破れない事を祈りつつ、岸まで無事に着く事を祈る。そもそも馬車は保つのか!?
馬車は徐々に岸に向かって流れ、とうとう岸辺に到着した。馬車の中は半分以上浸水し、目に見えて明らかに歪んでいる。
「お早目に!王子、降りて下さい!お嬢様のエスコートをお願いします!」
「わ、分かったレイナ嬢!」
私が最初に馬車を降りて、腰まで浸かって足場を確認した後に、王子が降りて場所を確保、お嬢様を抱きかかえて岸まで行った。ここが浅瀬で良かった!その後を荷物を背負って追っていく。
荷物は最小限の着替えと取り外した装飾品、私が持ち歩いている愛用のワンピースブレードとナイフ。残念ながら、食料品はなかった。
私が王子達に続いて陸に上がって間もなく、馬車は轟音を上げながらバラバラになって流れていった。
「危ない所だったか…!レイナ嬢、ここは何処だろうか?」
「川の流れは一定ではありませんが、時々数えた感じでしたら、凡そ秒速3〜4メートルでした。時間は1時間経ってないと思いますが、1時間として…」
「つまり10キロから14キロ下流に流されたわけだ。途中に街はなかったと記憶している。村は点在しているが…」
「街道がありませんでしたか?」
「そうだな、確かあったぞ。街道を見付けたら、道沿いに村があるかも知れない。だが…」
ハドルド王子は考え込む。周りは鬱蒼と茂った森、道なんて何処にもない。
「すまない、こんな状況の時、どうすれば良いのか、私には思い付かない…」
本当に申し訳なさそうに、王子は謝る。
お嬢様の話では、言われた事は上手くやれるけど、主体的な行動は苦手と言う設定だったか…。
私はお嬢様が濡れた服や靴を、何とか絞っているのに集中しているのを確認して、王子にそっと話し掛ける。
「ハドルド王子、適材適所という言葉があります。元々建築の用語で、木材の種類や特徴に合わせて、上手く使用すると言う意味です。人も同じです。向き不向きや立場に寄って役割が違います。王子には王子の、部下には部下の役割があるのです。分からなければ、どうぞ私にお頼り下さい」
「私の役目…」
「はい。王子はこの中で一番身分と歳が上で、代表であります。部下の意見を聞き、自信満々に決定して下さい。頼られる為政者を演じて下さい。上が不安で震えていれば、下も不安でいっぱいになります。聖女様に、頼れる男を演じて見せて下さい」
「私に…僕にできるかな…?そんな事…」
「分かりません。ですが、今ここで覚悟だけして下さい。最初の決断です。…大丈夫ですよ、私が王子とお嬢様の剣として、道を切り拓きます。どうぞ御命令下さいませ」
不安がっていた王子の顔が、少しずつ正常になってきた。引き攣りながらも、口の端をニッと上げる。
「…やってみるよ。頼りにしている。しかし、私なんかより貴女の方が、余程男らしい」
「あら、知らないんですか?
私達は話し合った結果、街道を探す事になった。山中の道なき道をひたすら歩くのは迷子の元なので、先ずは見える範囲で登れそうな山頂を目指す事にした。
「や、山登りなの!?レイナぁ…」
「自分が何処にいるのか、何処を目指せば良いのか分からない時は、山頂から周囲を見渡して目標を探すのが一番です」
「そういう事です、キャサリン嬢…。もう少し人数がいれば、別班に別れて探索できたが、今の状況では必ずどちらかの班が単独になるから…。それは避けたいのです」
「納得されたのなら、行きましょうか!」
私はもうもうと蒸気を立てながら言ったのでした。
「…………ちょっと、レイナ…。なんでそんなにモクモクと…少し熱いんだけど?」
「え?御加護の力で体温を100℃以上に上げて、服を乾かしているんですけど?」
「そ、そんな事できるの!?と言うか、私とハドルド様の服も乾かしてよ!!」
山道、というか獣道っぽい少しでも歩き易い道を、ワンピースブレードやナイフで藪漕ぎしながら、山頂へ向かう。
「ねえ、確かマダニとか、病気持ってなかった?大丈夫かな…?」
「ダニが病気を持っているのかい?流石に聖女は病に詳しいな…。キャサリン嬢、後で念のため治療して貰えるかな」
「は、はい、ハドルド様。レイナは大丈夫なの?一番キツい場所にいるけど」
「多分、体温を80℃設定にしているので、マダニもくっつかないかと」
「…なんか、超便利な御加護よね!?というか80℃設定って何よ?給湯器じゃないんだから」
そんなこんなで山頂に到着。もう昼を過ぎていた。お腹を空かせた身体で、次の目標を探す。
途中で湧き水を見付けて飲めたのは、せめてもの救いだった。もちろん、持っていた金属コップに入れて沸騰させて飲んだ。
…………今更だけど、御加護をこんな事に使って良いのだろうか…?
「キャサリン嬢の御加護の力で、体力の消耗は防げたが、空腹はどうしようもないな」
「殿下、あちらの山の麓、明らかに水蒸気ではない、煙らしきものが立っています。人家の可能性も…」
山と山の間に、僅かだけど確かに見える煙。
人がいるなら、この状況を脱出できるかも知れない。
…山賊だったら、どうしようかな。
「…そうだな…。他に目標もなし、そこへ向かうか。レイナ嬢、申し訳ないが、もう少し頑張ってくれ。女性に頼ってばかりで情けない男だが…」
「いいえ殿下、これこそ適材適所というやつですよ。殿下はもう少し、人に頼るべきです。どんな超人でも、1人でやる事には限界があります」
「…分かった。私は私がやれる事をやろう。」
自分でいい聞かせる様に言った王子は、少しだけ男前が上がった気がした。
炎と武術の聖霊様は、じゃんじゃん燃やす(熱を発する)分には何も文句言いません。