ヒロイン矯正!   作:アールエー

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引き続き水害、及び山中遭難の描写があります。


その36 決断の時

 

30分か1時間か?馬車の中は腰近くまで水に浸かり、私達3人は屋根の上に移っていた。

雨が止んだのが幸いして、そこまで濡れてはないけど、馬車は中々岸に近付かない。

その間、私はドレスをナイフで引き裂いて、せっせとロープを作っていた。

 

「結構、お気に入りだったのにな、そのドレス」

 

「背に腹は代えられません、お嬢様。助かったら新しいドレスを新調しましょう」

 

「そうだな、私から贈らせて貰うよ、キャサリン嬢」

 

皆仲良く流されながら、私は道具作りを、お嬢様は馬車の周辺を見て流木がぶつかるのをバリアで防ぎ、ハドルド王子は遠く脱出できそうな場所を探していた。

 

やがて木々が茂る岸辺に寄ってきた。これでいけるか?簡易ドレスロープを投げ、2回目で木に引っ掛ける事に成功。

 

ギギギギイイイィ!!

 

ものすごく嫌な音を立てて、流されている馬車が濁流に逆らって止まろうとする。

引っ掛かったドレスが破れない事を祈りつつ、岸まで無事に着く事を祈る。そもそも馬車は保つのか!?

馬車は徐々に岸に向かって流れ、とうとう岸辺に到着した。馬車の中は半分以上浸水し、目に見えて明らかに歪んでいる。

 

「お早目に!王子、降りて下さい!お嬢様のエスコートをお願いします!」

 

「わ、分かったレイナ嬢!」

 

私が最初に馬車を降りて、腰まで浸かって足場を確認した後に、王子が降りて場所を確保、お嬢様を抱きかかえて岸まで行った。ここが浅瀬で良かった!その後を荷物を背負って追っていく。

荷物は最小限の着替えと取り外した装飾品、私が持ち歩いている愛用のワンピースブレードとナイフ。残念ながら、食料品はなかった。

私が王子達に続いて陸に上がって間もなく、馬車は轟音を上げながらバラバラになって流れていった。

 

「危ない所だったか…!レイナ嬢、ここは何処だろうか?」

 

「川の流れは一定ではありませんが、時々数えた感じでしたら、凡そ秒速3〜4メートルでした。時間は1時間経ってないと思いますが、1時間として…」

 

「つまり10キロから14キロ下流に流されたわけだ。途中に街はなかったと記憶している。村は点在しているが…」

 

「街道がありませんでしたか?」

 

「そうだな、確かあったぞ。街道を見付けたら、道沿いに村があるかも知れない。だが…」

 

ハドルド王子は考え込む。周りは鬱蒼と茂った森、道なんて何処にもない。

 

「すまない、こんな状況の時、どうすれば良いのか、私には思い付かない…」

 

本当に申し訳なさそうに、王子は謝る。

お嬢様の話では、言われた事は上手くやれるけど、主体的な行動は苦手と言う設定だったか…。

 

私はお嬢様が濡れた服や靴を、何とか絞っているのに集中しているのを確認して、王子にそっと話し掛ける。

 

「ハドルド王子、適材適所という言葉があります。元々建築の用語で、木材の種類や特徴に合わせて、上手く使用すると言う意味です。人も同じです。向き不向きや立場に寄って役割が違います。王子には王子の、部下には部下の役割があるのです。分からなければ、どうぞ私にお頼り下さい」

 

「私の役目…」

 

「はい。王子はこの中で一番身分と歳が上で、代表であります。部下の意見を聞き、自信満々に決定して下さい。頼られる為政者を演じて下さい。上が不安で震えていれば、下も不安でいっぱいになります。聖女様に、頼れる男を演じて見せて下さい」

 

「私に…僕にできるかな…?そんな事…」

 

「分かりません。ですが、今ここで覚悟だけして下さい。最初の決断です。…大丈夫ですよ、私が王子とお嬢様の剣として、道を切り拓きます。どうぞ御命令下さいませ」

 

不安がっていた王子の顔が、少しずつ正常になってきた。引き攣りながらも、口の端をニッと上げる。

 

「…やってみるよ。頼りにしている。しかし、私なんかより貴女の方が、余程男らしい」

 

「あら、知らないんですか?良い女(Badass)ってものは、男よりも男らしいんですよ?」

 

 

 

私達は話し合った結果、街道を探す事になった。山中の道なき道をひたすら歩くのは迷子の元なので、先ずは見える範囲で登れそうな山頂を目指す事にした。

 

「や、山登りなの!?レイナぁ…」

 

「自分が何処にいるのか、何処を目指せば良いのか分からない時は、山頂から周囲を見渡して目標を探すのが一番です」

 

「そういう事です、キャサリン嬢…。もう少し人数がいれば、別班に別れて探索できたが、今の状況では必ずどちらかの班が単独になるから…。それは避けたいのです」

 

「納得されたのなら、行きましょうか!」

 

私はもうもうと蒸気を立てながら言ったのでした。

 

 

 

「…………ちょっと、レイナ…。なんでそんなにモクモクと…少し熱いんだけど?」

 

「え?御加護の力で体温を100℃以上に上げて、服を乾かしているんですけど?」

 

「そ、そんな事できるの!?と言うか、私とハドルド様の服も乾かしてよ!!」

 

 

 

山道、というか獣道っぽい少しでも歩き易い道を、ワンピースブレードやナイフで藪漕ぎしながら、山頂へ向かう。山刀(マチェット)湾曲大形ナイフ(ククリナイフ)が欲しい…。帯に(ナイフは)短し襷に(ソードは )長し、だ。内容は逆だけど。

 

「ねえ、確かマダニとか、病気持ってなかった?大丈夫かな…?」

 

「ダニが病気を持っているのかい?流石に聖女は病に詳しいな…。キャサリン嬢、後で念のため治療して貰えるかな」

 

「は、はい、ハドルド様。レイナは大丈夫なの?一番キツい場所にいるけど」

 

「多分、体温を80℃設定にしているので、マダニもくっつかないかと」

 

「…なんか、超便利な御加護よね!?というか80℃設定って何よ?給湯器じゃないんだから」

 

そんなこんなで山頂に到着。もう昼を過ぎていた。お腹を空かせた身体で、次の目標を探す。

途中で湧き水を見付けて飲めたのは、せめてもの救いだった。もちろん、持っていた金属コップに入れて沸騰させて飲んだ。

 

…………今更だけど、御加護をこんな事に使って良いのだろうか…?

 

「キャサリン嬢の御加護の力で、体力の消耗は防げたが、空腹はどうしようもないな」

 

「殿下、あちらの山の麓、明らかに水蒸気ではない、煙らしきものが立っています。人家の可能性も…」

 

山と山の間に、僅かだけど確かに見える煙。

人がいるなら、この状況を脱出できるかも知れない。

…山賊だったら、どうしようかな。

 

「…そうだな…。他に目標もなし、そこへ向かうか。レイナ嬢、申し訳ないが、もう少し頑張ってくれ。女性に頼ってばかりで情けない男だが…」

 

「いいえ殿下、これこそ適材適所というやつですよ。殿下はもう少し、人に頼るべきです。どんな超人でも、1人でやる事には限界があります」

 

「…分かった。私は私がやれる事をやろう。」

 

自分でいい聞かせる様に言った王子は、少しだけ男前が上がった気がした。





炎と武術の聖霊様は、じゃんじゃん燃やす(熱を発する)分には何も文句言いません。
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