夜が明けて近くの村に行き、そこからひと山離れた村にいる男爵に連絡、犯人達を引き渡して子供達を男爵が率いる自警団に預け、流された元の街に戻ったのは3日も経った後だった。
「よくぞ…生きて戻っ来てくれた、ハドルド…!」
「兄上…。ご心配をおかけいたしました…」
シリウス王太子殿下とハドルド王子殿下が、がっちり手を組んだ。
シリウス殿下もかなり憔悴している。街を見れば分かるが、土手が決壊してまだ3日、漸く仮補修が済んで水が捌けてきたところだ。
床下どころか天井まで水に浸かり、幾つもの建物が流され、どれだけの人数が亡くなったのか把握すらできていないのだ。
騎士団にも大きな被害が起き、王子と聖女が流されたにも関わらず、救助どころか身動きすら取れない状態だった。
「すまない、ハドルド。聖女とレイナ嬢、二人の御加護を持った者が一緒だから助かっている筈だと思いこそすれ、助けに行く事すら出来なかった」
「いいえ、兄上。この街の状況を見れば分かります。兄上も辛い決断をされたのでしょう。正しい決断だったと、私は思います」
「………そう言って貰えると助かるよ、ハドルド。お前も、一皮剥けた感じがするな。この災害が一段落付いたら、お互いの事を話し合おう」
本当は、王子もお嬢様も何日か休ませたい気分ではあったのだけど、今はとてもそんな状況ではなかった。
感動の再会もそこそこに、お嬢様と負傷者が集められた建物へ向かう。
「何で川に流されたんだろう。沢山救えた筈なのに!」
「お嬢様、力があっても人間なのです。救える人間は限られています。先ずは目の前の人を救いましょう!」
「………!!わ、分かった。とにかく急ぎましょう」
今回の災害は水害、最初の死者はほとんどが溺死だったから、お嬢様がいても救えなかったかも。でも、そんな事は関係ないよね。
お嬢様は自分を責める。今まで見てきた多くの負傷者と死者が、お嬢様の心に憑いている。
何とか、お嬢様の心を救えたら良いのだけど。
現地に到着すると、多くの怪我人が転がっていた。
多過ぎてベッドが足りないのだろう。
「よ~し、治療するわよ!」
「待って下さい、お嬢様。優先される重病人がいるかも…」
「レイナ、それを聞いてきて!その間にこっちをやっておくから!」
「はい、分かりましたお嬢様。直ぐに聞いてきますね」
お嬢様が次々と癒していく中、私は奥にいる医者の集団に聞きにいくのだった。
それから1週間が経った。その頃になって漸く、王都から増援と街の建て直しを担当する文官がやってきた。いや、連絡手段が限られているから、早い方だと思うけど。
国境の視察は中止され、むしろ国境から兵の一部が援軍としてきたくらいだ。
陣頭指揮を取るシリウス王太子殿下、食料や補給を指導するフレデリカ公爵令嬢。
あらゆる負傷者を瞬く間に治す聖女キャサリン様と、それを支え医療と復興に尽くすハドルド王子殿下。図らずもそれぞれの活躍が人々の目にどう写ったか。
この地獄の様な状況で、次代の希望を目の当たりにして、王族への支持は上がっていった。
そして、帰る日がきた。
「お嬢様、やっと帰れそうですよ」
「本当ね〜。負傷者は少ないけど、病人が多かったよね〜」
「夏場で不衛生な状況ですから、流行り病が進行していたのかも知れません。それを防いだのは、お嬢様ですよ」
実際問題、腹痛と咳、発熱が多かったから、もしかしたら汚物が土砂に流されて赤痢やコレラ、避難民が集まってインフルエンザ、蚊が大量発生して蚊を媒体にした病気が流行っていた可能性が高いと思う。
お嬢様が片っ端から治療してたけど。もしかしたら歴史に残らないけれど、たった1人で疫病を未然に阻止すると言う、偉業を成し遂げたのかも知れない…。
「あ〜!!そう言えば、王家の剣の鍵!これはどうしたの!?これを取りに来たんでしょ、帰っちゃ駄目じゃん!」
「あ、それならグレン様が片手間で取ってきたそうです」
「………はぁ!?」
そう、グレン様がラクスや騎士を連れて、国境の軍に援軍を要求すると言う名目で取ってきたのだ。もちろん、用事も済ませて。
「乙女ゲーム的にはこっちがメインなのに〜。何で一行で済ます様な事に…」
「そりゃ、前線を支える中核都市の壊滅の方が、緊急事態ですからね。本当、和平期間中で良かったですよ。ここの都市が前線への補給や予備兵力の駐屯、総司令を行っていたんですから…。5年で建て直しができるのかな?」
「そこんとこは分かんないわ。偉い人に任せましょう」
そして、なんだか分からない内に目的も達成し、大変だった夏も半分過ぎていった。
…まだ、半分なんだよな…。次は神国か…。
原作でも水害が起きているのですが、王太子は自信喪失、王子は王太子追い落としで忙しく、1年目は学園中心のゲームで原作では言及されませんでした。
貴族派閥の領土だと言う王国側の都合もありました。
これが王太子エンドの内戦にもつながります。
と言う裏設定。