ヒロイン矯正!   作:アールエー

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その4 シナリオの崩壊

 

「実は去年は体調が悪くて、聖霊の日の儀式を受ける事ができませんでしたの。流石に今年王都で受けるのは公爵家としてどうかと…」

 

公爵家のご令嬢、フレデリカ様はそう説明してくれた。

早い話、去年受けれなかったので今年受けるんだけど、歳下と一緒に受けるのは恥ずかしいので知り合いの少ない田舎に来たって事らしい。

 

「そ、そうでしたの…。オホホホ…」

 

顔が引き攣りながらも、何とか受け答えしている我がキャサリンお嬢様。ま、頑張れ。

 

フレデリカ様に着いてきた数人の侍女達が、手早く丁寧にお茶や茶菓子の準備をしている。

 

私?お嬢様の後で控えております。

 

他の貴族が来るなんて予定してなかったから茶会の準備とかしてないし、公爵家の侍女達の連携に割り込むのは難しいし、そもそも公爵家に合う高級茶菓子なんて、簡単に用意できないよ。

向こうの侍女達に話し掛けてもいないし。

私は完全平民だけど、公爵家の侍女となれば男爵家や子爵家のご令嬢が、行儀見習いも兼ねて務めている場合が多いし。身分が違い過ぎる。

 

「ところで…後の娘は、貴女の侍女かしら?」

 

フレデリカ様は徐ろにこちらを見る。私は答えず、キャサリンお嬢様が少しうんざりした顔で紹介してくれた。

 

「ええ…この娘はレイナ、私の侍女よ」

 

「そう…原作には居なかったキャラね。ここでも少し変わったのかしら?」

 

はあ?とキャサリンお嬢様が目を見開いてフレデリカ様を見詰める。声には出さずに済んだ様だ。

フレデリカ様はふふっと笑うと、更に話を進める。その顔には確信と言うか、してやったりと言った表情が浮かんでいた。

 

「そうそう…私の婚約者のシリウス様も、鬱屈した気持ちをお持ちになる筈だったんですのよ。まあ、私が癒して差し上げましたが」

 

「はぁあ!?」

 

今度は声になった。あちゃ〜。

 

「何で悪役令嬢がそんな事…ああ!あんたも転生者ね、この卑怯者!!」

 

身を乗り出し、フレデリカ様に飛び掛からんとばかりに叫ぶお嬢様。

やばっと思った時は既に遅く、慌てて口を塞いで止めようとした所に、目の端に公爵令嬢の護衛が迫っているのが見えた!

恐らく公爵令嬢への暴言を聞いて激昂したんだと思うけど、判断が早い!

 

「しっ!」

 

ただそれだけの声を上げて、護衛の男は袖に仕込んでいたナイフを右手に持ち、お嬢様の首を斬らんと襲い掛かる。

 

そこからは無意識だった。迫りくる護衛のナイフ、その先端を掠める様に出した、指3本を独特の形にした蟷螂手(拳法における手の形の一種)を相手の手首に添え、グルンと回転させながら引っ張り相手のバランスを崩す。

バランスを戻そうと踏ん張った相手の顎へ、反対の腕の掌底を打ちつけ、震脚(脚を地面に打ち下ろす様な拳法の踏み込み)を以て更に打ち上げる!

ボクンッと顎を砕いた手応えを感じ、無防備に浮いた身体へ、追撃で股間を蹴り上げ粉さ…

 

「ま、待ちなさい!」

 

…いする事なく、ピタリと止める。

公爵令嬢が叫んだ様だ。

 

あちゃ、私の方がヤバい!?正気に還ると自分の仕出かした事に慄いてしまう。

大慌てで公爵令嬢が救護を叫ぶ相手の護衛は、強制性転換は免れたけど下顎粉砕で赤い泡噴いて倒れてる。

やっば〜。突然ナイフを持って斬り掛かったんだから、正当防衛にならないか!?相手は公爵家だからな…。

 

とりあえず他の攻撃者は居ない様なので、深々と頭を下げ、じっとする。ゴメンちゃい、赦して…。

逃げたら駄目かな…。私1人なら兎も角、村長の父や家族にどんなお咎めがあるか…。

 

一連の騒動が収まり、護衛は外に運ばれて代わりに鎧を着た騎士が2名、入ってきた。

フレデリカ様の両脇をガッシリとガードしている。流石にあれには勝てない。

漸く落ち着いたフレデリカ様が、ずっと頭を下げている私に声をかけた。

 

「えーっと…レイナ、と言ったかしら?もう良いわ、頭を上げて。いきなり刃物を持ち出した当方の護衛も悪いのだし」

 

おっ!赦して貰えた、ラッキー!

っと、表情には出さない、出さない。愁傷な態度で謝罪する。

 

「公爵家ご令嬢様の寛大なる御心に感謝を。申し訳ありませんでした」

 

「貴女の謝罪を受けるわ。家の護衛はかなりの使い手の筈なんだけど…。貴女、何者!?」

 

只の一般転生者です。モブらしいので気にしないで頂けると助かります。

 

「それより、キャサリン様の方が重症ね。私達は、今日は帰るとするわ。教会に聖霊の日の儀式を明日へ延期すると伝えなきゃね」

 

見ると、キャサリンお嬢様は青い顔をしてソファに座り込んでいた。突然、目の前で本気の暴力沙汰が発生して、恐慌をきたしたのだろう。

フレデリカ様は多少慣れているのか、ナイフの矛先が自分ではなかったせいか、落ち着いた様子でテキパキと指示して部屋を後にした。

いまだ立ち上がれないお嬢様に代わり、お辞儀にて公爵令嬢一同を見送る。

 

キャサリンお嬢様と二人きりになって、そっと隣に座った。

 

「お嬢様。もう、危ない事はありませんよ。どうか落ち着いて下さい。私はここにいますから」

 

お嬢様の手をそっと握る。もし私自身を恐れる様になっていたら拒絶反応が出るかと思ったけど、握り返してくれた。良かった。

震える背中を擦りつつ、五分ほど待っていたら漸く顔色が戻ってきた。震えも止まった様だ。

 

「レ、レレレ、レイナ!あ、あんた、あんなに強かったの!?」

 

「まあ、多少の嗜みはありますが…」

 

「多少じゃないわよ!あの男、最初は気付かなかったけど、隠しキャラの暗殺者、名前はラクスよ!あの髪色、間違いないわ!」

 

うーん、あの護衛も攻略相手の1人だったみたいだ。危うくレズビアン枠にする所だった。

 

「それにしても、あの悪役令嬢…。少なくとも5人の攻略キャラの内、2人は攻略済なのね…。うう〜ッ!シナリオ滅茶苦茶じゃない!」

 

地団駄踏んで悔しがるお嬢様。

聞けばフレデリカ様の言っていたシリウス様ってのは、この国の王太子で矢張り攻略相手なのだそうだ。優秀な弟との比較によって鬱屈した気持ちを抱えていたのを、ヒロインと出会い気持ちを落ち着かせ、本来の有能さを発揮して称賛される国王になるのが原作のストーリーだそうで。

悪役令嬢のフレデリカ様は王太子を直接比較して貶した上で、弟王子に乗り換えようとして断罪される役だったらしいけど…。

まあ、断罪されるって分かっているんだから、抵抗するのは当たり前だよなぁ。放っておいたら身の破滅なんだから。

 

「それよりも、間もなく聖霊の儀式が始まりますが…。後日にしますか?」

 

「だ、駄目よ!今日受けないと、それこそシナリオがおかしくなっちゃう!」

 

お嬢様の言うシナリオの為、今日の聖霊の日の儀式は余程重要らしい。何かのイベントがあるのか?

切羽詰まった感じなので、反対もできないし、むしろ予定通りして貰うのは助かる。公爵家程の力があれば教会へ予定変更を言う事もできるけど、男爵家程度では簡単に変更できないだろうし。

 

「分かりました。それでは当初の予定通り、呼ばれたら私から受けて、お嬢様が最後に受けると言う事で…」

 

聖霊の日の儀式は、1人1人祭壇に呼ばれて神官様の祝福を受け、聖霊様の加護を受ける。私の様な平民は簡単な祝福で流れ作業の様に行うが(でないと人数が多いので終わらない)、貴族になると正式な長い祝福を受ける事になるので、最後にするのだ。

 

その時、お嬢様が私の裾をギュッと掴む。

普段の自信満々な態度とは裏腹に、顔を顰め、震えるのを抑えながら上目使いをしてきた。

 

「レ、レイナ〜。い、一緒に受けて…」

 

「…?聖霊の日の儀式は、基本的に1人で受けるものですよ?双子の兄弟だと一緒に受けたり、先に受けた兄姉が下の子と受ける事はありますが…」

 

「分かってる、分かってるの。でも、もし、シナリオと違う結果になったら…。私、それこそ…。お願い、一緒に受けよう?」

 

美少女だけど強気なお嬢様の、弱々しく懇願してくる態度。

おおう、ギャップの激しさに忘れかけている男心がくすぐられるぜ。

私はフッと微笑むと、少し震えるお嬢様の手を握った。

 

「良いですよ、お嬢様。教会の神官様には私から伝えてみますね。儀式を受けるだけですから、問題はないと思います」

 

そう言って、お嬢様を安心させてみたのだった。

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