「あんたは、聖女キャサリン!なんでここに…神国に行ってるんじゃないの!?」
アリシア様は激高して叫んだ。
そう言えば、ここローランドの街は、アリシア・ローランド伯爵令嬢の領地だったか、失念していた。
「あ、あの…アリシア様?」
「あんたに名前を呼ばれる筋合いなんてないわよ!」
「も、申し訳ありません、ローランド様…」
お、おう…。余りの迫力に、お嬢様もタジタジだ…。
「アリシアお嬢様…おち、落ち着いて…」
お付きの侍女も止めようと必死だが、そんな事では止まらない。
「落ち着いてなんていられないわ!キャサリン!あんた、私を笑いにきたの!?そうなのね!?」
いや、本当に落ち着け!笑いに来て、なんで湖の上で落ち合うんだよ?しかも、そっちからぶつかってきて。
その内、アリシア様はボートの縁で泣き始めた。私はお嬢様に言われたので、ボートを並行に並べるとお嬢様はアリシア様の肩を撫で、事情を聞き始めた。
ポツリポツリと話すアリシア様の話をまとめるとこうだ。
元々、ハドルド王子の婚約者候補の中でも、アリシア様は下位の部類に入っていた。
しかし流行り病が上位の候補者の生命を奪い、または上の兄弟を亡くして次の跡継ぎになるか、婿入りする人を求めて帰っていった。
そうして残ったアリシア様だが、王宮では針の筵だった。側妃様は見向きもしない、王子は婚約者候補として相手にしてくれない、后教育は厳しい上に、両親は嫁入りするまで帰るなと言う。
それでも、私は后になるんだと思い頑張っていたところで、聖女が現れて王子の心を簡単に奪っていった。
せめてもの反撃で、聖女様の持ち物を壊したりして退学しないかと画策したけれど。
王家と公爵家から正式な抗議がローランド伯爵家に来て、アリシア様は呼び戻された。
寄子の娘達もついて行けないと、次々と離れてしまった。
しかも王宮を離れたら、いつの間にかアリシア様が婚約者だと、名前だけ使われて国中に噂が回り、いよいよ以て立ち行かなくなった。
王子は聖女に夢中で、側妃は利用するだけして捨てるつもり。周囲から見放され、結婚しようにも王子の相手と思われ、聖女派の貴族派閥からは邪魔するなと嫌われて。
とうとう、両親も勘当して修道院に送るかと話し合っている。
これも、これも悪いのは…!
「あんたが、あんたが来るから…!あんたがいなければ…!!」
ギリギリと歯を食いしばり、憎しみと哀しみを込めて睨み付けるアリシア様。
そして、お嬢様は…とても、とても悲しそうな目をしていた。ボート越しにアリシア様の手を握ると、ボロボロと涙を流した。
「な、なにを…」
「分かる…分かるよ。頑張ってきたんだもんね…。誰も見てくれないのに、頑張ったんだもんね。でも、もう頑張れなくなったんだよね…!」
もう、お嬢様は涙で顔がぐしゃぐしゃになり、肩は震え手には力が籠った。
「あなたに…何が分かるのよ…。そんなに沢山持って、幸せになって…。あなたに、何が、分かるのよ!!」
「貴女の本当の気持ちは分からない。けど、なんとなく分かるの。私も
「ま、前…聖女になる、前…。毒親だったって…」
「努力してないわけじゃないの。頑張ってるの。頑張って、頑張って、やっと出来ても、出来て当たり前と言われるの」
それは…慟哭なのかも知れない。
私はお嬢様の
ただ、虐めにあって、家を追い出されたとは聞いた。虐めた方ならともかく、何故に被害者が追い出されるのか、全く理解不能だったが。
「出来たら出来たで、今度は嫉妬されて。お前なんかに出来る筈がない、ズルだインチキだって…。足掻いても、何をしても認められなくて」
とうとう、お嬢様はアリシア様を抱き締める。
グラグラとボートが揺れるが、根性で姿勢制御する。
「辛かったよね、苦しかったよね、私は
「わ…私は…」
アリシア様はふと横を見る。彼女が連れていた、ミリーと呼ばれていた10代前半くらいの侍女を。
ミリーは、お嬢様…と言ってうんうんと頷く。
「ち…違う…私は…聖女様とは違う…!貴女みたいに綺麗じゃない!違うのよぉ!!」
キャサリン様を振り解いたアリシア様は、逃げる様に立ち上がり、そして湖に転落した。お嬢様を支えながら揺れるボートを押さえつけ、水中を見る。もう、アリシア様は見えない!思ったより濁ってる!
「レ、レイナ!!」
「大丈夫です、任せて!」
お嬢様を座らせると、私も湖に飛び込むのだった。
聖霊様の御加護がない良い子の皆!
思わぬ二次被害に遭うかも知れないから、溺れてる人を見たら飛び込むんじゃなくて、浮く物を投げて助けよう!
そして即座に119番で救援要請だ!