ハドルド王子視点
その日の朝、起きると既に見慣れない兵士がドアの前に立っていた。
聖女に会いたいと言っても、危険だから聖女様も部屋におられます、としか返ってこない。毒で苦しんでいるなら、聖女に治して貰うのが一番だろうに。やはり変だ、異常過ぎる。
何度か外へ出させろと言ったが、まだ意識のある国王陛下からの命と言われたら黙るしかない。
そうこうしている内に、昼を回った。二度目の食事を部屋で取る。
取りながら、部屋の隅に立つ近衛兵を見る。見慣れない顔…だが、何処かで見た事がある様な…。
「おい、そこのお前!名を聞いてなかったな。教えてくれないか?」
「はっ!側妃殿下直属の近衛兵の第一隊長を務めます、ハミルトンと申します!」
「そうかハミルトン。出身地は何処だ?」
「はっ!ウエストコートのドレミール出身であります!」
ドレミール…貴族派閥の伯爵家の支配下だな。
あそこは…3年前に行ったな。そうか、思い出したぞ。
「ハミルトン、そんな隅っこに立たず、こっちに来い。少し話したい事がある」
僕がそう言うと、ハミルトンは恐る恐る近付いてきた。
「よく来たハミルトン。覚えてないだろうが、確か君と会ったのは3年前の5月8日、ウエストコートのパレードだったな。君は前から2番目を歩く兵士だったが、もう近衛兵の隊長か。随分と出世したな」
「え…あ…いや…」
「どうだ、ハミルトン。俺と取り引きをしないか?決して悪い様にはせんぞ?」
僕の言葉に、ハミルトンは目を白黒しながら挙動不審になっていたが、やがて溜息一つ吐くと頭をボリボリ掻き出した。
「あー、王子様?何時から気付いていたんで?」
「さっきだな。お前の顔を思い出して、ここにいる筈がないと考えに至れば、母上の企みに行き着くさ」
「参ったね、こりゃ。優秀だと聞いちゃいたんだが…。そうッスよ。俺達、側妃さんの命令で王子を閉じ込めて見張れって言われていたんすよ」
「そうか。これだけは教えてくれ。国王陛下と王妃殿下、そして聖女キャサリンは無事か?」
「直接は関わってないんですがね…。国王陛下はハドルド王子を王太子任命する為に、王妃はその為の人質になってるんで無事な筈っす。聖女様は、公衆の面前で処刑するって張り切っていたんで、まだ生きてる筈っすよ」
僕は少し考える。陛下…父上は問題ないだろう。いくら母上でも王妃殿下に手を出すのは一番最後の筈だ。キャサリンが危ないが…正直、彼女のバリアを破る手段がない内は安全な筈だ。
一瞬、手が震える。あの時の様に、かなり絶体絶命な状況の筈だ。あの時は命じれる優秀な部下がいた。今はいない。…いなければ、作れば良い。
「ハミルトン、俺に雇われてみないか?業務内容は二重スパイ、報酬は大金を持って故郷に帰るか、本物の近衛兵になるかだ」
「……それが、嘘じゃない証拠はあるんすか?」
「逆に聞くが、何故お前如きに嘘を吐かなくてはならん?端金を払うか、自由裁量権のある人事を少し弄るだけだ」
「…分かりやした。王子殿下に従います」
「うむ。ひとまず、こちらはこのままで良いが、聖女様と国王陛下の近況を調べ、可能なら接触して状況を把握している事、必ず助ける事を伝えよ。後は外部に王太子殿下の軍が現れるなど、変化があれば教えてくれ」
「へい、直ちに」
ミリー視点
私は今、でっかい馬さんに乗って駆けてるの!子分2人と出会って、直ぐに馬を用意して貰って北へ向っているわ!
「はや〜い!すっごい楽しい!」
「おおっ!馬は良いよなぁ!」
「しかし姐さんでも愉快な悲鳴上げていたのに、嬢ちゃんは肝がふてぇな!!」
ドカン、ドカンと二匹の軍馬が、颯爽と駆けていく。残暑の日差しも何程の事よ!きっもちい〜!!
「あ、でも、馬の前に乗ったからって結婚しないわよ!」
「ぶっははは!嬢ちゃんみたいなガキに欲情するもんかい!」
「第一、ありゃ兄貴が姐さんを口説く為にでっち上げた風習だからな!」
「ええ〜!?嘘吐いたの、あの兄ちゃん!」
「兄貴曰く、これから始める風習だから嘘じゃないってよ!何事にも最初はあるってな!」
「結局、嘘じゃん!あっきれたぁ!」
私達の笑い声が草原を響き渡ったわ!
この時も、お嬢様や聖女様がピンチになってるかも知れない。けれど、私は私のできる事を一生懸命やるの!亡くなった母様の言う通りに!
「それはそうと、行く前に飛ばした鳩、何処に行ったの?」
「ああん?ありゃ、地獄の獄卒共に届けたのさ」
王都よりずっと東の平原にある天幕にて
暗い天幕の下、十数人の屈強な戦士が円陣を組む様に座っていた。戦士達の視線の先、円陣が切れた所の壇上に座っている、凄まじい熱気を持った戦士が1枚の手紙を読んでいた。
誰も何も言わない。ただ、じっと壇上の戦士を見詰めていた。
やがて男は、ぐしゃりと紙を握り潰すと、立ち上がり咆哮を上げた。天幕すら震える叫び声、気の弱い者ならショック死する事、間違いないだろう。
無論、ここの戦士達はピクリとも動かず耐えた。
「儂はこれから、
ただ、それだけを叫ぶと天幕を飛び出す。同時にザッと全員が立ち上がり、追い掛ける様に天幕から去って行った。
今、彼の地に