国の北部には巨大な山脈が連々と壁の如く連なり、そこへ向かう者を拒んでいる様に見る者を感じさせていた。見るだけならば、その迫力に自然の偉大さを思うだけで済むが、実際にそこへ行くとなると死の覚悟すら必要に思えた。
まあ、そこまで行かないのだが。
この山脈、それも富士山超えの高さの山脈の向こう側には、豊かな国が存在する。そことの貿易を拒むのが、この大自然の脅威だった。
その麓、遥か昔に聖霊様が降臨したという神殿の跡地、いわゆる遺跡が今回の目的地だった。
何故、遺跡になったかと云えば、やはり交通の便の悪さであろう。何と言っても国の北の果てなのだ。ここから先は鳥すら拒む巨大な大自然の壁。この山の向こう側と貿易したいなら、このまま西に行って港から船で行くのが一番手っ取り早い。
聖霊様の降臨地という宗教的な売りも、山脈から吹き下ろす大風で吹き飛ばされた。
「シリウス様、この神殿の遺跡の奥、祭壇跡地にある窪みに水晶をはめたら、奇跡が起きると書いております」
フレデリカ様とグレン様が、古文書等を見ながら説明する。王家の剣の鍵探索には付き合ってきたけど、考えてみたら謎解きする場面を初めて見たな。
…今までの鍵集め、散々な目に遭った様な気がする。
シリウス王太子が窪みに一つ一つ、慎重に水晶をはめ込んだ。窪みのある台座には、最初から水晶が一つ埋め込まれていたから、これで4つの水晶が揃った事になる。
「偉大なる聖霊様…我の願いを叶え給え…」
王太子が祈ると、4つの水晶から4つの色の輝きが漏れ出した。輝きは徐々に強くなり、やがて眩い光で周囲は覆われてしまう。
その中で、炎の聖霊様の力の他に、確かに水、風、地の聖霊様、そして光の聖霊様の力を感じる事ができた。その5つの力が合わさり、もう1つ、闇の力?とも言える力を引き出して、空間が歪み………。
何も無い空中から一本の剣が出現し、そのまま落下、台座に突き刺さった。
何となく、全ての聖霊様の力を注がないと闇と空間の聖霊様の力を呼べないのだな、そう感じた。
「これが…王家の剣…」
台座に突き刺さった剣。刺さりはしたが、錆があちこちに発生してボロボロの剣を見て、王太子が呟く。
やっと手に入った安心感と、聞いてはいたが予想以上の劣化具合に落胆した感情が混ぜこぜとなっているのだろうか。複雑な表情を見せた。
「シリウス様、大丈夫です、今世の聖女様に力を注入して貰えば、必ず輝きを取り戻しますよ」
フレデリカ様もシリウス王太子に声をかける。
気を取り戻した王太子は、そうだなと応えると剣に近付き、慎重に引き抜いた。
かなり深く刺さった割にはすんなりと抜けて、王家の剣は百数十年振りに、王家の者の手に返ってきたのだ。
その日は遺跡の近くで野営をし、明日から帰路の途に着こうと準備をしていると、2頭の馬が野営地にやって来た。
王都より馬車で1日南に行った街の中にて
場面は変わり、王都に近い街の宿にある、豪勢な部屋。そこに野心家のフロリアン枢機卿が滞在していた。
本来なら神官を使って聖女を王都から連れて行き、神都の自分の屋敷で会う予定だったのだが、我慢し切れずに自らここへ出向いたのだ。
まあ、屋敷に住まわせる間に間違いを起こすつもりが、帰りの馬車の中でも良いか?とでも思ったのだろう。
もはや、ただのスケベ親父であった。
しかし思惑は大きく外れてしまう。
その日、宿に戻った使いの神官から話を聞いた枢機卿は驚愕したのだった。
「な、な、なにィ!?せ、聖女様を、処刑する、だとお!?」
「はい、王国の側妃は聖女様を地下牢へ閉じ込め、偽聖女として民衆の前で裸にして処刑すると…」
それは、貴族の婦人が考えつく最高の処刑方法だったのだろう。
だが、そんな事はどうでも良かった。問題は聖女が手に入らない事だ。
「ば、馬鹿な!儂の作った書簡で偽聖女に仕立て上げ、聖女様を儂に送る約束だったではないか!?聖女は、あの娘は儂のモノだ!」
「側妃に取って我々など貴族でもない、ただの平民扱いのようです。役に立つ内は声をかけますが、役割が終われば王宮からすら追い出されました」
「おのれ!あの女狐め!」
「側妃様が女狐なら、貴方は何?ゴミ?」
突然、ガチャっとドアが開く。部屋の中に女性と武装した神官達が入り込んできた。
「な、な…。そ、総主教猊下…!!」
「フロリアン枢機卿。話は聞きました。王国の側妃と手を組み、まさか聖女様を落とし入れ、事もあろうに手を出そうなどと…!」
ガタガタと後ろに下がり、必死に取り繕うフロリアン枢機卿。
「な、何の事やら、儂にはさっぱり分かりませんな。そうだろう?大司教」
「フロリアン枢機卿は聖女様を貶める書簡を送り、欲望に任せて自分のモノにする計画を立てておりました。これが書簡の写しでございます」
「な!大司教、貴様!」
慌てる枢機卿を置いて、総主教は書簡を受け取り中を確認する。
「…間違いありませんね。お疲れ様でした大司教。貴方の聖女様、そして聖霊様への信仰心に感謝を」
「いえ。総主教になりたいという野望くらいならば、諌めながらも手伝いも出来たのでしょうが…。流石に聖女様を落とし入れるとなれば、着いて行けません故に」
「だ、だ、大司教〜!こら!離せぇ!ぶべっ!」
飛び掛かろうとした枢機卿は、そのまま武装した神官達に囲まれて小突かれながら連れて行かれてしまった。
残ったのは総主教と大司教、数人の神官達。
「さて、王都では聖女様がとんでもない目に遭っている様です。我々も参りましょうか」
「おい、ヒッキーな闇聖霊を呼ぶから、ちょっと力を貸せ!」
「「「「イエー!!」」」」
「ちょ、おま、まぶしい!分かった、分かったからほらよ!」